婚姻届に判を捺しただけですが

婚姻届に判を捺しただけですが

結婚願望のなかった百瀬明葉は、ある目的のために百瀬柊と偽装結婚することになる。偽りの夫婦となった明葉と柊の結婚生活や恋愛模様を描いたラブコメディ。「FEEL YOUNG」2017年10月号から掲載の作品。2021年10月にテレビドラマ化。

正式名称
婚姻届に判を捺しただけですが
ふりがな
こんいんとどけにはんをおしただけですが
作者
ジャンル
恋愛
レーベル
FEEL コミックス(祥伝社)
巻数
既刊10巻
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

他人からのプロポーズ

彼氏はいないがいっしょに飲んでくれる友達も多く、仕事も楽しいと感じている独身女性の大加戸明葉は、結婚願望を持たないまま、中堅のデザイナーとして活躍している。家に帰ると楽な部屋着に着替え、自炊はせずにコンビニ食や外食で済ませ、お気に入りのソファでビールを飲んだり昼寝をしたりするのが大好きな明葉は、周囲が婚活にあくせくしているのを見ても気にせず、自由気ままな「お一人様生活」を楽しんでいた。だが、そんな明葉の平穏な日常は、ある男性との出会いで大きく変わる。同僚たちと食事していたある日の昼、明葉はレストランで他人のプロポーズ現場を目撃するが、麻宮は突然怒りながら男性に水を浴びせて去ってしまう。そんな気まずい修羅場に遭遇した矢先、明葉は飲み会の席で、昼に目撃したプロポーズ現場で盛大にフラれていた文芸編集者の百瀬柊と、偶然にも再会を果たす。レストランでの出来事が何もなかったかのように、結婚観について次々と質問してくる柊は、明葉に対して突然のプロポーズをしたうえで、彼女が想像もしていないような結婚の形を語り出す。柊はある女性への不毛な片思いをカモフラージュしたいという奇妙な理由から、既婚者の肩書きを手に入れるために偽装結婚をしたいのだという。柊からのありえない態度と提案を即座に突っぱね、怒りながら帰宅した明葉のもとには、祖母の大加戸初恵が倒れたという連絡が入る。不安で焦る明葉はたまたま居合わせた柊の車でいっしょに病院に向かうが、初恵は軽い心不全の発作で意識もしっかりしていた。元気な様子を見て安心した明葉だったが、柊の企みにより、初恵は明葉と柊が付き合っているとカンちがいする。さらには、なぜか婚姻届を持ち歩いていた柊が初恵の前にそれを出して結婚を仄めかし、大切な祖母にショックを与えたくない明葉は、ひとまず名前を書くだけならと思い悩む。そんな明葉は、まだ入院中の初恵が大切に守ってきた小料理店が、土地ごと売られるピンチに陥っていることを知る。さらなる大問題を抱えてしまった明葉は、初恵の大切な店を守るために貯金をすべて使い、300万円もの借金を背負うことになってしまう。次の給料日まで必死に食いつなごうとする中でストレスと不安が重なった明葉は、仕事関係で再会した柊から、偽装結婚の話とは関係なしに借金をなんとかすると言われる。それでも柊に大きな借りを作りたくない明葉は、以前提案されていた彼の偽りの妻・百瀬明葉となり、その見返りとして借金を肩代わりしてもらうことになる。

偽りの結婚生活

百瀬明葉百瀬柊による形だけの結婚生活が始まり、風変わりな偽りの夫婦となった二人は、お互いの目的のために柊が知り合いから借りた家で新生活をスタートする。表面上は夫婦になったとはいえ、実際は他人同然の男女であることは変わらず、突然いっしょに暮らし始めた二人がうまくいくわけがなく、いくつものルールを設けて何かときっちりしている柊のライフスタイルに、今までズボラに暮らしていた明葉が合わせるのは困難を極める。毎朝異様にうるさい目覚まし時計に堪え、趣味で飾っているフィギュアにまで文句を言われた明葉には、我慢の限界が近づいていた。そんなある日、明葉は遊びに来ていた柊の兄・百瀬旭と初対面し、彼が夫婦で引き継いだ実家の弁当屋を手伝ってほしいと頼まれる。報酬が弁当の永続タダ券と聞いてあっさり承諾した明葉は、仕事で行けない柊の代わりに店の手伝いに行くことになる。初めて訪れた柊の実家で緊張する明葉は旭の妻・百瀬美晴とも対面し、趣味をきっかけにすぐに意気投合できたことに浮かれていた。料理が苦手で失敗を繰り返してしまうものの、できることを率先しながらがんばっていた明葉だが、よかれと思った豆腐の発注が、取り返しのつかない大失敗につながってしまう。落ち込む明葉だったが、大量に届いた豆腐は美晴のアイデアにより豆腐ハンバーグに使われ、駅の周辺で売られることになる。それを知った明葉はデザイナーとしての腕を生かして宣伝チラシを作り、なんとか商品を完売に導くことに成功する。義兄、義姉との仲をいっそう深めることができて安心していた明葉は、柊との何げない会話を通して、美晴こそが柊がずっと昔から思い続けている女性だと知る。偽装結婚生活の中で、お互いの知りたいことだけでなく知らなくていいことまで知ることになる明葉たちは、それでも互いに歩み寄ることで居心地のいい生活を築きつつあった。そんなある日、明葉はライブ会場で偶然出会った謎の美青年・牧原唯斗からプロポーズ同然のナンパをされ、さらにはその現場をたまたま通りかかった柊に目撃されてしまう。焦りを隠せない明葉に対し、柊は気にせずにお互いに自由にやりましょうと告げ、彼女は突然の不倫OK宣言にもやもやとした気持ちを抱えてしまう。

偽装結婚解消

当初は互いの価値観やライフスタイルの違いに悩み、ぶつかることも多かった百瀬明葉百瀬柊は、さまざまな出来事を経てお互いの心の距離を近づけていく。二人のあいだに愛情はゼロ、他人同然の偽装結婚のはずが、明葉は徐々に柊に恋心を抱いていることに気づく。しかし、ふとしたきっかけで友情のハグをしたことにより、初めて女友達ができたことを喜ぶ柊は、食事は各自で、お互いの食器は使わないといった柊自身が決めていたルールをまるで無視して、明葉に友人として懐くようになる。もとから友人が少なかった柊は友達という言葉を嬉しそうに使い、そんな彼の態度に明葉は戸惑うばかりだった。そんな中、温泉旅行の招待券をもらった柊は、日帰り温泉旅行に明葉を誘う。柊に抱く不毛な恋心に悩みながらも、結局はいっしょに行くことに決めた明葉だったが、出発当日には百瀬旭百瀬美晴も同行することが決まり、明葉は柊と二人きりの旅行ではなくなったことにガッカリ感を覚える。それでも四人での旅行を十分に楽しむことができた明葉だったが、一方の柊は旅行が終わってからも、何か悩みを抱えた様子だった。それぞれが前途多難な恋の悩みを抱える中、明葉の両親が借金の返済金を手に、なんの連絡もなく海外から帰国してきた。両親のおかげで晴れて借金を返済するが、それは明葉と柊が偽装結婚を続ける理由がなくなり、二人が離婚することを意味していた。そんな中、以前からある悩みを抱えていた美晴が、離婚届だけを残して家出をしてしまう。美晴の行き先がわからずに連絡を取りながら捜し続ける柊のことを、明葉は心配そうに見つめることしかできないでいた。時間だけが過ぎる中、とあるホテルで偶然にも美晴と遭遇した柊と明葉だったが、家に帰りたくないと言う美晴は、柊たちの家でしばらく居候することになる。柊にとっての思い人である美晴と一つ屋根の下で、嫌な予感しかない明葉だったが、偽装結婚であることを周囲に隠している柊と明葉には生活に大きな変化が訪れる。美晴に部屋を貸したことで、柊と同じ寝室で寝ることになった明葉の緊張をよそに、柊は美晴への思いを静かに語り出すのだった。

キスの意味と嫉妬の理由

いくつもの出来事を通して百瀬柊の不毛な恋を目の当たりにし、百瀬明葉は自分の入り込む隙間がまるでなく、自らも不毛な恋をしているのだと思い知る。それでも柊とまだ偽装結婚生活を続けたいと願う明葉は、現在の関係を死守したいと意気込んでいた。両親が突然帰国したことで借金問題が解決し、偽装結婚生活が終わると慌てていた明葉だったが、柊は最近起こったばかりの百瀬美晴の家出騒動を受け、彼女たちのためにもしばらくは今の関係を続けたいという。まだ柊といっしょに暮らすことができると浮かれていた明葉のもとへは、以前から尊敬していた人気作家・丸園ふみから新刊の装丁の依頼が舞い込み、仕事にもチャンス到来とばかりにこれまで以上に真剣に仕事に打ち込むようになる。しかし、こだわりの強いふみからはなかなかデザインのOKをもらえず、なぜか雑念ばかりが増えていく明葉は、仕事がうまくいっているとは言い難い状況が続いていた。困惑と苦悩の末に柊の協力を得て仕事を成功させることができた明葉だったが、職場の先輩から頼まれた合コンに柊と牧原唯斗を呼んだのをきっかけに、唯斗が柊に謎の宣戦布告を始める。これ以来、明葉と唯斗の関係性が気になるようになった柊は、あるきっかけで女友達という言葉では片付けられないような行動に出てしまい、本当の夫婦でもないのに柊と明葉は二度もキスをしてしまう。困惑や後悔を重ねる中で、彼がキスをしてきた意味を考える明葉だったが、以前からたびたび唯斗に見せる柊の嫉妬めいた態度を見ていた明葉は、柊への期待感で胸を躍らせる。だが、柊の見せる嫉妬の理由は恋愛ではなく、いつの間にか「女友達」から「親友」に昇格していた明葉に感じている友情であったことがわかり、脈ありを期待していた明葉はがっかりする。そんな中、唯斗から家族との食事会に参加してほしいと頼まれた明葉は、彼が抱える家庭の事情を知り、柊からあれこれ言われながらも食事会への参加を決める。しかし、当日なりゆきで唯斗の両親の前で彼の婚約者を演じる羽目になってしまい、明葉は彼になんとか話を合わせようとする。一方、柊は唯斗の言葉を真に受けたままでカンちがいを続け、どうしても気になった彼は食事会の様子もこっそり見守っていた。柊がこっそり見に来ていることに気づいた明葉は、また友情からの嫉妬で張り合っているだけと思いながらあまり気にしないようにしていたが、二人が偽装結婚であると気づいていた唯斗は、柊に対してあることを指摘する。

偽装妻のポジション

訳あって偽装結婚生活を続けることになった百瀬明葉百瀬柊の関係は友情以上恋愛未満のままで、じわじわと前進しつつあった。友人としてキスをしたり、夫婦らしく見せるための結婚指輪を注文したりと、明葉は柊といっしょにいられることを素直に喜んでいた。そんな中、入院した先輩編集者に代わって、人気料理アカウント「kana」を運営するインスタグラマーの野上香菜が出版する本の担当となった柊は、初めて会った彼女の容姿が百瀬美晴にそっくりなことに驚く。片思いの相手と瓜二つの容姿の香菜に戸惑いながらも、まじめに仕事を進める柊は本の装丁を明葉に依頼することになった。二人の仕事に加わることになった明葉は、香菜と直接会って彼女が美晴に容姿も性格も似ていると好印象を抱く。ところが、ウソやごまかしが苦手な明葉と接するうちに、彼女と柊が偽りの夫婦関係であることを知った香菜は、柊のいない場で偽装妻のポジションを乗っ取ると宣戦布告してきた。これ以来、香菜は柊に対してあの手この手でせまったり、SNSには明葉への当てつけを匂わせるような投稿をしたりするようになり、順調に進む仕事の水面下では女子力の低い偽装妻と、料理上手の猛禽キラキラ女子が争っていた。ほかのインスタグラマーも参加するイベントの最中、疲れたフリをしながら柊に接近した香菜は、その瞬間を何者かに写真に撮られ、kanaの不倫疑惑としてSNSに投稿・拡散されてしまう。あっという間に学生時代のアルバムや過去の情報まで特定されてしまい、アカウントの大炎上と誹謗中傷に耐えられなくなった香菜は、本の出版を見送ると言いながら自宅にこもってしまう。なんとか香菜を励まして本の出版を成功させたいと願う柊は、自宅への見舞いを明葉に頼むことになった。当初は香菜を心配して励まそうとしていた明葉だったが、ふさぎ込みながらも本性と本音を暴露した香菜にイラついて大ゲンカしてしまう。さらには、香菜が情報をバラまいた友人を特定すべく地元の港町に帰ったという。同窓会に出席した香菜は旧友と再会するが、過去のことで根掘り葉掘り嫌みを言われて孤立する香菜のもとに、柊と明葉が駆けつける。

偽りの関係リセット

いくつものトラブルを乗り越えながら交流を重ねた百瀬明葉百瀬柊の関係が進展する中、柊が仕事の関係でフランスに転勤することになり、何歩も前進したはずの関係に早くも亀裂が入ろうとしていた。帰国まで待つからまだ偽装夫婦関係を続けたいと言う明葉をよそに、柊は本当の家族になりたい人ができたという理由で離婚届を突きつける。困惑と怒りを隠せない明葉だったが、柊の言ったとおり離婚届に判を捺したことで、二人の婚姻関係はあっけなく終了し、二人は名実ともに他人になってしまう。離婚後も明葉は柊と暮らしていた一軒家に残り、柊は予定どおりフランスに転勤する。そして最悪の別れからは3年が経ち、そのあいだに明葉の周囲はもちろん百瀬家にもさまざな変化が訪れ、明葉自身も森田デザインから独立してフリーランスのデザイナーとして活動を始めていた。フランスから帰国した柊が向かったのは、元妻である明葉のもとだった。柊は偽装結婚生活の途中で明葉に恋をしてしまったことに気づき、離れているあいだに彼女との関係をリセットするために偽装夫婦関係を清算し、会えないあいだも彼女への思いを温め続けていた。そんな柊の思いや考えも知らないまま、明葉はルームシェアの相手としてシングルファーザーの長谷川さつきを家に迎え、彼や長谷川むつきと共に平和な共同生活をしていた。一方的に離婚を切り出されたせいで柊への思いがすっかり冷めていた明葉は、彼に恋心を寄せられていることなど知る由もなく、職場などで再会してもかかわるのを避けていた。しかし、明葉と彼女に預けたままのおもちに会わずにいられなかった柊は、かつて彼女と暮らしていた家に向かった際に、彼女がさつきやむつきと楽しそうに過ごしている姿を目の当たりにする。当初は明葉がさつきと結婚したとカンちがいしてショックを受けるもののすぐに誤解は解け、さつきの提案により、新居が決まるまでは柊も同じ家に住むことになる。さらに秀伝出版を退職後に独立し、起業したばかりの先輩のもとで編集業務を続けていた柊は、同じく独立したばかりで不安定な明葉にビジネスライクな関係を築こうと提案し、元・偽装夫婦の二人はお互いの仕事のために協力し合うようになる。やがて柊の新居も決まるが、明葉がおもちと離れたくないと言い出したことで、長谷川親子を交えた複雑な関係の同居生活は今後も続くことになる。

思いの逆転

愛情ゼロの夫婦としてスタートした百瀬明葉百瀬柊の関係は、柊からの唐突な三行半であっけなく終わりを迎えたかに思えたが、3年後に再会した二人は元・偽装夫婦という関係を複雑に思いながらも、再び同居することになった。そんな中、明葉は離婚前に作っていた結婚指輪を、柊が現在でも大切に持っていることに気づく。夏祭りから帰る直前、柊から告白されるとわかった瞬間、明葉は聞きたくないと言いながら涙を流し、思わず逃げ去るようにその場を離れてしまう。明葉は離婚時のトラウマから、もう柊に振り回されて傷つくのも傷つけるのも嫌になり、彼には二度と恋心を抱きたくないと考えていたのだ。結局、柊の告白が未遂に終わったものの、次の日から柊と気まずい雰囲気になってお互いに避けるようになった明葉は、あらためて柊から告白されるとともに、片思いする許可を求められる。これ以来、柊は気合いを入れた手料理を振る舞ったり家事を代わったり、明葉の好きなドラマのDVDを買ってきたりと、彼女に対して猛烈なアピールを始める。媚びを売るかのような態度に当初は反発していた明葉だったが、いくつもの出来事をきっかけに、少しずつ柊と出会ったばかりの頃のことを思い出していく。一方、明葉たちとルームシェアをしている長谷川さつきと、数年ぶりに姿を現した彼の元妻・あかりの元夫婦関係も一筋縄ではいかない様子で、明葉たちが利用するシェアオフィスのオーナーでもあるあかりは、彼女たちの前で珍しく何かに悩んでいる様子を見せていた。柊が3年以上温めてきた明葉への思いと接し方に悩む中で、突然やって来たあかりと彼のあいだで思わぬ疑惑が発生し、明葉とさつきはまたしてもそれぞれの元夫・元妻に困惑させられる羽目になる。

新たな出会いと恋の予感

本当に恋をしたから自ら離婚を切り出した百瀬柊と、恋をしていたのにいきなり離婚を切り出されて恋心がすっかり冷めた百瀬明葉は、恋の矢印が逆転したままで同居生活を続けていた。今更でしかない柊の告白に呆れと怒りすら覚えていた明葉は憤るものの、結局は柊の健気な言葉や行動に絆され、彼が求める「片思いの許可」を出してしまう。反発を繰り返していた明葉も、柊の不器用過ぎるアプローチや仕事の相談に乗ってもらううちに、3年前に彼に抱いていた気持ちを少しずつ思い出していく。そんな中、大手アニメ会社のデザインコンペに挑戦することになった明葉は、柊をはじめとする周囲の協力を得ながら準備を整える中で、デザイン業界で注目を集める正木悠昌と出会う。試行錯誤の末に、準備万端で本番に臨んだ明葉だったが、悠昌のプレゼンのインパクトを前にプレッシャーと緊張が重なり、練習どおりのプレゼンができず失敗してしまう。デザインコンペは残念な結果に終わったものの、ひょうひょうとした変わり者の悠昌との出会いは、明葉の仕事にも日常にも確かな影響と変化を与えていく。そんな明葉と悠昌の関係と、彼女の新たな恋の予感に強い不安を覚えた柊は、北海道で獣医の勉強に励むかつてのライバル・牧原唯斗のもとへ向かう。しかし、柊はケガをした唯斗の代わりにアルバイトをする羽目になり、彼からの的確なアドバイスはほとんど得られないまま、北海道土産を手に東京に戻る。そんなある日、明葉が悠昌の個人事務所を訪問することになったと聞き、さらなる不安を感じた柊は彼女について行くことになる。仕事を通して親しげに会話する悠昌と明葉の姿を見た柊は、以前唯斗に言われたある一言を思い出し、明葉とまたいっしょに暮らせて嬉しい気持ちをあらためて伝える。そんな中、人気インスタグラマーとして復活した野上香菜と再び仕事をすることになった柊は、彼女がうっかり漏らした一言で明葉のかつての思いを初めて知り、強い衝撃を受ける。これ以来、明葉に会うたびに挙動不審になってしまった柊は、混乱と恋の悩みが頂点に達し、熱を出して寝込んでしまう。

初めての両思い

愚直なまでに明葉への恋心を貫く百瀬柊を見るたびに過去の傷が疼き、彼に再び恋をすることに臆病になっていた百瀬明葉は、戸惑いながらも彼の気持ちと自らの本心に向き合う決意を固める。3年前に大きなすれ違いを起こしたままで離婚した二人は、長過ぎる道のりとさまざまなトラブルを経て、ようやくお互いの思いに向き合うまでに至った。今まですれ違っていた分、ゆっくりと過去の関係を取り戻していこうと明葉が言った矢先、柊からまさかのプロポーズの言葉と、離婚したあとも彼が大切に保管していた結婚指輪を渡される。即再婚に突っ走りがちな柊に慌ててストップをかけた明葉は、夫婦ではなく恋人としてのお付き合いから始めようと提案し、少しずつ恋人らしい接し方を試行錯誤していく。だが、今まで片思いばかりで両思いの恋愛をしてこなかった柊にとっては、恋人として女性と付き合うのは初めてのことで、明葉の恋愛に関する価値観とは少しずつズレが生じていく。元・夫婦とはいえ、愛情ゼロの偽装結婚からスタートした明葉と柊が初めて両思いの関係になって少しずつ見えてくる互いの恋愛観は、時には混乱や小さなすれ違いを生み出しながらも、二人の関係性を新たなつながりへと変化させていく。そんな中、3年前に発作を起こして入院したことがある大加戸初恵が、再度軽い発作を起こして倒れてしまう。初恵が営んでいる小料理店「はつや」を畳んでリタイアすることを医者から勧められた明葉は、このままではいつ急死してもおかしくないという心配から初恵本人にもそのことを告げるが、彼女はどうしてもまだ店を畳みたくない理由があると言う。それは明葉の祖父でもある初恵の夫と何十年も前に交わした約束が関係しており、はつやの歴史に込められた大切な思いを知った明葉と柊は、初恵の負担を少しでも減らそうと店を手伝うようになった。そのお礼としてプレミアム宿泊券をもらった明葉たちは、恋人関係になって以来初となるお泊まりデートに出かけることが決まる。念入りに準備を整えてデート当日を楽しみに待つ明葉たちだったが、仕事中に再会したある人物の言葉をきっかけに、彼女たちのあいだでは新たな問題が発生する。

メディア化

テレビドラマ

2021年10月から12月にかけて、本作『婚姻届に判を捺しただけですが』のテレビドラマ版『婚姻届に判を捺しただけですが』がTBS系で放送された。脚本は田辺茂範とおかざきさとこが務めている。キャストは、百瀬明葉を清野菜名が、百瀬柊を坂口健太郎が演じている。

登場人物・キャラクター

主人公

デザイン会社「森田デザイン」に勤めるデザイナーの女性。初登場時の年齢は27歳で、旧姓は「大加戸」。大雑把かつズボラで、気が強くマイペースな性格の持ち主。独身で現在は恋人もおらず、今まで付き合ってきた男... 関連ページ:百瀬 明葉

百瀬 柊 (ももせ しゅう)

「秀伝出版」に勤める文芸編集者の男性。黒髪短髪で、礼儀正しく爽やかなイケメン。家では黒縁の眼鏡をかけていることがある。生真面目で几帳面な性格をしており、堅物の変わり者で繊細なうえにプライベートでの人付き合いが苦手ないわゆる「コミュ障」。しかし仕事においては非常に優秀で、上司・同僚からの信頼は厚い。しっかり者に見えて朝にはかなり弱く、目覚まし時計をいくつもセットしている。学生時代から思いを寄せている義姉の百瀬美晴への不毛な片思いをカモフラージュするため、既婚者の肩書きを欲しており、同僚の麻宮に偽装結婚の話を持ちかけていた現場を見られたことで百瀬明葉と知り合う。明葉にも同様に偽装結婚を申し込んで断られるものの、大加戸初恵が倒れた際に明葉を病院に送ったほか、仕事を通して彼女を助ける機会も増えていく。それでも明葉からは避けられていたが、明葉の借金を肩代わりする代わりに偽装結婚の話を受けてもらえることになり、お互いの目的のために偽りの夫婦となる。これ以降、知り合いの男性作家に借りた一軒家で明葉と二人暮らしを始め、当初はいくつものルールを定めてお互いのプライベートに干渉しないようにしていた。また、ズボラな明葉とはライフスタイルや価値観が合わずにぶつかることもあったが、日常や仕事を通して彼女のことを知っていくうちに打ち解けていく。明葉から「型破りの変人」と評され、彼女の脳内で「ファンキー百瀬」と呼ばれているほどの変わり者で、特に恋愛観や友人との接し方をはじめとする感覚は常識から外れており、時折周囲を困惑させている。明葉の借金が完済されたあとも偽装夫婦関係を続けていたが、フランスへの転勤が決まった頃に明葉への恋心を自覚し、この時点で両思いであることを互いに知らないまま、彼女との関係をリセットするために離婚することになる。フランスに滞在中も明葉への思いを温めながら、初恵とは文通を交わしていた。3年後にフランスから帰国し、現場での編集業務を続けたいという理由で秀伝出版を退職して独立し、起業したばかりの先輩・持田のもとで編集者の仕事を続けている。いくつかの事情から再び明葉と同居することになり、彼女には正直に恋心を告げて猛烈なアプローチを繰り返している。料理上手で菓子作りも得意としており、悩みがあると小麦粉をこねながら考え事をする癖があり、そのたびにパンやピザなどを量産している。

百瀬 旭 (ももせ あさひ)

百瀬柊の兄。実家の弁当屋「モモズ弁当」を妻の百瀬美晴と共に引き継ぎ、二人で店を切り盛りしている。天真爛漫で明るくおおらかな性格で、容姿・性格ともに弟の柊とは正反対。柊の妻となった百瀬明葉の義兄でもあるが、二人が偽装結婚関係であることは知らないままに親しくしている。細かいことは気にしないため、時折周囲を振り回しているが、美晴や柊のことは真剣に考えており、陽気で家族思いな百瀬家のムードメーカー的存在。また、何かと悩みの多い柊や明葉の相談に乗ることもあり、そのたびに優しく助言を与えている。美晴と知り合ったのは弟の柊よりもあとだが、彼が片思いしているとは知らないままに彼女と交際・結婚した。店の人手が足りなくなって明葉にアルバイトを頼んだのをきっかけに、彼女には報酬として弁当を無料で提供している。超が付くほどの愛妻家で、美晴とは良好な夫婦関係を築いている。しかし、美晴が子供ができないことに悩んでいるのには気づけず、離婚届を残して彼女が家出した際は、珍しくうろたえてショックを受けていた。美晴が無事に戻ったあとはあらためて二人で話し合いを重ね、子供を授かるための妊活をいっしょに始めた。

百瀬 美晴 (ももせ みはる)

百瀬旭の妻で、百瀬柊の義姉。実家の弁当屋「モモズ弁当」を夫の旭と共に引き継ぎ、二人で店を切り盛りしている。黒髪ショートヘアの美人で、下まつ毛の目立つ垂れ目が特徴。料理上手なうえに何事も器用にこなし、仕事はもちろん主婦としての務めもテキパキとこなす。かなり天然ながらその自覚はなく、ふわふわとした雰囲気をまとっている。柊の妻となった百瀬明葉の義姉でもあるが、二人が偽装結婚関係であることは知らないままに親しくしており、彼女とは好きなアニメなどの趣味が合うため、時折二人で遊びに行くなど良好な関係を築いている。もとは柊の同級生で、彼が長らく不毛な片思いを抱いている相手でもある。昔は柊に思いを寄せていたことを、明葉との会話の中で仄めかすこともあった。これらの複雑な思いや旭とのあいだに子供ができないことに悩み、離婚届を残して行方不明となっていたが、柊と明葉に偶然発見され、しばらくは二人の家で居候することになる。柊と明葉と過ごすうちに旭への思いを再確認して百瀬家へ戻り、家出騒動が落ち着いたあとは旭と話し合いを重ねたうえで、子供を授かるための妊活を始める。フランスに転勤した柊の帰国前には、旭とのあいだにできた第一子を妊娠しており、柊の帰国後には彼と明葉にそれを報告していた。実の両親との関係は良好とはいえず、少女時代から家族に複雑な思いを抱いていた過去から、明葉の母親である大加戸葉子には好印象を抱いていた。

おもち

百瀬柊が飼っている愛猫。真っ白な体毛で、名前どおり体がおもちのように柔らかい。柊が百瀬明葉と偽装結婚したあとも引き続き彼に飼われ、明葉からもとても気に入られ、かわいがられている。いつも不機嫌そうな顔をしているが、柊と明葉に懐いている。基本的にはおとなしくしていることが多いが、大きな声にびっくりして家から飛び出して行方不明になることもあった。柊がフランスに転勤していた3年間は、彼と離婚して日本に残った明葉に預けられていた。

牧原 唯斗 (まきはら ゆいと)

動物看護士を務める青年。百瀬柊の愛猫・おもちの通院先である動物病院に勤務している。社交的で、人懐っこい癒し系のイケメン。マイペースでひょうひょうとした性格の愛されキャラで、男女問わず友人がたくさんいる。ふだんはふわふわとして何も考えていないように見えるが、実は洞察力が鋭く、年上である柊や百瀬明葉の考えや関係性もすぐに見抜いていた。ライブ会場で出会った明葉にプロポーズ同然のナンパをして以来、彼女に何かと絡んではちょっかいをかけるようになる。のちに、明葉が柊と結婚していることを知るが、彼女がウソをつけない性格であるため、二人が偽装結婚であることには早くから気づいていた。さらには明葉が柊に恋をしてしまったことも知ったうえで、彼女に思いを寄せてたびたびアプローチを仕掛けている。おもちの通院を通して明葉や柊とたびたび会っているほか、ゲームの趣味が合う彼女とはゲーム中のオンラインチャットを通して雑談を交わしたり、たまに相談に乗ったりしている。その一方で柊には挑戦的な発言が多く、明葉との関係をカンちがいさせてからかったり、彼女と偽りの夫婦関係を築いている状況にさまざまな指摘をしたりすることもあった。裕福な家庭で育ったが、両親は別居婚をしている仮面夫婦であり、忙しい両親とは数年前から別居中で、定期的に父親が開く食事会以外ではあまり顔を合わせていない。久々にこの食事会に参加する際に明葉を誘い、両親の前で婚約者のフリをするように依頼していた。柊がフランスに転勤してから3年後には、獣医を目指して北海道の大学に通うようになったが、明葉への思いはあきらめておらず、仲のいい友人としてたびたび連絡を取り合っている。変わり者で恋愛観もふつうとはいえない柊にはイライラさせられることも多いが、彼が明葉への思いに気づいてからは彼に頼られることも多くなり、時折相談相手になっては厳しい指摘や助言を与えている。

大加戸 初恵 (おおかど はつえ)

百瀬明葉の父方の祖母。海外で暮らしている明葉の両親の代わりに明葉を育てたため、彼女にとっては親同然に大切な家族。優しく家族思いだが、少々頑固な一面もあり、その一部は孫の明葉に受け継がれている。若い頃から小料理屋「はつや」を営み、その客として訪れた夫(明葉の祖父)と出会った過去もあって、はつやをとても大切にしている。明葉が未婚なことを心配しており、彼女の花嫁姿を見るまでは死ねないと語っている。軽い発作を起こして倒れるがすぐに回復し、見舞いに訪れた明葉と百瀬柊が結婚を前提に付き合っている恋人だとカンちがいする。のちに明葉と柊の結婚が決まるものの、それが偽装結婚だとは知らないまま、彼女が結婚したことを誰よりも喜び、柊のことも非常に気に入っている。入院中にはつやが土地ごと売られるピンチに陥っていたが、明葉が店の借金を背負い、柊がそれを肩代わりしたおかげで店を守ることに成功し、退院して営業に復帰したあとも彼女たちに感謝しながら、新婚生活を見守っている。のちに明葉と柊が離婚したことを知るが、フランスに発った彼にはペンパルになりたいという手紙を送り、彼が帰国するまでのあいだは定期的な文通を交わしていた。送られてきた手紙を通して、柊が明葉と偽装結婚をしていたことや、偽りの夫婦生活を続ける中で彼が彼女に本気の恋をしたことを知る。柊の帰国後は、告白されて悩む明葉に何かあった時に開けるように言いながら小さな箱を渡していたが、その中身はフランスに滞在中の柊から受け取ったエアメールであり、彼女たちが両思いになるきっかけをつくっている。明葉と柊が両思いになって間もなく、再び軽い発作を起こして倒れたためにはつやを畳むように勧められるが、亡き夫との約束を守りたいという理由で、彼女たちの助けを借りながら営業を続けている。

麻宮 (まみや)

百瀬柊が勤める「秀伝出版」の受付嬢。偽装結婚の相手を求める柊からいきなりプロポーズされ、怒りのあまり彼に水をかけて断ったことがある。結婚願望はあるものの、愛情以上に相手のスペックを重視するタイプ。のちに柊と百瀬明葉が偽装結婚したことを知り、彼女と仕事で再会するたびにネチネチと嫌みを言っているが、明葉からは柊のことがなんだかんだで気になっているのではないかと指摘されている。その後も明葉に会うたびに何かと柊との近況を気にしており、彼女を心配するような素振りを見せ、時には相談に乗っている。野上香菜の炎上騒動をきっかけに明葉と親しくなり、ランチをいっしょに食べたり悩みやトラブルの多い彼女の相談に乗ったり、時には厳しい助言を与えたりすることも増えた。

大加戸 葉子 (おおかど ようこ)

百瀬明葉の母親。ロングヘアで明葉と似た容姿を持つ。マイペースで奔放な性格をしており、夫の大加戸丈治との夫婦仲は良好。海外で絵画の修復活動をしながらアーティストとして芸術活動を行い、丈治と共に各地を回る生活を送っている。昔から芸術活動に没頭し、娘の明葉の養育はほとんど義母の大加戸初恵に任せていた。明葉の結婚と彼女が借金を抱えたことを聞き付けて大加戸丈治と共に唐突に帰国して、持ち帰った現金で借金を完済させたうえで、彼女の結婚を祝いながらしばらくは日本に滞在していた。ホテルで偶然遭遇した百瀬美晴をはじめ、明葉たちを通して百瀬家の人々とも知り合う。

大加戸 丈治 (おおかど じょうじ)

百瀬明葉の父親。短髪のオールバックで、サングラスやアロハシャツなど派手な格好をしている。マイペースで奔放な性格をしており、大加戸葉子との夫婦仲は良好。芸術活動をしている葉子を支えながら共に海外生活を謳歌し、娘の明葉の養育はほとんど母親の大加戸初恵に任せていた。明葉の結婚と彼女が借金を抱えたことを聞き付けて葉子と共に唐突に帰国して、持ち帰った現金で借金を完済させたうえで、彼女の結婚を祝いながらしばらくは日本に滞在していた。明葉や百瀬柊を通して、百瀬家の人たちとも知り合った。

野上 香菜 (のがみ かな)

SNSで人気インスタグラマーとして活躍している女性。血縁はないが、百瀬美晴と瓜二つの容姿を持つ。田舎の港町出身。主に手軽に作れる料理の写真を中心に投稿しており、若い女性を中心とするファンが多数いる。秀伝出版から出版される本の担当編集となった百瀬柊と出会い、彼を通して本の装丁を担当することになった百瀬明葉とも知り合うが、美晴にそっくりであるために初対面の時から二人を戸惑わせていた。当初は容姿だけでなく、性格も美晴に似ているという好印象を明葉から抱かれていたが、本性は気が強い猛禽系女子であり、明葉と柊が偽装結婚であると見抜いたあとは、彼女の偽装妻の立場を奪おうとするようになる。しかしイベントで、柊に接近した瞬間をライバルのインスタグラマーに撮られてしまい、その写真をkanaの不倫の瞬間として投稿・拡散されてしまったことでアカウントが大炎上し、地元の旧友にも学生時代などの過去の情報を本名を含めてバラされ、真偽を問わずさまざまな噂が広まる羽目になる。ふだんは自信家に振る舞っているが、その裏には恋愛でもインスタグラマーとしての活動でも、いくらでも代わりがいることにコンプレックスを抱えている。炎上によって家にこもるようになるとともに、今後の活動と本の出版をあきらめていたが、明葉や柊に励まされ、地元で元彼氏と再会したのをきっかけに復活し、本も無事に出版した。柊がフランスへ発ったあとも順調に活躍の場を広げ、帰国後に独立した彼と共に再び本を出版することになり、仕事を通して明葉とも再会を果たした。

長谷川 さつき (はせがわ さつき)

百瀬明葉とルームシェアをしているシングルファーザーの男性。短髪で丸い眼鏡をかけており、温厚で情に厚く家族思いな性格をしている。一人息子の長谷川むつきを一人で育てており、パートタイマーをしながら絵本作家をしている。仕事人の妻・あかりと離婚後はマンションで暮らしていたが、行方不明だったおもちを保護したのをきっかけに明葉と知り合い、彼女がかつて百瀬柊と住んでいた一軒家でルームシェアをするようになった。明葉にはむつきの面倒や送迎を任せているだけでなく、お互いによき相談相手にもなり、同居人というだけでなく良好な友人関係を築いている。まだ絵本作家としての知名度は低く頼りないところもあるが、息子のむつきのことはとても大切に思っており、明葉からは放っておけない人と評されている。のちに、フランスから帰国した柊も同じ家に住むことが決まったため、彼とも親しくなっていっしょにお菓子作りなどを楽しむこともある。ぶしつけに上がり込んでくるようになったあかりに振り回され、柊との疑惑をきっかけに彼女を拒絶して二度と来ないでほしいと告げるが、のちにその疑惑がただの誤解であったことが判明する。再婚や同居はしないながらも元・夫婦としての関係を見直し、柊と明葉の家を出て、あかりが住んでいるマンションに新たな部屋を借りてむつきと共に引っ越した。その後、あかりには経済援助だけでなく、時折むつきの面倒を見てもらうようになった。

長谷川 むつき (はせがわ むつき)

長谷川さつきとあかりの一人息子で、幼稚園児。両親の離婚後は父親のさつきに引き取られ、しばらくは彼とマンションで二人暮らしをしていたが、おもちを保護したのをきっかけに百瀬明葉が、かつて百瀬柊と住んでいた一軒家に引っ越す。これ以降はさつきだけでなく明葉と過ごす機会も増え、彼女からもとてもかわいがられている。まだ幼いために母親のあかりのことを覚えておらず、唐突に押しかけてきた彼女のことは知らない女性と認識している。のちにあかりの住んでいるマンションに新たな部屋を借りたさつきと共に引っ越し、時にはあかりの世話を受けながら新しい生活を送っている。

あかり

長谷川さつきの妻だった女性。貸しオフィスを中心に幅広い事業を手掛けている事業家で、独立した百瀬明葉と百瀬柊が利用しているシェアオフィスのオーナーでもある。サバサバしているとともにかなり自由奔放な性格で、よくも悪くも正直な物言いが多く、少々ドライな考えを持つ合理主義者。明葉と柊からは、大加戸葉子と似たような印象を抱かれている。仕事においては優秀ながら家事や育児は大の苦手で、結婚していた頃も家事と息子の長谷川むつきの面倒はさつきに任せていた。結局は誰かと同居することや、さつきとのライフスタイルが合わずに離婚し、むつきもさつきに引き取られたが、養育のための経済的な援助だけは続けていた。しかしいきなりむつきに再会し、さつきがルームシェアをしている明葉と柊の家に押しかけ、これ以降も時折顔を出すようになり、身勝手な行動でさつきたちを困惑させる。一度は酔っぱらった柊との関係を誤解されるアクシデントもあったが、すぐに誤解だと判明した。さつきがあかりをイメージして描いた絵本が今でも気になっており、この絵本やむつきの面倒を代わりに見たのをきっかけに、彼との元・夫婦関係を見直すことになる。話し合った結果、現在住んでいるマンションにもう一部屋借りて、そこにさつきとむつきが引っ越すことが決まり、経済援助だけでなく時折むつきの面倒を見るなど、再婚はしないままで彼らと新たな関係を築いている。何事も仕事を基準に考える癖があり、プライベートな会話でもビジネス用語を多用する。その後も明葉や柊とはシェアオフィスで時折会っており、コンペに挑戦した彼女にはプレゼンのアドバイスをしていた。

正木 悠昌 (まさき はるまさ)

新規気鋭のデザイナーとして業界でも注目を集めている男性。少々癖のある短髪で、のんびり屋でいつもひょうひょうとしている。海外の一流企業・ブランドのリーフレットやロゴなどのデザインで知られる「MARUMAデザイン」で活躍している。ベンチでうたた寝をしていた百瀬明葉と偶然知り合い、のちに大手アニメ会社のデザインコンペで再会する。優れたセンスの持ち主だが、かなり天然で抜けたところがある変わり者で、コンペのプレゼンの最中にデザインを描き直し始めるなど、色々な意味で会場をざわつかせてインパクトを与えていた。明葉と共に最終選考に残っていたが惜しくも不採用となり、同じく不採用になって落ち込んでいた彼女に、さまざまな助言を与える。これを機に明葉とは仕事上の付き合いや交流も増え、自らの職場に彼女を招いてクライアントを紹介したり、仕事の相談に乗ったりしている。明葉からはあくまでデザイナーとして尊敬する相手と思われているが、百瀬柊からは彼女との恋愛フラグを疑われ、危険視されていたことがある。現在はデザイナーの仕事にポジティブな考え方を持つ企業も多いが、企業で食品パッケージのデザインをしていた頃は、周囲からの評価に悩むなどそれなりに苦労していた。しかし、当時担当したプリンのパッケージに感動した女性から、一通の手紙を受け取ったのをきっかけに考えが大きく変わり、その手紙とプリンのデザインは自らの原点として現在でも大切にしており、これからもたった一人の誰かに届く作品を作りたいと思っている。

書誌情報

婚姻届に判を捺しただけですが 10巻 祥伝社〈FEEL コミックス〉

第10巻

(2023-01-07発行、 978-4396768751)

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