あらすじ
第1巻
秋乃は、来客者がすべて動物という北極百貨店にコンシェルジュとして勤める事になった。「いつもにこやかな笑顔で挨拶」をモットーに、フロアでお客に意気揚々と「お声がけ」をする秋乃だったが、周りがまったく見えておらず、逆にお客に迷惑をかけてばかりいた。フロアマネージャーの東堂に粗相してしまった事を一喝され、少し冷静になった秋乃は、東堂が言っていた「目を見ればそれくらいわかる」というヒントをもとに、お客の目線の高さに着目。周囲をうかがっていた秋乃は、取引先の社長であるワライフクロウの社長夫婦にクライアント接待で付き添っていたフェレットから、社長夫婦が自分達で買い物を完結してしまうため、接待にならないという悩みを聞かされる。機転を利かせた秋乃は、フェレットにワライフクロウの奥方が迷って買わなかった品物をあとで贈る事をアドバイス。これが功を奏し、フェレットの会社は社長の会社の広告を一任される事になった。フェレットから礼を言われた秋乃は、コンシェルジュとして、少しだけ自信を深めるのだった。(第1話「笑うお客さま」。ほか、4エピソード収録)
登場人物・キャラクター
秋乃 (あきの)
笑顔が素敵な若い女性。北極百貨店に勤める事になった新人コンシェルジュ。仕事に対する熱意とやる気は十分ながら経験が不足しており、まだまだ周りが見えていない。そのため、勤務初日にはお客を踏んでしまったり、お客が背負っている子供を荷物扱いして怒られたり、という粗相を繰り返している。しかし、そんな失敗にもめげる事なく仕事に打ち込み、持ち前の機転と行動力を発揮している。接待に困っていたフェレットに的確なアドバイスをしたり、恋人への結婚の申し込みを躊躇していたニホンオオカミの背中を、北極百貨店内のレストラン従業員の協力を取り付けて押すなど、最終的に多くのお客を笑顔にしていた。フロアマネージャーの東堂からは厳しく指導されているが、同時に期待されてもいる。ペンギンのエルルからは、その笑顔と健脚を褒められていた。すべてのお客に心から笑顔を向けられる、根っからのコンシェルジュでもある。
東堂 (とうどう)
整った髭を生やした強面の男性。北極百貨店のフロアマネージャーを務めている。壁にかかった絵画や、倉庫の商品の下など、ありとあらゆる場所に潜んで、仕事中のコンシェルジュの一挙手一投足を監視しており、特に新人のコンシェルジュである秋乃を厳しく指導している。しかし厳しいばかりではなく、コンシェルジュの在り方について、ヒントを秋乃に提示したり、いい点があればボソリとつぶやいて褒めたりするなど、不器用だが気配りもできる人物。「コンシェルジュの辞書にNOの文字はない」「ありません、できませんといった言葉でお客さまの期待を裏切ってはならない」という信念を秋乃に伝える。
森 (もり)
ショートカットの女性。北極百貨店のコンシェルジュを務めている。秋乃の先輩。つねに悠然としており、仕事中に微笑みを絶やす事はない。優秀なコンシェルジュで、お客が必要としている事を瞬時にくみ取り、柔軟に対応できる器量の持ち主。しかし、どんな理不尽な要求にも応えるというわけではなく、度を超えた要求をするクレーマーに対しては、毅然とした態度で対応している。秋乃には言っていないが、彼女のコンシェルジュとしての素養を高く買っている。
岩瀬 (いわせ)
眼鏡をかけた女性。北極百貨店のコンシェルジュを務めている。秋乃の先輩。少々口うるさいが、面倒見がよく、仕事に不慣れな秋乃に付き添って指導していた。超人気スイーツ店のケーキを見てよだれを垂らすなど、甘い物には目がない。
フェレット
フェレットの男性。イタッチ広告社に勤めている。ワライフクロウの社長夫婦をクライアント接待するために北極百貨店にやって来ていた。しかし、社長夫婦が二人だけで買い物を完結してしまうため、接待にならない事を嘆き、コンシェルジュの秋乃に助けを求める。
ワライフクロウの社長夫婦
絶滅種「ワライフクロウ」の老夫婦。1914年までニュージーランドに生息していた。夫は会社を運営している大金持ちで、フェレットからクライアント接待を受けるために妻といっしょに北極百貨店へ来店していた。しかし、夫がフェレットを差し置いて妻を喜ばせるために買い物をしてしまう事から、まったく接待にならず、フェレットを困惑させる。
給仕長 (きゅうじちょう)
長身で細目のキザな性格をした男性。北極百貨店内にあるレストランで給仕を務めている。東堂からレストラン研修を命じられた秋乃に、給仕や細やかなサービスのやり方、さらにチームワークの重要性を教えていた。来店したニホンオオカミの結婚の申し込みを成功させるために、レストランの従業員全員の協力を取り付けた秋乃の事を気に入っていた。
ニホンオオカミ
1905年に絶滅したニホンオオカミの男性。恋人のニホンオオカミに結婚の申し込みをする事を決意し、北極百貨店のレストランへ下見に来ていた。しかし自分に自信がなく、エンゲージリングを渡せるかどうかを思い悩んでしまう。見かねた秋乃がレストランの従業員全員の協力を取りつけ、レストラン内のムードを盛り上げた事により、結婚の申し込みに成功する。
ウミベミンクの親子
絶滅種「ワライフクロウ」の老夫婦。1880年まで北米の大西洋海岸の岩礁地帯に生息していた。プレゼントを購入するために、二人が偶然にも同じタイミングで北極百貨店に来店する。父親は久しぶりに会う娘に贈るブラシを購入し、娘は久しぶりに会う父親に贈る万年筆を購入しようとしていた。
トキワ
長身で体格のいいクールな性格の男性。北極百貨店の外商員を務めている。絶滅種であるV・I・Aが滅びたのは、敵に接近を許した警戒心のなさゆえの自己責任だというのが持論。そのため、V・I・Aが特別視される状況を快く思っておらず、ウミベミンクの親子のプレゼント問題の解決に奔走した秋乃に対し、「なぜお客様をひいきするの?」と問い質す。それ以降も、陰から秋乃の動向を見守っていた。
カリブモンクアザラシ
カリブモンクアザラシの婦人。1952年までカリブ海に生息していたアザラシで、温厚な性格で警戒心がなかったため、機械油として有用な脂肪に目を付けたハンター達に狩りつくされ、絶滅に追い込まれた。パーティードレスを購入するために北極百貨店を訪れ、秋乃に売り場まで案内される。百貨店業界ではかなり有名なクレーマーで、サイズが合う商品がなかった事を理由に秋乃に土下座を強要するが、森が断っていた。
アホウドリ
アホウドリの男性。外敵に対する警戒心が薄いため、乱獲されて1949年に絶滅したかに思われたが、2年後にわずかな生き残りが再発見された。絶滅の危機からは遠ざかるものの、現在も保護活動が行われている。妻への贈り物を購入するため、北極百貨店を訪れた。慣れない百貨店に戸惑いながらも、自力で買い物を済ませていた。
エルル
知的かつミステリアスな雰囲気を漂わせるペンギンの男性。北極百貨店を訪れた際に、新人コンシェルジュの秋乃に踏まれてしまう。困り顔で恐縮する秋乃に対し、哲学的な表現で笑顔の重要性を説いていた。東堂や森とも顔見知りで、両者に対して「賢い者か強い者か、生き残るのは何者だと思う?」という問いかけをしていた。
ウーリー
更新世後期まで北半球の亜寒帯に生息していた「ケナガマンモス」の男性。高名なガラス造形作家。無口な性格で、人間よりも遥かに大柄な体型をしている。若くして亡くなった妻の影響で、大きさを一律に合わせた動物のガラス工芸品を多く制作している。すべての動物を分け隔てなく扱うユートピア的な考えが支持を受け、幅広い層から人気を得ている。北極百貨店の画廊で個展を開いた際は、開催前からファンの動物が列をなしていた。
マネージャー
ウーリーのマネジメントをしている小動物の男性。口やかましいうえに人使いも荒いが、それも繊細なアーティストであるウーリーの事を第一に考えているがため。ほとんどしゃべらないウーリーに代わって、面倒な交渉事や多くの雑務をこなしている。
場所
北極百貨店 (ほっきょくひゃっかてん)
すべてのお客が動物という謎の百貨店。従業員はすべて人間。画廊やレストランも併設された大型の施設で、日々多くのお客でにぎわっている。従業員は厳しく教育されており、接客は超一流。絶滅種の動物であるV・I・Aも多く来店する。
その他キーワード
V・I・A (ゔぃあいえー)
すでに絶滅した動物を指す言葉。北極百貨店の従業員のあいだで使われている用語。東堂達の意向で、V・I・Aのお客はかなり丁重に扱われていた。北極百貨店に出入りする外商員のトキワはその特別扱いが気に入らず、ウミベミンクの親子の接客を担当していた秋乃に苦言を呈した。
書誌情報
北極百貨店のコンシェルジュさん 2巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2017-11-30発行、 978-4091897633)
第2巻
(2020-10-30発行、 978-4098603374)