あらすじ
第1巻
メディア良化法によって表現の自由がおびやかされ、メディア良化委員会と図書館が対立と抗争を繰り返す日本。高校時代に出会った「王子様」にあこがれて図書隊の「図書特殊部隊」に入隊した笠原郁は、鬼教官と恐れられる堂上篤の指導や過酷な戦いを体験しながら成長を重ねていた。郁が入隊して4年目の夏、図書特殊部隊は日本をゆるがす大きな事件にかかわり、解決に導く。郁は図書特殊部隊で過ごす日々やさまざまな事件を経て篤に惹かれていくが、彼こそが昔からあこがれていた「王子様」であった事を悟る。篤に思いを告げた郁は彼と相思相愛の仲になり、付き合い始める。入院中の篤の見舞いに通いながら、不器用ながらも彼との距離をさらに縮めていく郁は、甘い日々と仲間たちとの新しい日常を楽しく過ごしていた。退院した篤が戦列復帰となった秋、武蔵野第一図書館では貴重な蔵書のバーコードが切り取られ、何冊も盗まれる窃盗事件が発生。堂上班は学生のふりをして図書館内に張り込み、高額書籍で犯人をおびきよせるおとり捜査を開始する。郁の活躍によって犯人は無事逮捕されるが、郁は犯人を殴って返り血を浴びていた事から、「ブラッディ笠原」のあだ名を付けられるのだった。篤が復帰してから2か月が経った冬、実家に帰りづらい郁は篤の招待を受け、正月休みに彼の実家へあいさつに赴く事になる。
第2巻
正月休み明け早々、酔っ払いの男性の加籐保久が図書館の児童読書室に居座る事件が発生。図書特殊部隊は、閲覧室常駐の私服警備を任されて加籐の監視を開始する。そんな中、児童室に乱入した加籐は手塚光に注意され、酔っ払ったまま逆上して光に土下座を要求する。光に土下座された加籐は黙ってその場を立ち去るが、笠原郁は加籐の悲しげな表情や態度が気になっていた。次の日も加籐は児童室に現れ、注意するために出向いた郁は逆に彼に絡まれたうえに痴漢行為を受ける。郁が絡まれているのを見た堂上篤は、加籐を施設内猥褻行為によって確保。郁の意向で事務室に連行された加籐は事情を語るが、彼が抱えているのはリストラされて居場所をなくしたという、誰もが予想していたとおりの内容であった。同情した郁は加籐を諭して家族と話し合わせ、図書館に二度と迷惑をかけないと加藤が誓った事で事件は解決。篤は加籐に同情していた郁を心配してきつい説教を浴びせるが、正月に「キスがしたい」と願っていた彼女に対して積極的になっていく。
第3巻
母親の笠原寿子の影響で、堂上篤との関係がキスより先へ進むのを無意識に恐れていた笠原郁は、それを察した篤からしばらく距離を置かれていた。郁が新たな悩みを抱える中、図書館で催涙ガスが発生する事件が起こり、郁は逃げ遅れた少年を篤と協力して救い出す。事件直後に篤に本音を打ち明けた事で、郁の不安も無事解消されるのだった。事件後しばらくは慌ただしい日々が続くが、落ち着いて元の日常に戻った郁は、篤から「次の公休に朝までいっしょに居てほしい」とデートの誘いを受ける。篤の言葉の意味を察した郁は、柴崎麻子に相談したうえで念入りに下着を選び、緊張しながらも当日の準備をしていた。そしてデート当日、食事後に高級ホテルに来た郁と篤であったが、郁は新しく買った下着とまちがえてふだん着用しているスポーツブラのままで出掛けていた事に気づき、青ざめる。そんないくつかのトラブルが発生しながらも、郁と篤は幸せな一日を過ごすのだった。それから数週間が経ったある日、武蔵野第二図書館では刃物を持った暴漢が一般市民の女性を人質に立てこもる事件が発生。捕まっている女性を助け出すため、郁は人質交換の餌として、女子大学生のふりをしながら図書館に潜入する。
第4巻
堂上篤と幸せな日々を送る笠原郁は、寮を出て二人で暮らしたいと考えるようになる。次のデートで郁はその事を篤に提案するが、「バカバカしい」と断られてしまう。篤から合理的な理由を述べられるも、ショックを受けた郁はその場を立ち去り、二人の仲は一気に険悪ムードになる。篤からメールであやまられるものの、郁は仕事で篤と顔を合わせるたびにぎくしゃくするようになる。一方、若者たちのあいだでは木島ジンの反社会的な小説が流行していた。メディア良化委員会の検閲をすり抜ける文章によって、メディア良化法と言葉狩りの無意味さを訴える挑戦的な作風が、学生を中心とする若者読者を惹きつけていたのである。木島の著書を読んだ郁は人気の理由に納得するが、柴崎麻子と共に複雑な感情を抱く。さらに木島の著書を巡り、メディア良化隊との新たな抗争が勃発。久々に完全武装して出動した図書特殊部隊は無事に敵を撃退するが、郁は戦闘の中で篤と過ごす日々の大切さをあらためて実感し、仲直りするために篤をデートに誘う。しばらく気まずい雰囲気が続きながらも、郁と篤はケンカの事をお互いに謝罪。さらに篤は部屋を借りるのを断った理由を説明し、郁に遠回しなプロポーズをするのだった。
第5巻
数々のすれ違いや困難を乗り越え、堂上篤からプロポーズを受けた笠原郁は、二人で互いの両親へのあいさつと結納を終え、周囲の協力を得ながら結婚式の準備を始める。準備と仕事に追われて慌ただしい日が続く中、笠原寿子は郁たちの結婚を認めたものの、二人が戦闘職同士である事を心配して複雑な思いを抱いていた。そして結婚式当日を迎えた郁たちは互いに愛を誓い、にぎやかな披露宴では図書特殊部隊の面々によって篤と郁の出会いが語られ、それを聞いた寿子にある変化が現れる。最後までにぎやかなままで披露宴は無事終了するが、篤と郁のロマンチックな出会いに感動した寿子は、ときめきを隠せないまま篤への態度を大き変えて彼にあいさつに出向き、あらためて娘を託すのだった。そして篤と共に寮を出て官舎に引っ越した郁の新生活が始まった頃、堂上班のあいだでは雑誌の「もしもタイムマシンがあったら」という記事が話題になり、郁たちはそれぞれの過去話で盛り上がる。郁から過去に関する話題を振られた副隊長の緒形明也は、「大学時代に戻りたい」と静かに答える。そんな明也の脳裏に、大学時代の学友であり恋人でもあった竹内加代子との思い出がよみがえる。
第6巻
堂上篤と共に幸せな新婚生活を送る笠原郁は、少しずつ新生活に慣れてプライベートで篤に敬語を使う事も少なくなっていた。そして郁が図書特殊部隊に入隊して7年が経った春、郁は手塚光と共に教官として、図書隊防衛部に入隊してきたばかりの新人たちの指導をする事となる。郁は昔からあこがれていた篤のように、厳しくも正しく指導できる教官を目指しながら、新隊員たちを厳しく指導していく。郁は新隊員を指導する中で自分がまだ新人だった頃を思い出し、過去の自分が篤に対していかに生意気な態度を取っていたかと反省する。新隊員の訓練期間を終えて元の日常に戻った頃、郁はファンを名乗る新隊員の安達萌絵と知り合う。萌絵に目を輝かせながらファンだと言われた郁は照れくさくなってとまどうが、郁にあこがれて図書特殊部隊への入隊を目指している萌絵に対し、まずは防衛部で経験を積むように助言するのだった。そんな中、篤は郁に頼まれ、図書隊に入隊したばかりの新人だった頃の話をする。篤はまだ女子高校生だった郁を助けた時に抱いていた思いや、同期の小牧幹久と知り合った時の事、入隊後2年目に起こった爆弾事件について語り出す。
第7巻
結婚後、初めての夏を迎えた笠原郁と堂上篤は、近日開催される花火大会に行く約束を交わす。一方、寮に残ったままの柴崎麻子は寮監の頼みで、同期でもある水島久美子を新たなルームメイトとして迎える事になる。同期でルームメイトであるにもかかわらず態度が固い久美子に、麻子は心底やりづらさを感じると同時に、郁との楽しい日々を思い出して寂しさを感じていた。そんな中、麻子は奥村玲治に執拗(しつよう)に付け回され、その行為がストーカーじみてきた事にも悩んでいた。麻子は同僚たちの力を借りながら奥村を穏便に追い払おうとするが、彼は次々とやり口を変えては付きまとって来る。しかし麻子は訳あって郁には相談できず、極力図書特殊部隊に頼らずに業務部だけで解決したいと考えていた。だが、奥村は図書管利用者という立場を利用してしつこく食事に誘い、麻子の体に無理やり触れてくるようになる。それを偶然見た手塚光に助けられた麻子は、同僚たちの提案どおりに護衛を兼ねた彼氏役を務めてほしいと光に依頼。休憩時間や休日を光と過ごすようになった麻子を見た奥村はさらにやり口を変え、人気図書を人質のように使い、麻子を自宅に呼び出そうとする。
関連作品
本作『図書館戦争 LOVE&WAR 別冊編』の前作にあたる関連作品として、弓きいろの『図書館戦争 LOVE&WAR』がある。有川浩の小説「図書館戦争」シリーズを原作とする作品で、図書特殊部隊に入隊した笠原郁の活躍や恋愛が描かれている。本作よりも恋愛要素は控え目で、図書館で起こる事件やメディア良化委員会との抗争など、ミリタリーアクション要素やシリアス要素が中心となっている。
登場人物・キャラクター
笠原 郁 (かさはら いく)
図書特殊部隊の堂上班に入隊した、明るく元気いっぱいの女性。年齢は26歳で、茨城県水戸市出身。家族は両親と三人の兄がおり、特に長兄の事は「大兄ちゃん」と呼んで慕っている。身長170センチの長身で学生時代は陸上部に所属していたため、男性をしのぐほどの体力や脚力を持ち、大外刈りを得意としている。優れた運動神経を生かして警備および戦闘業務をこなしているが、通常の図書館業務や座楽は苦手。男勝りな性格から入隊早々「熊殺し」「山猿」などと評され、窃盗犯を殴った際に返り血を浴びた姿から「ブラッディ笠原」とも呼ばれるようになる。幼少期から本が大好きで、高校生時代にメディア良化隊から救ってくれた図書隊員を「王子様」と呼んであこがれを抱き、再会を夢見て図書隊に志願した。上官となった堂上篤から厳しい指導を受け、彼に反発しながらもさまざまな事を教わって成長を重ねる。やがて再会を夢見ていた王子様が篤であった事を知り、周囲の助言や図書隊での戦いを経て恋心を自覚し、篤に告白して付き合うようになる。恋愛には疎く、柴崎麻子から「純粋培養乙女」と評されるほど純情で奥手。幼少期に笠原寿子に言われ続けていた言葉に無意識に縛られ、キス以上の行為に躊躇(ちゅうちょ)して篤とすれ違いを起こすが、周囲の助言を受けたり本音を打ち明けたりしながら距離を縮めていき、篤のプロポーズを受ける。
堂上 篤 (どうじょう あつし)
図書特殊部隊の堂上班を率いる男性。隊員に鬼教官として恐れられ、入隊したばかりである笠原郁たちの直属の上官となり、厳しく指導した。まじめな性格で責任感が強く、堅物で頑固な一面がある。部下の郁には何度も反抗されていたが、彼女にさまざまな事を教え、徐々に惹かれ合っていく。かつて高校生だった頃の郁を救った彼女にとっての「王子様」であり、それに気づいた郁から告白されて付き合うようになる。もともと堂上班の中で最も身長が低く、郁にチビ呼ばわりされていたが、現在も郁より背が低い事を少々気にしている。同期の小牧幹久とは気の置けない仲で、郁と付き合い出してからは恋愛の相談もしている。あまり態度や言葉には出さないものの、郁の事は心からかわいいと大切に思っている。その一方で、他人に同情しやすく危険な任務を任されやすいうえに突っ走りがちな彼女を心配し、きつい説教を浴びせる事もある。郁との交際は家族に隠していたが、帰省の際に堂上静佳を通して家族全員に郁との関係を知られてしまう。のちに郁を実家に招くが、酒で酔いつぶれた彼女の言葉を聞いて開き直り、それまで抑えていた気持ちを隠さず積極的に彼女に接するようになる。のちに郁にプロポーズして結婚し、寮近くの官舎で二人暮らしを始める。父親が関西出身で、お好み焼き作りを得意としている。
手塚 光 (てづか ひかる)
図書特殊部隊の堂上班に入隊した男性。図書館協会の会長の息子。笠原郁とは同期で、堂上篤と性格や言動が似ている事から、彼女には「プチ堂上」と呼ばれる事がある。日々の訓練と努力を惜しまないまじめな秀才タイプで、上官の篤を尊敬している。成績優秀のエリートだが、昔から独学で学んで努力を重ねてきた経験から、落ちこぼれには容赦なく、郁の事は「努力不足」だと見下していたために当初は仲が悪かった。図書隊員として有能だが、少々頭が固く不器用で融通がきかないところがある。幼少期から慕っていた兄の手塚慧とは、思想の違いから確執を抱えていて何年も決裂状態にあるが、決裂中でも慧への期待が捨て切れないなどブラコンな一面もある。いくつかの出来事や、柴崎麻子の協力を得て少しずつ慧と和解し、現在は時々メールで連絡を取るなど、互いに歩み寄っている。これらの出来事からいくつかの秘密を共有するようになった麻子の事が気になっており、簡単に弱みを見せず気丈に振る舞う彼女を心配したり振り回されたりしながらも、少しずつ距離を縮めている。のちに麻子が奥村玲治にストーカーされている事を知り、奥村を退けるために彼氏のふりをするように依頼され、彼女を心配しつつ彼氏役を務めながら護衛した。
小牧 幹久 (こまき みきひさ)
図書特殊部隊の堂上班の副班長を務める男性。現在は班長と副班長という立ち位置だが、同期である堂上篤とは階級や学年は同じ。図書大学校に通っていた頃から、篤と同じく非常に優秀な成績を誇る。篤と共に笠原郁たちの上官となり、入隊したばかりの彼女たちを篤とは違った形で指導してきた。郁たちへのフォローをさりげなく入れるなど後輩思いで面倒見がよく、時々郁の相談相手にもなっている。郁と篤の出会いや事情を知っており、二人の関係を微笑ましく思いながら見守り、時には篤や郁にアドバイスをしている。いつも優しくつねに笑顔だが、クールな表情を見せたり容赦のない言葉を放ったりする事もある。かなりの笑い上戸で、ツボにはまると思い出し笑いが止まらなくなり、こらえきれずに席を外す事がある。性格が対照的な篤とは、愚痴を聞いたり恋愛の相談相手になったりするなど互いに気の置けない仲で、よき理解者。幼なじみで妹のようにかわいがって来た中澤毬江とは婚約中で、彼女の大学卒業後に結婚予定。学生時代は篤と首席を競う関係であったが、防衛部新人時代に篤が郁を助けた一件を知って興味を持ち、査問を受けていた彼に話し掛けたのをきっかけに知り合った。
柴崎 麻子 (しばさき あさこ)
図書隊業務部に所属する女性。武蔵野第一図書館の司書を務めている。笠原郁の親友であり寮でのルームメイトで、彼女や手塚光とは同時期に入隊した。自他共に認める容姿端麗な美女だが気が強く、少々口が悪くてしたたかなところがあり、特に人前で弱みや涙を見せる事を嫌う。容姿や上品な振る舞いから、図書館利用者や図書隊員にもファンが多い。非常に気がきく性格で郁のよき理解者であり、恋愛の相談相手として郁をからかいつつも適切なアドバイスを送っている。言葉にはあまり出さないものの、素直で明け透けな郁を快く思って大切にしている。かなりの情報通でもあり、業務部でありながら図書特殊部隊での出来事から隊員たちのうわさ話まで細かく把握している。これらの情報収集能力や頭脳明晰である事は、図書隊でも高く評価されている。手塚慧と確執を抱える光の背中を押し、秘密を共有するようになってからは彼の事が気になっており、素直じゃない態度を取りつつもバレンタインデーのプレゼントや土産を渡すなど、少しずつ距離を縮めている。恋愛面の知識や経験は郁より豊富だが、本性を隠して振る舞ってきた事で臆病になりがちになっているのを少し気にしている。また、外見だけで言い寄ってくる相手にしか出会えなかった過去から、郁と堂上篤の関係性を羨ましく思いつつも応援している。
玄田 竜助 (げんだ りゅうすけ)
関東図書隊の図書特殊部隊隊長を務める中年男性。大柄で筋肉質な体形をしている。見た目どおりの屈強で頑丈な体を生かして、数々の戦いや困難を乗り越えてきた。敵を力でねじ伏せようとする豪快で武人気質な熱血漢だが、義理や人情は大切にしている。警視庁の平賀刑事とは腐れ縁で、親戚のような関係。任務の際はしばしば無茶な作戦を立てたり、面倒な仕事を押し付けたりするため、堂上篤をはじめとする部下を悩ませる事がある。しかし、一見後先を考えない無茶に見える作戦も、状況や想定される事態を考慮したうえで最適な手段を選んでおり、部下たちからも信頼されている。
緒形 明也 (おがた あきや)
関東図書隊の図書特殊部隊副隊長を務める中年男性。元メディア良化隊良化特務隊隊員。個性的な隊員が多い図書特殊部隊の中でも、まじめで物静かな性格の持ち主。射撃の名手でもある。堂上篤と同様、上官の玄田竜助に振り回されやすい立場にあるが、竜助の事は信頼している。プライベートな場では口数が一気に減り、特に女性と話すのは苦手で、付き合ってもすぐにふられる事が多かった。大学時代にゼミで知り合った竹内加代子と、意気投合して付き合うようになる。大学卒業後は、両親の勧めで公務員試験を受け、良化特務隊に入隊した。加代子が小説家志望である事を入隊後に知るが、本を狩る立場にある職に就いた事は黙っていた。のちに任務で加代子の作品が掲載された「小説ほたる」を取り締まり、加代子に良化隊員である事と「小説ほたる」を狩った事実を知られる。立場や任務を隠したまま付き合っていた事で信頼を失い、加代子と別れる。加代子を傷つけた事を後悔しながらメディア良化法や図書隊への認識を改め、良化特務隊を脱退して図書隊に志願し、図書特殊部隊に配属された。経歴から当初はなじめず、ルームメイトになった進藤誠とも衝突していたが、任務や良化隊との抗争を経て彼に認められて親しくなった。
進藤 誠 (しんどう まこと)
図書特殊部隊に所属する男性で、狙撃手を務める。緒形明也が入隊したばかりの頃にルームメイトとなり、彼の先輩として指導した。当初は元良化特務隊隊員という経歴を持つ明也を警戒して敵意を剥き出しにしていたが、良化特務隊との抗争時に容赦なく敵を攻撃したのを見て、彼を味方と認めて親しくなった。周囲からは笑い方がTVアニメ『トムとジェリー』に登場するトムに似ているとよく言われている。
中澤 毬江 (なかざわ まりえ)
小牧幹久の幼なじみの女子大学生。幼少期から幹久を兄のように慕っており、のちに彼の恋人となる。大学卒業後に幹久と結婚予定。中学生の頃に突発性難聴によって右耳の聴力を失い、左耳に補聴器をしている。現在は携帯電話のメール機能で意思を伝えているためにあまりしゃべらないが、幹久や笠原郁など、信頼できる相手の前ではしゃべるようにしている。大学入学後は図書館に通う機会も増え、時々郁や柴崎麻子とも交流している。相手の唇の動きを読み取るうちに読唇術が得意になり、少し離れた人の言葉や会話の内容を把握できるようになった。
笠原 寿子 (かさはら としこ)
笠原郁の母親。子供に対してはかなり過保護で、特に兄たちに囲まれながら育った娘の郁を心配し、昔からつねに女の子らしく振る舞うように強要していた。荒事が苦手で郁が図書隊に入る事を反対し続け、反対を押し切って入隊した郁とのあいだに確執が生まれ、しばらく疎遠状態になっていた。郁が幼い頃から、結婚まで純潔を守るように言い続けていたため、堂上篤と付き合い始めた郁がキスより先に進むのを無意識に躊躇(ちゅうちょ)する原因ともなっていた。郁と篤の結婚を認めるものの、戦闘職同士である事を心配し、篤に対しても複雑な思いを抱き続けていた。実はかなりのロマンチストで、披露宴で郁と篤の出会いを聞いた時には、そのロマンチックさに非常に感動していた。これをきっかけに郁にとっての「王子様」である篤への認識や態度を大きく変え、あらためて彼に郁の事を託した。
笠原 克宏 (かさはら かつひろ)
笠原郁の父親で、茨城県庁職員をしている。寡黙な性格の優しく家族思いな男性で、娘の郁を大切に思っている。当初は郁の職業を知らずにいたが、雑誌で図書隊に入っている事を知り、図書館の見学を兼ねて郁の職場を訪れる。その際に郁が本を守りたい気持ちを抱きながら、真剣に職務に励んでいる事を知り、図書特殊部隊に深い理解を示すようになる。堂上篤の事も郁の信頼できる上司と認め、郁の現状に関する事で連絡を取り合ったり、個人的に親交を深めたりしていた。笠原寿子の複雑な思いを察しながらも、郁と篤の結婚を快く認め、彼に郁を託した。
手塚 慧 (てづか さとし)
手塚光の兄。図書隊に所属して、神奈川県内で図書館員を務めている。図書隊の研究会「未来企画」の会長としても活動している。思想が異なって確執が生まれた父親と弟の光とは長らく離別しているが、弟のためであれば手段を選ばないブラコンなところがある。一見穏やかな性格だが、したたかで冷酷な一面を持ち、かつては弟を未来企画に引き入れるために笠原郁を利用しようとしていた。光とは長い確執が続いていたものの、柴崎麻子の介入や協力もあって徐々に和解している。手塚一家の秘密をにぎる麻子とは、現在も情報交換を続けている。当麻蔵人亡命事件以降は、図書隊とメディア良化隊の抗争における火器使用を禁ずる法を整備するなど、メディア良化委員会の検閲を抑えるために尽力している。実家には長らく帰っていないものの、光とは時折メールで連絡を取っている。
堂上 静佳 (どうじょう しずか)
堂上篤の妹。笠原郁より年上だが、兄の篤とは対照的に明るく自由奔放な性格をしている。篤に恋人ができた事に真っ先に気づき、彼をよくからかっている。のちに堂上家にあいさつに訪れた郁を大歓迎し、すぐに仲よくなる。
折口 マキ (おりくち まき)
「世相社」の週刊誌「新世相」の編集部主任を務める記者の女性。玄田竜助とは大学時代からの付き合いで過去に同棲していた事もあり、彼のよき理解者。柴崎麻子と似た雰囲気を漂わせた美人だが、明るく無遠慮な面が竜助と似ており、堂上篤を困らせる事もあった。メディア良化法反対派である事から図書隊には協力的で、図書隊やメディア良化法に関する真実を報道するために活動している。現在でも竜助と連絡を取り合って、時々情報交換をしている。
加籐 保久 (かとう やすひさ)
図書館の児童室に居座るようになった酔っ払いの男性。業務部や図書特殊部隊の注意を受けても、毎日のように酔っ払ったまま児童室に現れては、迷惑行為を繰り返すようになる。注意しに来た笠原郁に無理やり抱きついた事で、堂上篤に施設内猥褻行為の現行犯として捕縛される。実はリストラされた事を家族にも言えず、居場所をなくして自暴自棄になり、出勤するふりをして図書館に出入りしていた。事務室に連行された際にこれらの事情を正直に話し、事情を知った郁の意向で訴訟はされなかった。郁の説得を受けて図書館に二度と迷惑をかけないと誓い、家族のもとへ戻って行った。
高木 雄大 (たかぎ ゆうだい)
白泉幼稚園に通う男児。母親に連れられて毎日のように図書館に通うようになるが、いつも母親から離れては館内で迷子になるため、業務部や図書特殊部隊を困らせていた。一見、親や他人を困らせるひねくれた問題児のように思われていたが、実は母親から虐待を受けており、母親から逃れるために家出をしようとしていた。そのため、服の下には数々の傷跡がある。虐待に気づいた堂上篤たちによって保護され、母親が児童相談所のカウンセリングを受けた事で虐待が解消される。のちに堂上と笠原郁の前に現れ、元気な姿を見せた。
木島 ジン (きじま じん)
若者に人気の覆面作家。反社会的なバイオレンスものの小説を書いているが、メディア良化法に違反する用語「違反語」を一つも使用していないため、検閲には引っかかっておらず、学生を中心とする若者のあいだで流行している。違反ギリギリの用語を組み合わせたうえでの罵詈雑言や差別表現に挑戦する作風により、メディア良化委員会の言葉狩りの無意味さを訴えている。プロフィール不詳で謎の多い作家だが、「もし作家として生活ができなくなっても困らない」と公言している事から、作家は副業で本業は別にあると柴崎麻子から推測されている。
竹内 加代子 (たけうち かよこ)
大学時代に緒形明也と付き合っていた、作家の女性。明也とは大学のゼミで知り合い、意気投合した。もともと小説家志望で、大学卒業後は銀行に勤めながらデビューを目指していた。しかし、投稿作が初めて掲載された雑誌「小説ほたる」が、メディア良化隊に取り締まられた際に、友人のメールを通して明也が良化隊に入隊していた事や、「小説ほたる」が彼に狩られた事実を知る。付き合っているのに明也が立場や任務を隠し続けていた事にショックを受け、彼への信頼をなくして別れを告げる。しかし、検閲の時に明也が上官に反抗して「小説ほたる」を守ろうとしていた事も知っていたため、別れても明也を好きな気持ちは変わらなかった。現在は銀行員を続けながら、独身のまま人気作家として活躍している。折口マキからインタビューを受けた際に、決定的な行き違いで別れたものの、明也との恋愛は自分にとって大事なものだったと語っており、明也の再会を夢見ている。
朝比奈 光流 (あさひな ひかる)
かつて柴崎麻子に近づいてきた謎の男性。表向きは行政問題研究者の助手だが、実は法務省のキャリア官僚。図書隊の情報部候補生である麻子にデートを装って諜報を仕掛け、彼女と巧みな情報戦を繰り広げた。手塚慧ともコネクションを持ち、彼の「未来企画」とも連携を取りながら、メディア良化法反対派として法務省で活動を続けている。
広瀬 (ひろせ)
柴崎麻子の同僚で、明るくふわふわした雰囲気の女性。猫の口のような形の口をしている。かつて麻子に片思いしていた先輩の男性に思いを寄せ、現在はその男性と付き合っている。麻子からは一時期疎ましく思われていたが、三角関係が解消された現在は、彼女にとって仕事のしやすい同僚として仲がいい。奥村玲治にストーカーされている麻子を心配し、ほかの同僚と共に協力、助言した。
吉田 達也 (よしだ たつや)
図書隊防衛部の新隊員の男性。教官となった笠原郁が指導を担当した。不注意な言動が多く、郁からは何度もしごかれた。柴崎麻子にあこがれているが、図書館で偶然見かけた中澤毬江の事が気になっている。しかし、鞠江の詳細を尋ねた際に小牧幹久に念を押され、すぐに身を引いた。同じ班の安達萌絵と仲がよく、郁にあこがれている萌絵を郁に紹介した。
安達 萌絵 (あだち もえ)
図書隊防衛部の新隊員の女性。教官となった笠原郁が指導を担当した。郁の大ファンで、彼女のかっこよさと美しさにあこがれている。図書特殊部隊への入隊を目指している。同じ班の吉田達也と仲がいい。
水島 久美子 (みずしま くみこ)
図書隊業務部の女性。柴崎麻子の新たなルームメイトで、彼女とは同期でもあるが、階級は一階級下。多摩の図書館に勤めている。仲がよかったルームメイトの退職後に、別室へ移るが相手とうまくいかず、互いに疲弊してしまい、寮監に頼まれた麻子の部屋に移ってきた。4か月後には結婚して退職予定。おとなしくまじめな性格だが人付き合いはあまり得意ではなく、同期でもある麻子に対して階級差を気にして敬遠するような態度を取るため、彼女からはやりづらさを感じられている。しかしストーカーに悩んでいる麻子を心配したり、仕事のアドバイスを受けたりするうちに、少しずつ打ち解けていく。
奥村 玲治 (おくむら れいじ)
柴崎麻子を執拗に付け回している男性。図書館の利用客で、当初は麻子にレファレンスを頼みながら言い寄っていたが、徐々にしつこくなってエスカレートし、ストーカー紛いの行為にも走るようになる。会社経営者の息子で名門大学出身だが、両親にかなり甘やかされているため、都合が悪くなるとすぐに両親を頼っている。麻子が手塚光に護衛兼彼氏役を依頼してからは、麻小に近づきにくくなった事で焦ってやり口を変え、人気図書の返却を延滞してケガ人を装い、麻子一人で自宅に回収に来るように要求する。両親と共に麻子を自宅に迎え、父親といっしょに結婚話を持ちかけるが、呆れた麻子に嘲笑される。失恋を恐れて真正面から告白しなかった事や、自分の恋愛を両親に頼った事を情けないと麻子に一蹴され、彼女に付きまとうのを止めた。
きらら
小学2年生の女子で、夏休みや冬休み中だけ図書館に訪れている。頭に大きなリボンを付けたロリータファッションの可憐な少女。図書館に来るたびに堂上篤にレファレンスを頼んでおり、彼に結婚指輪を外すように求めた事から、笠原郁からは篤に片思いしていると思われていた。実は篤ではなく郁を「理想の王子様」として強いあこがれを抱いており、郁の事を「笠原王子様」と呼んでいる。郁と篤の夫婦関係を知ってからはひそかに篤に敵意を抱いていたが、彼の思いを聞いて郁との絆の深さを悟り、泣きながら郁を幸せにしてほしいと託した。
集団・組織
図書特殊部隊 (としょとくしゅぶたい)
図書隊防衛部から選抜、編成された少数精鋭の特殊部隊。別名「ライブラリー・タスクフォース」。笠原郁たちが所属する関東図書隊の図書特殊部隊では、玄田竜助が隊長を務める。図書館では通常業務や警備を中心に、メディア良化隊との戦闘までさまざまな業務を担っている。ふだんは通常業務として業務部のサポートをしているが、図書館内で起こるトラブルや迷惑行為、犯罪行為への対応、犯罪者や不審人物が現れた際にはおとり捜査なども実行する。良化隊との抗争など、必要に応じて武装したうえで出動する事もある。堂上篤が率いる「堂上班」をはじめとする、四~六人ごとの班に分かれている。高い能力を持つエリート隊員がそろっていると同時に、過去に訳ありの隊員や少々癖のある個性的な隊員が多い。
メディア良化隊 (めでぃありょうかたい)
メディア良化委員会が組織する良化特務機関の実動部隊。メディア良化法に違反する本を検閲して狩る立場にあるため、表現の自由と本を守っている図書隊と敵対関係にある。抜き打ちや騙し打ちに近いやり方で図書の検閲や取り締まりを執行し、時には武装して図書館に侵入して図書隊と抗争を繰り広げる事もある。また、優秀なエリート隊員を集めた精鋭部隊として「良化特務隊」があり、緒形明也がかつて所属していた。
場所
武蔵野第一図書館 (むさしのだいいちとしょかん)
関東の図書隊基地の近くにある基地付属図書館。周辺の図書館と連携した共同保存図書館でもあり、都内の公共図書館の中では蔵書量や貸出数も最大級。大規模で利用者が多い分、トラブルや事件も発生しやすいうえにメディア良化隊による検閲対象になりやすく、図書隊と良化隊の大規模な抗争も勃発しやすい。
図書大学校 (としょだいがっこう)
図書隊附属の特別教育機関。図書隊の制度が発足された際に設立された。日野の悪夢の生き残りであり、現在の関東図書基地司令である稲嶺和市が理事長を務めていた。堂上篤と小牧幹久の出身校でもある。図書館司書の辞職が相次いでいた当時、戦闘職種司書という特殊な人員である図書隊員を、短期間で養成する事を目的に発足された。学生は準図書隊員となって苛酷なカリキュラムをこなすが、後半の2年間は実際の職場訓練もあるため、脱落者も多かった。設立から10年後には閉校される事が決まっていたため、篤や幹久は最後の卒業生となっている。表向きは目標人員数達成を理由に閉校された事になっているが、急な開校や不自然な条件などから、閉校理由には黒い内容も含めてさまざまな噂が流れている。
クレジット
- 原作
-
有川 浩
関連
図書館戦争 LOVE&WAR (としょかんせんそう らぶあんどうぉー)
作者の弓きいろの代表作で、初めての単行本化作品。有川浩の小説「図書館戦争」シリーズのコミカライズ。「メディア良化法」の成立で本が狩られる時代。厳しい検閲を行う「メディア良化委員会」と、本を守る「図書館... 関連ページ:図書館戦争 LOVE&WAR