あらすじ
第1巻
母親のいない松島彰吾は、父親・松島守が仕事の都合でアメリカに転勤となってしまった事から、父親の親友であるチャールズが経営する小山荘に下宿する事になる。小山荘という古めかしい名前とは裏腹なかわいらしい外見のその下宿には、チャールズと妻の七美・グラント、千夏・ダナ・グラントのほかに、桜井さん、高浜美奈とその息子・高浜繭良、太田さん、細川さん、エリオット・F・チェンバレン、斎藤麻里、そして高橋成介が住んでおり、彰吾は成介と相部屋になる。成介は彰吾と同じ高校の同じクラスでもあり、席もとなり同士だったが、彰吾と相部屋である事を嫌がり、冷たい態度を取る。しかし同じクラスには、かつて同じ中学に通っていた北原慶彦もおり、そのうえ、麻里の双子の姉である斎藤安古はとなりのクラスで、彰吾は明るくて快活な安古にたちまち惹かれてしまう。演劇部に所属する慶彦の誘いを受けて舞台を見に行った彰吾、安古、成介は、慶彦の女優っぷりに感銘を受ける。彰吾は、成介のぶっきらぼうな物言いは素直になれないからであり、根は悪いヤツではないと気づき打ち解けていくが、そんな中、学校の噂で成介が有名な建築家が愛人に産ませた私生児である事を知る。
第2巻
高橋成介の出生の秘密を知った松島彰吾は、成介がいつも部屋で建築のデザイン画を書いている事に思い当るが、なにも言わずに見守る事を決意する。桐島高校ではクラス対抗の競技大会が開催され、斎藤安古が担任である奥田豊弘を好きだと知った彰吾は、安古の思いを見守る。そして北原慶彦は、桐島高校の文化祭に遊びに来た千夏・ダナ・グラントを好きになってしまうが、千夏は彰吾に思いを寄せていた。また斎藤麻里は、成介に対して思いを寄せながら、素直になれずにいつも憎まれ口を叩いてしまう。ある日、熱を出して学校を休んだ彰吾は足がふらついて成介の持ち物をひっくり返し、成介の父親・板垣勝己からの手紙が入った引き出しをぶちまけてしまう。成介は一時は誤解したものの、彰吾がわざとやったわけではない事を信じる。そんな中、骨折で入院した奥田の見舞いに行った安古と彰吾は、病室で奥田の婚約者の女性と会い、安古は失恋してしまう。彰吾はそんな安古に気の利いた言葉を掛ける事ができなかった。一方で麻里は、成介に渡すバレンタインのチョコレートを用意していたが、ほかの女子から山ほどチョコレートをもらった成介に対して素直になれずにいた。
第3巻
太田さん、細川さんが就職して小山荘を出て行った事で、松島彰吾はその部屋に移る事を勧められるが、高橋成介との同居生活をやめたくないとも思っていた。しかし彰吾は、素直にその気持ちを打ち明ける事はできず、成介もまた彰吾が決める事だと無関心を装う。結局二人は同居を続ける事を決め、空き部屋には成介のモデル仲間の篠崎聡が入居する事になる。春になり、2年生に進級した彰吾、成介、北原慶彦、斎藤安古は同じクラスになる。そして桐島高校に転校して来た聡もまた、同じクラスになった。聡は積極的にモデル活動をしており、アルバイト禁止の桐島高校で問題にされるが、瀬戸井先生をうまくごまかしてその場を切り抜けるのだった。そんな中、仕事で近くまでやって来た成介の父親・板垣勝己が成介に会いたいとコンタクトを取って来る。無視を決め込む成介に対して強引に約束を取り付ける勝己に、二人のあいだを取り持つ形になってしまった彰吾は翻弄される。夜になって亡くなった母親の命日だった事を思い出した成介は、彰吾と共に墓参りに行くが、そこには勝己の姿があった。彰吾は席をはずし、成介と勝己はようやく二人だけで腹を割って話をするのだった。
第4巻
奥田豊弘の結婚発表に斎藤安古はショックを受けるが、その事を表には出さずに明るく振る舞っていた。そんな安古をいじらしく感じた松島彰吾は彼女に好きだと伝えるが、一方の安古はこれを単なる慰めの言葉だと解釈し、二人の関係は依然として友達のままだった。一方、篠崎聡はモデルとして活躍の場を広げるあまり新聞に写真が載ってしまい、3日間の停学処分を受ける事となる。落ち込む聡を元気づけようと、お土産を買って帰って来た彰吾と高橋成介だったが、聡が斎藤麻里となかよくしている場面を見た成介は、嫉妬のあまり嫌味を言ってしまう。麻里もまた意地を張ってしまい、成介のために作ったクッションを渡せないでいた。しかし、普段は気難しいながらも時おり見せる笑顔に、成介の事を憎めない気持ちになった麻里はクッションをプレゼントし、成介は表に出さないながらも、心の中で喜ぶのだった。一方、彰吾は安古への思いを胸に秘めつつ、奥田の結婚式で一人でこっそり涙を流す安古を慰める。
第5巻
急激な腹痛に襲われた松島彰吾は病院に担ぎ込まれ、急性盲腸炎として手術を受ける。大病を患ったと勘違いしたチャールズは彰吾の父親・松島守に連絡してしまい、守は慌ててニューヨークから駆けつけるが、彰吾の無事を知り安心して再びニューヨークへ戻っていった。後日、高橋成介の父親・板垣勝己が成介を訪ねて来た事に気を利かせた彰吾は、篠崎聡の部屋で夜を過ごしそのまま寝てしまう。詳しい事情を知らないながらも、勝己が成介の父親だと気づいた聡がその事を尋ねると、出生の事で神経質になっている成介は彰吾が守を呼んだものと誤解して、彼の事を殴ってしまう。しかも成介と勝己の秘密の会合は写真週刊誌に載り、世間の耳目を集める事となるが、聡や斎藤麻里は成介の複雑な家庭環境に気づきながらも、黙って見守る事を決意していた。そんな中、麻里の事を好きになりかけていた聡は、成介を思う麻里に対して失恋の気持ちを味わう。一方、麻里と聡の仲を誤解した成介だったが、風邪を引いてしまった麻里を見舞い、好きだと打ち明けてキスをする。
第6巻
モデルスタジオでスカウトされた松島彰吾は、報酬に目がくらんでそれを引き受け、さっそくローンでほしかったビデオデッキを購入してしまう。モデルの仕事は簡単ではなかったが、既にお金を使ってしまった彰吾は苦労しながらもなんとかやり遂げる。一方、斎藤安古は、彰吾からの告白の言葉を嬉しいと感じていたが、彰吾が誰にでも優しい事や、後輩の女の子から慕われている事を知って、複雑な気持ちを抱えていた。同時に篠崎聡は、高橋成介と斎藤麻里が付き合い始めた事にショックを受ける。そんな中、夏休みの休暇で小山荘を訪れた松島守は、ワゴン車をレンタルして彰吾、成介、聡、北原慶彦、安古、麻里、千夏・ダナ・グラントを連れて海水浴へ行く。楽しく過ごす一同だったが、そこで彰吾は千夏から気持ちを打ち明けられる。千夏の気持ちを知って返答に困る彰吾に対し、千夏は強がりながらも涙を見せる。小山荘に戻ってからも落ち込む千夏を、慶彦が誘いにやって来る。千夏の気持ちを知った慶彦はショックを受けながらも、彼女を慰めるのだった。その後、夏休みも終わり、守はニューヨークへ戻っていき、新学期が始まる。そこで、彰吾のポスターが街中に貼られている事が発覚する。
第7巻
松島彰吾らは九州へ修学旅行に向かう新幹線の中で、板垣勝己の息子・板垣佑平に偶然出くわしてしまう。高橋成介にとって義理の兄弟にあたる佑平は、九州で再び顔を合わせた際も、成介の事を目の敵にする。一方で佑平は、成介が母親を亡くしてから一人で暮らしている事を気にしていた。お互いの存在が気になっていた二人は、修学旅行の夜に抜け出し、それぞれの思いを語り合う。そして佑平は、母親がいながら別の女性と浮気をし、自分と同い年の子供を作っていた父親の事を許せない時期もあったが、今は母親も自分も成介の存在を認める気持ちになっている事を打ち明けるのだった。一方、彰吾は自由行動を斎藤安古と共に過ごす事を約束していたが、ケガをしたクラスメイトの女子を放っておけず、安古との約束を破ってしまう。しかし事情を知った安古は、そんな優しい彰吾の事が好きだと気持ちを打ち明ける。こうして二人は互いの思いを通じ合わせる事となったが、松島守が帰国して仙台支社を任される事が決まり、彰吾は小山荘を出る事になってしまう。
登場人物・キャラクター
松島 彰吾 (まつしま しょうご)
16歳の男子高校生。父親がアメリカ転勤となり、父の親友が経営する小山荘に下宿し一人暮らしをするはずだった。しかし相部屋となり、2号室で同い年の男子高橋成介と同居生活を送る羽目になる。成介の通う桐嶋高校1年F組に転入した。中学のころは陸上部で、桐嶋高校でも陸上部に入部した。 母は故人で、父との二人暮らしが長かったので料理は得意。やさしく、温厚な性格。引っ越し初日に偶然出会った斎藤安古を好きになる。
高橋 成介 (たかはし せいすけ)
16歳の男子。桐嶋高校1年F組。切れ長の目に低い声の持ち主。物静かで、一見とっつきにくい。背が高く見栄えがいいので、モデルのアルバイトをしている。他人に干渉されることを嫌っているので、小山荘の2号室にて松島彰吾と同居生活を送ることになっても、彰吾となかなか打ち解けようとしない。 建築デザインの仕事を目指していて、暇があれば建築の図面を描いている。著名な建築家の私生児だという噂があるが真偽は不明。コーヒーが苦手で飲めないなど、ほほえましい一面もある。
北原 慶彦 (きたはら よしひこ)
16歳の男子。桐嶋高校1年F組。演劇部に所属。松島彰吾とは中2の時に同じクラスだったが、彰吾が桐嶋高校に転入してきたことで再会した。明るくおちゃらけた性格。演劇が大好きで、一度女装してお姫様役を演じたところ大好評となり、次々と女性役を演じる羽目に。小山荘の大家の娘千夏のことを好きになる。
斎藤 安古 (さいとう あこ)
16歳の女子。桐嶋高校1年E組。黒髪のショートカットにすらりと伸びた脚が印象的。料理クラブに所属。斎藤麻里とは二卵性双生児で、安古が姉。麻里に会いにしょっちゅう小山荘に来ているので、住人たちとは親しい。彰吾や成介たちとも仲良くなり、料理クラブでつくったお菓子や料理を彼らにおすそわけしてくれる。 1年F組担任の奥田先生に密かに恋している。
斎藤 麻里 (さいとう まり)
16歳の女子高校生。栗色のふわりと柔らかい髪が印象的。小山荘の3号室の住人。斎藤安古とは二卵性双生児で、麻里が妹。姉妹で通う学校が違うので、麻里の方だけ下宿している。小山荘の2号室に住む男子高校生高橋成介のことが好きだが、面と向かうと意地を張ってしまい、つい冷たい態度を取ったり憎まれ口を言ってしまう。
奥田 豊弘 (おくだ とよひろ)
桐嶋高校勤務の若い男性教師。松島彰吾がいる1年F組の担任。彰吾が入部した陸上部の顧問でもある。さわやかな物腰で、生徒からの人気は高い。大学時代の同級生の加代子という婚約者がいる。
千夏・ダナ・グラント (ちなつ・だな・ぐらんと)
中学2年生の女子。小山荘の大家チャールズ家のひとり娘。父はアメリカ人で母が日本人なのでハーフだが、生まれた時から日本で暮らしているため、感覚はほとんど日本人。髪はあめ色。瞳は少し青みがかった茶色。松島彰吾のことが好きだが、親同士が親友なので小さいころから顔見知りだったため、彰吾からは異性として全く意識されていない。
エリオット・F・チェンバレン
イギリス人青年。小山荘の1号室の住人。他人から「糸の切れた風船」と呼ばれるほど軽薄で軟派な性格。職業はカラーコーディネーター。松島彰吾のことを気に入り、からかい半分で、抱きついたり愛の言葉をささやいたりと、求愛行動を繰り返す。
高浜さん (たかはま)
小山荘の5号室の住人。モデルクラブの支社長を務める妖艶な女性。繭良(まゆら)というまだ小さな息子がいる。夫はすでに故人。高橋成介は彼女の会社に所属して、モデルのアルバイトをしている。
桜井さん (さくらい)
小山荘の4号室の住人。口ひげを生やした渋い外見の男性。個人タクシーを経営している。離婚歴があるらしい。
太田さん・細川さん (おおたさん・こまがわさん)
小山荘の6号室に同居している短大生の二人組。太田さんは丸顔で小太りの男性。細川さんはメガネでやせたのっぽの男性。スケベで大学生らしい軽薄さだが、二人ともデザイン関係に就職でき、小山荘を出て行った。
篠崎 聡 (しのざき さとし)
高校生の男子。高橋成介と同じく高浜さんの会社でモデルのアルバイトをしている。空き部屋となった小山荘の6号室に入居してきた。引っ越しと同時に桐嶋高校へ転入し、彰吾や成介たちとクラスメイトになった。近眼なのでふだんはメガネをかけている。ウェーブのかかった黒髪が特徴的。 小山荘の3号室に住む女子高校生斎藤麻里のことを好きになる。
チャールズ
アメリカ人。下宿小山荘の家主で、本業は貿易業。妻は日本人の七美。娘の千夏は中学2年生。メガネにひげをたくわえ小太りだが、愛嬌のあるかわいらしいおじさん。松島彰吾の父松島守とは親友で、一人暮らしする必要に迫られた彰吾を小山荘へ迎え入れた。 西洋人らしいオーバーな感情表現で、新しい環境に緊張していた彰吾をあたたかく受け入れた。
松島 守 (まつしま まもる)
松島彰吾の父親。17歳のときに彰吾が産まれたので、まだ34歳と若い。妻の佐和子は彰吾が小学3年生の時に亡くなった。アメリカへ転勤となり、親友のチャールズが経営する小山荘へ彰吾を下宿させた。息子のことを少々過剰に溺愛している。イギリス人青年エリーが彰吾にやたら馴れ馴れしいので、彼を敵視している。
瀬戸井先生 (せこいせんせい)
桐嶋高校勤務の女性教師。38歳。口うるさく生徒を管理しようとするので、生徒からは恐れられている。校則を破って密かにモデルのアルバイトをしている高橋成介や篠崎聡にとって用心すべき存在。
場所
小山荘 (こやまそう)
『小山荘のきらわれ者』に登場する、神戸に建つ下宿。名前は大家チャールズの妻の旧姓からとった。名前とはイメージの違うモダンな洋風建築。1階は喫茶店「リトル・マウンテン」で、2階が大家一家の住居。裏の別館が下宿となっている。2階建てで各階ごとに3部屋ずつ、計6部屋ある。