知的障害を持つ有紗と10歳年上の岡村の純愛
自閉症と軽度の知的障害がある上戸有紗は、子どもの頃から居場所がなく、誰からも必要とされていないと感じていた。コンパニオンの仕事で好きでもない客とセックスするのは、それだけが、自分が存在していい唯一の証(あかし)だと考えていたからだった。一方、岡村龍二は一般的な家庭に育った男性。少年の頃、父の愚痴を言う母を見て、この先誰に出会おうと、一生の愛なんて続かないから自分は結婚しなくていいと考えていた。そんな二人は、配送会社の同僚となる。新人の有紗は、10歳年上の優しい上司、岡村のことが好きになり、コンパニオンの仕事をきっぱりとやめる。一方の岡村も、失敗ばかりだが頑張り屋の有紗に惹(ひ)かれ、やがて交際に発展する。一緒に暮らすようになり「いるだけでいい」と岡村に言われた有紗は、初めて自分の居場所を見つけ、幸せな気分に包まれた。
有紗の障害を知り、複雑な感情を抱く岡村
ある日、有紗の障害について聞かされた岡村は、その事実を受け入れるが、得体のしれない罪悪感にとらわれる。彼女を好きな気持ちは確かだが、有紗の母に「一生面倒を見て」と言われても、岡村にはまだ何の覚悟もない。「ただ好きなだけじゃダメなんだろうか」と岡村は自問する。その後、岡村は有紗を両親に紹介する。岡村の両親は有紗を気に入るが、有紗から障害のことを聞いた母親は、子どもへの遺伝を気にしたり、岡村が苦労するのではと心配する。「普通の子に見えるんだけどねえ」という母の言葉に岡村は憤慨するが、それは岡村自身が何度も思った言葉であった。
「普通」になりたくて、悩んで傷つく有紗
「二人で生活してるんだから支え合わなければ」という母の言葉を受け、有紗は積極的に家事をするようになるが、失敗ばかりしてしまう。自分に障害がなければ、岡村の母親はもっと喜んでくれたろう。岡村を幸せにするために「普通」の人にならなければと焦る有紗は、会社内の難易度の高い仕事を志願する。しかし、何度やってもうまくいかず、1週間後には、仕事を教えてくれるパートさんもすっかり疲弊してしまう。その後、結局元の仕事に戻された有紗は、つらい気持ちを打ち明けたくてしかたがなかった。しかし、多忙を極める岡村の邪魔をしてはいけないと、自分の感情を閉じ込めてしまう。有紗の心の中の「たすけて」は誰にも届かず、次第に彼女の心を蝕んでいく。
登場人物・キャラクター
上戸 有紗
軽度の知的障害がある25歳の女性。ツインテールが特徴。仕事ではミスが多く、家事も苦手。必要とされると拒めない性格。体を与えることでしか役に立てないと考えており、派遣コンパニオンの仕事では、客に迫られてついついセックスしてしまう。配送センターでのアルバイトをするようになってからは、優しい社員の岡村龍二が好きになり、コンパニオンの仕事はきっぱりと辞める。やがて、岡村と交際するようになり、迷った末に自分に障害があることを告白する。
岡村 龍二 (おかむら りゅうじ)
配送センターの社員。眼鏡をかけた35歳の男性。穏やかで優しい性格をしており、女性経験は乏しい。かわいらしく素直ながんばり屋のアルバイト・上戸有紗に好意を抱く。有紗から告白され、自分も同じ気持ちであることを伝えて交際する。有紗に知的障害があることを告白された後も交際を続ける。有紗を好きな気持ちに変わりはないが、自分でもよくわからない罪悪感を抱くようになる。