あらすじ
学級日誌の絵しりとり
とある女子高校で2年4組の担任を務める地味で物静かな教師、星先生は、日々の業務とマイペースで自由気ままに振る舞う女子生徒たちに翻弄される日々を送っていた。そんなある日、星先生は日直から提出される学級日誌の備考欄で、生徒たちによる「絵しりとり」が繰り広げられていることに気づく。それぞれの個性的な絵と、しりとりの行方が気になって仕方がない星先生は、心底からくだらないと思いつつも、生徒たちの自由な発想に翻弄されていく。次第に学級日誌の確認がささやかな楽しみになっていた星先生だったが、香川が描いた謎の男性の絵に困惑しながらも、その正体がわらぬまま絵しりとりが続いていく。結局、星先生は同僚の小林先生に指摘されるまで、それぞれの生徒が描いた絵の詳細に気づくことはなかった。そんな星先生がいつものように授業をする中、教室のベランダに見知らぬ犬がぶら下がっているという異様な事態が発生。ぶら下がっていたのは、上階の3年2組で飼われているセツコだった。郡司先生に話を聞いたところセツコは彼が実家から引き取った犬で、娘がアレルギーになってからは、学校に連れて来るうちにクラスになじんでいたのだと言う。しかし、明日からは勉強合宿があるため、代わりにセツコの面倒を見て欲しいと郡司先生に頼まれた星先生は、仕方なく自分のクラスにセツコを連れて行く。セツコが生徒たちに歓迎されかわいがられている様子を見て安心する星先生だったが、次の日にはセツコの顔に眉毛の落書きがされるという、予想外の事態が発生する。
星先生の卒業アルバム
星先生が勤務する女子高校では、一見平穏な日常の中で、彼を取り巻く生徒や先生たちによってさまざまなトラブルや珍事が発生していた。その騒動の中で、芸能人並みにベールに包まれていた星先生たちの過去や私生活が、少しずつ明らかになっていく。そんなある日、職員室に来ていた古森が、星先生の同級生だった高田に見せてもらった中学時代の卒業アルバムが、異様だったことについて話し始める。古森はそのアルバムに載っていた写真のうち、なぜか当時の星先生だけが、肩にクワガタを乗せている状態で写っていたと指摘する。星先生は中学時代のことを思い出しながら、自分だけ肩にクワガタが乗っていた理由を説明。当時クラスで飼っていたポチと呼ばれるクワガタの取り合いになり、誰がポチといっしょに撮影するかを決めようとポチ自身に選ばせた結果、偶然にも星先生が選ばれたと語る。理由を聞いて納得した古森だったが、面白がった彼女はその写真をもとにシールを作っていた。シールを1枚だけプレゼントされ、職員室で途方に暮れていた星先生はシールを小林先生に見られて焦るも、彼からの反応は薄いものだった。その夜、星先生のもとに小林先生からURL付きのメールが届く。それは古森の作ったシールが、「クワガタボーイ」の名で流行っているのを紹介しているブログだった。知らぬうちにクワガタボーイはあちこちに貼られて広まっていき、ついには幸運を運ぶラッキーアイテムとの噂が流れるなど、都市伝説に発展したのである。翌朝、古森に事情を聞いた星先生だったが、彼女が余ったシールを近所の小学生に配り、「原宿のカリスマ」などと適当なことを言ったのも、都市伝説に発展した原因であった。休日にシールを回収しようと考える星先生だったが、放っておけばこの噂も風化するだろうとあきらめる。しかし休み明けには、古森がシールを探しても見つからず、休日に何者かによってシールが剝がされていたことが判明する。
登場人物・キャラクター
星先生 (ほしせんせい)
とある女子高校の2年4組の担任を務める男性教師。年齢は33歳で、担当科目は国語。いつも同じスタンドカラーのシャツを着用し、眼鏡をかけている。つねに無表情で、どんよりとした陰気な雰囲気を漂わせている。冷淡で思慮深く理知的な性格ながら、少々鈍感で天然なところがある。あまり自分語りをしないため私生活は謎に包まれており、観察日記をつけている鳥井など一部の生徒からは並々ならぬ関心を持たれている一方で、大半の生徒からはいまいち覇気のない地味な先生という、雑な認識を持たれている。ふだんは物静かでクールに振る舞っているが、学級日誌の「絵しりとり」をひそかに楽しみにしながら見守ったり、気ままな生徒たちの遊びに翻弄されたりするなど、まじめ過ぎるために少々人に振り回されやすい一面を持つ。となりのクラスの担任である小林先生と仲がよく、職員室でもとなり同士なため、よく相談や雑談をしている。時おり小林先生から寿司に誘われているが、実は生魚を苦手としている。酒に酔うと、ふだんの物静かな人柄からは想像できない笑い上戸になって口数も一気に増え、酔いが進むと些細(ささい)なことにも謝罪する「謝り魔」に豹変(ひょうへん)する。漫画を読むのが好きで、大学生時代は漫画研究会のサークルに所属していたため、漫画に造詣は深いものの、絵を描くのは得意ではない。生徒から変なあだ名を付けられることが多い。小学校教師をしていた期間が長く、当時は枯れるほどに声を張っていたが、女子高校生相手にちょうどいい声の張り方をつかめずにいる。中学時代は今とほとんど変わらず、おとなしく目立たないまじめな生徒だった。実は既婚者だが、4年前に結婚指輪をしていた時に生徒に騒がれて授業崩壊してしまったため、現在は学校で結婚指輪を付けないようにしている。3歳の娘がおり、休日はいっしょに外出するなどかわいがっている。
小林先生 (こばやしせんせい)
とある女子高校の2年3組の担任を務める男性教師。年齢は31歳で、担当科目は数学。バレーボール部の顧問を務めている。短髪のオールバックで、右目に泣きボクロがある。職員室では星先生のとなりの席で、互いに雑談や相談をすることも多く、仲がいい。ノリが軽く、明るい性格をしているが、少々天然でいい加減なところがある。一人暮らしで結婚願望はなく、他人と暮らすのは無理だと漏らしている。毎日ポロシャツを着ているため、いつの間にか生徒たちから「ポロシャツアンバサダー」というあだ名を付けられていた。仕事帰りによく星先生を食事や酒に誘っているが、断られることが多い。たまに誘いに応じてもらえると星先生の変わった酔い方を観察しては、ふだんとはまったく違う彼の言動を楽しんでいる。休日は特に何もしておらず、ボーっとして夕方のアニメ番組の録画をしていたら1日が終わっていることが多い。だが、たまに前髪を下ろして眼鏡をかけ、ふだんとは違う格好で出掛けることがある。小学生の頃、近所の犬にイタズラをして飼い主のおじさんに怒られたことから、犬には少々トラウマがある。面倒くさがりな一面があり、バレー部の保護者会から急に写真入りの記念タペストリーのデザインを頼まれた時は、情緒不安定になるほどやる気がない状態で作業していた。嫌々作業を続けた結果、「ナリ坊」という謎のマスコットキャラクターと、写真の内容に合わない謎めいたキャッチコピーが刻まれた、シュールなデザインに仕上がった。授業中に指名する出席番号の規則性が読めず、毎回謎めいているため、生徒たちからは地味に恐がられている。実は三人兄弟で、年齢が一回り離れた弟は山田という偽名を使ってコンビニでアルバイトをしている。好物は寿司と魚介類で、寿司屋以外でも魚料理を注文することが多い。居酒屋料理のお気に入りは、ししゃもフライ。
香川 (かがわ)
とある女子高校の2年4組に在籍する女子。黒のロングヘアに大人っぽくクールな顔立ちで、マイペースな性格をしている。クラスメイトの「かなちん」の次に日直を務めたが、絵しりとりをするのが定番になっている学級日誌の備考欄に、謎の陰気な男性の絵を描く。しかし、絵のセンスが独特過ぎるため、次の日直である久保田と、絵しりとりをひそかに楽しみにしている星先生を困惑させた。男性の絵がなんなのかは久保田にまったく伝わっておらず、「放心状態」の絵だと誤解されていた。星先生をはじめ教師に変なあだ名を付けることが多い。のちに星先生と小林先生が居酒屋に行っているのを偶然発見し、酔った二人の会話をもとに、「秘伝のペット」という新しいあだ名を星先生に付けた。
セツコ
とある女子高校の3年2組のベランダで飼われている成犬。利口で人懐っこく、散歩が大好き。元は郡司先生の実家の飼い犬だが、彼の自宅で引き取られるようになった。3年2組の生徒たちからは頼りない副担任の中村先生の代わり扱いされるようになり、「副担」と呼ばれている。休み時間にはほかのクラスの生徒からもかわいがられ、みんなのアイドルと化している。合宿で不在になるため代わりの世話を郡司先生が星先生に頼んだことで、一時的に2年4組に預けられることになった。性別はオスだがセツコというメスっぽい名前であるため、2年4組の生徒たちからは「タピオカ」という名前を付けられた。当初は生徒から歓迎されかわいがられていたが、次の日には生徒から顔に落書きをされてしまう。実は中村先生から非常にかわいがられている。
郡司先生 (ぐんじせんせい)
とある女子高校の3年2組の担任を務める中年の男性教師。小太りな体型をしている。多忙になった両親から実家の飼い犬であるセツコを引き取ったが、娘がアレルギーになったために自分のクラスに連れて来る。犬が受験ストレスを軽減させるという理由で校長にも許可され、セツコが生徒たちからも歓迎されたことから「クラス犬」として迎え、教室のベランダに小屋を置いてそこで飼育するようになった。3年生の合宿でセツコの面倒が見られなくなった時は、星先生と中村先生に預けて世話を頼んでいた。
中村先生 (なかむらせんせい)
とある女子高校の3年2組の副担任を務める男性教師。眼鏡をかけている。人相と酒癖と顔色が悪く、眼鏡と陰気な雰囲気が同僚の星先生と似ている。暗い性格とやる気のない態度で、いつも酒臭い上に二日酔いで何をしゃべっているかわからないことから、生徒たちからは嫌われている。このため、生徒のあいだではいつの間にかセツコが真の副担任という扱いになっており、中村先生の方は「たまに教室に入ってくるおじさん」に格下げされている。いつも残業で夜遅くまで学校にいるため、夜は郡司先生の代わりにセツコの面倒を見ている。落書きされたセツコの顔を真っ先に洗ってやるなど、実はかなりの動物好きでセツコのことも非常にかわいがっている。生徒から信頼を得るのを半ばあきらめており、セツコを気に入っているのも、自分を真剣に見てくれるのはセツコだけだからという理由だった。これらの本音を星先生に打ち明け、職場でも孤立しがちだった中で、彼とは自然に打ち解けている。いつの間にか生徒たちから「組員」のあだ名を付けられていた。私生活は謎に包まれていたが、ある日突然、いつもの酒臭さが消えてフローラルな香りを漂わせていた上に顔色や姿勢がよくなっていたことから、生徒たちに気味悪がられ、老人と公園でヨガ選手権を開催しているという噂が流れていた。フローラルな香りと姿勢改善の理由は、最近買った猫型のお掃除ロボットを気に入り、ペットのようにかわいがっているため。健気に掃除するロボットの姿が愛おしくなり、残業を避けて20時には帰宅するようになり、掃除の邪魔になる物を片付けるうちに心が安らいで深酒をしなくなった。また、掃除中のロボットが気になって追いかける習慣が軽い運動にもつながったために、自然と顔色もよくなっていく。
松岡 (まつおか)
とある女子高校の2年3組に在籍する女子。黒髪をポニーテールにまとめ、眼鏡をかけている。漫画家を目指してオリジナルの少女漫画を描きながら同人サークル活動をしているが、まったく売れずにブログの閲覧数も伸び悩んでいる。国語の授業中にこっそり漫画を描いているところを星先生に見られてしまうが、彼が元・漫画研究部であったことを偶然知り、松岡自身の漫画作品「エターナル カオル」の評価を依頼する。当初の作風や絵柄はふつうの少女漫画を目指していたが、現在はミステリーや学園ものをはじめとする少女漫画以外の要素を大量に詰め込んでしまい、テーマが見えない一貫性皆無の内容になっていた。星先生と小林先生の評価を聞いたあとは、星先生が続きのストーリーを考えることになり、それをもとに続編を描き上げて新しい同人誌を完成させる。
鳥井 (とりい)
とある女子高校の2年4組に在籍する女子。黒のロングヘアにカチューシャを付けている。家族と共に団地に住んでいる。何かと研究熱心で、星先生の観察日記をひそかに作成しており、授業中だけでなく休み時間などにも彼を観察しては、その時の出来事や感想を逐一記録していた。しかし、カモフラージュのつもりで授業用のノートを使っていたために課題と間違えて提出してしまい、観察日記をつけていることが星先生にバレてしまう。星先生が好きというわけではなく、観察日記ももともとはただのヒマつぶし目的だったが、続けるうちに、星先生のいいところも悪いところも見えてきたため、興味が深まりさらに観察するようになった。星先生に押されていたスタンプの意図を勘違いし、バレたあとも熱心に観察日記を続けている。
古森 (こもり)
とある女子高校の2年4組に在籍する女子。ウエーブのかかったロングヘアで垂れ目が特徴。ノリが軽くマイペースで、かなり飽きっぽい性格をしている。法事で久しぶりに会った従兄弟の高田に卒業アルバムを見せてもらった際に、彼と同級生だった星先生の写真を見つける。その写真の星先生が肩にクワガタを乗せていたのを不思議に思い、学校で星先生本人に直接理由を聞いて納得するが、面白がってその写真を基にしたシールを作成する。このシールを近所の小学生に配ったあと、学校周辺のあちこちに貼られたそのシールが「クワガタボーイ」の異名で親しまれるようになり、都市伝説や陰謀論にまで発展した。
高田 (たかだ)
古森の従兄弟。星先生とは中学校時代に同じクラスだった。短髪の垂れ目で、ノリが非常に軽い。法事で久しぶりに古森と再会した際に、彼女に中学時代の卒業アルバムを見せていた。当時はほかの男子といっしょに、クラスで飼っていたクワガタのポチをかわいがっていた。部屋をあまり掃除しておらず、埃っぽくなっている。
若尾 (わかお)
とある女子高校の2年4組に在籍する女子。バレーボール部のキャプテンを務めている。ショートヘアで、釣り目がちな目元が特徴。いつも無表情で喜怒哀楽がわかりづらく、クールで不愛想に振る舞っている。学校のプリンスとして女子生徒から人気があり、「若サマ」の愛称で親しまれている。ある日を境に、毎朝早い時間に電車に乗って学校とは離れた駅で降りるようになり、悪いことに巻き込まれているのではと心配した星先生に理由を聞かれるものの、コンビニの新メニュー「うどんまん」を買うためと答えていた。しかし本当の理由は、そのコンビニの店員・山田に会うためで、これらの事情を星先生に知られてからは山田に会いに行くのをあきらめるつもりだった。その後、最後に一目会おうと再びコンビニを訪れた際に、山田が小林先生の弟だと知る。毎回うどんまんをたくさん買って行くために、山田からはひそかに「うどんまん有段者」のあだ名を付けられていた。
山田 (やまだ)
駅前のコンビニでアルバイトをしている青年。いつも爽やかな笑顔で接客しているため、客から好評を博している。いつもうどんまんばかり買って行く若尾の顔を覚えており、彼女のために毎朝うどんまんを多めに用意している。実は小林先生の弟で、兄とは離れて暮らしている。アルバイト中に付ける名札は、本名を避けて偽名を使っていた。
緑川先生 (みどりかわせんせい)
とある女子高校に勤務する女性教師で、星先生の同僚。ロングヘアをポニーテールにまとめている。優しく美人な先生で、生徒たちからは「みどりちゃん」の愛称で親しまれている。学校で結婚指輪をしていたことを生徒たちに騒がれて質問攻めに遭い、その日は授業どころではなくなってしまう。結婚相手は人気俳優の南ハルキだが、騒動を避けるために生徒たちには隠している。
安藤 (あんどう)
とある女子高校の2年3組に在籍する、脚本家志望の女子。ロングヘアをお団子にまとめ、ヘアクリップで留めている。ある日の自習時間に、ほかの生徒たちが勉強しない中でまじめに勉強していると思われていたが、実際は新作漫画のネタを考えていた。この際にクラスメートたちの雑談を聞きながら考えていたために、複数の雑談の内容が混ざった奇妙なストーリーに仕上がった。実はクラスメートの松岡と協力して新作漫画を考えており、ストーリーを考えるのが苦手な彼女に代わってストーリー作りを担当している。創作に夢中になると、少々目付きが悪くなる。