復讐の旅路を阻む元人間の「死霊」たち
本作は「死霊」と呼ばれる人型の怪物であふれ返った南ドイツを舞台にしている。欧州の主要な都市は既に壊滅状態にあり、人間よりも死霊の方が多いという危機的な状況に陥っている。死霊には人間を襲う習性があり、咬まれた人間は死霊と化してしまう。浮遊することも可能だが、高く飛べる個体は少ない。そのため、樹上などの高所に逃れることで、危険を回避できる場合もある。また、死霊は人間に招かれない限り屋内に入ることができない。つまり、屋内は事実上の安全地帯として利用できるが、このルールが適用されるのは既に人間が中にいる場合に限られる。たとえば、留守中であれば死霊は問題なく家屋に侵入できるため、逃げ込んだ家屋が死霊の巣窟であったという最悪の状態も考えられる。死霊の最大の弱点は日光で、浴びると一瞬で焼け死んでしまうため、日中は日陰に潜み、日が沈むと人間を求めて彷徨い始める。人間だった頃の習慣や思い出に行動を左右される個体も確認されており、それを「生前の夢を見ている」と考える人間もいる。なお、通常の武器は死霊に通用しないが、金属として最も多くの可視光線を反射する銀を用いればダメージを与えることができる。
「死霊」を従える上位種「ヨーカー」
「死霊」の中でも、特に高い知能と強固な意志を持って行動する特別な個体を「ヨーカー」と呼ぶ。ヨーカーは通常の死霊に指示を出すだけでなく、人間の兵器を利用することもある。その起源や正体は謎に包まれているが、あるヨーカーは自らの正体を問われた際に、「勝利者」「恐怖を克服しようとする人間を地上から全摘出するために生じた恐怖そのもの」という旨の言葉で応じた。ヨーカーを神の使いとして崇めて忠誠を誓う人間まで現れ、ナチス党員は蔓延する死霊を民族浄化に利用しようと暗躍している。ジョニーボーイの父親をくびり殺したアッシェンバッハもヨーカーで、ノイシュヴァンシュタイン城を拠点に死霊の王として君臨している。なお、ヨーカーも通常の死霊と同様に太陽光や銀を弱点としている。
最新鋭の武器から骨董品まで、あらゆるものを利用して生き延びる人間たち
本作には新旧を問わずさまざまな武器が登場する。特に銃火器の描写は緻密で、当時の拳銃であるワルサーP38がジャム(弾詰まり)を起こす様子や、実包を用いない旧式の拳銃であるコルトM1851の煩雑な再装填の様子が描かれていたりと、それぞれの特性を熟知したうえでの表現は数え切れない。弾薬が乏しい環境で「死霊」に立ち向かう生存者の工夫も見どころとなっており、近接武器のショーテルを扱う者や、防具であるガントレットを攻撃に用いる者まで登場する。銀を含有する燭台、額縁、食器、指輪などの雑貨が武器として使用される場面もあり、極限状態に追い込まれた人間の執念が滲み出ている。乗り物に関しても、実際に第二次世界大戦で用いられていたキューベルワーゲンやBMW R75などの車両から、戦前に活躍したグラーフ・ツェッペリンこと硬式飛行船LZ127まで、幅広く登場している。また、アイントプフ、コミスブロート、クネーデルなどのドイツ料理に舌鼓を打つ場面も描かれ、当時の食文化を垣間見ることもできる。
登場人物・キャラクター
ジョニーボーイ
復讐を糧に生きる幼い少女。金髪碧眼で、左目は前髪で隠れている。乳白色の肌は北宋の白磁にたとえられる美しさで、砂糖を溶かしたミルクのような匂いがする。赤いワンピースにブーツを身にまとい、聖夜に父親からもらったテディベアの残骸を左ポケットに入れている。また、歯科医の祖父が作った銀の義歯を護身用に持ち歩いている。これは上顎に装着する武器で、「死霊」にも有効だが、成長と共に装着できなくなる。父親の仇であるアッシェンバッハを討つため、危険を承知で死霊の巣窟と化したノイシュヴァンシュタイン城を目指している。その過程で井戸に落ちていたハニーバニーを救出し、彼と共に旅するようになった。おやつを勧めてきたバニーに「ピクニックではない」と怒りを露わにするなど、復讐に燃えるあまり小さな幸せを避ける傾向がある。また、死霊を前にしても毅然とした態度を崩さず、スキあらば死霊の喉笛を嚙み千切る胆力の持ち主だが、ナチス党員の前では怯んだり、食後に居眠りしたりと、年相応の姿を晒してしまうこともある。次第にバニーへ好意を寄せるようになり、体の汚れを気にしたり、髪を花で飾ったりと、容姿を気にする素振りも見せるようになった。のちに二本の銀製ケーキナイフを武器として持ち歩き、状況に応じてモーゼルC96、ワルサーPPKといった拳銃も扱うようになった。鏡で日光を反射させるというトリッキーな攻撃も披露している。
ハニーバニー
ジョニーボーイを守護する長身瘦軀の青年。銀髪で、両目とも前髪に覆われている。キャソックに似たタートルネックの黒い服に白いエプロンを重ね着し、エプロンのポケットを拳銃のホルスター代わりにしている。ベーテンシュタットの孤児院で育ち、長じてからは料理係をしていた。「死霊」から逃亡する過程で弟のフォルカーと死別。その後、井戸の底で絶望に打ちひしがれていたところをジョニーに引き上げられ、旅の仲間となった。平時はコックやドライバーとして辣腕を振るっているが、荒事にも強い。特に狩猟経験が豊富で銃の扱いに長けている。愛銃は西部劇でおなじみのコルトネイビーことコルトM1851。のちにモーゼルC96を拾得して二丁拳銃スタイルを確立した。さらに短機関銃のMP35やMP40、対戦車擲弾発射器のパンツァーファウストなどさまざまな銃火器を使用する場面があり、その腕前は仲間から「魔弾の射手」と讃えられた。芸達者な一方で、優しすぎるという弱点があり、人質を取られると非常に弱い。また、子供の姿をした死霊との戦いも苦手としている。当初は復讐の旅に反対していたが、「復讐こそ魂の糧」として命を燃やそうとするジョニーに美しさを見いだし、彼女を守り抜くことを決意した。