あらすじ
岐阜・故郷編
1971年7月7日、岐阜県東部の小さな田舎町、梟町で営まれている小さな食堂の夫婦に、楡野鈴愛という女の子が難産の末に生まれた。同じ日に同じ病院で生まれたのは、町内で写真館を営む萩尾家の男の子、萩尾律だった。まだ名前もない時に二人は病院で出会い、生まれた時からお互いのそばにいる、特別な存在として成長していく。やがて小学3年生になった鈴愛は、勉強は苦手だが絵が得意の明るく天真爛漫な少女に育ち、成績も優秀で優しいが友達の少ない律とは、性格が正反対ながらも仲よくしていた。だが、そんな鈴愛の平穏な日常はある日を境に大きく変わる。鈴愛は突然左耳が不調になり病院の診察を受けたところ、二度と治らないムンプス難聴であることが判明。そのまま左耳の聴力を失ってしまった鈴愛だが、持ち前の明るさと家族の優しさ、律の励ましを受けたことで、前向きな少女に成長していく。やがて鈴愛は、友人や家族に支えられながら、左耳だけが聞こえないことから生じる独特の感覚すら楽しむようになっていた。そして数年後、地元の高校に進学した鈴愛は、律はもちろん西園寺龍之介や木田原菜生たちと共に高校生活を楽しんでいた。しかし、受験が近づいた頃にはほとんど仲間と遊ぶことができず、また就職活動がうまくいかない鈴愛は、家族に紹介された農協の面接を受け、なんとか内定が決まる。そんな中、律から貸してもらった秋風羽織の少女漫画に夢中になった鈴愛は、羽織の作品の影響を受けながら、初めて自分の漫画を描き上げる。そして、律に誘われて羽織のトークショーを見に行った鈴愛は、羽織に自作漫画の原稿を見せる。鈴愛の才能を見込んだ羽織は、自分に弟子入りして東京で漫画家を目指さないかと誘う。
東京・胸騒ぎ編
漫画家を志して東京のオフィス・ティンカーベルにやって来た楡野鈴愛だったが、ペンすら握らせてもらえず、秋風羽織の言うとおりに食事係と雑用を続けていた。不満を募らせた鈴愛は羽織に騙されたとの思いから、口論になってしまう。すると羽織は鈴愛を弟子に誘った本当の目的を語り出し、緊迫したやり取りをほかのアシスタントたちが見守る中、鈴愛にとある課題を突きつける。課題の出来次第で進退が決まることとなった鈴愛は、藤堂誠たちの協力を借りながら課題を進め、その出来を認められた鈴愛は、アシスタントをしながら指導を受ける多忙な日々を送っていた。そんな中、東京の大学に進学した萩尾律は、東京で出会った朝井正人と意気投合して友人になっていた。ロボット工学に興味を持つ律は、学業と部活に励む中で初恋の相手である伊藤清と大学内で再会を果たし、交際を始める。一方、喫茶店で働く正人と出会った鈴愛は、優しく前向きな言葉を掛けてくれる彼に恋をする。誕生日が近づいた鈴愛は羽織たちにパーティを開いてもらえることになったが、正人の話題が出た途端に落ち込んでしまう。実は、正人に告白した鈴愛はあっさりフラれて失恋していたのだ。周囲に励まされ傷心を乗り越えながら迎えた19歳の誕生日、律の家に向かった鈴愛は、そこに来ていた清と遭遇。幼い頃から律を知る鈴愛に嫉妬する清と、それに腹を立てた鈴愛は口論になるが、そこで鈴愛は律を独占するような発言をしてしまう。それを知った律は、鈴愛と距離を置きたいと別れを告げる。気落ちする鈴愛を見た羽織は、律との悲恋を題材に恋愛漫画を描くよう提案する。
戻りました!岐阜編
楡野鈴愛は娘の楡野花野を連れ、久しぶりに梟町の実家に戻って来た。家族から萩尾和子が病気になったこと、そして西園寺龍之介から萩尾律が梟町に戻って来た理由を聞かされた鈴愛はショックを受ける。しかも、故郷に戻れば実家のつくし食堂を手伝いながら暮らせると期待を寄せていた鈴愛だったが、食堂は様変わりしているうえに人手は足りていた。鈴愛は早く仕事を見つけるよううながされるが、律たちに相談してもなかなか仕事は見つからない。そんな中、あるきっかけで起業を決意した鈴愛は、カツ丼で繁盛しているつくし食堂とは別に、楡野仙吉が作る五平餅のカフェのアイディアを発案し、家族を説得してつくし食堂の2号店を出すことを決める。老齢で働けなくなった祖父の仙吉は鈴愛に五平餅の味を伝授し、彼女が作り方を習得したのを見届けて安心すると、眠るように他界する。周囲の協力を得ながら開店準備は着々と進み、店名は仙吉が考えていた「センキチカフェ」に決まり、開店当初から人気を博して経営は順調だった。そんな中、藤堂誠と小宮裕子が鈴愛に会うために梟町にやって来た。二人との再会に大喜びする鈴愛は律も呼んで宴会を始めるが、酔った誠が律に対してある秘密を暴露してしまう。
再起奮闘編
夫婦関係の修復が叶わず離婚した萩尾律は、2010年にアメリカから帰国していた。菱松電機東京本社に配属され、自然の風を感じられない高層ビルの中で中管理職をしていた律は、夏に朝井正人と再会する。正人と話しながら外を歩いていた律は、五平餅の移動販売をしていた楡野鈴愛と偶然の再会を果たし、正人と共に交流を復活させる。鈴愛が営む会社が入ったシェアオフィスを見学した律は、自分がエンジニアをしていた日々を思い出しながら、シェアオフィスに入っている一人メーカーに興味を持つようになる。さらに律は、胃癌を患った楡野晴の入院生活を心配する鈴愛の言葉をヒントに、自然のそよ風のような風を吹かせる扇風機を作りたいと決意する。晴のためにその扇風機を二人で作ろうと鈴愛を誘った律は、管理する立場ではなく一人のエンジニアでいたいと上司に告げて菱松電機を退職し、彼女や正人と共に扇風機の開発と実験を進めていく。
関連作品
TVドラマ
本作『半分、青い。』は、2018年4月から9月にかけてNHK「連続テレビ小説」で放送されたTVドラマ『半分、青い。』を原作としている。原作TVドラマ版は脚本を北川悦吏子が務めている。キャストは、楡野鈴愛を矢崎由紗、萩尾律を高村佳偉人が演じている。
登場人物・キャラクター
楡野 鈴愛 (にれの すずめ)
梟町で生まれた少女で、家族が経営しているつくし食堂の娘。勉強は苦手ながら絵を描くのが得意で、明るく天真爛漫な性格をしている。驚いたり感動したりすると、「ふぎょぎょっ!」と声を上げる癖がある。小学3年生の秋にムンプス難聴を発症し、左耳の聴力を完全に失う。萩尾律にのみ涙を見せたものの、みんなの前では平静を装い、雨の日には右側半分で雨が降り、左側半分が音がしないため晴れているという不思議な感覚を楽しむようになるなど、難聴に負けない前向きな少女に成長していく。地元の朝霧高校に通い、卒業後は就職を考えるようになるが就職活動は難航するも、地元の農協の内定が決まる。夏休みに律から借りた秋風羽織の漫画にあこがれ、律の勧めもあって自作漫画の執筆を始める。トークショーで羽織に弟子入りを勧められたのをきっかけに、内定を断り漫画家を志して上京する。アシスタント業と漫画修行に打ち込む中、喫茶店で出会った朝井正人に恋をするが、告白を断られて失恋。さらに律と付き合っている伊藤清と口論になったことで、律とも距離を置くようになる。その後、羽織の助言を受けて失恋を題材にした作品を描き、「月刊ガーベラ」での連載が始まり、単行本も発売された。しかし、スランプの連続から実力に限界を感じて漫画家をあきらめ、羽織のもとを去る。東京での就職活動も難航し、一人暮らしをしながら100円ショップ「大納言」でアルバイトを始める。そこで出会った森山涼次からのプロポーズを受け入れて結婚し、長女の楡野花野を里帰り出産するが、映画監督の夢をあきらめられない涼次から別れを切り出され離婚。花野を連れて実家に戻り職探しに苦戦した末に、五平餅がメインのつくし食堂2号店を思いつき、「センキチカフェ」を開店。のちにセンキチカフェを信頼できるスタッフに任せて再上京し、五平餅の屋台を営む中で律と正人に再会。風の入りにくい病院で入院する楡野晴のためにそよ風の扇風機を思いつき、開発のために「株式会社スパロウリズム」を律と立ち上げる。誕生日は7月7日。
萩尾 律 (はぎお りつ)
楡野鈴愛の幼なじみで、彼女と同じ病院の廊下で誕生した少年。幼少期は喘息(ぜんそく)持ちだったが、高校入学後は完治した。物理好きで理知的な性格をしており、友達は少ないが鈴愛とは馬が合う。鈴愛と同じ朝露高校へ進学し、バスケットボール部で活躍したことで、社交的な性格に変わっていく。高校3年生の時、練習試合で来校した伊藤清に一目惚れする。また、母親の萩尾和子に教えられて秋風羽織の愛読者となり、鈴愛に漫画を貸したことで、彼女が羽織にあこがれるきっかけを作った。もともとは東京大学を志望していたが、模擬試験の合格判定が悪い結果に終わったことで、志望校を京都大学に変更した。しかし、試験当日に道端で倒れた犬を助けたことで受験を断念することとなり、滑り止めで受けていた東京の西北大学・理工学部に進学する。東京では、同じマンションに住む朝井正人と友人になる。在学中はロボット工学への興味から宇佐川教授の研究室に所属し、大学内で再会した清と交際を始める。鈴愛とケンカした清を傷つけないために鈴愛と距離を置き、転居するも3年後には清と別れる。卒業後は京都大学工学部大学院に進学し、菱松電機の就職が内定。地元で再会した鈴愛にプロポーズするも、漫画家を夢見る彼女に断られる。職場で出会った萩尾より子と結婚し長男の翼が生まれるが、教育方針を巡って不和が生じるようになる。和子が病に倒れてからは、一人で梟町の実家に戻り、そこから名古屋支社へ通勤していたが、菱松電機ロボット部の閉鎖後はアメリカに渡る。その際、より子とは共に渡米したものの関係を修復できず、のちに離婚する。その後は東京本社・経営企画部技術課の課長となるが、自然を感じられない高層ビルで窮屈な思いをしていた。そんな中で正人や鈴愛と再会し、エンジニアへの復帰を渇望する中、鈴愛の発想をもとにそよ風の扇風機の開発を決意し、菱松電機を辞めて「株式会社スパロウリズム」を鈴愛と立ち上げる。誕生日は7月7日。
楡野 晴 (にれの はる)
楡野鈴愛の母親。腎臓の持病を患っていたが、鈴愛の出産後は回復する。同日に同じ病院で出産した萩尾和子とは仲がよく、ママ友のような関係を続けていた。家庭を持つことが女性の幸せと考えており、思いつきで行動することが多い鈴愛とはよく衝突している。鈴愛が漫画家になると言い出した際には、就職を口利きした楡野仙吉を気にかけたことに加えて、鈴愛の将来を不安に思い猛反対していた。しかし、鈴愛と口論を重ねるうちに彼女の成長を感じ取り、進路を認めることとなった。のちに離婚して帰郷した鈴愛がセンキチカフェを発案した時も反対したが、いくつかの出来事をきっかけに彼女の新たな目標を認め、開店準備に協力する。のちに、センキチカフェをほかのスタッフに任せた鈴愛が再上京した頃、早期の胃癌が見つかる。翌年の8月に名北病院での手術は成功するも、入院中の病室に風が入らないことを不満に思っている。その後の検査で、5年生存率が50%だと医師に告げられる。
楡野 宇太郎 (にれの うたろう)
楡野鈴愛の父親。楡野晴の夫で、楡野仙吉の次男。『あしたのジョー』や『ドンキッコ』をはじめとする漫画を数多く愛読している。趣味はDIYで、本棚やスタンドライトなども作ることができる。鈴愛が漫画家を志した際には、晴と同様に不安を覚え、保護者を通さず弟子入りの話を進めようとする秋風羽織の態度を快く思わず反対する。菱本の謝罪を受け羽織の誠意と鈴愛が弟子入りをあきらめていないことを知り、彼女の夢を応援するために自作の本棚を贈った。
楡野 仙吉 (にれの せんきち)
楡野鈴愛の祖父。つくし食堂で絶品の五平餅を作っている。高校生の鈴愛が就職活動に難航していることを知り、学生時代の後輩がいる東美濃市農業協同組合に口利きをした。趣味はアコースティックギターの弾き語りと囲碁。つくし食堂がカツ丼で人気になったあとは五平餅作りをやめていたが、2号店開店を目指す鈴愛から請われ、作り方を伝授する。また、2号店のために考えていた店名を、孫の楡野花野だけに教えていた。のちに鈴愛が五平餅の作り方を習得したことに安心し、眠るように息を引き取る。享年88歳。
楡野 草太 (にれの そうた)
楡野鈴愛の1歳年下の弟。姉の鈴愛とは正反対に慎重な性格で、大半のことは親の了解を得てから行動する。鈴愛が左耳を失聴した際に貯金をはたいてぐるぐる定規を贈るなど、姉思いなところがあるが素直になれず、携帯電話には、鈴愛の番号を「アホあね」の名前で登録している。勉強が得意で、高校卒業後は地元から名古屋の大学に通っていた。卒業後も実家に残り、名古屋にある大手卵料理のチェーン店「エッグシェフ!」に勤務していた。里子という女性と結婚し、つくし食堂の近辺の新居マンションに引っ越し、一児の父となる。のちにエッグシェフ!を辞め、つくし食堂の店長を務める。前職の経験を活かした新メニュー「ふわとろカツ丼」が好評を博し、大行列ができるほどの人気店に成長させた。
萩尾 和子 (はぎお わこ)
萩尾律の母親。おっとりとした性格の美人だが、話が長いのが玉に瑕(きず)。家族からの愛称は「ワコさん」。楡野晴と同時期に病院廊下で産気づいたが、陣痛の自覚が弱かったことと、分娩室が空かなかったことから、そのまま廊下で律を出産した。晴とは子育てのことで相談し合うことも多く、ママ友のような関係を続けている。ドラマの主人公などの物真似を得意とするなど、ユニークな一面を持つ。漫画家の秋風羽織を愛読しており、律にも単行本を貸していた。ふだんは写真館を手伝いながら、特技のピアノなどに興じている。音楽好きであることから、当初は律をベートーベンのような音楽家に育てようと夢見ていたが、律がピアノに興味を示さなかったため断念し、今度はノーベル賞受賞者に育てることを目指すようになった。拡張型心筋症を患い、家族と晴にだけは直接伝えていた。鈴愛がセンキチカフェに設置した岐阜犬の声をインターネット回線越しに担当し、訪れる客の相談相手になっている。また、鈴愛には母子手帳と遺書を挟んだ日記を託し、自分が死んだあとに律に渡すよう頼んでいた。病状が悪化したことで岐阜犬の声を担当できなくなり、律に感謝の気持ちを告げたあと、満月の夜に亡くなった。享年61歳。
西園寺 龍之介 (さいおんじ りゅうのすけ)
楡野鈴愛の幼なじみの少年。実家は不動産会社を営んでいる。小学生時代に小太りな体型から鈴愛に「反則ブッチャー」と呼ばれて以来、「ブッチャー」のあだ名で親しまれている。鈴愛とケンカをすることもあるが、ひそかに好意を持っており、彼女に絡みたいがためにからかっていた。いつも自慢しているスーパーカー消しゴム目当てで近づいて来る者が多い中、萩尾律のことは本当の友人だと思っている。朝露高校に進学後は、片思いの相手に接近する目的でバドミントン部に入部するも失恋。東京の私立大学を志望するが、律と離れたくないために変更し、推薦で京都の舞鶴学院大学に進学した。大学卒業後は、名古屋の名央建設に勤務する。のちに親交を深めていった木田原菜生にプロポーズして結婚し、家業の不動産業を継いでいる。
木田原 菜生 (きだはら なお)
楡野鈴愛の幼ななじみの少女。実家はふくろう商店街にある洋品店「おしゃれ木田原」を営んでいる。愛称は「ナオちゃん」。朝露高校では美術部と弓道部に所属していたが弓道の方は上達せず、試合出場は練習試合1回のみで終わった。実家のおしゃれ木田原を本当におしゃれな店にするために、高校卒業後は名古屋の服飾の専門学校へ通う。漫画家を志した鈴愛が上京する際には、カエル柄のワンピースを贈った。卒業後は名古屋のデパートに勤務していたが、親交が深まった西園寺龍之介からプロポーズされる。返事を保留していたがのちに龍之介と結婚し、二児の母となる。センキチカフェの開店にも協力し、制服を制作した。
秋風 羽織 (あきかぜ はおり)
売れっ子少女漫画家。累計発行部数は5000万部を超えるほどの人気だが作家像はシークレットとされ、長年性別すら公表していなかった。しかし、読者の顔を見たいという理由で、名古屋でトークショーを開き、初めて公の場に姿を現した。サングラスをかけ、黒い服を身にまとった独身の中年男性で、漫画に強いこだわりを持つ気難しい性格の持ち主。東京に自宅兼職場としてオフィス・ティンカーベルを持ち、秋風塾という漫画家養成塾を開いている。トークショーで楡野鈴愛が差し入れた五平餅を気に入り、同時に彼女が描いた漫画を見て、基礎を知らぬ手法ながらも才能があると見込んで弟子入りを誘う。東京でアシスタントとして鈴愛を迎えるが、筆を握らせることはなく食事係と雑用を任せていた。これに不満を持った鈴愛に対して五平餅目当てで誘ったことや、競争の激しい秋風塾の潤滑油となるよう期待していたことを明かし、彼女にカケアミ制作の課題を出す。これにより鈴愛の意欲と課題の出来を認め、秋風塾の特待生として迎えると共に、原稿アシスタントも任せるようになる。鈴愛には、田舎を駆け回っていたリアルさを持ち味として期待しており、彼女が左耳を失聴していると知ってもまったく気にかけず、むしろ過去の体験は漫画制作に活かすべきとアドバイスしている。漫画の指導は厳しいが、デビューが決まった小宮裕子と担当者の仲介や連載の紹介をしたり、藤堂誠の原稿持ち込み先をひそかに口利きしたり、鈴愛が連載のストーリー転換を編集部から打診された際は、彼女の感性を尊重するために拒否したりと、これと見込んだ相手には面倒見がいい。鈴愛が漫画家をあきらめて秋風塾を去ると決めた際は、残念に思いながらも彼女の決断を真剣に受け入れた。
伊藤 清 (いとう さや)
柏木高校に通う女子。弓道部に所属している。萩尾律の初恋の相手。他校の男子にも知られる美少女だが、実はプライドが高く嫉妬深い性格をしている。横浜出身。部活の練習試合で朝霧高校を訪れた際に、律と出会う。大学は西北大学文学部に進学し、大学内で偶然再会した律と親交を深め、やがて交際を始める。律の19歳の誕生日に彼の家を訪れた楡野鈴愛と遭遇し、昔の律をよく知る彼女を疎ましく思い、つかみ合いのケンカに発展した。これを機に律が鈴愛と距離を置くようになるも、律との交際は3年で終局した。
藤堂 誠 (とうどう まこと)
秋風羽織の若手アシスタントの男性。ゲイの美青年で、「僕って」が口癖なことから、「ボクテ」の愛称で呼ばれている。秋風塾の生徒でもあり、楡野鈴愛がオフィス・ティンカーベルに入った当初から親身に接し、スイーツ食べ放題に付き合うことを条件に、カケアミの技法を教えた。小宮裕子にデビューを先越されたうえに、実家から帰省をうながされるものの、ある編集者にデビューを持ちかけられるがネームに行き詰まってしまう。これらの焦りから鈴愛に作品の構想を譲ってもらい、お色気漫画に仕上げて「月刊アモーレ」に寄稿するが、羽織の怒りを買って破門を言い渡され、オフィス・ティンカーベルを去ることになる。その後は心機一転してデビューを目指し、少女漫画を扱う丸山出版へ持ち込みを始める。やがて連載が始まり、この連載が人気を博して映画化もされ、行く先々でサインを求められるほどの人気漫画家に成長した。酒には弱く、飲み過ぎた時は絡み酒になってしまうことがあり、萩尾律の前で鈴愛のある秘密を暴露したこともある。人気漫画家になったあとも鈴愛との交流は続き、時おり裕子と共に会いに行っている。
小宮 裕子 (こみや ゆうこ)
秋風羽織の若手アシスタントの女性。秋風塾の生徒で、ガーベラ漫画セミナーの特待生。楡野鈴愛と同年齢だが、出会った当初は無口で表情も乏しく、オフィス・ティンカーベルの環境を貶(けな)し、羽織のことも悪く言って忠告していた。家族関係や人間関係に恵まれて育った鈴愛を妬んでケンカになったが、やがて彼女の努力家な一面や人柄を受け入れて謝罪し、打ち解けていった。読み切りの投稿作が「月刊ガーベラ」に掲載され、秋風塾メンバーの中で最初にデビューを果たす。同社の青年漫画雑誌での連載も決まったが、担当編集者から打ち切りを告げられる。それ以来スランプとなり、執筆の大半をアシスタントに任せて夜遊びに走るなど荒(すさ)んでいく。やがて合コンで知り合った浅葱という男性と結婚してインテリアコーディネーターを志すようになり、漫画家を引退した。昔から確執のあった実母とは、長男の出産を機に和解する。夫の転勤で仙台に転居することになり、看護学校に入学した。
菱本 (ひしもと)
秋風羽織の秘書を務める女性。公私共に羽織のことを支える有能なしっかり者で、気難しい彼も素直に言うことを聞くなど信頼している。ピンクハウス系のガーリーなファッションを好む。ふだんはクールで冷静な性格ながら、怒ると早口になる癖がある。新入りアシスタントの楡野鈴愛のことを軽んじているものの、羽織が漫画を創作するいい刺激になると、ひそかに期待を寄せている。
朝井 正人 (あさい まさと)
萩尾律が東京で出会った青年。彼と同じマンションの向かいに住んでいる。律とは西北大学・法学部に所属する学友でもある。ソフトな外見とは裏腹に女性に遊び慣れているような言動が多い。動物好きで、自室ではミレーヌという子猫を飼っている。当初は名古屋の海藤高校を受験して不合格となったが、これは試験の日にケガをした犬が放っておけず道路の脇に避難させていたのが原因で、同じ日にその犬を律が救出している。東京では喫茶「おもかげ」でアルバイトをしており、店を訪れた楡野鈴愛と出会う。意気消沈し悩みを吐露する鈴愛を優しく励まし、デートをするほどに親交を深めていった。しかし鈴愛から告白された際は断り、のちに親戚宅の留守番を任され、吉祥寺へ転居した。転居後も律とは連絡を取り合いながら、商社勤めから法律関係の出版社に転職した。東京に転勤して来た律に杉並のアパートを紹介し、二人で外を歩いていた時に五平餅の屋台を開いていた鈴愛と再会する。鈴愛から五平餅を買ったり、彼女が利用するシェアオフィスに出入りしたりしていたため、彼女と律が再会するきっかけを作り、彼にもシェアオフィスを紹介する。律と鈴愛が会社を立ち上げて扇風機の開発に乗り出した際は、二人に協力するようになる。楡野花野からも懐かれている。
楡野 花野 (にれの かの)
楡野鈴愛と森山涼次とのあいだに生まれた一人娘。愛称は「カンちゃん」。5歳の誕生日に、離婚して家を去る直前の涼次から受け取ったキツネのぬいぐるみを、「ココンタ」と呼びながら大切にしている。両親の離婚後、鈴愛と共に梟町に戻る。祖父の楡野仙吉からは、鈴愛が開店を目指すつくし食堂の2号店の店名を唯一教えられていた。萩尾律や朝井正人にも懐いている。
萩尾 より子 (はぎお よりこ)
萩尾律の妻。受付嬢をしていた時に、職場で律と出会って結婚した。上昇志向が高く気難しい性格の持ち主で、律や息子の翼が苦手としている相手。いわゆる教育ママで、翼を幼稚園受験させるべく塾通いさせるなど、厳しく育てている。律の実家とは価値観が合わず、帰省の際は息が詰まるような思いを吐露し、用事が済んだあとは翼を置いてすぐに帰ってしまった。これらのことから律との関係が悪化していき、彼の赴任に合わせて渡米するが環境が合わず、半年程度で翼と帰国。アメリカでも律との関係を修復できず離婚し、数か月後には別の男性と再婚した。
森山 涼次 (もりやま りょうじ)
映画会社「クールフラット」で助監督を務める男性。楡野鈴愛と同い年で、人懐っこい性格をしている。一方で、不都合なことはなかなか打ち明けられずギリギリまで隠すなど、八方美人でいい加減な一面がある。夢のために新しいことを始めても、三日坊主で終わってしまう欠点を持つ。100円ショップ「大納言」に来店した際に、そこでアルバイトをしていた鈴愛と出会い、森山涼次本人も臨時アルバイトとして働くようになる。鈴愛の漫画のファンであったこともあり、同僚として働くうちに彼女に惹かれていき、出会ってから6日程度で告白とプロポーズをする。その後は鈴愛と結婚し、彼女の妊娠を機に映画監督の夢をあきらめることを決め、大納言での勤務を続ける。長女の楡野花野が誕生し一児の父となるが、映画監督になる夢がどうしてもあきらめ切れず、5歳になった花野を鈴愛に任せて離婚した。
津曲 雅彦 (つまがり まさひこ)
企画会社「株式会社ヒットエンドラン」の社長を務める男性。廃校内に構えた事務所で、数名の従業員と共にシェアオフィス「なんでも作るよオフィス」を営んでいる。偵察でつくし食堂を訪れた時にセンキチカフェにも訪れ、そこで見た岐阜犬に目を付け、商品化を考えるようになる。発案者の楡野鈴愛のもとを訪れ、「おしゃべりワンワン」として大手玩具メーカーから発売を企画。これに際し、鈴愛を従業員として雇う条件を受け入れ、岐阜犬のアイディアとその権利を300万円で買い取った。おしゃべりワンワンは大ヒットするも、欲に目が眩(くら)んで開発した「土佐猫」は不発に終わる。これにより大量の在庫や負債を抱え、資金繰りに困って倒産し、夜逃げして姿を消した。
場所
梟町 (ふくろうちょう)
楡野鈴愛と萩尾律の故郷。岐阜県東美濃地方の東美濃市にある小さな田舎町。名古屋へ電車で往復5時間かかる山奥にあり、のどかな自然に囲まれている。ふくろう商店街には鈴愛の実家が営む「つくし食堂」があり、つくし食堂から徒歩5分の場所には、律の実家が営む「萩尾写真館」がある。
オフィス・ティンカーベル
秋風羽織の自宅兼マンガスタジオ。東京の赤坂にあり、羽織の秘書の菱本をはじめ、多くのアシスタントが出入りしている。寮「秋風ハウス」が隣接しており、上京した楡野鈴愛も入寮することになった。当初は鈴愛が寮の食事係を務めていたが、鈴愛が寮を出たあとは、「ツインズ」という双子のメイドが食事や家事を担当するようになる。
つくし食堂 (つくししょくどう)
梟町のふくろう商店街にある小さな食堂。楡野鈴愛の家族が営んでいる。当初は「楡野食堂」という店名だったが、鈴愛の誕生後に「つくし食堂」に改められた。楡野草太が家業を継いでからは特に繁盛するようになり、従業員も増える。のちに帰郷した鈴愛のアイディアで、2号店となるセンキチカフェがオープンした。
センキチカフェ
五平餅がメインのオープンカフェ。梟町内にある夕霧高校近くに、つくし食堂の2号店としてオープンされた。帰郷した楡野鈴愛のアイディアで開店し、店長も彼女が務めている。店名は楡野仙吉が生前、楡野花野だけに伝えていた名称が採用されている。注文や列の待ち時間には、岐阜犬が客の話し相手をしてくれる。
その他キーワード
岐阜犬 (ぎふけん)
楡野鈴愛が発案した、言葉を話す犬のぬいぐるみ。メインメニューの五平餅を焼いている時間に、待っている客を楽しませたいという考えから発案され、センキチカフェに設置された。声は鈴愛の指名で聞き上手の萩尾和子に任され、萩尾律の提案でインターネット回線を通じて、彼女の声が流れるようになっている。センキチカフェに設置されてからは、多くの人が言い辛い悩みを相談するために訪れるようになり、店の繁盛につながった。のちにこのアイディアに目を付けた津曲雅彦に権利が譲渡され、「おしゃべりワンワン」の商品名で大手玩具メーカーから発売されて大ヒットする。
クレジット
- 原作
-
北川 悦吏子
書誌情報
半分、青い。 3巻 KADOKAWA
第1巻
(2018-12-07発行、 978-4040652214)
第2巻
(2019-01-08発行、 978-4040653198)
第3巻
(2019-03-08発行、 978-4040653532)