誘拐事件から始まる奇妙な同棲生活
ある秘密を抱えた14歳の少女、幸が、謎の青年、ハルに誘拐されたことで物語が始まる。幸は自分のストーカーでもあるハルに誘拐されたという自覚がありながらも、逃げ出すこともなく彼を慕っており、結婚を前提とした奇妙な同棲(どうせい)生活をアパートの一室で始める。そんな幸の言動を不思議に思いながらも彼女との生活を受け入れたハルは、警察や世間の目を逃れながらあらゆる手段を用いて、幸と二人だけの儚(はかな)い時間を守ろうとする。サスペンスやヒューマン要素を交えながら、ふつうの恋愛とは異なる奇妙な関係性と日常が描かれる。
ハルと幸の過去や誘拐事件の謎
ハルはマスクで顔を隠しているが、素顔はイケメンの銀髪青年。物語当初の時点では幸がハルに誘拐された詳細な過程や理由は明かされておらず、一見ほのぼのとした日常描写の中で、二人を取り巻く数々の謎が明らかになっていく。特にハルについては当初から謎が多く、彼の過去や幸へのストーカー行為など、意外な一面が物語の進行と共に明かされる。同時にハルの心境にもさまざまな変化が訪れ、過酷な環境で生きてきた彼女の幸せを、心から願うようになる。
幸せなはずの二人に立ちはだかる試練や障害
常識外れで歪(いびつ)ながらもハルと幸の幸せな生活には、さまざまな障害が立ちはだかる。その多くは警察関係者や幸の関係者で、彼女を虐待していた両親(あの人たち)は世間体を気にして警察に捜索を依頼していた。また幸に暴行を振るっていた担任教師の形切診はいまだ彼女に執着しており、私立探偵の松葉瀬聖も捜索に参加するなど、ハルと幸の安全を脅かす事件も次々に発生し、それぞれの人間関係も複雑化していく。
登場人物・キャラクター
ハル
ストーカーの青年で、銀髪でつねにマスクをしている。幸からは「お兄さん」と呼ばれている。幸をストーカーしていたが、彼女の自殺を止めたのちに誘拐し、自宅で共に暮らしている。本気で幸を誘拐する気はなく、いつでも彼女が逃げられるようにしているものの、幸が毒親の両親の家に帰りたがらないため、結果的に警察から逃れながら二人で同居生活を送っている。本名を捨てた彼女に、幸せになってほしいという願いを込めて「幸」と名づけた張本人。料理上手で家事を得意としている。幸に対しては一方的に片思いしていたが、二人で暮らすうちに両思いとなる。警察から逃げ切れたら結婚しようと提案する幸に同意し、決して彼女を見捨てず守り続けることを約束する。
幸 (さち)
ハルと共に暮らす女子中学生。年齢は14歳。黒のロングヘアで、体中に傷痕や痣がある。家庭での暴力や学校でのいじめに遭い、生きる希望をなくして自殺を図ろうとした際にハルに救われる。そのままハルに誘拐され、生まれて初めて自分を好きだと言ってくれた彼に興味を持ち始める。本名は不明で、ハルを慕ううちに本名を捨てて、彼が名づけてくれた「幸」を名乗るようになる。ハルが自分をストーカーしていたことを知りながら、虐待やいじめから救ってくれる心のよりどころのように思い、警察から逃げ切れたら結婚すること、逃げ切れなかったらいっしょに死ぬことを誓っている。
書誌情報
幸色のワンルーム 11巻 スクウェア・エニックス〈ガンガンコミックスpixiv〉
第1巻
(2017-02-22発行、 978-4757552647)
第11巻
(2022-12-21発行、 978-4757583191)