概要・あらすじ
カイン・C・ハーグリーヴスは名門であるハーグリーヴス伯爵家の子息でありながら、その生い立ちはあまり幸福なものではなかった。子供の頃は、毒を飲み錯乱した母親に殺されかけ、母親の死後は父親であるアレクシス・ハーグリーヴスに虐待されていた。毎晩のようにアレクシスにムチで背を打たれるも、彼を信じて従っていた。だが、アレクシスが自分を憎んでいると知ったカインは、ついに自分を殺そうとしたアレクシスに反撃する。
アレクシスが瀕死のまま行方不明になると、カインは13歳という若さで爵位を継ぐこととなった。その後、カインは心の傷を癒すため、毒薬収集に興味を持ち、いつしかそれが難事件解決の糸口となっていく。
登場人物・キャラクター
カイン・C・ハーグリーヴス
父親であるアレクシス・ハーグリーヴスの死後、わずか13歳で後見人のもとハーグリーヴス伯爵家を継いだ。美形の少年で、金色がかった緑の瞳をしている。毒薬集めを趣味にしており、その知識が事件解決の役に立っている。エピソード「吊られた男」にて自分に異母妹がいることを知る。異母妹のマリーウェザー・ハーグリーヴスが母親や友人を亡くした後、マリーウェザーを守ると誓い、ハーグリーヴス家へ迎え入れた。 マリーウェザーが会いたがっていた友達を探すことに尽力するなど、妹思いの一面もある。
リフェール
カイン・C・ハーグリーヴスの執事。元は医学生だったが、家が破産してしまい退学した。その後、ハーグリーヴス家に雇われる。雇われた直後にカインと出会い、カインの父親であるアレクシス・ハーグリーヴスの命でカインの執事となる。
マリーウェザー・ハーグリーヴス (まりーうぇざーはーぐりーゔす)
勝気で愛らしい少女で、実はカインの異母妹。かつて、ハーグリーヴス家に仕えていたアレグラ・デュークの娘でハーグリーヴス家の紋章入りのブレスレットを持っていた。ハーグリーヴス家の人間に母親が殺されたと思い込み、かつてはカイン・C・ハーグリーヴスを恨んでいたが、「吊られた男」の事件が解決した後は、ハーグリーヴス家の住人となる。 ハーグリーヴス家に来てからは、カインとは仲がいい。
エリク
ハーグリーヴス家に迎えられる前のマリーウェザー・ハーグリーヴスの友人。マリーウェザーがタロット占いをして客の気を引いている隙に、客から財布など金目の物をすり盗っていた。アレグラ・デュークが亡くなった後は、マリーウェザーのことをずっと守ると約束した。
ランドー警部 (らんどーけいぶ)
カイン・C・ハーグリーヴスが落とした財布に毒針が仕掛けられており、たまたまそれを拾った男性が即死した事件に関して、カインに話を聞きにきた。カインが毒のコレクターだと知っていることから、嫌味を言う。
バージェス
ランドー警部の弟で、コネで警官になった。現在はランドー警部の部下として働いている。カイン・C・ハーグリーヴスの財布に毒針が仕掛けられていた件でランドー警部がハーグリーヴス家にやってきた際、共に訪問。ランドー警部の指示で、カインを監視する。
アレグラ・デューク (あれぐらでゅーく)
マリーウェザー・ハーグリーヴスの母親。10数年前にハーグリーヴス家でメイドとして仕えていた。嫉妬深い男と結婚し、その男から逃げるためにハーグリーヴス家へ来たが、アレクシス・ハーグリーヴスと愛し合ったため、半年ほどで辞めさせられた。とても霊感が強く、よくタロット占いをしていたが、他人の運命を覗くことはできても自分のことは予知できない。 レプラカンの毒により、マリーウェザーを残して死んでしまう。
アレクシス・ハーグリーヴス (あれくしすはーぐりーゔす)
カイン・C・ハーグリーヴスの父親。息子のカインを殺したいほど憎んでおり、お前のためだと言い聞かせながらカインの背にムチを打つなどの虐待を行っていた。自身の姉であるオーガスタの写真を常に持ち歩いている。毒を盛られたが瀕死の状態のまま崖から飛び降り、現在は行方不明となっている。
オーガスタ
カイン・C・ハーグリーヴスの伯母にあたる女性。アレクシス・ハーグリーヴスの姉で、10年以上も前から気が狂ってしまい、美しいと言われていた黒髪は今ではすべて真っ白になっている。カインが会いに行った時も初めは優しかったが、途中で錯乱してしまう。
レノラ・ハーグリーヴス (れのらはーぐりーゔす)
アレクシス・ハーグリーヴスの妻でカイン・C・ハーグリーヴスの母親。毒を飲んで錯乱し、鎌を持って息子であるカインに襲い掛かった。死ぬ前に自分がこんな目にあったのもカインのせいだと言い放つ。
ランバート教授 (らんばーときょうじゅ)
若くして有名大学教授になった青年。貴族出身である妻と政略結婚をして婿養子となり大いなる財力を得たが、その立場ゆえに妻にはあまり口出しできずにいる。銃の腕前は確かで、兎撃ちの名手。エルシー・ロヴィンスが亡くなる前にタイピンをなくしていた。
エルシー・ロヴィンス (えるしーろゔぃんす)
カイン・C・ハーグリーヴスがランバート教授と会うため屋敷へ向かっている途中に見つけた10歳の少女で、その時すでに殺されていた。生前は小鳥のように愛くるしく、みんなから可愛がられていた。とある秘密を持っており、毎週木曜日5時の鐘が鳴るとイブニングプロムガーデンへと消えていた。マリーウェザー・ハーグリーヴス(マリー)が母親と共に各地を転々としていた際に出会って親しくなったが、その後は離れ離れになりマリーは今もエルシー・ロヴィンスにとても会いたがっている。
ジョニー・ボーイ (じょにーぼーい)
エルシー・ロヴィンスの友達の少年。エルシーが、毎週木曜日にイブニングプロムガーデンへ行くことを知っており、エルシーはそこで何か悪いことをしていて黒い天使に裁かれたのではないかと考えている。友人たちとよく「誰が駒鳥殺したの」を歌いながら葬式ごっこをしており、エルシーがこまどり役の時はすずめの役で、鐘の音の合図と共にエルシーに向けて空砲を撃った。 船の船長になるという夢を持っている。
リネット
エルシー・ロヴィンスの友達の少女。エルシーが亡くなる前、一緒に「誰が駒鳥殺したの?」を歌いながら葬式ごっこをしていた。エルシーの死後、エルシーを殺したのは黒い天使の仕業だと訴えていたが、その後たいまつで頭を殴られて殺されてしまう。死体の側には血で「Linnet」と書かれていた。
アレックス
エルシー・ロヴィンスの友達の少年。エルシーが亡くなる前、一緒に「誰が駒鳥殺したの?」を歌いながら葬式ごっこをしていた。エルシーが亡くなった後、目隠しをされた状態で殺されてしまう。死体の側の岩には血で「FLY」と書かれていた。
黒い天使 (くろいてんし)
黒いコートに黒い帽子をかぶった長身の紳士で、エルシー・ロヴィンスが亡くなる2、3日前に、エルシーの周辺をうろついていた。何者かは不明で、その見た目からエルシーの友人の子供たちからは「黒い天使」と呼ばれていた。リネットはエルシーの死を黒い天使の仕業だと思っている。
牧師 (ぼくし)
エルシー・ロヴィンスの祖父。悪しき行いをすると黒い天使が降りてきて罰を与えると子供たちに語っていた。エルシーが亡くなった時、死体の近くにスコップやろうそくが落ちていたのを見て、何かに気づく。
アリスタ
ランバート教授の妻。カイン・C・ハーグリーヴスのことを快く思っておらず、カインがランバート教授の屋敷を訪れた際、カインにお茶を出しながらも、人の命を奪う恐ろしい毒を集めるなんてまともな神経では考えられないと嫌味を言っていた。婿養子であるランバートに対しては、彼が口を出さないのをいいことに見下した態度を取っている。
グラディス・クレアリリー・メリル (ぐらでぃすくれありりーめりる)
1ヵ月前に結婚したばかりの新妻。交通事故で両親を亡くしており、そのショックから10歳以前の記憶をなくしている。子供の頃は孤児院で育ち、その頃にラドクリフ・メリルと出会ったものの、すぐに別々の家へ引き取られた。しばらくぶりに再会し、ラドクリフと結婚する。ある日、深い眠りに落ちた後に、マザーグースの「アーサー王のプディングの唄」を聞き、激しい頭痛で目を覚ますとベッドの上に血のついたケーキナイフが落ちていた。 そのため、自分は毎夜、夢遊病者になって、無意識のうちに人を喰い殺しているのではないかと怯えている。ラドクリフには相談したが信じてもらえずにいる。その後、上流階級のパーティに参加し、そこで出会ったカイン・C・ハーグリーヴスに、部屋に泊めてくれるよう頼む。
ラドクリフ・メリル (らどくりふめりる)
グラディス・クレアリリー・メリルの夫。子供の頃に孤児院で育ち、そこでグラディスと出会う。その後は上流階級のメリル家に引き取られ、平凡ながら不自由なく暮らしていた。メリル家に引き取られてからしばらくしてグラディスと再会し、1ヵ月前に結婚。不眠症で睡眠薬を飲んでおり、一度眠ると朝まで目覚めない。グラディスから、自分が夢遊病者になって、無意識のうちに人を喰い殺しているのではないかという話を聞かされても、信じようとしなかった。
フェザーストーンフォー
10数年前、表向き紳士の会合でありながら、麻薬や売春宿まがいのことをやっていたクラブの会長を務めていた。その当時、10歳前後のキレイな子供ばかりを連れてきてはとびきりのおしゃれをさせ、クラブで紳士たちによからぬことをさせていた。その地下クラブでは子供たちに熾天使という中毒性のある毒を与えて逃げられないようにしていた。 過去の「プラム・プディング事件」において死亡している。
メレディス
新たに発生した、人が腹を裂かれて殺されるという謎の殺人事件の第一の犠牲者。10数年前、フェザーストーンフォー氏が会長を務めているクラブの会員だった。当時の「プラム・プディング事件」の時はたまたま欠席していたため難を逃れている。
ルード
新たに発生した、人が腹を裂かれて殺されるという謎の殺人事件の第二の犠牲者。10数年前、フェザーストーンフォー氏が会長を務めているクラブの会員だった。当時の「プラム・プディング事件」の時は偶然欠席していて難を逃れている。インドに行っていたが、ロンドンへ戻ってきた際に今回の事件に巻き込まれた。
シグリッド・エア (しぐりっどえあ)
かつてフェザーストーンフォー氏の屋敷でメイドとして仕えていた女性。「プラム・プディング事件」の第一発見者で、当時は15歳だった。今はロンドンで一人暮らしをしている。「プラム・プディング事件」の時、立入禁止と言われていた部屋から悲鳴が聞こえたため、夢中で飛び込み大量の死体と一人だけ生き残った子供を目撃した。
アンドール
カイン・C・ハーグリーヴスのいとこ。ハーグリーヴス家の宝物庫の骨董品を、メイドのサビーナにこっそり持ち出させては横領していた。その現場に現れたカインによく似た少年に横領の現場を目撃されたと思い、殺してねずの木の下に埋めてしまう。
サビーナ
ハーグリーヴス家のメイドのうちの一人。カイン・C・ハーグリーヴスを直接世話ができたのは数人のメイドと執事のリフェールのみだったため、雇い主であるカインの顔を知らなかった。アンドールと愛し合っており、アンドールのためにハーグリーヴス家の宝物庫の骨董品を持ち出していた。アンドールに婚約者がいたことは知らない。 アンドールがカインを殺したのだと思い込んでいたため、カインが生きて現れるとひどく動揺していた。
マーゴット
アンドールの婚約者で、王族の血をひいている。アンドールとは5年前から付き合っており、彼から手紙が届くとすぐに会いに来た。アンドールがサビーナと関係していることは知らない。
イベント・出来事
プラム・プディング事件
11年前に起きた、会長のフェザーストーンフォー氏を含む、その場にいたクラブの会員全員が腹を喰い裂かれて殺された大量殺人事件。現場にはプラム・プディングの残り皿が発見され、この名が付いた。首にアザのある子供がその事件の唯一の生存者で、メレディスとルードはこの日たまたま欠席していて難を逃れた。クラブの会員には貴族が多かったため、スキャンダルを嫌った貴族たちが圧力をかけ、この事件はうやむやになった。
その他キーワード
レプラカン
エピソード「吊られた男」に登場する。ハーグリーヴス家の華やかな栄誉の裏で行われた、暗殺や自殺に使われた白い結晶。これを持っているのはハーグリーヴス家の人間のみである。この毒を服用すると、血を吐いてすぐに死んでしまう。
誰が駒鳥殺したの? (だれがこまどりころしたの)
マザーグースの歌のひとつ。「誰が駒鳥殺したの? 私と雀が言いました。私の矢で私が殺した。誰が駒鳥死ぬのを見たの? 私と蠅(フライ)が言いました。誰がたいまつ持つのかい? 私と紅雀(リネット)が言いました」という歌詞。作中ではこの歌になぞらえて殺人が行われている。
アーサー王のプディングの唄 (あーさーおうのぷてぃんぐのうた)
マザーグースの歌のひとつ。「この国治めたアーサー王。ごりっぱなアーサー王。プディングを作ろうとわり麦3ペック盗んだよ。王様プディングお作りあそばす。ほしぶどうたっぷりつめ込んで。おまけに親指2本ほど脂の大きなかたまり入れた。王様お妃それを食べた」という歌詞である。2晩続けて人が腹を裂かれて殺される事件が起きており、逃げた犯人は長い銀髪でアーサー王のプディングの唄を歌っていた。 また、殺された人の部屋には1個のプラム・プディングが落ちていたという符号がある。過去、フェザーストーンフォー氏が会長を務めていたクラブにおいても、この唄がよく歌われていた。
熾天使 (せらふぃむ)
フェザーストーンフォー家に代々伝わる毒薬。人の中枢をマヒさせ、人格を破壊して本能のみの動物と化す。麻薬のごとき強力な習慣性で一度取り憑かれるとこれなしでは生きられなくなる。フェザーストーンフォー氏は地下クラブで子供たちにこの毒物を与えて逃げられないようにしていた。この毒に蝕まれると長くは生きられない。
関連
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