概要・あらすじ
女学院に通う令嬢の美杉千世は、男性社会における女性の弱さに苛立っていた。ものをはっきり主張できず、許嫁やお見合いの風習で自由恋愛もできない。何か伝える方法はないものか、と考えていたところに、女衒に売られそうになって逃げ出した田辺よし子が飛び込んでくる。彼女が非常に絵がうまいのを知り、さっそく風刺画を描くものの、目立つことなく脱落。
しかし、コマ数を増やす、吹き出しをつけるなどすることで目を引くようになる。その後は田辺よし子が学院生活をはじめ、美杉千世の許嫁・倉本卓磨の元で働くなど、二人はともに行動するようになる。さらに自分たちの思いを読んでもらうためにどうすればいいのかを二人は考え、それぞれ行動に出る。
絵物語は次々に進化をとげ、のちの漫画の原型に変わっていった。
登場人物・キャラクター
美杉 千世 (みすぎ ちよ)
高嶺女学院に通う、令嬢。多くの女学院生に慕われる存在で、ポニーテールにリボンをしている。普段から男性中心の社会に嫌気がさしており、社会に一言申すことができる風刺画に興味を持っていた。絵を描くのが極めて上手い田辺よし子と出会い、共に活動を始める。女性だから、と押し込められることを嫌い、自主自立のためのことを常に考えている。 新聞を数多く読み、剣術・柔術に長け、学院で一位の成績を取っている。猪突猛進な性格で、引け腰のよし子の手を引いて、新しいことを始めようとし続けた。挿絵に吹き出しをつけたり、コマを割ったりする、二人が考えた絵物語は、漫画の原型になっていく。 許嫁に倉本卓磨がいるが、彼のことを非常に嫌っており、結婚はなんとか避けたいと考えている。
田辺 よし子 (たなべ よしこ)
貧乏な家庭に生まれ、女衒に売られそうだったところを逃げ出し、学院に辿り着いた少女。美杉千世と出会い、その画才を買われて風刺画を描き始める。ただの風刺画では魅力がないと悟り、挿絵を複数コマにする、吹き出しを入れる、効果線を入れる、コマを割るなど、今の漫画の元になる技術を編み出していく。 弱気な性格で、強気な千世に振り回される事が多い。ボールに顔を描いたマリ子以外の、人間の初めての友達である千世をとても慕っている。その後、千世の計らいで学院に通うようになるうちに、自分が千世のために何ができるかを考えるようになる。また、千世の許嫁の倉本卓磨に恋をしている。 勉強は今まで一切したことがないため、ほとんどできない。
マリ子 (まりこ)
友達がいなかった田辺よし子が、布を紐でしばったボールに、得意な少女絵で顔を描いたもの。後に院長先生に拾われて、話し相手にされる。実際はただのボールだが、作中では人格をもった狂言回しになっており、大正の風俗などを解説する役割を担っている。
院長先生 (いんちょうせんせい)
美杉千世の祖母。高嶺女学院の学院長として働いている。清く正しい女性を育むため、厳しい風紀指導を行っており、少女雑誌なども禁止している。馬場原とし江を影の風紀委員として活躍させている。若い頃は立場違いの恋をしたことがあり、思い出をマリ子に語っている。
馬場原 とし江 (ばばはら としえ)
メガネにそばかすの真面目な少女。影の風紀委員として院長先生に付き従い、厳しく風紀を取り締まっていた。学業では美杉千世がいつも一位のため、二位になってしまい、敵対心を抱いている。小説を書くのが好きで、文芸部に所属、田辺よし子と絵物語本を作ったことがある。 厳しい反面、子どもたち、特にサナトリウムの幼子にやさしい一面を見せる。妄想癖が激しい。
木竜院 香奈子 (きりゅういんかなこ)
容姿が田辺よし子とそっくりな令嬢。親は現内閣の大臣。数多くの縁談があるものの、お見合い結婚をとても嫌がっており、咄嗟に書生の国原を巻き込んで逃げ出す。国原も追い出されたため、周囲からは駆け落ちではないかと話題になった。国原は幼い頃から共に過ごした幼なじみ。 二人の出来事を美杉千世が演出し、田辺よし子が絵を描いて校内新聞に貼りだし、好評を得る。
国原 (くにはら)
現内閣の大臣の娘である木竜院香奈子の家にいた書生。孤児として木竜院家に引き取られ、木竜院香奈子とは幼なじみの関係。お見合いを嫌がる木竜院香奈子が咄嗟にした話によって、彼女に手を出したと勘違いされて、家を追い出される。二人の出来事を美杉千世が演出し、田辺よし子が絵を描いて校内新聞に貼りだし、好評を得る。
有馬 森介 (ありま しんすけ)
女衒に田辺よし子を売り渡すために追いかけてきた長身の男性。ところが女衒がなくなってしまったため、職を失い、倉本卓磨の家で働くことになる。常に中立の立場を保っており、美杉千世や田辺よし子にアドバイスなどはするものの、なるべく深入りはしないようにしている。
倉本 卓磨 (くらもと たくま)
美杉千世の許嫁。富豪の御曹司で、金銭感覚が非常に鈍い。また天然すぎる部分が多く、とんちんかんな行動をとって失敗をすることが多い。美杉千世は彼と結婚することをひどく嫌がっているが、彼は千世のことがとても好きで、彼女のためならなんでもする。田辺よし子が彼のもとで働いていた時に、その優しさに惚れ込んでしまう。
銀次 (ぎんじ)
倉本卓磨の家で働く執事。通称「じい」。御曹司に仕えつつも、小市民としての鬱屈をためており、時折毒舌を吐く。かつて高嶺女学院の学院長と知り合いだったことがある。
黒澤 ミヤコ (くろさわ みやこ)
サナトリウムで療養している少女。田辺よし子を小馬鹿にし、幽霊だと脅したり、あらゆるゲームでこてんぱんに負かしたりしている。一方美杉千世のことは慕っている。重病であったが、同情されるのを嫌ってついた嘘が二人にバレた後に引きこもってしまう。
美杉 武子 (みすぎ たけこ)
美杉千世の母親。倉本卓磨との結婚の準備を進めている。千世が新しいことに挑戦する際、反論が一切できないほどに言い負かす。なぎなたの使い手。
水沼部長 (みずぬまぶちょう)
見た目は温厚そうな人物だが、非常に厳しい明正新聞社の部長。持ち込みやコンテストの作品を決して甘い目では見ず、バッサリと切ることで新聞社内でも有名。一方で、スクープやよい作品には全力で動く。美杉千世が田辺よし子と協力して作った、誘拐された女学生の手記、という形の絵物語(漫画の原型)を見て新聞に採用し、世間を賑わせた。
泣きの源 (なきのげん)
元明正新聞社の記者。お金に困って田辺よし子を誘拐するも、令嬢じゃないことを知り愕然とした中年の子持ちの男性。よし子と千世が作った、誘拐された女学生の手記を、明正新聞社の水沼部長に手渡す。