あらすじ
魔器の世界(第1巻)
伝書鴉がもたらした情報を読み解いたレンは、相棒のジョウを連れ、ハルーンの町へ向かった。そこでは子供の行方不明事件が相次いでいた。どんな占い魔器を使っても、さらわれた子供達を探し出せない事を知ったレンは、裏に魔器士や影蝕の存在があるのではないか考え、調査を開始する。その頃ジョウは市場で、ミアの母の大切な「妖精魔器」を盗もうとした賊を捕えるため、大立ち回りを演じていた。その後、ミアの母から御礼として、ジョウはミアと共に珍しい「砂オレンジ」を食べさせてもらう。その場に合流したレンは、ジョウと共にミアの母に礼を述べ、その場を立ち去るのだった。その翌日、町の魔器工房に不要な魔器の売却に行ったレンとジョウは、そこで影蝕の情報を尋ねる。その質問に店内の客はどよめき、店主の男性を激怒させる事となった。不審に思いつつもレンはジョウと共に、町での情報収集を再開するが、そこへミアが行方不明になったと、ミアの母が助けを求めてくる。レンとジョウは彼女に、自分達は魔物を狩るハンターだと素性を明かし、ジョウは、昨日ミアといっしょに食べた「砂オレンジ」の匂いを辿って誘拐犯を突き止める。
ブラックリスト(第1巻~第2巻)
かつて起きた大崩壊により、大地は引き裂かれて海は砂漠となってしまった世界で、世界各地に時空のひずみである歪点が生まれた。出現当初は魔物の巣窟だった歪点も、今は安全な観光地と化している。ある時、レンとジョウは旅の途中で、大きな歪点の傍を通りかかる事となった。そこで行われていた観光ツアーに紛れ込んだジョウは、人目を引く美形のアーシュラ=アシュレイと話しこむ事となったが、そこを魔物に襲われてしまう。レンとジョウは周囲の人への被害を考えて魔器の使用を控えるものの、アーシュラはためらいなく炎の魔器を使って魔物を一掃。そしてアーシュラはレンの目の前でジョウを人質に取り、飛び去ってしまうのだった。観光客達が立ち去ったあと、レンの前にヤトと名乗る黒猫が姿を現す。ヤトは人質のジョウと引き替えに、レンの持つ魔器、青獅子を渡すように要求するが、レンは誘拐という卑劣な手を使うヤトに応じない。交渉は決裂し、レンとヤトは青獅子とジョウを賭けて戦いを開始する。一方その頃、ジョウもアーシュラにレンの足手まといだと言われた事に怒り、戦いを挑んでいた。
星の歌(第2巻~第3巻)
レンとジョウはとある魔法道具の店を訪ね、注文していた魔器銃を受け取った。その夜、おいしい食事と新しい銃に御機嫌のジョウが夜空を振り仰ぐと、そこに突然雪が降り注ぎ、中空に「トゥーレの紋章」が浮かび上がる。その瞬間、世界中の魔器が騒ぎ出し、鳴動を始める。トゥーレの紋章は、レンの事を「ゾンマーブルクの子」と呼び、契約を覚えているかと問いかける。そしてその後、汝に希望であり絶望でもある星を託す、と告げて搔き消えてしまう。その直後、レンの魔器、青獅子が空に向かって咆哮しながら立ち昇り、レン達が見上げた先に流星が生じるのだった。急いで星の落下地点に駆けつけたレンとジョウは、そこで謎めいた姫に出会う。さらに、そこに影蝕が出現。その影蝕は、かつてレンの部下であったヨハン・ボルムスだった。そこへ、異変を察知した国連の戦艦が時空転移の術式を使って現れ、レンとヨハンは捉えられてしまう。ジョウはレンを救出すべく、賊にさらわれて逃げ出して来たと詐称し、保護を受ける事で姫と共に戦艦の内部への侵入を果たす。
砂の地球(第3巻)
連戦の一夜が明け、流星に乗ってやって来た姫は、初めて夜明けの砂の海を目の当たりにする。そして姫は、レンとジョウに「リィシャ=アルティア・トゥーレ」と名を明かし、ゾンマーブルクの子、ジョウに会うために来たのだと語る。混乱するジョウに対し、レンは彼の事を「レグルス」と呼び、ジョウの本当の名が「レグルス=ジョーカー・ゾンマーブルク」であり、またレン自身の息子である、という事実を打ち明けるのだった。
登場人物・キャラクター
レン
ジョウと共に魔物を狩る初老の男性。右目に眼帯をつけ、険しい表情を浮かべている事が多い。手袋をつねに身につけ、胸元まで伸びた豊かな白い髭と、白髪の長い髪を首の後ろで一つに束ねている。手袋の下の右手の甲に青い魔器である「青獅子」を移植した影蝕で、国連魔法軍のブラックリストの上位に名前が載っているほどの強力な力を秘めている戦士。 かつて「魔器士五英雄のレーヴェ」と呼ばれていた事もある。ただし影蝕として暴走はしておらず、現在は影蝕による被害を最小限に食い止めるため、影蝕狩りの旅を続けている。正式な名前は「レーヴェ・フォン・ゾンマーブルク」というが、呪われた家名だと感じており、自らその名を名乗る事は避けている。
ジョウ
レンと共に魔物を狩る狩人の少年。顔の両サイドの毛先に青が混じった短髪の黒髪で、魔器と銃を携帯し、使いこなしている。美味しいものを食べる事が好きな、素直で朗らかな性格の持ち主。よく使う魔器は、自分で捕まえた砂ザリガニのグレートマッカ。影蝕であるレンが完全に魔物になってしまったら、自分が倒してやると約束している。 本名が「ジョーカー」という事から「ジョウ」と名乗っているが、実はフルネームは「レグルス=ジョーカー・ゾンマーブルク」といい、レンの実の息子である。ただしジョウ自身は、空から落ちて来た姫と出会うまで、その事実を知らなかった。
ミアの母 (みあのはは)
ハルーンの町に住む中年の女性。幼いミアという娘がいる。真知子巻きに布を巻いており、自分の家に伝わっていた妖精魔器の奏でる音楽を聴かせる店を、市場で出している。もうなくなってしまった国「ゴート」の生まれ。目の前で妖精魔器を賊に盗まれた際、ジョウがすぐに取り返してくれたため、夫が持ち帰った土産の「砂オレンジ」をはじめ、たくさんの食物を振る舞って御礼をした。 その翌日、娘のミアが行方不明になったのを案じて探し回っているところで、レンとジョウに再会し、娘の捜索を依頼する。
ミア
ハルーンの町に住む幼い少女。髪を三つ編みのお下げにして両肩に流している。睡眠中にハルーンの町の影蝕の胞子を植え付けられ、夢遊状態にされて影蝕のところへ引き寄せられた。その後、ミアの母に捜索依頼を受けたレンとジョウにより無事救出された。
ハルーンの町の影蝕 (はるーんのまちのかげおち)
老齢の男性。ハルーンの町で魔法道具店を営む息子がいる。戦争に参加する時に魔器を身体に移植した、かつて村の英雄的存在だった。時間と共に、魔器に人間としての部分を侵食されてしまい、今では影蝕と呼ばれる魔物と化してしまっている。息子が作ってくれた結界の中にかくまわれて暮らしていたが、息子に隠れて子供をあやつって結界の中におびき寄せては食べ、命を奪っていた。 息子の前では身体の不調も落ち着いてきたと欺いていたが、レンとジョウに、ミアをさらった犯人だと突き止められた事で正体を現し、一時は自分の息子も忘れてしまうほど暴走するさまを見せる。最終的に自我を取り戻し、自ら望んでレンに倒された。
ヤト
アーシュラ=アシュレイの相棒で、黒猫のような姿をした存在。歪点で現れ、アーシュラにジョウをさらわせ、レンに身代に魔器を差し出すよう交渉を仕掛けてきた。額に文様が入っており、ネクタイと飾り襟を付けている。魔物なのか何なのかとレンに尋ねられ、自分でも何かわからないと答えている。だが、アーシュラとのあいだで交わしていた過去の話によれば、元は人間であり、アーシュラが原因の出来事により命を落とした経緯を持つ。 手練れの魔術士しか扱えないような最新型の高度術式を使い、交渉が決裂して戦う事になったレンと互角の力を発揮した。
アーシュラ=アシュレイ
ヤトの相棒の、若い女性の姿の魔物。歪点で現れ、相棒のヤトがレンと一対一で交渉するためにジョウをさらい、離れた場所に連れ去った。金髪を肩につくくらいの長さで無造作に波打たせた、すらりとしたスタイルの美人。ヤトからは「アッシュ」と呼ばれている。つねに首から下げている時計は、かつてアーシュラ=アシュレイ自身が封印されていた魔器で、無尽蔵な魔力を制御する役割を持つものでもあり、とても大切にしている。 ヤトが猫の姿になる原因を作ったのは自分だと気にしており、ヤトを元の人間の姿に戻したいと願っている。ジョウと戦った際に、自身の使う炎の魔術のコントロールの精度の低さを指摘された事で、以後はまじめに魔術制御の訓練に取り組むようになった。 ジョウとレンに対して二手に分かれ戦った結果は、アーシュラとヤトの負けに終わったが、ジョウの実力を認め、戦いのあとで自身の力を分け与えている。実は国連魔法軍のブラックリストのトップに名前が載っている、無尽蔵の魔力を持つといわれる最強の魔物である。
姫 (ひめ)
砂の海に、流星となって落ちて来た少女。透き通るようなストレートロングの銀髪に、金色の瞳を持つ。お供にサムソン・ハビットと名乗る兎を連れている。本名は「リィシャ=アルティア・トゥーレ」。流星となって現れた目的はジョウに会うためであり、姫との出会いが、ジョウが自分の出自を明確に知るきっかけとなった。安全な場所に素早く逃げる際、裾の長い服が邪魔だと判断し、自分で生成した刃物状のもので切り裂くなど、物腰は柔らかながら的確な判断力・決断力を併せ持つ人物。
サムソン・ハビット (さむそんはびっと)
砂の海に、流星となって落ちて来た二足歩行の兎。姫の守護役を務める。和風の兜をかぶり、袴を身につけ槍を使う。一人称は「拙者」で、尊大で古風な口調で話す。姫には「サム」と呼ばれており、忠誠心が厚い。
ヨハン・ボルムス (よはんぼるむす)
砂の海で冬眠していた、人の倍以上の大きさのカメレオン型の影蝕。かつてレンの率いていた部隊に所属しており、再会したレンに対し、「レーヴェ隊長」と声を掛けた。影蝕に変化する兆しを自覚し、部隊から逃げてずっと砂の中で眠り、冬眠する事で症状が進む事を抑えていた。しかし、姫が流星と共に現れた際に世界中の魔器が騒ぎ出し、これが原因で一挙に症状が進み、目を覚ました。 人としての人格を保っているが、見た目は完全に異形化している。
チェン老師 (ちぇんろうし)
国連魔法軍に所属する高齢の男性。「金位の魔術士(オール・クラス)」と呼ばれる、国連魔法軍の中でも13人しかいない高位の魔術士。笠をかぶり、足首まで覆うほど長い丈の外套を身につけている。
魔術王トゥーレ (まじゅつおうとぅーれ)
姫の父親。天然の魔物を魔器に封じる術式を編み出した、魔器にとって親のような存在。また、古来から「ゾンマーブルク」家と親交がある家系に連なる者。
影蝕 (かげおち)
魔器を身体に移植し、力を得て戦争に赴いた人達が、やがて魔器に侵食されて化け物と化してしまった姿。彼らを治す方法は見つかっていない。魔器を身体に移植する技術を軍に持ち込んだのは、「ゾンマーブルク」家のレン自身であり、レンはすべての罪を背負うために、影蝕になってしまった者達を倒しながら旅を続けている。
場所
ハルーンの町 (はるーんのまち/はるーんのおあしす)
固い魔器の外殻に全体が覆われた珍しい町。町そのものが巨大な魔器ともいえる。魔術的な閉鎖空間で、外に広がる砂の海に比べて匂いが残りやすい。かつては辺鄙な村だったが、そこで暮らしていた独学で魔器と魔術を学んだ魔術士が、巨大竜巻から村を守るために、術と命のすべてをかけて作った場所。「ハルーン」は、その魔術士の名前である。
歪点 (ひずみ)
大崩壊により大地が引き裂かれ、海が砂漠化してしまった時に世界各地に発生した「時空の歪み」。地表に大きく深い穴が穿たれている。ここから、伝説上の存在だと思われていた「精霊」や「魔物」が地上に出現し始めた。ジョウは、世界最大級の歪点を観光に訪れた一団に紛れ、ガイドの説明を聞いている時に、アーシュラ=アシュレイにさらわれる事となった。
砂の海 (どらいあくあ)
かつて海だったが、大崩壊のあとに砂漠化した場所。非常に広範囲にわたり、地表を覆っている。
イベント・出来事
大崩壊 (だいほうかい)
西暦1777年7月、天より災いが来たりて月を砕き、世界は崩壊した。この出来事を「大崩壊」と呼ぶ。同時に世界各地に時空の歪みである歪点が発生し、そこから、伝説上の存在とされていた「精霊」や「魔物」が世界に姿を現すようになった。この時に西暦は終わり、以降は西暦に替わって「崩壊世紀」と呼ぶようになった。レン、ジョウ達が旅をしているのは、崩壊世紀0238年の世界であり、大崩壊によって大地は引き裂かれ、海は砂漠化し、砂の海となっている。
その他キーワード
魔器 (まき)
魔法を閉じ込めた道具。球体でピンポン玉くらいの大きさをしているもの、ミアの母が持つ「妖精魔器」のようにハンドボールほどの大きさのもの、ハルーンの町のように町全体を覆うほどの大きさのものなどがある。レンが使っているのは「青獅子(アズーレオン)」と言う名前の魔器で、大崩壊以前から存在していた貴重な品だと、魔器士や魔術士達のあいだでは有名な品。 ジョウが愛用している砂ザリガニが入った魔器「グレートマッカ―」はランク付けでは下位で、国連魔法軍の面々には「クズ魔器」、「D級」と呼ばれる。ほかにレンは「オベロン」「テンペスト」「オフィーリア」などの名称の魔器を保有しているが、ヤトには劣化が激しいと指摘されている。 因みにかつて起きた大戦で、魔器を身体に移植した人間「魔器士」が濫造されたが、戦後に彼らが暴走し影蝕となって人々を恐怖に陥れた。その魔術を完成させたのは「ゾンマーブルク」の祖先だった。
伝書鴉 (ねばーもあ)
レンの前に現れ、影蝕の情報を伝える鴉。レンが手に下げている、半分に割れて半球になっている魔器が光ると、姿を現す。己の姿を文字に変えて、情報を空中に出現させる事ができる。