概要・あらすじ
時は幕末期、自分が忍者集団「鈴鹿衆」の末裔であることを知った孤児の少年・風太は、両親の仇への復讐を誓い、忍術と剣法の修行に励む。忍者としての腕を上げた風太は、仲間の助けを借りながら次々に難敵を倒していくが、自身も瀕死の重傷を負って姿を消す。やがて3年が経ち、京に姿を現した風太は、見違えるようにたくましい一人前の忍者に成長していた。
そして風太の前には、かつての剣の師匠である土方歳三が宿敵として立ちはだかるのだった。
登場人物・キャラクター
風太 (ふうた)
鈴鹿衆の血を引く忍者の少年。虫と遊ぶのが大好きで、足の速さが自慢、学問は大の苦手、といういたずら盛りの男の子。両親の仇を討つために忍者修行に励み、剣法は土方歳三に師事する。のちに成長して京に上り、勤王派の味方となって暗躍する。
風太の父 (ふうたのちち)
風太の実の父親。八百屋の主人として一家の生計を支えている。毎日もくもくと働く真面目な商売人だが、勉強嫌いな風太をせっかんするほどの厳格さを持っている。一見、市井の町人を装っているが、正体は鈴鹿衆一族の忍者。風太が忍者として生きることが決まった日に斬殺される。
風太の母 (ふうたのはは)
風太を生んだ実の母親。家業の八百屋で夫を支えながら働く女性。風太には優しく接することもあるが、いつも夫を立てて風太へのしつけは厳しくしている。一見、平凡な八百屋のおかみさんだが、正体は鈴鹿衆一族の忍者。風太が忍者として生きることが決まった日に斬殺される。
知恵 (ちえ)
鈴鹿衆に属する忍者の少女。幼い頃から牙波羅に忍者として育てられたため、男まさりで勝ち気な性格。子供ながらに鈴鹿衆独自の、鳥を利用した忍術を自在に使いこなす腕前を誇る。風太の盟友となって彼を助ける。
牙波羅 (げばら)
鈴鹿衆に属する忍者の中年男性。多摩地方の山中に住んでおり、手下に忍術の指導をしている師範。孤児となった風太を引き取り、鈴鹿衆忍者として育てた。冷酷な性格で、鈴鹿衆の再興を悲願としており、その実現のためには手段を選ばない。
土方 歳三 (ひじかた としぞう)
試衛館に所属する剣の達人の男性。我が強い性格のために、仲間としばしば対立するが、近藤勇には一目置いている。風太を弟のように思っており、剣の師匠として厳しく指導する。のちに京に上り、新撰組の副長となる。実在の人物、土方歳三がモデル。
近藤 勇 (こんどう いさみ)
試衛館の代表で師範役の男性。田舎侍丸出しな風体の気さくな性格で、人脈が広く、仲間からも慕われている人格者。知人である牙波羅の依頼で風太の面倒をみる。のちに京に上り、新撰組の局長となる。実在の人物、近藤勇がモデル。
沖田 総司 (おきた そうじ)
試衛館に所属する青年の男性。道場内では土方歳三と双璧をなす凄腕の剣士。性格は土方とは正反対で、真面目でさわやかな雰囲気の好青年。のちに京に上り、新撰組の一番隊組長となる。実在の人物、沖田総司がモデル。
山南 敬助 (やまなみ けいすけ)
千葉・北辰一刀流の青年。常に沈着冷静で視野が広く、適切な判断ができる。一方で、自分の意見は一歩も譲らない頑固な性格。のちに京に上り、新撰組の総長となる。風太の処遇をめぐって土方歳三と激しく対立する。実在の人物、山南敬助がモデル。
山崎 烝 (やまざき すすむ)
探索や変装の名人の男性。近藤勇の依頼でしばしば密偵活動を行っている。香取流棒術の使い手にして、大阪の針医者出身と偽っている。その正体は伊賀忍者の一員で、風太と敵対する。のちに新撰組の副長助勤となる。実在の人物、山崎烝がモデル。
藤一 (とういち)
池田屋の下足番の男性。大阪の問屋「加賀屋」の紹介で、住込みで働いているというふれこみの人物。一見ごく普通の真面目そうな町人だが、実は、新撰組の依頼で勤皇派の志士たちの動きを探るために送り込まれた密偵。その正体は変装した山崎烝である。
大利根 政五郎 (おおとね まさごろう)
芸武館の師範役を務める男性。刀を地上スレスレに構え、相手のすねばかりを狙うという、ケンカ剣法と恐れられた柳剛流の使い手。かなりの自信家であり、試衛館一派との他流試合では、風太と真剣での勝負をすることとなる。
ギスケ
伊賀忍者一族の中年男性。「赤猫の術」の使い手。禿頭で、顔には火傷の痕が目立つ異様な風貌をしており、そんな自分の容姿に強い劣等感を抱いている。無口で無愛想な性格も相まって、味方からも不気味で気色が悪いと毛嫌いされている。
伊賀組組頭 (いがぐみくみがしら)
服部半蔵の系統を引く伊賀忍者の頭目を務める老齢な男性。長い白ひげを腹に届くほどに伸ばしている。江戸・四谷にある伊賀町の伊賀屋敷に居を構えているため、手下からは「お屋形さま」と呼ばれている。鈴鹿衆忍者一族の殲滅に執念を燃やしている。
桂 小五郎 (かつら こごろう)
長州出身の武士。尊皇攘夷派のリーダー的存在の男性。勤皇の志士たちとともに京に上って倒幕活動をしており、新撰組に命を狙われている。新撰組の敵となった風太とは親しい間柄。実在の人物、桂小五郎がモデル。
サツキ
鈴鹿衆に属する忍者の少年。犬の生態に詳しく、また犬と意思の疎通も可能で、大勢の野犬の群れを自在に操る忍術を得意としている。京では風太を兄のように慕い、新撰組に敵対して、風太の危機をたびたび救う活躍を見せる。
朝吉 (あさきち)
鈴鹿衆に属する少年。平太とは兄弟のように仲が良く、京では風太を兄のように慕っている。すばしっこい身のこなしで京の町を走り回り、新撰組の動向などを探って風太に情報を提供している忍者のたまご。
平太 (へいた)
鈴鹿衆に属する少年。朝吉とは兄弟のように仲が良く、京では風太を兄のように慕っている。風太の仲間の少年たちの中では最年少の子供。汚い格好で町を走り回る、一見浮浪児だが、新撰組の動向などを探って風太に情報を提供している忍者のたまご。
集団・組織
鈴鹿衆 (すずかしゅう)
山岳奇襲戦術を得意とする忍者集団。他流派とは異なり、どの時代の権力にも屈服することなく、忍道界の一匹狼的組織として恐れられた。江戸時代初頭には組織が丸ごと壊滅したと思われていた。
試衛館 (しえいかん)
近藤勇を師範役とする剣士の集団。江戸の小石川柳町に主道場を構え、三多摩地区を中心に300人もの門弟をかかえている。流行遅れ剣法と揶揄されるが、実戦ではめっぽう強いといわれる天然理心流剣法を使う組織。
新撰組 (しんせんぐみ)
幕府配下の武装治安部隊。本部として京の壬生に「屯所」を置いている。勤王派の志士たちを一掃することを目的として、日本各地の腕の立つ浪人が集合した「浪士隊」を前身とする武士組織。のちに近藤勇を局長とする試衛館一派が中心となる。
芸武館 (げいぶかん)
武州蕨出身の岡田総右衛門が編み出した柳剛流剣法の道場。あまりにも変形剣法ゆえに、どの流派も他流試合を嫌ったことが評判となり、江戸末期に多くの門弟を獲得するほどに流行したという伝説がある。
伊賀忍者 (いがにんじゃ)
城やぶりや野戦など平地向きの忍法を得意とする忍者集団。伊賀国を発祥とし、江戸時代初期に初代服部半蔵を頭目とする「伊賀組同心」として幕府に召し抱えられた。甲賀組とともに百人組の中心的存在。
百人組 (ひゃくにんぐみ)
徳川幕府に仕える忍者組織の集合組織体。伊賀・甲賀組を中心に、根来・二十五騎組などの忍者集団で組織化されている。倒幕派に対抗して、諜報・謀略・暗殺などの闇の仕事を一手に引き受けて暗躍する武装集団でもある。幕府の命を受けて鈴鹿衆壊滅に乗り出す。
場所
池田屋 (いけだや)
京にある2階建ての旅館。一般客に混じって倒幕派の志士たちがたびたび会合などに利用している。倒幕派の志士幹部集合の情報を得た新撰組の急襲を受けて、のちに「池田屋事件」と呼ばれる凄惨な集団暗殺の舞台となる。
その他キーワード
うずら隠れの術 (うずらがくれのじゅつ)
鈴鹿衆に伝わる忍術。敵に追われて逃げ場のない切迫した状況下、敵の眼をくらまして隠れる術。うずらが身体を石のように丸め、自分を周囲の背景に溶け込ませて天敵から身を守る「擬態」の習性をヒントに編み出された秘技。
呼鳥の術 (こちょうのじゅつ)
鈴鹿衆の忍術。知恵が得意としている術。人差し指と中指の2本の指を唇に当て、独特の音色のする指笛を吹いて、辺りの鳥たちを自在に操る。クライマックスは、カラスの集団が巨大な黒い雲の球体のようになって敵を襲うという秘技。
軍中煙 (ぐんちゅうえん)
鈴鹿衆の忍術。鈴鹿衆だけに伝わる独特の技法。数種類の薬草を配合した丸薬を用いる。敵を待ち伏せしたり攻撃する際に、風上に丸薬をばら撒いて火を放って毒煙を発生させ、それを吸い込んだ敵を死に至らしめる秘技。
四呼の術 (しこのじゅつ)
鈴鹿忍法、秘中の秘といわれる忍術。敵を山中におびき寄せておき、鳥・獣・虫・魚などすべての生き物を呼び集め、動物による一気呵成の攻撃で敵を峻滅するという術。鈴鹿衆が自軍の存亡をかけて、最終決戦の際に用いた究極の秘技。
赤猫の術 (あかねこのじゅつ)
伊賀忍者の忍術。ギスケが最も得意としており、敵の隠れ家の周囲を取り囲んで火薬を撒き、放火して火事を起こす。炎が燃え上がった時に、一気に大きな暗幕で家屋を丸ごと覆って消化し、酸欠状態にする。周囲に火事を気取られずに、敵を窒息死させるという秘技。
光り玉 (ひかりだま)
伊賀忍者の忍術。ヒカリゴケ・ホタル・夜光虫などの原料に特殊な配合を施した薬剤を敵にふりかけ、身体や衣服に付着した薬剤が発光することにより、敵の足跡をたどることができるという秘術。日中は陽の光に、夜は月の光に反射し、雨中では光が増すので、時間と環境を選ばない点が特徴。
長曽根虎徹入道興里 (ながそねこてつにゅうどうおきさと)
剣士なら誰もが憧れる日本刀。百両から数百両もする高価な刀で、反りが浅く肉厚で、刃紋は大きく、乱れ数珠玉模様の焼刃といわれている。見かけこそあまりよくないが、とにかくよく斬れると評判で、武士たちの評価が抜群に高い。
クレジット
- 原作
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葉山伸