幕末まらそん侍

幕末まらそん侍

土橋章宏の小説『幕末まらそん侍』のコミカライズ作品。黒船が来航し、時代のうねりとともに大きな変革の時がせまりつつあった幕末の日本。そんな不安定な時代を舞台に、とある地方の藩主が開催するマラソンの一種、遠足に参加することになった侍たちの、悲喜こもごもな人間模様を描いたヒューマンドラマ。

正式名称
幕末まらそん侍
ふりがな
ばくまつまらそんざむらい
原作者
土橋 章宏
漫画
ジャンル
幕末
関連商品
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あらすじ

第1巻

安政二年、上野国の安中三万石の五代目藩主である板倉勝明は、夷狄(いてき)討伐を目的とする鍛錬と称した遠足を、家臣一同に申し付ける。遠足で駆け抜ける距離は、城から熊野神社までの七里七町。日々の雑務で追われる家臣の一部から不満の声があがるものの、5月から6月にかけて、日に六人の陣容で遠足は開催されることとなった。決して短くはない距離と、山駆けを強いられる高低差のある地形に不安を感じていた勘定方の黒木弥四郎は、同僚の片桐裕吾を走りの練習に誘うが、裕吾の士気はなかなか上がらない。しかし、ひそかに思いを寄せる雪姫の激励を受けたことで発奮した裕吾は、姫の覚えもめでたい眉目秀麗な弥四郎にだけは必ず勝つと心に誓う。遠足の当日、太平の世になまり切った体に苦闘しながらも、熊野神社を目指していた裕吾は、スキを見てあらかじめ用意していた駕籠(かご)に乗り、弥四郎を出し抜こうとする。(第1話「遠足」。ほか、5エピソード収録)

登場人物・キャラクター

片桐 裕吾 (かたぎり ゆうご)

上野国の安中で板倉勝明に仕え、勘定方を務めている侍の男性。元気で物おじしないお調子者で、若干ものぐさな性格をしている。勝明から鍛錬を名目とした遠足を申し付けられた時には、裏であからさまに面倒くさがっていた。同僚で友人の黒木弥四郎とは気の置けない間柄だが、容姿端麗で人格者の弥四郎に対し、劣等感を感じている。雪姫に思いを寄せており、勝明が撮影に失敗した雪姫の写真をひそかにゴミ捨て場から拾って持ち歩いている。雪姫の覚えがいい弥四郎を出し抜いて遠足で一番になるため、あらかじめ用意した駕籠(かご)に乗るという不正を試みる。

黒木 弥四郎 (くろき やしろう)

上野国の安中で板倉勝明に仕え、勘定方を務めている侍の男性。端正な顔立ちをした優秀な役人で、穏やかな性格をしている。勝明から遠足を申し付けられた際にも、走りのプロである飛脚から教えを請い、右手と右足、左手と左足を同時に出す「南蛮走り」という特殊な走法を会得していた。竹馬の友である同僚の片桐裕吾のことをつねに気にかけている。侍の世が長く続かないと考えており、いずれは日本から身分制度がなくなるであろうことも予見していた。

板倉 勝明 (いたくら かつあきら)

上野国の安中の五代目藩主を務める男性。黒船の来航などで日本全体が不安定になっている時期に、夷狄(いてき)討伐を目的とした鍛錬のためと称し、家臣に対して城から熊野神社までを走破する遠足の命を下した張本人。鷹揚な性格ながら、不正行為や他人をないがしろにする者に対しては容赦ない。譜代大名のあいだでは西洋文化に理解のある「開明派」として知られており、南蛮渡来の物品に傾倒し、城内で自ら雪姫の写真を撮影している。そのため、家臣には遠足開催の名目が夷狄討伐であることに疑問を抱く者もいた。実在の人物、板倉勝明がモデル。

雪姫 (ゆきひめ)

板倉勝明の娘で、上野国の安中の姫君。おっとりとした性格をした、うら若き美しい女性。家臣からは「姫」と呼ばれている。遠足に参加することになった勘定方である黒木弥四郎と片桐裕吾のもとを訪れて彼らを激励したり、終点の熊野神社で遠足参加者の到着を見届けたりするなど、好奇心が人一倍強い。

園田 光延 (そのだ みつのぶ)

眼鏡を掛けた老齢の男性で、熊野神社の宮司を務めている。板倉勝明に呼び出され、遠足参加者の着順を見極める「目付」に任命された。神社への帰路の途中で出会った体調不良の美鈴を介抱するなど、面倒見のいい好々爺。大の酒好きで、深夜まで深酒をして初日の目付の仕事に遅れ、黒木弥四郎と片桐裕吾の着順を見極められないという失態を犯してしまう。

石井 政継 (いしい まさつぐ)

上野国の安中で板倉勝明に仕えている侍の男性。安中一の剣の使い手とされ、2年前には江戸で1年限りの剣の修行が許された。しかし、江戸の道場ではその剣がまるで通じず、失意のどん底に陥ってしまう。道場生の過激な攘夷論にもついていくことができず、修行を放棄したあとは江戸で出会った茶屋娘、美鈴との情事に溺れる。その後は無為徒食の咎で国元へと戻され、移動に制限を受ける禁足の身となり、親が決めた幼なじみの香代をめとった。陰気なうえに作る料理が不味い香代に辟易しており、遠足を利用して美鈴と逢引きし、そのまま安中を出奔しようと試みる。

美鈴 (みすず)

江戸に住んでいる茶屋娘で、けだるい雰囲気と色香を漂わせた美しい女性。お金と引き換えに男性に身を売っている商売女だが、2年前に江戸まで剣の修行に出向いてきた石井政継と出会い、いい仲になる。しかし、無為徒食の咎で政継が国元に戻されたため、彼を追って安中を訪れ、遠足の最中に政継と駆け落ちしようとする。

香代 (かよ)

上野国の安中に住んでいる武家の女性。石井政継とは幼なじみで、親に従って禁足の身となった政継と夫婦になった。陰気で口数が少なく、作る料理が非常に不味いため、政継からは愛想を尽かされている。茶屋娘の美鈴に心を残している政継への嫌味を込めて、わざと料理を不味く作っているだけで、本来はおいしい料理を作れる腕前を持っている。

唐沢 甚内 (からさわ じんない)

上野国の安中で板倉勝明に仕え、御納戸役を務めている妻子ある侍の男性。実は「草」と呼ばれる公儀密偵の一族で、安中の国情をひそかに江戸の徳川家へと伝えている。しかし、代々実直にこなしてきた密偵の仕事を、太平の世となった現在では、公儀がろくに評価していないのではという疑念を抱いている。そのため、公儀の実情を確かめようと、遠足を開催した勝明に乱心の気ありと書状にしたためたうえ、江戸へと送った。密偵として常日頃から目立たない立ち居振る舞いを心がけているため、同僚からは「すまし屋甚内」というあだ名で呼ばれている。

上杉 広之進 (うえすぎ ひろのしん)

上野国の安中で板倉勝明に仕えている侍の男性。矢よりも速いと噂される安中随一の健脚の持ち主で、周囲からは「安中の韋駄天」と呼ばれている。先祖代々の貧乏足軽で、貧しさから妻子に苦労を掛けていることを気に病んでいる。遠足の開催後は、一番槍の本命と見られていたが、遠足を賭け事にしている下郎から、金子10両と引き換えに負けるように依頼を受け、武士の矜持と家族の安寧のどちらを取るかで苦悩する。

辻村 (つじむら)

上野国の安中で板倉勝明に仕えている侍の男性。家格が高く、周囲からは未来の家老と持ち上げられている。高慢な性格をしており、遠足で同じ日に走ることになった上杉広之進を下郎と呼び、徹底的にさげすんでいた。さらに、先行しそうになった広之進を家臣を使って痛めつける。

福本 伊助 (ふくもと いすけ)

上野国の安中で板倉勝明に仕えている侍の少年。「槍の勘兵衛」と呼ばれた槍の達人である福本勘兵衛の息子で、10日前に流行り病で亡くなった父親の代わりに遠足に参加することになった。父親を失って憔悴する母親のため、どうにか遠足でいい結果を残そうとしていた。ひょんなことから父親の槍の好敵手だった栗田又衛門と出会い、又衛門から厳しい稽古をつけられることになった。本番では又衛門と共に遠足へ参加する。

栗田 又衛門 (くりた またえもん)

上野国の安中に住んでいる郷士の男性。もともとは勘定方として板倉勝明に仕えていた槍の巧者だったが、「槍の勘兵衛」と呼ばれる好敵手の福本勘兵衛にどうしても勝てなかったことで絶望し、槍を捨てて帰農した過去を持つ。長年の貧乏暮らしの末に妻を病気で亡くし、生きる気力を失いかけていたが、勘兵衛の息子である福本伊助との出会いを経て、再び安中侍としての誇りを取り戻し、伊助と共に遠足へと参加する。

福本 勘兵衛 (ふくもと かんべえ)

上野国の安中で板倉勝明に仕えていた侍の男性。槍の達人で、周囲からは「槍の勘兵衛」という異名で呼ばれていた。「風車の槍」という防御に特化した技の使い手で、好敵手の栗田又衛門に対して勝利を重ね続ける。遠足にも参加する予定だったが、参加の10日前に流行り病によって亡くなった。

その他キーワード

遠足 (とおあし)

上野国の安中の藩主である板倉勝明が、夷狄(いてき)討伐のための鍛錬という名目で、家臣を参加させたマラソン大会の一種。5月19日から6月28日まで、日に六人の侍が城を出発して熊野神社を目指し、七里七町を駆け抜けるという大がかりなイベント。行程が全般的にのぼり坂なうえ高低差が激しく、終盤には山駆けの難所も待ち受けている。そのため、年齢が50歳以上の家臣は、遠足を免除されていた。

クレジット

原作

土橋 章宏

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