概要・あらすじ
1428年、フランス。後に百年戦争と言われる戦乱の中、凄腕で知られる傭兵部隊「アンジューの一角獣」の隊長ピエールは、襲おうとした少女ジャネットに神々しさを感じ、再会を約して解き放った。その少女こそ絶大なカリスマでフランスを勝利へと導いたジャンヌ・ダルクであった。ピエール率いる傭兵部隊「アンジューの一角獣」たちもともに戦い、武勲を挙げて穏やかな日々へと帰って行く。
しかし、シャルル7世の戴冠式以降、神の力を失ってしまったジャネット(ジャンヌ・ダルク)は苦戦を強いられ、遂にはイギリスの捕虜となり異端審問にかけられ、処刑を待つ身となる。南フランスの片田舎アランヴィルの守護隊長となっていたピエールは、平和な暮らしを求めるの隊員の意思を尊重し、単身で敵地へと乗り込みジャネットを助け出そうとする。
登場人物・キャラクター
ピエール
『傭兵ピエール』の主人公の1人。フランス宰相の私生児で、25歳の若さで傭兵部隊「アンジューの一角獣」の隊長を務める凄腕の戦士。隊員からは父親同様に慕われているが、敵とみなした相手に対しては、冷酷非情で仲間からも恐れられる。本質は自由とロマンを愛する男。襲おうとした少女ジャネットに神々しさを感じ、再会を約して解き放ち、絶大なカリスマでフランスを勝利へと導くラ・ピュセルとなったジャネットと再会。 共に戦い、絆を深めるが、手の届かない存在だと身を引いた。戦から離れアンジューの一角獣の面々とアランヴィルで平穏な暮らしを営んでいたが、捕虜となったジャネットを単身で救出する。
ジャネット
『傭兵ピエール』の主人公の1人。フランスを救えと言う神の声を聞き「ジャンヌ・ダルク」を名乗り、フランスを勝利へと導いた少女。最前線で軍旗を振るう姿はカリスマ性に満ち、ラ・ピュセル(乙女)と呼ばれ兵士を奮い立たせた。襲ってきたピエールから逃れようと、「フランスを救った後に処女を捧げる」と約束したが、懸命にその約束を守る純粋さを持つ。 ランスでの勝利の後、カリスマ性を失いパリ攻略には失敗。イギリスの捕虜となり異端審問によって処刑を宣告にされるが、ピエールに助け出される。歴史上の実在の人物ジャンヌ・ダルクがモデル。
ジャン
ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣の副隊長。平民出身が多い隊の中で、ピエールと同じく貴族の血を引く伊達男。言動はシニカル。ピエールを実の兄同様に慕い、彼と互角以上の指揮官・剣士の才能を持つが、自発的に動けない自分に苛立っていた。戦から離れアンジューの一角獣の面々と平穏な暮らしを営んでいたが、「軍人として一旗揚げたい」、「ピエールを越えたい」という思いは消えず、ジャネットを救出し賞金首となったピエールに決闘を挑む。 戦場に復帰し、ラ・イールのもとで頭角を表し城代となるまで出世し、ピエールと再会する。
トマ
ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣の隊員。商人の倅で、会計として経理面一切を担当。報奨金から身代金の交渉までも受け持つ。リスクを冒しがちなピエールを、部隊のことを考え経済的な観点から制止することが多い。ニコラとオリヴィエが捕虜となった際の身代金も、冷静に判断した両者の価値の上限を大きく上回る額を支払うことになり、二人を厳しく叱り付けた。 引退後はアランヴィルで金融業を始め大きな利益を村にもたらす。見た目や考え方は堅物なのに反し、かなりの好色漢で一晩で10人以上の女性と床を共にすることもある。
ニコラ・リシュフ
ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣の最年少隊員。孤児として幼なじみのオリヴィエと共に戦場をさまよっていたところをピエールに拾われた。普段は馬の世話を担当。オリヴィエと共に敵軍の捕虜となってしまい、多額の身代金をピエールに支払わせてしまう。 画才に長け、捕虜となった砦の防衛施設を詳細に書き写し、オルレアンの戦いを勝利に導いた。
オリヴィエ・ピニエ
ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣の最年少隊員。孤児として幼なじみのニコラと共に戦場をさまよっていたところをピエールに拾われた。普段は馬の世話を担当。ニコラと共に敵軍の捕虜となってしまい、多額の身代金を支払わせてしまう。ニコラのような画才がなく、有益な情報を持ち出せなかった負い目から、砦の攻略に際し決死の突入を行い討死。 ピエールにとっては末息子のような存在で、大きな心の傷を残した。
ロベール
ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣の隊員。修道士でありながら底無しの女好き。遠征先で家政婦や娼婦として利用しようと、略奪した女性達を大量連れ込み、結果として、隊員の大半が所帯持ちとなった。ジャンがピエールに決闘挑んだ際、止めをさそうとしたところをとめた。
マルク
ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣の隊員。俊足を活かし、戦場を縦横無尽に駆け回る。平時は常に自分の鎧を磨いていると思われていたが、実はヤスリで鎧を削り薄く、軽くしており、戦場での俊足もその結果であった。パリ攻略戦で負傷したジャネットを守ろうと、矢の群に立ち塞がるが、薄く削った鎧は防御力を失っており、その矢によって討死する。
ルイーズ
オルレアンで娼婦を生業としている女性。ピエールと同郷で、貴族として暮らしていた幼少期のピエールの姿を記憶している一人。故郷を戦災で失い娼婦となった自身と、貴族から傭兵となったピエールの立場に親近感を抱き、客以上の関係となる。娼婦を極端に毛嫌いするラ・ピュセル(ジャネット)がオルレアンのすべての娼婦を追放してしまい、職を失った。 ピエールがジャンから巻き上げた金を渡され、オルレアンを出て、夢であったまっとうな職を得るよう諭される。
ヴィベット
ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣に誘拐された16歳の少女。アンヌの姉。部隊の中に居場所を得ようとピエールに抱かれようとするが、処女につらい思いをさせたくないと断られる。優しい一面を見て以来、戦場以外では常に寄り添い身の回りの世話をし、ジャネットへの想いを断ち切り憔悴ししていたピエールに、告白し婚約の誓いを結ぶ。 幸せな将来を夢見たが、パリ攻略直前ピエールの心の中にジャネットへの想いが残っていることを察し、錯乱。一人陣中を彷徨う中、ピエールを恨む傭兵仲間に焼き殺される。
マリー
ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣がアランヴィルで押し入った旅籠の娘。オルレアン解放後に再会した時は5歳で、幼い身でありながら父を助けていた。ピエールに懐き、ドン・ルイジの傭兵部隊と戦うことになった後は、身の回りの世話をし、撃退した際の凱旋行進ではピエールの懐に座り込み、それを見た住人はピエールを村の英雄として歓待した。 ピエールがジャネット夫婦となってからは、密偵としてピエールを監視しジャネットに告げ口している。
アンヌ
ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣に誘拐された少女で、ヴィヴェットの妹。ジャンの世話を担当。ヴィヴェットのことを阿婆擦れと揶揄しながらも、ピエールとの幸せな将来を祈っていた。ヴィヴェットを殺害した犯人を惨殺後、墓の前で一人死を悼み続けるピエールに、「ヴィヴェットを何時までも忘れないで欲しい」と涙ながらに懇願。 ピエールもアンヌの腕の中で号泣した。
ピエール・コーション
ラ・ピュセル(ジャネット)の異端審問裁判の裁判長。元パリ大学総長でボーヴェ司教も勤めた。ラ・ピュセル異端審問では脅迫に近い手法をもって、死刑を宣告。投獄中の監視をカトリーヌに依頼。冷酷で、感情をまったく表に出さない人物。実在の人物ピエール・コーションがモデル。
カトリーヌ
繋がりの深いコーション司教の依頼で、異端審問により死刑を宣告され投獄中のラ・ピュセル(ジャネット)の監視役をしている美女。ラ・ピュセルの救出に来ていたピエールと偶然出会い、別れた許嫁と似ていたことから床を共にする。興味本位でラ・ピュセルの様子を見せたため、カトリーヌの指示で暴行が行われていたことを知った ピエールによって、ラ・ピュセルの身代わりにさせられ火刑に処せられた。 その事実に気付いたのはコーション司教のみだった。
エティエンヌ・ド・ヴィニョール
フランス王国軍にあって、名ばかりで実力が伴わない貴族の中で、名実ともに名将に相応しい器量を有する大貴族で歴戦の軍人。ピエールの実力を高く認め、オルレアンの解放戦に於いて破格の待遇を与えた。 パリ攻略に失敗し、軍の解散が命じられてなお、僅かな兵力でフランスのために戦おうとするラ・ピュセルへの助力をピエールに依頼したが拒否される。 イギリス王国が未だ支配するノルマンディの攻略のため、ジャンを配下に戦いを続ける。フランスタイプのトランプにおけるハートのジャックのモデルである、実在の人物ラ・イルがモデル。
ルイジ・グリマルディ
ジェノヴァで悪名を馳せた傭兵部隊の隊長で、弩を得意とする。配下の傭兵部隊も世界一と言われる凄腕の弩使い揃い。ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣が去ったアランヴィルを包囲し、守備隊長の地位と大量の給金を要求し、従わなければ街を破壊すると脅迫。 しかし、ピエールたちが第二の故郷とすべく帰郷し対抗。ドン・ルイジとピエールによる、一騎打ちの騎馬戦となり、敗れたドン・ルイジたちは、文字通り身包み剥がれて追放される。
グラスデール
オルレアンを包囲するイギリス軍のトゥーレル砦の守備隊長。先頭に立って戦うラ・ピュセル(ジャネット)を「魔女」、「淫売」と罵り手傷を追わせ、圧倒的な巨躯から繰り出される剣でピエールを窮地に追い込むが、隙をつかれ命を落とす。イギリス人がよく使う言葉、「God damn(ガッデム)」を、フランス人のピエールが「ゴダン」と言って茶化すのを、ピエールの方が訛っていると嘲笑う剛胆な男。 実在の人物グラスレイドがモデル。
ユーグ
傭兵隊長でありアザンクールの戦いで敗北し、保護者を失って戦場を彷徨う10歳のピエールを拾って部下とした。狡知に長け冷酷な守銭奴。盗賊として押し入った村で年端もいかない少女を売りとばそうとし、それを阻止しようとした父親を平然と惨殺。そのことで兼ねてから反発心を抱いていた15歳のピエールに、深酒で寝込んだ所を襲われナイフで首を切り落とされた。 この一件でピエールは「シェフ(隊長)殺し」として、非情にして手練れの猛者と同業者からも恐れられる存在となった。
集団・組織
傭兵部隊 (ようへいぶたい)
『傭兵ピエール』に登場する戦闘集団。百年戦争当時のフランスでは、軍事制度が未熟で王の権力も弱いため、貴族や富豪たちが戦争の際に従軍に応じないことが多く、戦のたびに俸給によって兵士を動員する必要があった。やがて俸給を目当てとした騎士は「コンパニー」と呼ばれる専業集団となり、それらが傭兵部隊の母体となった。戦争期間は俸給で王国に従ったものの、特定の領地・収入を持たない不安定な立場であるため、給金が支払われない期間は、盗賊となり、村や町を襲った。 ピエールが率いるアンジューの一角獣も同様。
アンジューの一角獣
『傭兵ピエール』に登場する、ピエールが率いる傭兵部隊。緑に一角獣の軍旗を掲げることからこの名で呼ばれる。隊員総数は50人程度で、ピエールの統率力や指導能力もあって精鋭揃い。荒くれ者ばかりだが、ピエールを父親の様に慕っている。戦争のない時期は村や城を略奪して日々の糧を得ていた。大半の隊員がアランヴィルで捕虜にした女性と婚約を誓ってしまい、以後は女性陣の意向が色濃く反映される。 休戦後は女達の故郷アランヴィルに戻り、ドン・ルイジの傭兵部隊を駆逐。住民の信頼を得て、正式に村の守備隊となり、大半の隊員は所帯と定職を得て落ち着いた。
場所
オルレアン
『傭兵ピエール』に登場する都市名。1429年当時、パリと並ぶフランス屈指の大都市。渡るのが難しいロワール川に数少ない橋が架けられている地点で、川沿いに即位前のシャルル7世の居城があるため、イギリス軍から激しい攻撃を受ける。包囲戦は半年以上となり苦戦を強いられていたが、ジャンヌ・ダルク(ジャネット)が最前線に立ち士気を鼓舞。 ピエール率いる傭兵部隊アンジューの一角獣も奮戦し、イギリス軍に奪われたすべての砦を取り戻し、フランス軍は勝利を収めた。この功績によりラ・ピュセルは聖女としての評価を確実にした。
アランヴィル
『傭兵ピエール』に登場する、南フランス、プロヴァンス地方の片田舎の村。1429年にピエールが率いる傭兵部隊アンジューの一角獣に襲われ、金銀と共に若い女性を強奪される。その後、ジェノヴァで悪名を馳せた傭兵部隊ドン・ルイジから脅迫を受けるが、女たちの意向で戻って来たアンジューの一角獣を雇い撃退した。 旅籠の娘マリーがピエールに懐いたことから、住民たちはアンジューの一角獣を防衛隊として受け入れ平穏な暮らしを得る。数年後、ピエールが正式な領主となってこの地を治めることとなる。
百年戦争 (ひゃくねんせんそう)
『傭兵ピエール』の舞台となる戦争の呼称。フランス王位継承権をイギリス国王が要求したことをきかっけとし、一般的には1339年のイギリスによる宣戦布告から1453年のボルドー陥落までの期間を指す。物語の舞台はアザンクールの戦いで大敗を喫し、国土の半分近くを喪失したフランス。苦戦を強いられていたフランスが、ラ・ピュセル(ジャンヌ・ダルク)の活躍によって戦況を逆転させ、イギリス勢力を駆逐することに成功。 現在まで続く、イギリス-フランスの国境が決まる。
イベント・出来事
アザンクールの戦い (あざんくーるのたたかい)
『傭兵ピエール』の舞台、百年戦争中1415年に発生した戦闘で、初陣だった10歳のピエールが父と生き別れたとされる。ノルマンディに上陸したイギリス軍を、政治的混乱によりアルマニャック地方の陣営のみで迎え撃ったフランスは、数の上では優勢だったが、地の利を活かしたイギリス軍の長弓攻撃に騎馬攻撃を封じられ、総兵力の半数近くを失い、後世「フランスの騎士道に止めをさした」とまでいわれる程の惨敗を喫した戦闘である。
クレジット
- 原作