世界観
本作『宝石省の新人』の世界は、地中から神秘的な力を放つ石「宝石」が生まれる世界で、人々は宝石のエネルギー「煌気」を利用して生活していた。これによって世界には煌気を利用した「宝石文明」が花開き、人々は宝石の恩恵を受けて宝石を探し集め、新たな利用法を生み出す生活を送っている。宝石は種類によってさまざまな利用法が存在し、中には浮力を発生するため、飛行機械の原動力に利用されていることもある。
あらすじ
第1巻
あこがれの宝石省で働くため、マナは故郷の田舎を出て、煌めきの街「リトス」で暮らし始める。しかし、世間知らずでどんくさいマナは、宝石省で働き始めるもののトラブルを繰り返していた。同期のレイ・オーヴェンに渋々助けられながら、なんとか仕事をこなしていくマナだったが、宝石狩をするのに必須の装備である飛空靴を使うこともできず、なかなか新しい仕事をできずにいた。同じ班員であるレイは早々に飛空靴を使いこなしたこともあり、次第にマナを足手まといと感じるようになっていく。内心で苛立ちを抱えつつも我慢していたレイだったが、能天気なマナの態度に激怒し、彼女につらく当たる。マナは無意識のうちにレイを傷つけていたことを知り、気持ちを入れ替えて飛空靴の猛特訓を始める。そして、不器用ながら少しずつ飛空靴を使いこなすようになったマナは、自分の気持ちを正直にレイに伝えて謝罪し、彼女と和解するのだった。
登場人物・キャラクター
マナ
リトスの宝石省鉱集課第三班に所属する、新人鉱集人の少女。年齢は15歳。明るいピンクブロンドの髪を長く伸ばし、リボンで飾りつけている。明るく無邪気な性格ながら、忘れ物や落とし物をよくするトラブルメーカーでもある。鉱集人の仕事にあこがれ、リトスの街で働き始める。宝石に関する知識や技術は乏しく、宝石省の合格者の中では成績が最下位だが、「宝石の目」という特殊能力を認められて合格を勝ち取った。しかし、宝石の目は自分で使いこなすことができず、鉱集人の仕事の際にも使えずにいる。田舎でのんびり暮らしていたため、周囲の足を引っ張ることが多かったが、レイ・オーヴェンに諭されることで真剣に自分の夢に向き合うようになる。
レイ・オーヴェン
リトスの宝石省鉱集課第三班に新しく所属する、新人鉱集人の少女。年齢は15歳。黒い髪をセミロングに整え、凛々しい雰囲気を漂わせている。なんでもソツなくこなす天才的なセンスを持ちながら、自分にも他人にも厳しいストイックな性格で、宝石省の同期たちの中でも頭一つ抜きん出ている。宝石省の試験にもトップの成績で合格し、新人ながらテキパキと仕事をこなしている。幼い頃から鉱集人の仕事にあこがれを抱いていたが、実家のオーヴェン家は名門貴族のため、親からは反対されている。また、人一倍成果を出すことにこだわっており、精神的に余裕がない。そのため、のんびり屋のマナとは相性が悪く、当初は彼女に対して悪感情を抱いていた。しかし、そっけない態度で接しても、真摯に向き合ってくるマナと次第に打ち解けて心を開いていく。
クルル
手のひらに乗るくらいの小動物。白い毛むくじゃらの生き物で、小さく愛らしい姿をしている。なんの動物かは不明で、クルルは自らを「聖獣」だと語っている。マナの相棒で、彼女とだけは意思疎通することができるが、ほかの人には言葉が通じないためにマナが独り言を言っているように見られている。愛らしい見た目に反して非常にしっかりした性格で、だらしないマナをよく叱っている。
ネコ
リトスの宝石省鉱集課第三班に所属する女性で、三班の班長を務める。髪型をボブカットに整え、上品な雰囲気を漂わせている。洞察力に長けており、班員たちのバランスを考えて指揮を執っているが、若干苦労人気質なところがある。
リリィ
リトスの宝石省鉱集課第三班に所属する少女。年齢は10歳。ツインテールの髪型で、年齢相応の小柄な体型をしている。幼いながら特別採用枠で合格した優秀な人物で、鉱集課第三班の副班長を務める。マナたちにとっては先輩兼上司にあたるため、マナたちに子供扱いされるのを嫌う。自分と同じく特別採用枠のマナに興味を持っており、彼女を宝石狩に誘う。幼いながら宝石狩の経験は豊富で、激しい煌害現象の中でも平然と行動し、マナたちを圧倒した。
アーミィ
リトスの宝石省鉱集課第三班に所属する少女で、つねに首元にマフラーを巻いている。まじめな性格で、班長不在のあいだは三班の班長代理を務める。リリィの奔放さには頭を痛めており、彼女が問題を起こした際には彼女の説教役を担当する。
集団・組織
宝石省 (ほうせきしょう)
国内外の宝石に関する事業を一任されている国家機関。支局が複数存在し、マナたちが働いているのはリトスの支局となる。また、宝石省にはそれぞれロゴが存在し、リトス支局は輝く宝石をロゴにしている。リトス支局の省舎は宝石塔ととなり合って建てられており、リトスの街に煌気を送り届ける役割を果たしている。研究開発課などいくつかの課が存在し、宝石に関する仕事を分担して行っている。中でも鉱集課の職員は「鉱集人」と呼ばれる花形部署で、省内のみにとどまらず一般人からの認知度も高い、人気職業となっている。また宝石省の職員は宝石の付いたブローチが身分の証となっており、ブローチに付いた宝石の種類によって所属する課がわかる仕組みになっている。
場所
ミズナの国 (みずなのくに)
モルタール大陸の東部に存在する国家。水と自然が豊かな風光明媚な国で、煌気を利用した宝石文明によって発展している。宝石を管理するために宝石省を置き、宝石省が置かれている都市部を中心にして、煌気の恩恵がもたらされている。また、各地には鉄道が敷かれており、機関車による流通網も構築されている。リトスをはじめとして海に面している街も多く、港による交易も活発に行われている。
リトス
ミズナの国の政令指定都市のうちの一つ。ミズナの国の南部、カナン地区に存在する海に面した港町で、交易と漁業で栄えている。特産物は新鮮な海産物。宝石省の支局が存在し、街のほぼ中央には宝石省の省舎と宝石塔が建っており、宝石省から煌気が街中に供給されている。煌気の恩恵に授かっているため、街の至る所に宝石のオブジェクトが存在し、「煌めきの街」とも呼ばれている。
その他キーワード
飛空靴 (たらりあ)
鉱集人の装備の一つ。宝石を利用した靴型の装備で、空高く飛び上がることができる機能が搭載されている。鉱集人の必須装備で、鉱集人はこれを使って空から煌害現象を確認し、宝石の在りかを探す。高くジャンプする機能はセーフティを解除することで使うことができ、ふだんはふつうの靴としても使用可能。使いこなすには相応の訓練が必要で、飛び上がるのに失敗するとあらぬ方向に飛んで行ったり、着地に失敗したりする。
宝石 (ほうせき)
すさまじいエネルギー「煌気」を秘めた神秘の石。地中から岩の塊に入った状態で産出され、地上に現れる。岩の部分は定期的に花弁が開くように割れて、内部の宝石を露出させるため、この現象を宝石省では花が咲く姿に例えて「開花」と呼ぶ。宝石省では鉱集人が集め、その管理を行っている。宝石の産出される場所はある程度、宝石省に予測されており、鉱集人は宝石省が予測した「宝石出現予報図」を基に宝石の探索を行う。宝石のもたらすエネルギーは人々のインフラを支える重要な役割を担っており、人々は宝石を利用した「宝石文明」を築いている。また宝石の種類、品質はそれぞれ違い、種類によって用途も違う。それら用途の研究も宝石省では行われている。
煌気 (こうき)
宝石に秘められているエネルギーの総称。宝石省では「宝石エネルギー」とも呼ばれており、専用の施設で煌気を抽出し、街に供給している。採集される前の宝石は、煌気を外に放出し「煌害現象(アイウォール)」と呼ばれる現象を引き起こす。煌害現象が引き起こされた場所は局所的に嵐が巻き起こるような異常現象が起きており、野生の動物も怖がって近づかないとされる。
ジェムカートリッジ
煌気を動力源として利用する際に触媒となる機械。四角い箱型の機械で、宝石が内部に格納されており、機械の動力源として使われる。ジェムカートリッジの製造は宝石省の技術課が受け持っているが、現在普及しているジェムカートリッジは故障しやすいという欠陥がある。このため、技術課はこの欠点を克服すべく、日夜、改良のための研究を重ねている。
鉱集人 (しーかー)
宝石の採集を専門に行う職業。宝石省の鉱集課に所属する専門職で、宝石を採集する花形職業として一般人からの認知度も高い。人気職業なため、鉱集人になるには厳しい試験を合格する必要があり、鉱集人になれるのはほんの一握りの人間だけとなっている。宝石を採集することを鉱集人は「宝石狩(ほうせきがり)」と呼んでおり、宝石狩は知識だけではなく、高い身体能力も求められるため、必然的に試験では身体能力を試されるものも多い。また例外的に、知識や身体能力がなくても、特殊な技能や能力を持っている場合、特別採用枠として合格するケースがある。宝石省の職員はそれぞれ胸にブローチを付け、それが職員の証となる。ブローチの宝石はそれぞれの課によって違い、鉱集人のブローチにはルビーがはめられている。ブローチは職員の証のほか、セキュリティーの解除鍵となっており、鉱集人にとって重要なアイテムとなっている。
フルオライト
宝石の一種。多彩な色のバリエーションを持つ石で、またの名を「蛍石」。特殊な光線を当てると青く光るのが特徴。割れやすく熱に弱いが、浮力を発生する特性を持ち、飛行機械の動力源に用いられることが多い。純度の高い物ほど、高い浮力を発生する傾向にある。また、弱い浮力しか発生させられないフルオライトは研磨されてレンズとして使われるため、用途の多い宝石となっている。
ロードクロサイト
宝石の一種。ピンクやあざやかな赤い色をした宝石で、山間部に咲くことが多いとされる。硬度が低く、割れやすい。また紫外線にも弱い。宝石の開花時に花弁のような光彩を放ち、甘い香りを漂わせるのが特徴で、古代帝国では「バラの結晶」の異名でも呼ばれる。動力源に使用できるレベルのロードクロサイトはまれで、甘い香りを放つ性質を持つため、主に香水や芳香剤の材料として使われることが多い。ロードクロサイトを使った香水や芳香剤は質がよく、人気があるために最近は偽物も多く出回っている。
ルドロン
長い毛を持つ四足歩行の大型獣。背中から背骨の骨が突き出ているのが特徴で、この骨が大きければ大きいほど強いとされる。また、ルドロン同士では骨の大きさが魅力につながるため、大きい骨を持つルドロンほど、異性を惹きつけるとされている。大型で力が強いため、危険度はそこそこ高い。
ノトック
綿のような体毛を持つ動物。オスには角が生えており、羊に似た姿をしている。広い地域に生息しているが、力は貧弱で単体としての危険度はほとんどない。しかし群れをつくる習性があり、集団で襲われた場合は危険度が跳ね上がるため、注意が必要な動物となっている。
書誌情報
宝石省の新人 全3巻 KADOKAWA〈電撃コミックスNEXT〉
第1巻
(2019-11-27発行、 978-4049128635)
第2巻
(2020-05-27発行、 978-4049131673)
第3巻
(2021-01-27発行、 978-4049136135)