坂道の多い街を舞台にした恋物語
本作は坂道の多い街を舞台にした青春ボーイミーツガール。両親が離婚したことで親戚の家で暮らす少女・亜由が、不良に絡まれていた千治に一目惚(ぼ)れしたことで物語が始まる。坂道の多い街は二人にとって居心地がよく、思い出深い場所となっていくと同時に、坂道を登ることが少年少女が成長して大人となっていく姿を象徴している。
笑顔の裏側にある真実
主人公の亜由はいつも明るく、天真爛漫(らんまん)な少女。亜由が世話になっている岩倉家は新婚家庭で、子供が誕生間近なこともあり、彼女は幸せを感じて過ごしていた。しかしそんな亜由は小学生の頃に両親が離婚し、家庭が崩壊した過去がある。大人たちの事情に振り回されながらも、亜由は周囲の人たちに支えられ、いつも笑顔を絶やさずにいた。岩倉家に預けられたことで、子供なりに大人たちに心配をかけまいと笑顔を振りまいていたが、内心では必死だった亜由の心情が描かれており、そんな彼女が千治に恋をしたことで過去と向き合い、大人への第一歩を踏み出す。
不良少年の複雑な事情
坂道の多い街に引っ越してきた千治は、いつも不機嫌そうな顔で不良っぽい雰囲気を漂わせた少年。誰にも心を開くことのない千治だったが、グイグイ距離を縮めてくる亜由に対して次第に心を許すようになる。そんな千治は以前住んでいた街で久家ユカリという女性と付き合っていたが、間接的ながら事故で大ケガを負わしてしまう。ユカリの両親に叱責され、住んでいた場所を追われるように亜由の高校に転校してきたのだった。過去の罪に苛(さいな)まれる千治は、いつしか他人と距離を置くようになるが、亜由との交流によって前向きになり、過去の罪と向き合う決意を固める。
登場人物・キャラクター
竹下 亜由 (たけした あゆ)
とある高校に通う1年生の女子。茶髪のロングヘアを日によって変えているが、よく二つ結びにしている。天真爛漫な性格で、家でも学校でもつねに笑顔で過ごしている。明るく振る舞っているが、小学6年生の時に両親が離婚して父親に引き取られることが決まっており、その準備のため親戚の岩倉家に預けられている。しかし、両親はいまだに離婚問題を引きずっているらしく、二人に捨てられたことで心に傷を負っている。洋食屋「GARO」を経営している岩倉景政と、弟の大介とはいとこの関係で、岩倉兄弟とは実の兄妹のように仲がいい。景政の作るカスタードパンが大好物。ある日、転校生の千治に一目惚れし、半ば強引にアプローチを繰り返している。
工藤 千治 (くどう ちはる)
亜由の通う高校に転校してきた1年生の男子。髪を短く切りそろえ、刺々(とげとげ)しい雰囲気を放っている。駅で不良に絡まれている際、亜由に一目惚れされる。その後、亜由の学校に転校してとなりの席になって以降、彼女に付きまとわれるようになる。アルバイト先を探していたところ、たまたま亜由が世話になっている岩倉家の洋食屋「GARO」が人手不足だったため、亜由に紹介される形でGAROで働き始める。見た目に反して料理上手で、すぐに厨房(ちゅうぼう)を任されるようになる。実は転校前にアルバイト先で知り合ったユカリと付き合っていた。ユカリにはすでに恋人がいることを知っていながらあきらめきれず、告白するため彼女を呼び出すが、その道中でユカリは交通事故に巻き込まれ大ケガを負ってしまう。事の顚末(てんまつ)を知ったユカリの両親から責められ、追われるように亜由たちの高校へ転校してきた。せめてもの贖罪(しょくざい)としてユカリの治療費を稼ごうとしており、アルバイト先を探していた。いまだにその事故が心の中で整理できていないが、亜由との交流を経て少しずつ前向きになり、自らの犯した罪と向き合う決意を固める。りんごが大好き。
書誌情報
君は坂道の途中で 全3巻 集英社〈りぼんマスコットコミックス〉
第1巻
(2008-08-12発行、 978-4088568331)
第2巻
(2009-01-15発行、 978-4088568638)
第3巻
(2009-12-15発行、 978-4088670263)