戦場と日常の狭間にいる元工作員の奮闘
主人公の島崎真悟は、幼少期に国際テロ組織、LELに拉致され、すご腕の戦闘工作員として活動した後、組織から脱出。30年ぶりに日本に帰国する。元工作員たちが集まった「コロニー」で暮らし、公安警察の監視下で警戒されながらも、島崎は平和な暮らしを願う。漢字が読めず、一般常識に乏しい島崎が、不器用ながらも一生懸命に生きる姿や、ものすごい戦闘能力でこっそりチンピラを懲らしめる様子がコミカルに描かれる。その一方で、LELの追手との壮絶な命の奪い合いや、戦場の死人の幻影に悩まされるといったシリアスなシーンも多い。LEL脱出から1年後いまだ戦場と日常の狭間に身を置く島崎が、「平和の国」の一員として社会に戻ろうとする姿が本作の見どころの一つである。
驚異的な島崎の能力
島崎の望みは、ただ平凡に暮らすことである。今までできなかった、好きな絵や写真に親しみ、アルバイト先の喫茶店に自分の居場所を見出そうとする。したがって、普段は温厚で物静かな性格だが、LELの追手や大切な人を脅かす暴力団との戦いになると一変する。身に染み付いた戦闘能力で、相手を制圧あるいは無力化するまで、マシンのように攻撃を繰り出す。また、戦闘以外でも、瞬時に人の身長体重とその他の特徴を記憶する能力や、かすかな臭いを嗅ぎ分けたり、食べ物の成分を分析したりという能力を持つ。島崎がいくら平和を望んでも、体に染み込んだ修羅の臭いが暴力を呼び、それを解決するには暴力しか術(すべ)がない。そんな負の連鎖からなかなか抜け出せない島崎の悲哀が描かれる。
脱走者を決して許さない国際テロ組織
国際テロ組織・LEL(経済解放同盟)の目的は、不当な搾取が存在しない世界の実現である。彼らにとっての正義は「集中する富の分配と格差の現実的な是正」であり、国際社会とLELは50年も戦い続けている。時間をかけて育てられた優秀な工作員は、世界中あらゆるところに溶け込み、様々な役割を果たしている。LELはいわば「潜在国家」で、各国の中枢にも影響力を持つほどであった。しかし近年は、LELから脱出し潜伏する者が増加していた。そんな状況を深刻に捉えた彼らは、島崎の暗殺に特別予算を用意する。脱出者が共同生活する「コロニー」の捜索を強化し、島崎との戦闘経験がある工作員に一個小隊のサポートを付けたのだ。やがて、居場所を突き止められた島崎は、大切な人々との繫がりを捨てて逃げるか、それとも戦うかという決断を迫られる。
登場人物・キャラクター
島崎 真悟 (しまざき しんご)
39歳の日本人男性。黒縁メガネ、鼻すじと左頰の傷が特徴。また、全身には無数の傷や怪我の痕がある。9歳の時にパリ行きの飛行機で国際テロ組織、LELのハイジャックに遭い、母を失う。自身は拉致され、LELによって特殊技能を叩(たた)き込まれ、戦闘工作員になる。「半径100メートル以内に現れたら、敵の生存率は2パーセント」と言われるすご腕で、「霧(ネブロー)」の呼称で恐れられた。世界各地で任務を果たした後、LELからの脱出に成功し、日本に帰国。元工作員たちと「コロニー」と呼ばれる寮で共同生活をしており、平穏な暮らしを望んでいる。絵を描くことが好きで、つてをたどって漫画家の川本マッハのアシスタントを務める。また、同僚の鳥海カオリの実家「喫茶ルパソ」でも働いている。
鳥海 カオリ (とりうみ かおり)
漫画家・川本マッハのアシスタント。ショートカットが特徴の女性。島崎真悟とはアシスタント仲間。仕事を探していた島崎を実家の「喫茶ルパソ」でアルバイトさせる。大学受験を失敗し、浪人生活を経て家出した兄・高志がいる。
クレジット
- 原作
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濱田 轟天
書誌情報
平和の国の島崎へ 7巻 講談社〈モーニング KC〉
第1巻
(2022-12-22発行、 978-4065300800)
第2巻
(2023-03-23発行、 978-4065311219)
第3巻
(2023-07-21発行、 978-4065324127)
第4巻
(2023-11-22発行、 978-4065336687)
第5巻
(2024-03-22発行、 978-4065349489)
第6巻
(2024-07-23発行、 978-4065360019)
第7巻
(2024-11-21発行、 978-4065374542)