概要・あらすじ
瀬部麟一郎は婚約者のクララ・コトヴィッツとともに、未来世界から来た円盤の墜落事故に巻き込まれる。円盤内にはポーリーン・ジャンセンが事故で気を失って倒れていた。麟一郎は円盤内で愛玩用にヤプーから改造された畜人犬のニューマに衝撃牙で噛まれ、身体の自由を失う。その緩解薬を手に入れるため、クララは麟一郎とともに、ポーリーンの救出に来た大型宇宙船で2000年後の未来の宇宙帝国EHSに向かう。
そこは白色人種は「人間」、黒色人種は「奴隷」、日本人はヤプーと呼ばれる「家畜」とされていた。その旅をする大型宇宙船の中で、麟一郎はヤプーに改造されてしまう。
登場人物・キャラクター
瀬部 麟一郎 (せべ りんいちろう)
23歳の精悍な男。東大法学部卒業後、渡独。西ドイツの大学に留学中。来春、卒業予定。柔道五段。クララ・フォン・コトヴィッツと婚約しており、大学卒業後に日本で挙式の予定。夏休みにクララとともに訪れたタウヌスの別荘で、空飛ぶ円盤の不時着事故に巻き込まれる。シャワー中だったため、全裸で円盤内で失神していたポーリーン・ジャンセンを介抱。 直後に畜人犬のニューマに衝撃牙で噛まれて全身マヒに陥る。全裸だったため、ポーリーンにヤプーと勘違いされ、マヒで抵抗できずにされるがままになる。クララからヤプーでないと教えられたポーリーンに連れられて、ポーリーンの救出に来た大型宇宙船の中で緩解薬を処方されるが、同時にヤプー化もされ始めた。 危険を感じてクララと無理心中を図るが確保され、ついに去勢されてしまう。そして再びクララに会ったとき、その手には麟一郎のペニスで作られた鞭が握られていた。
クララ・フォン・コトヴィッツ (くららふぉんことゔぃっつ)
金髪でショートカットの大学生。両親や兄弟と死別したが、父の遺産と父の友人の庇護があり、裕福な生活をしている。「大学の女王」と呼ばれる馬術部の主将。日本文化にも興味がある。瀬部麟一郎の婚約者で、来春の結婚式を楽しみにしていた。夏休みに麟一郎とともに訪れたタウヌスの別荘で、空飛ぶ円盤の不時着事故に巻き込まれる。 円盤内で気絶していたポーリーン・ジャンセンを介抱するが、畜人犬のニューマに噛まれて全身マヒに陥った麟一郎を人間扱いしない様子に困惑。なんとか麟一郎の治療をしてもらえることになったが、宇宙帝国EHS女王謁見を条件にされた。宇宙船の中でポーリーンから、現代から2000年の未来に至る歴史と文化、なによりヤプーについて教えられ、その思想を理解していく。 麟一郎に無理心中させられかけたが、事なきを得た。その後、去勢された麟一郎を見て、彼をヤプーだと確信。一方で、麟一郎を永遠に愛するという誓いに嘘はないことを確認した。
ポーリーン・ジャンセン (ぽーりーんじゃんせん)
髪の長い女性。侯爵嗣女で地区検事長。休暇中に未来帝国EHSから4世紀のローマまで遊航し、その帰路、乗ってきた円盤の自動航行装置が故障。1961年のドイツ・タウヌスに墜落した。介抱してくれたはずの瀬部麟一郎をヤプーと勘違いして家畜扱いしたため、クララ・フォン・コトヴィッツの不興を買う。 だが、クララの麟一郎を思慕する様子に、ヤプーを愛する心理を「治療」しなければいけないと考えた。麟一郎の治療に同行したいというクララを連れ帰るには許可が必要だったが、女王への土産とする計画を思いつき、クララに女王謁見を持ちかける。交渉が成立し、宇宙帝国EHSに向かう宇宙船の中で、歴史と文化をクララに教える。 救助にやってきた妹のドリス・ジャンセンたちには、クララは事故で記憶を失ったEHS人だと紹介する。麟一郎の治療と同時にヤプー化する処置を指示。またクララの足指が前史人の特徴である5本なのを秘密裏に手術して4本に。EHSの思想を受け入れたクララに、ヤプーとなった麟一郎の飼い主となる手続きを受けさせた。
ドリス・ジャンセン (どりすじゃんせん)
ポニーテールの女性。ポーリーン・ジャンセンの妹。10代のスポーツ狂でペガサフ・ポロの選手。オリンピックの五種競技を目指している。事故に遭ったポーリーンの救助にやってきた。ヤプーとなった麟一郎の反抗的な態度に興味を抱き、自分のものにしたいとクララに申し出る。 クララに断られたものの、諦めきれないでいる。
ウイリアム・ドレイパア (ういりあむどれいぱあ)
長髪を襟足でまとめている男。ポーリーン・ジャンセンの義理の弟。姉がポーリーンの兄、セシル・ドレイパアの妻。宇宙帝国EHSでは男性が女性化しており、彼は無骨なことが好きなために「おてんば青年」と呼ばれている。クララ・フォン・コトヴィッツが前史人だと気付いたことをクララ本人に明かし、ヤプーの意義について語った。 自身が行動的なため、前史人のクララの控えめなところに惹かれる。
セシル・ドレイパア (せしるどれいぱあ)
髪をお下げにしている、すこしふくよかな男性。ポーリーン・ジャンセンの兄で、家畜文化史を専攻する学者。妻のメアリ・ドレイパア伯爵は、遊星間戦争競技会のカルー代表にも選ばれた人物とのこと。瀬部麟一郎を裸にしておくと病気になるかもしれないと、皮膚強化処置を提案。この処置が麟一郎のヤプー化処置の第1歩だった。 さらに、無理心中を企てて失神していた麟一郎を、ポーリーンは予備檻に入れるように指示したが、特別室に送らせて去勢させてしまう。独断で麟一郎をヤプー化した形になったため、飼い主となるクララ・フォン・コトヴィッツにお詫びとして一晩で麟一郎のペニスを鞭に仕上げてプレゼントした。
その他キーワード
宇宙帝国EHS (うちゅていこくいーす)
『家畜人ヤプー』の用語。The Empire of Hundred Sunsの略称。The British Universal Empireとも。1977年に出発したイギリスの光速宇宙船「栄光号」は、アルファ・ケンタウリ星圏に人類が居住可能な遊星テラ・ノヴァを発見。1987年に地球に帰還したが、1978年に勃発した第3次世界大戦における共産圏への熾烈な核攻撃と、白人にとって致命的な細菌兵器により、地球は壊滅的な状況だった。 帰還した船長たちにより、女王と選りすぐりの1000人の白人が宇宙へ移住。この千人の末裔が、現在の大貴族となっている。3年後に10万人が宇宙へ旅立ち、1993年にテラ・ノヴァのトライゴンでテラ・ノヴァ女王国が誕生した。 さらに移住を進めようと光速宇宙船船団が地球に戻ると、世界は黒人が支配していた。宇宙船乗組員の最新兵器により黒人は蹂躙され、黒人20万人が奴隷として宇宙に運び出された。一方、日本人は共産圏ではないため全滅は免れていたが、放射能汚染のため国土を捨てて黒人の奴隷として生き延びていた。 そんな日本人の存在を知った当時の司令部により、独立国「邪蛮」が設立された。現在は事実上ヤプーの繁殖地となっている。その後、EHSと改称し、1600年ほど前にシリウス圏第八遊星カルーのアベルデーンに首都が移された。現在は数百の遊星領を持ち、大貴族1000家族とその10倍の小貴族がその10万倍の平民を統治し、これら白人の100倍の黒奴と、黒奴の数百万倍のヤプーがいる。 標準語は英語。ただ、ヤプーに対する命令用として日本語が残っている。
畜人犬ニューマ (やっぷ・どっぐ)
『家畜人ヤプー』の用語。宇宙帝国EHSでは一般的な犬。這う習慣をつけさせた短脚ヤプーから生み出されたヤプーの変種。前史時代の旧犬は動物園で見られるだけで、現在はこの畜人犬が愛玩動物の王者となっている。貴族社会では、ネアンデルタール人を生け捕って改造した古石器時代人狩猟犬(ネアンデルタール・ハウンド)が人気。 ヤプーの原形を留めた素朴さがウケている。また、人工の犬歯の衝撃牙も装備されるので、ヤプー狩りなどにも最適である。生産地としては子犬座α星第二遊星フンデ星が有名。
ヤプー
『家畜人ヤプー』の用語。宇宙帝国EHSでの黄色人種の総称。知性のある家畜という認識がなされている。テラ・ノヴァ女王国が地球を再征服した際に行われた黒人の奴隷化にともない、その奴隷であった黄色人種を類人猿の一種とする俗説が政策的に流布された。それによって人権意識や両親の呵責から逃れた研究者たちによって、ヤプーと呼ばれる黄色人種の奴隷化・家畜化が進行。 さらに、23世紀末に発表された『家畜人の起源』で示された、黄色人種はホモ・サピエンス(知性人類)とは異なるシミアス・サピエンス(知性猿猴)であるという学説が、ヤプーの家畜人化を後押し。生体縮小機、読心装置、染色体手術が登場して、ヤプーはあらゆる産業で利用されるようになった。 有魂機械の部品として産業を支え、肉便器などの生体家具として各家庭に配置され、皮革ヤプーや食用ヤプーも活用されている。現在の宇宙帝国EHSの衣食住はヤプーなしには考えられない。現在は地球にあるヤプン諸島(旧日本列島)に邪蛮という国家が置かれて、一億人の土着ヤプーが暮らしている。 加工用の原ヤプーの補給源とされているが、土着ヤプーを貴族が鞭打って原ヤプーに再教育する楽しみのために残されている側面もある。また、過去の地球で旧ヤプーを狩る貴族もいる。ヤプーの呼称の起源には定説がない。類人猿(エイプ)がヤップになりヤフーとなった、ヤマト・ピープルまたはイエロー・ピープルの頭文字YPをそう読んだ、『ガリヴァー旅行記』の家畜人類「ヤフー」から採った、ドイツ系の将校がJapanをヤパンと発音していた、などの説がある。