ガンニバル

ガンニバル

世界各地に根付いていた「食人習慣」をテーマに、日本の山間にある「供花村」で起こる殺人事件や慣習を描いたサスペンス作品。村内で絶大な影響力を持つ「後藤家」を、都会から赴任してきた駐在員の阿川大悟が、前任の駐在員である狩野治の不審な失踪を捜査していく中で、後藤家に食人習慣の疑いを抱いて捜査に踏み切る。捜査側は大悟を中心に、後藤家側は後藤恵介を中心に物語が展開されていく。「週刊漫画ゴラク」で2018年10月から掲載の作品。

正式名称
ガンニバル
ふりがな
がんにばる
作者
ジャンル
サスペンス
レーベル
ニチブンコミックス(日本文芸社)
巻数
既刊4巻
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

供花村

前任の狩野治が失踪したため、駐在員として妻の阿川有希、娘の阿川ましろと共に供花村に移り住んできた阿川大悟は、日々の平和なのどかさを堪能していたが、ある日、ネットで世界各地に根付いていた「食人文化」の存在を知ることとなる。まさか自分が暮らす供花村に限って、そんな文化はないだろうと思った矢先に、後藤銀の遺体が発見されたと通報を受ける。現場に急行した大悟が目にしたのは、熊に襲われて食害を受けた銀の遺体だった。その場に集まっていた後藤家の面々から話を聞いていく中で、大悟は銀の腕の外側に人間の歯型を発見し、思わずそのことを口にしてしまう。後藤恵介は、その発言を後藤家への侮辱ととらえ、大悟の頭に猟銃を突き付けて敵意を剥き出しにする。大悟はとっさに非礼を詫び、その場はおさまるが、恵介の行動に警戒心を強める。そんな中、仕事が終わったら居酒屋に集合して、阿川家の歓迎会を開くという提案を大悟は断り切れなかった。そして夜になり、有希とましろは家に居るように告げて大悟は一人で居酒屋へと向かう。到着すると恵介から嫁と子供の所在を尋ねられるが、大悟は同窓会に行っているため、来られなかったと話す。しかし、嫁も子供も家にいることは周知の事実であると言われ、大悟は田舎のネットワークにとまどいを隠せない。だが酒が進むにつれて、後藤家の面々と親睦が深まり、大悟は治が言っていた供花村の人たちが人を食べているという話もただの噂であることを確信する。一方で、家に残された有希は、目を離したスキにましろが勝手に外に出たため、捜しに出ようとしたところで柱に刻まれた「逃ゲロ」というメッセージを発見する。その頃、ましろは、夜の雪の降る道で人間の指を咥(くわ)えた大男に遭遇していた。明日は銀を殺した熊の山狩りがあるために大悟たちは解散するが、熊の危険性を語る恵介の態度に再び警戒心を募らせる。家に戻ると、ましろを連れ帰って寝かせつけた有希は、柱のメッセージを大悟に告げる。そしてましろから人間の指が手渡され、村への疑念を一層強めるのだった。

後藤家

熊の山狩りや後藤銀の葬儀に参加し、後藤家の「食人習慣」への疑念がいっそう強まった阿川大悟は、前任の駐在員である狩野治の失踪の真相を探るため、単身後藤家へ乗り込む決意をする。私有地となっている山へパトカーで乗り込むや否や、木材を伐採している後藤岩男に遭遇する。岩男は後藤家を探る大悟へ、治が失踪する前に後藤家へ乗り込んできた動画を見せる。その動画内で治は、拳銃を振り回しながら「お前らは人を喰ってる」と喚き散らしていた。その様子は、表情や言動がまともな人間とは思えない状態だった。そんな中、後藤恵介たちは岩男から大悟が家に向かっているという情報を受け、調子に乗ったヨソ者に激昂した後藤睦夫は大悟を潰すと激情する。一方で、阿川ましろを学校へ迎えに来た阿川有希は、ましろの同級生の母親から、ふつうの価値観を持ち合わせていない後藤家にはかかわらない方がいいと助言を受ける。有希たちが駐在所兼自宅へ帰ると、恵介をはじめとする後藤家の面々が駐在所で待ち構えていた。有希の話を聞くことなく、勝手に住居部分へ上がり込む恵介たちに恐怖を覚える。その頃、大悟は後藤家の家が並ぶ居住区へ到着するものの、睦夫に猟銃を向けられ、帰るように脅迫されていた。あくまで脅迫だと高をくくっていた大悟は睦夫の腕をきめて投げた瞬間、猟銃を発砲される。本気で殺す気だと知った大悟は戦慄するものの、睦夫たちの攻撃の手は止まらず次々と大悟へ襲いかかる。襲い来る敵を倒して連行しようとする大悟に、後藤家をまとめる「あの人」の存在が仄(ほの)めかされる。その瞬間、大悟は背後から頭を切りつけられて意識を失う。その時、鑑識医である中村一から大悟の携帯の留守電に、以前ましろが大悟に手渡した指が治のものであるというメッセージが入る。

殺人警官

後藤家へ乗り込み、襲撃を受けたが一命を取り留めた阿川大悟は、さぶから自分を助けてくれた消防団の飲み会が行われることを知って家族全員で参加する。その飲みの場で、村人たちの後藤家への畏怖の感情を知るものの、自分たちを受け入れてくれたと感じた大悟と阿川有希は、村で生きていくことを決意する。供花村に赴任してから娘の阿川ましろが、以前よりもよく笑うようになったことで、親として感謝もしていた。そして大悟は、供花村に赴任するきっかけとなった事件を思い出す。もともとは逮捕のためとはいえ、犯人に対して過剰に暴力を振るっていた大悟は、ましろからも「ぼうりょく警官」と認識され、学校の作文にも書かれていた。授業参観で有希はその作文の朗読を聞き、大悟が2か月前に今野翼をボコボコにしたことをましろが未だに怯えていると感じる。今野は阿川家の近所に住む青年だったが、子供に対する猥褻罪で逮捕されていた。しかし、ましろにとっては「近所のやさしいお兄ちゃん」という認識だった。公園でましろと遊んだ帰り道に阿川一家は今野と遭遇する。嬉しそうにほほ笑むましろと対照的に、大悟と有希は警戒を強める。そして大悟は今野を連れ出し、有希とましろは先に帰るようにうながす。大悟は今野に対して「偶然だろうが次にましろに近づいたら殺す」と脅す。一方の有希も、ましろに一人で出かけるのをやめるように念を押す。しかし、家事をしている有希のスキをつき、ましろは一人で外へ出て行ってしまう。そんな中、張り込み中の大悟は同僚と今野について話していると今野が大悟に向かって、ましろを愛していると発言したことを思い出し、嫌悪感を抱く。その時、今野の部屋へ女の子が入っていったという情報を受ける。大悟たちは現場へ急行すると、今野の部屋に入った女の子はましろだった。ましろは両親を心配させたくないから、今野にもういっしょに遊べないということを告げに来ていたという。夏ということもあり、汗ばむましろに欲情する今野だったが、理性で自分を抑えつけ、ましろからの別れを受け入れる。そこに大悟たち警官が到着。ドアの中からましろの声が聞こえることで逆上した大悟は窓を破って部屋に飛び込み、問答無用で今野を殴りつける。そこでましろは、誰かが優しくしないと今野はどんどんおかしくなってしまうと庇うが、今野を性犯罪者としてしか見ていない大悟は理解できない。ましろから優しい言葉をかけられた今野は暴走し、ナイフで警官の足を切りつけ、ましろを人質にとる。拳銃を構える大悟を前に今野は死を覚悟して、ましろに「いっしょに死のう」と告げる。その言葉を聞いた大悟はとっさに発砲し、今野の頭を撃ち抜くのだった。

監視社会

阿川大悟阿川有希が自宅でセックスに臨もうとしたところ、窓の外に人影を見つける。慌てて大悟は外に出ると、後藤恵介の子分である後藤龍二の走り去る姿を確認する。そして、駐在所の居住部に「人殺し」と大きく落書きされていた。そこにさぶが通りかかり、大悟を励ます。翌日、大悟は恵介から事故の通報を受けて山へ入ると、恵介に殴られて顔を腫らせた龍二を大悟に会わせて、きつめに叱ったから勘弁してほしいと謝罪される。後藤家狩野治を殺したと疑っている大悟に対し、恵介は村八分にして狩野家を追い込んだのは村人たちだと説明する。覗きの一件もあり、自宅周辺にフェンスを張ろうとしている阿川家の前に、またもさぶが現れる。大悟はフェンスを立てていることを説明するが、さぶは信頼で村が成り立っているからそんなものは必要ないと言い、フェンスを立てるか立てないかで問答が起きる。そして、つい大悟が「めんどくせぇ」と口に出してしまったことで、瞬く間にそのことが供花村中に広まり、大悟とさぶが揉めてケンカしたと噂になってしまい、大悟は出会う村人たちからさぶに謝罪すべきだと諭される。豪を煮やした大悟は噂の撤回を求めにさぶの家に行こうとするが、また通りかかったさぶと遭遇。有希にも諭され、大悟はさぶに謝罪してこの件はおさまったが、いつもさぶが現れるタイミングが絶妙すぎることに、自分が監視されているのではないかという疑念が湧き上がる。そこに、以前狩野すみれから渡された番号から大悟の携帯に着信が入る。電話の相手は京介で、供花村の秘密について会って話がしたいと告げられる。指定された場所に大悟が到着すると、京介は自らの顔の皮を剥がし、鼻と左半分がなくなった素顔を晒す。そして、供花村の祭りで戸籍のない子供が食われており、自分はその生き残りだと告白する。また、自分の衛星電話は治に貸していたもので、失踪後新たに買い直したものだという。大悟の中で供花村の「食人習慣」への疑いが確信に変わりつつある中で、件の祭の準備に参加した際に電話を受けてから急いで消えたことを知っていた村人に、誰と電話して何をしていたかをしつこく聞かれる。適当な言い訳が思いつかない大悟の前に、神山宗近が現れて村人たちを制する。宗近は大悟を呼び出し、村を探るのは危険だと伝える。初めはほかの村人や後藤家と同じように脅しているのかと思っていた大悟だったが、本気で心配していることを察し、治の協力者は宗近ではないかと思うようになる。話を詰める前に、さぶが二人を呼びに来たために曖昧に終わったが、村の中に協力者がいるという手応えを感じる大悟だった。翌日から通常業務に加えて、祭の準備に忙しくしている中、村人たちの目があるために食人についての調査が進まずイラついて日々を過ごす大悟のもとへ、雪道で車がスリップした事故の通報が入る。現場へ到着すると車はスリップしておらず、通報はウソだと通報した男は語る。続けて男は「宇多田」と名乗り、オカルトサイト「クロニカル」を運営しており、京介経由で治に協力していたことを告げる。

奉納祭前

阿川大悟加奈子の「自分が産んだ子供を後藤銀に死産として扱われ取り上げられた」という証言と、京介の「祭の日に子供が喰われる」という証言から、後藤家が意図的に無戸籍児を作り出し、監禁および殺害していると仮説を立てる。そこへ、阿川ましろがいなくなったとの知らせを受け、さぶたちが集まり、村人たちがみんなで捜してくれているという情報が入る。村人たちがましろを攫(さら)ったのではないかと、大悟はさぶに詰め寄るものの。結局、ましろは近所の子供と遊んでいただけで大事には至らなかった。さぶからはカンちがいして先走り、狩野治のようにおかしくなっていると指摘される大悟であったが、いつでもましろを攫える状況にあると思わせることが、今回の狙いだと感じていた。事実、ましろと遊んでいた子供の親は、何者かからの指示で子供とましろを遊ばせていた。家族の身を案じる大悟だったが、決定的な証拠がないために動けずにいた。奉納祭まで3日となり、準備に参加していた大悟は神山宗近と再会する。宗近から、後藤恵介後藤岩男、後藤龍二とは小学生の頃いつもいっしょにいた友人だったと聞かされる。その話の中で、恵介の弟の後藤洋介が治と親しかったという情報を得る。祭の準備が佳境に差し掛かり、「試し焚き」をすることとなる。巨大な人型を模した供花が運ばれ、火がつけられる。燃える人型の供花の周囲を踊り狂う村人たち。その異様な光景に大悟は言葉を失う。そんな大悟を見て、先祖から脈々と受け継がれる慣習は「呪い」であると、宗近は自分の考えを口にする。一方、後藤家では戸籍のない子供を監禁している座敷牢が存在していた。その子供の世話を今年から洋介が務めることとなり、奉納祭で捧げる前にお清めを命じられていた。「後藤家以外は家畜と思え」という教えに基づき、作業を続ける洋介だったが、人間の子供をどうしても家畜とは思えず葛藤する。遂に奉納祭前日となり、阿川家では遅まきながらましろの誕生日会を催していた。親子三人で幸せな時間を過ごし、ましろが眠ったあとに、大悟は今から供花村を三人で脱出すると告げて有希とましろを車に乗せる。思わぬ急展開に動揺する有希だったが、大悟から供花村の異常性を説明されて了承する。監視のために車に取り付けられたGPSを取りはずし、追っ手の車をまき、街まで下りてかつての刑事仲間である山伏に有希とましろを任せ、監禁された子供を助けるために大悟は単身、供花村へと向かう。

捜査陣

後藤家に単身乗り込んだ阿川大悟を警察署まで連れ帰った署長は、監禁されている子供たちの救出のために各部署から集った捜査員と大悟で会議を始める。現況では証拠が不十分であるもののSITに要請をかけるなど、本格的に警察が動き出すこととなる。そこで、宇多田からの情報で子供たちを監禁している場所を特定し、事件の解決に大きな進展を見せる。警察が動くことで、子供たちの保護が現実的なものとなり安心する大悟だったが、署長からあとは自分たちに任せて家族のもとへ行ってやれと言われる。大悟はこの提案を拒否し、捜査への参加を希望するが、子供が殺害される予定の奉納祭が明日にせまった状況で、人員の供花村への出動要請が間に合わないという事態に直面する。その時、大悟は鑑識医である中村一から話を聞いていた。後藤銀を司法解剖した中村は、銀に「食人習慣」を持つ民族に発症する「クールー病」の症状があったことを告げる。また、過去に供花村の住人にも、この症状が発症していたことも古いカルテから把握していた。しかも、そのカルテが書かれたのはクールー病が発見される以前の時代で、「狂い病」と表記されていた。昔から供花村では食人によって発症する病気が存在し、認識されていたのだった。その後、大悟は連絡をくれた京介に警察が動き出したことを伝え、知ってることをすべて話してくれと頼む。そこで、京介から銀の娘である後藤藍が生きており、藍に育てられたということが語られる。

救出作戦

奉納祭当日、金丸豪の後押しにより、阿川大悟は子供を救出するために単身後藤家へと向かう。その事実を知った署長は、大悟救出のために急きょ警官隊を編成して供花村に急行する。警官隊と合流した大悟は子供の救出班に加わり、金丸率いる重装備の警官隊は後藤家の足止めに向かう。一方、妊娠が発覚した狩野すみれは、父親となる後藤恵介に「村を出よう」と提案するものの、次期当主としての責務からこの提案を却下し「堕ろせ」と告げる。そこに後藤真が現れ、GPSで追跡していたことを明かし、恵介の次の当主となるかも知れない子供を堕ろすことは許されないと詰め寄る。恵介が後藤家の裏切者ではないかと一部の者から疑われていることを知り、恵介は機転をきかせてすみれを守り、逃がす段取りを考える。そこへ金丸たち警官隊が到着し、後藤家で所持している猟銃を確認すると告げる。既に監禁している子供たちをさぶの家に移していた後藤家に隠す物はなく、素直に警官隊の指示に従う。あまりにも調査が順調に進むことに疑念を感じた金丸は、これが子供を移動させるための時間稼ぎであることに気づく。急きょ署長に連絡を取るものの、暴走した真が隠し持っていた猟銃を警官に向けて発砲し、後藤家と警官隊は乱戦に突入する。そんな中、金丸から連絡を受けた署長率いる救出班はさぶの家に到着する。子供たちを保護するが、その子供たちは供花村に住む若者たちの実の子供であり、大悟は自分の子供まで後藤家に捧げる村人たちの感覚に理解が追いつかない。そこに後藤家から後藤龍二率いる追っ手が到着し、警官たちと戦闘になる。大悟の圧倒的な戦闘能力に押される龍二たちは、加奈子と息子を人質に取る。一時こう着状態となるが、それが龍二の狙いで、山の中からはライフルを装備した後藤洋介が狙いを定めていた。

拉致

子供たちを保護した大悟に後藤真から連絡が入り、金丸豪が率いた警官隊が皆殺しにされたことが告げられる。一方で、さぶの家に来た後藤龍二らは阿川大悟たちによって全員逮捕されていた。突如、真から山伏に守られているはずの阿川有希阿川ましろを預かっていると告げられるものの、大悟はハッタリだと高をくくる。有希とましろが潜伏しているホテルに捜査員の千堂と菊田が現れ、山伏から二人を預かり、より安全な場所へ移動することとなる。ホテルの駐車場で供花村出身の警官二人が移動に同行すると言うが、署長からそんな話は聞いておらず、信用できないため、始末書覚悟で千堂は警官二人を殴り倒す。二人の警官の旧姓は「後藤」であり、後藤家が優希とましろを拉致するために送られた人間だった。本物の警官にまで後藤家の人間がまぎれている事実を知り、千堂は警戒を強める。しかし、有希たちを車に乗せ、保護する場所に移動中、後藤家の追っ手に大型トラックで突っ込まれ、二人を攫(さら)われてしまう。千堂はその事実を大悟に伝えると、大悟は後藤洋介を人質に後藤家との交渉に臨む。

後藤恵介と阿川大悟

後藤家に拉致された阿川大悟は、拷問部屋に監禁されていた。後藤恵介が人払いをし、大悟と二人になったタイミングで、阿川有希を逃したこと、阿川ましろは攫(さら)われたままであるがまだ生きていることが告げられる。恵介はましろは死ぬべきではないと考え、大悟に救出の協力を要請する。恵介はあの人を殺し、供花村の呪われた風習を終わらせる決意を固める。居場所の見当はついており、おそらく来乃神の祭壇であるという。しかし、後藤家の家から脱出する策などなく、見張りを殴り倒して正面突破で大悟と恵介はあの人とましろのもとへ向かう。一方、瀕死の負傷から意識を取り戻した後藤岩男は恵介の裏切りを知り、神山宗近神山正宗のもとへ赴く。その頃、来乃神神社には後藤家に鬱憤(うっぷん)が溜まった村人たちが集まり、宗近に「今が後藤家を潰すチャンス」だと直訴しに来ていた。現に当主である後藤銀が死に、警官隊と戦って主要の兵隊が戦線離脱している現在の状況はチャンスだった。そこに後藤家の兵隊を連れて岩男が到着し、宗近に対して恵介を誑(たぶら)かしたと詰め寄る。

後藤家の歴史

神山正宗の目前で村人たちと後藤家が揉める様子を見て、正宗は後藤銀とつくり上げた現在の後藤家と供花村の状況がはたしてよかったものなのかと思いを馳せ、過去を回想する。若い頃の銀は非常に美人だった。しかし、当時の後藤家次期当主の後藤金次に虐待され、性的な関係も強要されていた。村人たちに対しても暴力的で横暴な振る舞いの金次をなんとかしたいと思い、正宗は当時の来乃神神社神主である父親の神山吉宗に進言する。吉宗は村人からも同様の相談を受けていた。いざ、吉宗と共に後藤家に赴き、金次に対して村人への暴行を咎めるのかと思いきや、吉宗は金次に頭が上がらず、村人の支配を手伝うと言い出す。吉宗の態度に落胆した正宗は帰り際、銀から二人で話がしたいと声をかけられる。この日から来乃神の祭壇で二人は逢引することとなり、正宗は銀の体に溺れていった。色事に狂った正宗は、虐待を行う金次に敵意を持つようになる。一方で村人とのあいだに吉宗が入ったことにより、金次と村人たちの関係は良好なものとなっていた。しかし、もともと裕福な村ではない供花村に不作が続き、村人たちの不満は阿婆擦(あばず)れと噂の銀に集中するようになる。そんな折、銀の妊娠が発覚する。父親は正宗か金次かわからないと打ち明ける銀だったが、正宗は銀と結婚する覚悟を決め、おなかの中の子供に「白銀」と名づける。やがて冬が訪れ、飢饉が酷くなり、銀に集中していた不満が爆発し、正宗といっしょに居る時に村人から襲撃される。銀は近くの石碑を武器に応戦し、結果として村人の頭を潰して殺してしまう。事件を聞きつけた村人たちから、銀は来乃神に生贄(いけにえ)として捧げられることになる。というのも、殺人はきっかけに過ぎず、過去に銀の母親が来乃神に生贄として捧げられるはずだったが、後藤家当主である定によって避けられた。そのことから不作は娘である銀のせいだと、村人たちからは考えられていたための結果だった。そんな考えの村人たちから正宗は銀を守るために反対するが、村人の意思は変わらず、銀は妊娠中であるにもかかわらず、縛られて山奥に連れて行かれた。一部始終を見ていた吉宗から銀の拘束が解かれ、銀は一命を取り留める。その日から山で行方不明になる者が続出する。山から命からがら逃げ帰った村人の証言により、銀は子を出産し、行方不明者は銀に狩られ、殺され、捌(さば)かれ、食われていたことが語られる。銀が生きていたことを聞きつけた金次は山から銀を連れ帰り、独占欲から座敷牢に幽閉する。金次もまた銀の色香に狂った一人だった。正宗が後藤家を訪れ、銀に会わせるように懇願するものの暴力で追い返し、村人側の正宗と対立が深まる。そんな状況でも飢饉は変わらず、餓死者が続出していた。そこで正宗は後藤家から食料を強奪する計画を立て、あわよくば金次から銀も取り返す腹積もりだった。村人たちを扇動し、後藤家に乗り込んで交渉が開始される。当初は武力で制圧しようとしていた金次だったが、村人たちの気迫に折れ、食料を差し出す。終わったかに見えた交渉だったが、一発の銃弾が村人側に撃ち込まれ、被弾した者が死亡してしまう。いきり立つ村人たちに応戦する後藤家。終わりかけた交渉を再燃させ、殺し合いに発展させたのは、銀の手引きによって集まった供花村外の野盗たちだった。銀の狙いどおり、その場に居合わせた後藤家の本家筋の者は皆殺しにされた。座敷牢に逃れてきた金次を殺し、銀はその肉を赤子と共に食う。野盗たちは銀を解放し、出てきた銀と赤子(あの人)が、生き残った村人たちに食料を分け与え、これからは来乃神でなく後藤家に生贄を捧げるように要求する。この要求を村人たちは受け入れ、銀が連れてきた野盗たちが後藤家として、あの人が「現人神」として、現代まで続く支配構造が確立されたのだった。

登場人物・キャラクター

阿川 大悟 (あがわ だいご)

供花村で駐在員を務める男性。黒の短髪に無精髭を生やしている。排他的な村において、「ヨソ者」とからかわれながらも村人たちとうまく付き合っていた。供花村の住人からは「駐在」と呼ばれている。妻の阿川有希と共に娘の阿川ましろを溺愛している。村人と揉めそうになるときには有希から諭されて穏便に済むこともあり、夫婦仲は円満である。ましろに危害を加える者には容赦がなく、過去に児童性愛者である今野翼がましろを人質に取って心中しようとした際に射殺している。その事件で目の前で人が殺されたショックから、ましろが言葉を話せなくなり、表情が乏しくなったことをずっと後悔している。供花村に赴任する前は都会で刑事をしており、ストーカー被害に遭っていた有希と担当刑事として出会い、惚れられて結婚に至った。刑事時代の相棒は山伏で、供花村に赴任した現在でも信頼は厚く、一度村から脱出した時も有希とましろの保護を頼んだ。被疑者に対して暴力を振るうことにためらいがないため、やりすぎてしまうこともあり、ましろからも「ぼうりょく警官」と認識され、学校で発表する作文にも書かれていた。しかし親バカのため、その作文を読んで「天才」だと感想を漏らしている。宇多田が運営するオカルトサイト「クロニカル」で京介が書いた「食人」に関する記事を読み、後藤銀の遺体に人間の歯型を見つけ、供花村では「食人習慣」があるのではないかと疑いを持つ。前任の狩野治が失踪した真相と食人習慣を調べていく中で、供花村と後藤家の暗部に触れていくこととなる。後藤恵介から初対面時に猟銃をつきつけられ、後藤家を危険視するが、さまざまな危機を乗り越えることで、恵介が実は自分を守ってくれていたことに気づいて信用するようになる。県警内では射撃も格闘術も超一流と評され、事実単騎で後藤家の調査に乗り込み、後藤睦夫ら血の気の多い若衆と戦闘になった際にも全員倒している。恵介と共闘する時には、「誰も死なせたくない」という思いの恵介とは対照的に、「気に入らない者は全員殺す」というスタンスで戦っていたことから、恵介に現在の後藤家の支配構造を破壊する希望と見られるようになる。

阿川 有希 (あがわ ゆうき)

阿川大悟の妻で、阿川ましろの母親。胸の大きい美人で、気が強い。過去にストーカー被害に遭っており、その時担当した刑事である大悟に惚れて結婚した。娘のましろのことを第一に考えており、供花村に対して嫌なことや不気味なことがあっても、ましろが笑顔になっている環境をできるだけ変えたくないと思っている。また、事件の渦中でましろと自分を拉致した後藤家に対しても、ましろに危害を加える者は決して許さないという姿勢は崩さず、スキを突いて男の頭を石で殴打するほど意思は強い。過去に今野翼がましろに付きまとっていた際にも、目の前に現れた瞬間、刑事の大悟に劣らない反応速度で警戒していた。すぐ怒る大悟のよき理解者として、さぶをはじめ、村のみんなといい付き合いができるように大悟を諭す場面も多い。実は供花村の男たちや後藤家の男たちから人気があり、飲み会で有希が参加すると男たちはテンションが上がる。中には有希を覗きに阿川宅まで来る者もおり、ストーカー気質の男を引き寄せるなんらかの魅力を持っている。

阿川 ましろ (あがわ ましろ)

阿川大悟と阿川有希の一人娘で、小学3年生の女の子。おかっぱ頭で笑顔がかわいいが、親の目を盗んでフラリと出かける癖がある。供花村に来る前に、阿川ましろに対して近所のお兄さんとしてなかよくしていた今野翼を目の前で大悟に射殺され、ショックから言葉を話せなくなり、表情を失った。供花村に住んでからは笑顔を取り戻し、以前のような明るい表情を浮かべるようになった。両親からの愛情を一身に受け、素直に育っている。非常に頭がよく、都会に住んでいた頃は、大悟が「ぼうりょく警官」であるということも認識しており、作文に書いて学校で発表している。ただし、父親が被疑者に対して暴力を振るう描写だけでなく、母親も子供を叱るときはもっと優しく、というオチをつけた内容だったため、クラスの子供たちから絶賛の声が上がった。その作文を読んだ親バカな大悟は「天才」と評している。供花村で大悟が後藤家や村人と揉めていても、ましろ自身は学校で子供たちとうまくやっているようである。現在も言葉が話せないため、学校でのコミュニケーションは「おはなしノート」というノートによって筆談で行われる。

次期後藤家の当主を務める男性。1987年生まれで、年齢は31歳。母親は後藤藍、弟は後藤洋介。戸籍上の父親は村長である後藤清であるが、実の父親はあの人。強面で染めたロン毛にニット帽がトレードマーク。狩猟... 関連ページ:後藤 恵介

後藤 銀 (ごとう ぎん)

現在の後藤家の当主を務めていた女性。1923年生まれで享年95歳。一人称は「己(オレ)」だが当主となるまでは「ウチ」だった。供花村の絶対的な支配者であり、後藤家のトップたる風格を醸し出している。孫の後藤恵介をはじめ、後藤家本家筋には「後藤家以外は人間と思うな」と教育しており、その刷り込まれた教育は、恵介や神山宗近から「呪い」だといわれている。表向きは「山菜を採りに山へ行ったら熊に襲われて死亡した」とされているが、実際は後藤家に恨みを持つ村人たちの襲撃に遭って殺害されている。死の際に息子のあの人から腕を食われかけている。その時に付いた歯型に、阿川大悟が気づき、供花村での食人の疑いが浮かび上がることから物語が始まる。晩年は食人による「クールー病」が進行し、つねに引きつった笑顔のような表情で意識も曖昧だった。母親は村一番の美人で、それゆえに男たちが自分を取り合って揉めないように村の慰み者となっていた。奉納祭で来乃神に捧げられることになるものの、後藤金次の父親の定に保護され、後藤家に連れてこられる。その後、銀を出産後に死亡した。定の妾の子とされているが、母親は定と関係しておらず、父親は不明。若い頃に一度供花村を出て行って街で生活していたが、母親ゆずりの美貌と体を使い、男をあやつって生きていた。供花村に戻ってからは、街での生活から「阿婆擦(あばず)れ」として金次だけでなく、村人たちの不満の捌け口として扱われる。金次からは「色事しか知らん」と評されるほど、男を悦ばせることに長けており、権力を持つ男に近づいてあやつっていた。たぶらかした神山正宗が当時の村人を扇動し、後藤家の当時の本家筋である金次らを皆殺したことによって当主の座に就き、血脈を乗っ取った。以後、息子である「あの人」を象徴とし、奉納祭で生贄(いけにえ)を捧げることを強要し、正宗と共に後藤家が供花村を支配する構図をつくる。

後藤 洋介 (ごとう ようすけ)

後藤恵介の弟で、坊主頭の青年。1995年生まれの23歳。体力はあまりなく、山歩きも得意ではない。気が弱く優しい性格で、すぐに泣いてしまうが、銃の腕は天才的で、スコープもない猟銃を構えてからノータイムで飛んでいる小鳥の頭を撃ち抜くほど。阿川大悟からSATをも上回ると評されるほど銃の扱いに長けている。後藤洋介自身も銃に絶対的な自信を持っているため、当てるつもりはないからと、人がいる方に向けても平気で撃つ。声をかければ済むだけの用事のときも銃を撃つことがあり、初対面時には大悟に銃を取り上げられた。後藤家で唯一、狩野治と親しかった。「食人習慣」に疑問を抱いており、後藤家だけでなくほかの子供や村人も誰も死んでほしくないと考えている。今年から奉納祭で生贄(いけにえ)とされる子供の世話を務めることとなる。戸籍上、後藤清が父親で洋介自身もそう思っているが、実はあの人と後藤藍の息子である。

後藤 岩男 (ごとう いわお)

後藤恵介の同級生で友人の男性。年齢は31歳。髭面の大男で、いつもキャップをかぶっている。自分の役目は後藤家の兵隊で、恵介をなんとしてでも守ることだと強く認識している。小学生の頃から、後藤銀に「後藤家のいい兵隊になる」と言われていた。見た目どおりの怪力を誇り、後藤家に踏み込んできた重装備の警官隊をあの人と後藤岩男が中心となって全滅させた。生き残った警官をして「岩男さえ居なければ制圧できた」と言わしめるほどに戦闘能力が高い。猟銃の扱いはもちろん素手でも強い。「後藤家のためか否か」を判断基準にしており、誰でも守ろうとする恵介に対して後藤家としての判断を諭すこともある。監禁している子供たちを助けに来た大悟に「後藤家の中に内通者がいる」と吹き込まれ、恵介や後藤洋介に疑いを持つ。銀が後藤家の血脈を乗っ取る際に手引きした野党の末裔である。

さぶ

供花村の村人たちのまとめ役を担う中年男性。禿げ頭に口髭を蓄え、でっぷりとした体型をしている。後藤家を憎んでいる一方で恐れており、後藤家の命令で狩野家や阿川家を監視している。後藤家に対する恐怖は相当なもので、娘である加奈子が出産した際に後藤銀に孫を取り上げられても何も言えなかった。基本的に愛想がよく笑顔を浮かべているが、目は笑っていない。田舎特有の男尊女卑の考えの持ち主で、女と見れば阿川有希にもお酌を要求する。日常的に加奈子に暴力を振るっており、DVの嫌疑から阿川大悟に捜査されることとなる。後藤家からの信頼はそれなりにあるようで、メインの監禁場所である座敷牢が警察にバレた時は、子供たちの隠し場所としてさぶの家が選ばれた。

狩野 治 (かりの おさむ)

阿川大悟の前任者で供花村の駐在を務めていた初老の男性。故人。妻と娘の狩野すみれと共に供花村で2年半ほど平和に暮らしていたが、徘徊していた後藤銀を病院へ連れて行った際に「クールー病」の症状を確認し、後藤家が食人を行っていると疑念を持ち、村八分にされた。もともとは優しい顔つきをしていたが、後藤家を調べるうちに目は落ちくぼみ、狂人のような顔つきに変わっていく。村人からは気が狂って蒸発したと思われており、後藤恵介からもギャンブルの借金が原因で失踪したと認識されていた。しかし実際は後藤睦夫に殺害され、遺体は後藤家の私有地である山に放置されていた。後藤家が人間を食べている事実を調べる際に京介から衛星電話を借り、宇多田と組んで非公式に調査を進めていたが証拠をつかむ前に殺害された。村では狩野治の話をすることはタブーとされる雰囲気がある。

狩野 すみれ (かりの すみれ)

狩野治の娘。ボブカットに眼鏡を掛けた小柄でかわいらしい容姿をしている。現在は供花村を出て行き、街で暮らしている。都会で働いていたが妻子持ちの上司と不倫をして退職し、両親を頼りに供花村に移住してきた。移住当時の年齢は22歳。移住の原因となった不倫のことが、供花村の住人全員に知られ、女たちからは「ふしだら」、男たちからは「やれそう」と誹謗されていた。のちに後藤睦夫に父親が殺され、村八分にされた母親は精神的におかしくなってしまった。後藤家を恨んでおり、後藤銀の葬儀にまぎれ込んで棺桶を蹴り倒すなど、後先考えず自分の思うままに行動してしまうところがある。治が最後に通話していた番号として京介の衛星電話の番号を阿川大悟に渡す。供花村に住んでいた頃、自分を度々守ってくれた後藤恵介と恋仲になる。のちに恵介の子供を身ごもっていることがわかり、恵介に知らせに来たところで、警察が後藤家に踏み込む修羅場に巻き込まれる。

あの人 (あのひと)

後藤家の象徴として供花村に君臨する老人。後藤家のほぼすべての決定権が委ねられている。背が異常に高く、髭や髪の毛の処理をほとんどされておらず、ふだんは座敷牢で暮らしている。村人からは「現人神(あらひと)」として畏敬の念を抱かれている。年に一度の奉納祭で後藤銀が死産を偽装し、後藤家で「飼って」いる子供をあの人が食べることが儀式化している。実は銀の実の息子であり、父親は銀が当時関係を持っていた後藤金次か神山正宗のどちらかであるが定かではない。妊娠中の銀が山に生贄(いけにえ)として捧げられた際に、正宗の父親の神山吉宗が銀を逃がした。出産後も母親となった銀が人間を狩って食料としていたために人間を「肉」として見るようになった。赤児時分に銀と共に後藤家に捕まり、地下の座敷牢に幽閉されていたが、今でもそこを自らの居として過ごしている。赤子の頃から基本的に食料といえば「人間」という環境であったため、年老いた現在でも人肉が主食であり、狩野治の肉も食べていた。そんな食生活が祟り、幼少期には食人による「クールー病」を発症しているが、1〜2年で死ぬといわれた病を克服して現在に至る。病気の影響なのかは不明だが、意識は曖昧で、言葉は片言で一言二言しゃべるだけであるが、その不気味さから「神」としての雰囲気が醸し出されている。老齢ながら身体能力は凄まじく、巨体にもかかわらず異常に素早く、鎌を主に武器として使う。後藤家の危機には必ず現れ、単独で捜査に来た阿川大悟の頭を斬りつけて退けたほか、後藤家制圧のために編成された重武装した警官隊も後藤岩男と共に戦闘の中心となって全滅させた。現在で知る者は正宗のみとなったが、銀の妊娠中に正宗により、「白銀」という名が付けられている。

後藤 睦夫 (ごとう むつお)

後藤家の男性。長髪だが頭頂部が禿げ上がり、肥満体型をしている。武闘派ぞろいの後藤家の中でも特に凶暴な性格で、阿川大悟が後藤家を調べるために訪れた際には、殺すつもりで猟銃を発砲して戦慄させた。また、狩野治を殺害して後藤家の山に捨てたのも後藤睦夫である。鑑識医である中村一に、後藤銀をはじめとする後藤家の「食人習慣」をしゃべらないよう、指を折りながら脅すなどやり方が残虐。これ以上後藤家に捜査が及ばないようにと自首したが、睦夫の逮捕が、家族以上の関係だった後藤真に、警察に対して憎悪を抱かせることとなった。

署長 (しょちょう)

供花村出身で近隣の街の警察署長を務める中年男性。幼少の頃から「後藤家とはかかわるな」と教育されてきた。当初は供花村出身ということで阿川大悟から信用されていなかったが、監禁された子供たちを救出するために捜査員を集めたことで信用を得る。後藤家とは関係のない村人側であったため、後藤家の内情には詳しくないが、子供の頃に葬儀であの人を目撃したことがあり、それは大悟にとって有益な情報となった。体を悪くして療養中の父親から供花村の話を聞き、「クールー病(狂い病)」の存在を知り、後藤家の「食人習慣」を裏付けた。

金丸 豪 (かなまる ごう)

特殊犯捜査第一係係長を務める中年男性。冷静な性格をしており、つねにティアドロップ型のサングラスを掛け、鼻をほじる癖がある。実は後藤金次の孫で、もともとの後藤家の本家筋の血を引いている。先代の時代に、後藤銀によって乗っ取られた後藤家を潰すことを父親から刷り込まれて育つ。供花村の村長である後藤清とつながり、現在の後藤家の壊滅を画策していた。後藤睦夫による狩野治の殺害と、阿川大悟の捜査で判明した無戸籍児の拉致監禁を理由に、警察が後藤家に対して捜査に踏み切ったことで動き出す。証拠が少ないために人員が動員できないとわかると、大悟を焚き付け、捨て駒として単独で後藤家に送り出し、その事実を口実に警官隊を編成するなど、後藤家を潰すことに対して手段を選ばない。清や署長と連携して、監禁されている子供たちを助け出し、後藤家本家の制圧まであと一歩というところまで追い詰めるものの、後藤岩男とあの人を中心とした兵隊たちに全滅させられた。

今野 翼 (こんの つばさ)

阿川大悟が供花村に飛ばされることとなった事件の中心人物で、故人。爽やかな雰囲気を漂わせた大学生くらいの年齢の好青年だが、左腕にリストカットの跡があり、その傷を掻きむしる癖がある。都会で生活していた阿川家の近所に住んでおり、大人には「面倒見のいい近所の兄ちゃん」、子供には「手先が器用で色んなことを教えてくれる優しいお兄さん」と評されていた。しかし評判のよさに反して、児童性愛者であり、子供に対する猥褻罪で逮捕、起訴されていたため、結果として、阿川家の住む街に立ち寄り禁止の命令が出ていた。だが、今野翼自身は阿川ましろを心から愛していたため、自分を抑えきれずましろに会いに赴いた公園で阿川一家に遭遇。ましろにほほ笑んでもらうものの、大悟に「偶然だろうと次見かけたら殺す」と脅されて失意に暮れる。阿川有希のスキを突き、ましろが今野の自宅に別れを告げに来た際には、欲情しながらも理性で本能を抑えつけ、別れを受け入れる。しかし、女児が今野宅に入ったと情報を受けた大悟が現場に到着するや否や殴り倒される。そして優しい言葉をかけてくれたましろに対し、理性のタガがはずれ、ましろを人質に取り「いっしょに死のう」と発言したことで大悟に射殺された。

神山 宗近 (かみやま むねちか)

村唯一の神を祀る来乃神神社の次期神主の青年。年齢は31歳。坊主に近い短髪に丸眼鏡を掛けている。後藤恵介や後藤岩男と同級生で、かつては友人だったが、現在表向きでは疎遠になっている。神の使いとして供花村では後藤家に匹敵する権力を有しており、その発言力は阿川大悟の態度に怒り、興奮して騒いでいる村人たちを一言で黙らせるほどである。村人たちからは「坊っちゃん」と呼ばれて親しまれている。供花村の食人という狂った風習を「呪い」と呼び、恵介と共に終わらせることを目標としている。大悟が村人たちや後藤家を探っているのを知り、後藤家に乗り込んだ結果、逃走中となった大悟を匿うなど非常に協力的である。衛星電話仕様にカスタムした携帯を使い、電波が届かない山の中でも大悟や恵介と連絡を取っている。荒事の矢面に直接立つことはないが、村人たちをうまく誘導して惨劇を回避しようとする。後藤銀が村人に襲撃され、死の瞬間にも恵介と共に立ち会うこととなるが村の均衡のために隠蔽した。

宇多田 (うただ)

オカルトサイト「クロニクル」を運営する中年男性。髭を蓄えた風貌の男色家で、黒縁眼鏡を掛けている。供花村での「食人習慣」の噂を聞きつけ、かつて狩野治に協力していた。自分のサイトで、京介にカニバリズム(食人)についての記事を執筆してもらったことをきっかけにして供花村に興味を持つ。阿川大悟が「食人習慣」について知ったのもクロニカルの記事からだった。大悟と出会い、後藤家を探る協力者となる。京介から治が借りた衛星電話をさらに借り受け、捜査に協力していた。後藤家が子供たちを監禁している場所を発見し、大悟に知らせたあとに事件解決まで会わないと言い残し、供花村から離れる。

京介 (きょうすけ)

鼻と顔の左半分を食われた男性。年齢は21歳前後と推察される。顔に皮膚の仮面をつけており、口も食われているために呂律がうまく回らない。過去、供花村の奉納祭であの人に食われるために後藤家に監禁されていた。奉納祭で食われている最中に後藤藍に助けられ、以降18年間共に暮らしている。戸籍も名前もなかった自分に「京介」という名前と戸籍を与えてくれた藍に感謝し、「母さん」と呼んで愛情を感じている。供花村の「食人習慣」を探っている、狩野治や阿川大悟に情報を提供する。衛星電話を所持し、電波の入りにくい山の中でも使えるように治に貸していた。治が失踪してからは新しく買い直し、現在では衛星電話は京介が所持している。

加奈子 (かなこ)

さぶの娘。父親に似てだらしない体型で、眉毛がつながっている。3年前に男の子を出産したが、助産師をしていた後藤銀に死産を偽装され、赤ちゃんを取り上げられた。それから精神的におかしくなり、さぶからもDVを受けるようになる。村人の飲み会で阿川ましろを見て自分を抑えきれずに連れ去ろうとし、阿川有希をはじめとする村人たちに引き離されたが、そこで口にした銀による死産偽装の情報により、阿川大悟がより一層食人の疑念を強めることとなった。のちに後藤家から救出された子供の中には加奈子の息子もおり、お互い親子だと気づいていないにもかかわらず、再会を果たした際には何かを感じ、涙を流した。

後藤 藍 (ごとう あい)

後藤恵介と後藤洋介の実の母親。1964年生まれで、年齢は54歳。もともとは供花村の奉納祭で、あの人に食われる予定の無戸籍児だった。両親は不明。子供の監禁場所である座敷牢に監禁されていたところ、後藤銀に目をかけられて名前と戸籍を得た。若い頃は非常に美しく、結婚相手には困らない容姿をしていたため、銀により、村長候補である後藤清と結婚させられた。しかし、清は少年期に断種手術をされているため、二人に子供ができるわけもなく、銀の命令によってあの人と交わって恵介と洋介を出産した。出産直後に銀から折檻を受け、以後、笑顔を貼り付けたような表情で過ごす。銀の言いなりに生きており、恵介からは「かわいそうな人」と思われていた。洋介が赤子から幼年期になる頃には、銀から「役目を終えた」と告げられて自らの子供にかかわることを禁じられる。「必要だから拾われ、不要になったから捨てられた」と後藤家に憎悪を燃やすが、銀からは「悲劇に溺れる生粋の自己陶酔者(ナルシスト)」と評されている。18年前の奉納祭で、後藤家として最後の仕事である生贄(いけにえ)にされる子供の世話を終え、いざ当日にあの人が子供を食う時に、食われている途中の子供を救って逃走する。その際に、本家筋で次期当主の恵介が、自らを人質に自殺を仄(ほの)めかして後藤藍の逃走を手助けしたため、なんとか逃げ延びる。その時助けた子供に「京介」という名と戸籍を与え、以降18年間ひっそりと暮らしていた。しかし18年のあいだ、後藤家への憎悪がおさまることはなく、自分の子供である恵介や洋介、また藍自身が命懸けで救出した京介も愛することなく過ごしている。

中村 一 (なかむら はじめ)

鑑識医を務める初老の男性。白髪で眼鏡を掛け、いかにもインテリの風貌をしている。供花村周辺の司法解剖を担当しており、後藤銀の遺体や阿川大悟が持ち込んだ指も調べた。過去に狩野治が連れてきた銀を、食人によって引き起こされる「クールー病」だと診断し、供花村の「食人習慣」を確信する。しかし、逮捕直前の後藤睦夫に指を折られて拷問され、脅されていたため誰にも話せなかった。後藤家の捜査に警察が動き出したのをきっかけに、大悟に銀がクールー病を患っていたこと、また古いカルテから、供花村では昔から食人習慣があったことを伝える。

神山 正宗 (かみやま まさむね)

来乃神神社の現神主で神山宗近の父親。後藤銀と同世代で、高齢な男性。現在は眼鏡を掛け、なんらかの病を患っている。己の死期が間近にせまっていることを感じており、今年の奉納祭で神主を宗近に継がせて隠居の身となる。宗近に「供花村のことで知らないことはない」と言われるほど事情に精通している。村の成り立ちから、先代の後藤家の当主である後藤金次から現当主の後藤銀に血脈が移った経緯や、後藤家の象徴であるあの人の出生の秘密、後藤家の座敷牢で子供を「飼って」いることまで知っている。若い時分はいかにも好青年という風貌だった。金次の横暴な振る舞いをなんとかしようと、前神主である父親の神山吉宗に進言するものの、事勿れ主義だったため、見切りをつけて自らで村を変えたいと思うようになる。その気持ちを利用した銀から誘惑されて色に狂い、あやつられ、飢えに苦しむ村人たちを先導し、食料を略奪するために後藤家へ乗り込んだ。村人vs後藤家という構図の中で、銀の策略によって本家筋の人間の大半が亡くなり、当時の後藤家の血を絶やすことに加担することとなった。また銀の色香に溺れていたため、銀と関係していた金次だけでなく、銀と離れるように助言する村人や吉宗に対し、嫉妬からの発言だと思い込むようになっていく。のちに銀の妊娠が発覚し、父親は神山正宗か金次のどちらか不明な状態でも銀と結婚することを決意する。その後、銀が生贄(いけにえ)として来乃神に捧げられたことや、次期神主としての立場から結婚は叶わなかったが、妊娠中に子供に「白銀」と名づけた。この時、銀が妊娠して産まれた子供が「あの人」であり、出産後は銀と共に、現在の後藤家が絶対的に村人を支配する供花村の構造をつくった。

後藤 金次 (ごとう きんじ)

後藤家の当主になるはずだった男性。金丸豪の祖父で、故人。口髭を蓄え、太った体型をしている。都会から供花村に戻ってきた都会的な出で立ちの紅という姉がいる。傲慢で横暴な性格で、供花村のほとんどの土地を買い占め、村人たちを人間とは思っていない。一方的に暴力を振るうことも日常茶飯事で、村人たちは不満を溜めていた。後藤家の山で採れた銅の販路を取り持ってくれた来乃神神社の神主である神山吉宗とは旧知の仲ではあるが、気に入らなければ容赦なく脅す。吉宗に村人とのあいだに入ってもらい、関係がよくなるが、後藤金次自身は村人を「家畜」と考えている。後藤銀とは異母兄妹と認識していたが、血はつながっていない。若い頃の銀と性的関係を持って虐待していたが、実は誘ってきたのは銀からで、銀を「色事しか知らん」と評している。わかっていながらも銀の色香に溺れ、最後は愛するようになり、独占欲から神山正宗と対立するようになる。あの人の父親候補であるが、当時銀と関係を持っていた正宗とどちらが父親かは不明。

後藤 清 (ごとう きよし)

供花村の村長を務める男性。髪をオールバックにして眼鏡を掛けている。目の焦点がつねに合っていない。猟友会の山狩りをはじめとした村のイベントではあいさつをするが、話が長く同じことを何度も言う癖がある。村人たちからは「村長」と呼ばれている。婿養子という形で後藤藍と結婚し、後藤家に入った。後藤恵介と後藤洋介の戸籍上の父親。後藤銀の手引きにより、子供の頃に断種手術を受けており、子供ができない体になっていることを最近まで後藤清自身も知らなかった。あの人の血を残すため、戸籍や立場のためだけに銀に利用されていたことを知り、後藤家を裏切る。本家筋でないため、後藤家の暗部には深入りしていないが、供花村では数少ない村外と交流を取れる立場を利用して、金丸豪とつながって後藤家の崩壊を画策している。

集団・組織

後藤家 (ごとうけ)

もともとはよその土地を追いやられた流れ者で、供花村に住み着いた一族。流れ者であるがゆえに、村人たちからも忌避され、農業もできない山の中へとすみかを移された。そのため、村人への恨みの根が深いが、追いやられた山で銅が産出され、後藤定が当主の代に財を成し、供花村のほぼすべての土地を買い占めた。これにより、来乃神神社と同等の権力を有することとなり、以降供花村を支配している。後藤金次の父親の定が当主を務め、金次が次期当主の時代は、彼の度重なる横暴な振る舞いで村人と関係が悪化していた。そこで、先代の来乃神神社神主である神山正宗があいだに入ることで関係が良好となった。後藤家の血脈でない後藤銀が妾の子という扱いとはいえ、定の娘とされていたため、銀によって本来の後藤家の本家筋は殺され、銀の手引きでやって来た野盗の一団が新たな後藤家となった。その野盗の一団は、後藤岩男らの先祖にあたる。以来、銀が当主に就き、現代では本来の後藤家でない血脈が本家として受け継がれており、過疎の村にありながら、後藤家だけで23世帯もの集落を形成している。ちなみに銀の時代は、飢饉などで食べるものがなくなれば人肉を食していたため、食人による病である「クールー病」を発症する者が多かった。現代では「食人習慣」があるのは銀の息子であるあの人のみである。

場所

供花村 (くげむら)

山間にある過疎化が進む田舎の村。娯楽が少ないために、村人たちは些細なことでも噂として拡散する。村内のほとんどの土地は後藤家が所有しており、村人たちは農地などを借り受けている。過去には後藤家が所有する山から銅が産出され、一時的に財政的に豊かになるものの、すぐに枯渇したことで貧しい農村に戻った。村人の気質は温和ながら、不満があっても自分の手は汚さずに誰かに変えてもらおうとする、他力本願で卑劣な一面がある。来乃神を唯一神と崇め、神山家に権力を置いてきた。年に一度の「奉納祭」では神に生贄(いけにえ)を一人捧げる風習があったが、後藤銀の改革により、生贄を捧げるのは来乃神ではなく後藤家へと移った。昔から供花村の住人たちと後藤家は度々対立してきたが、銀と神山正宗が作り上げたシステムによって上下関係が明確になり、現代では平穏を維持している。ただし、村人のあいだには「後藤家とはかかわるな」という認識が常識化されている。

書誌情報

ガンニバル 4巻 日本文芸社〈ニチブンコミックス〉

第4巻

(2019-11-18発行、 978-4537141740)

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