ジュブナイル・ホラー×サスペンスミステリー
本作の舞台は、山崩れで多くの人命が失われた六雲山震災から1年後の町。導入は、武藤ヒカルとその仲間が、森の奥にある屋敷で屍人(しびと)と出会い、身体の交換を要求されるというホラー展開のジュブナイルストーリー。しかし、屋敷の地下から、白骨化した夏原礼音の遺体が発見されてからはミステリー色が濃くなっていく。礼音は、震災で行方(ゆくえ)不明になっていた少年である。なぜ礼音は死んで蔵の地下に埋まっているのか。ヒカルたちの協力を得て、屍人の少年は徐々に記憶を取り戻していき、震災の日の真相と、礼音の死の謎が明らかになっていく。
ヒカルと屍人との出会い1年前の事件を掘り起こす
物語の発端は、ヒカルたち三人と屍人の邂逅(かいこう)である。いつものように近所の森を探検していたヒカルと仲間は、森の奥深くの屋敷の蔵で、不思議な少年と出会う。彼は屍人であり、日の光を浴びると燃え上がり、苦しんでまた地獄に堕(お)ちるという。屍人はヒカルが連れていた愛犬の天津と入れ替わりいったんは解放されるが、彼を縛り付ける何かがあり、森の蔵に戻ってしまう。その後、蔵の地下に埋まった白骨死体を見つけた屍人は、自分が、死にゆく子供の身体に入って生きる妖精だということを思い出す。そして、白骨の正体は1年前妖精が身体に入った夏原礼音だった。
礼音の日常に潜む不穏な影
1年前、妖精が礼音の身体に入った直後に震災が発生する。そのとき車にはねられ瀕死となった妖精は、蔵の地下に瞬間移動し、穴を掘り自分の身体を埋めようとしたが失敗したという。妖精には奥の手があり、深い地中で丸一日過ごせば生き返ることができるのだ。ただしそれは地獄より苦しい痛みを伴うらしい。それを聞いたヒカルたちは、もう一度奥の手を使おうという。最初は拒んでいた妖精だったが、ついに礼音の死体と一緒に土の中に埋まる覚悟を決める。激しい苦痛の中、礼音と一つになった妖精は彼の過去を追体験する。それは、原因不明の病気で、検査と入院に苦しむ礼音の日常だった。そして妖精は礼音の病状に不審な点があることに気がつく。
登場人物・キャラクター
武藤 ヒカル (むとう ひかる)
小学5年生の男の子。好奇心旺盛で冒険や探検が大好き。幼なじみで同級生の要一、愛といつも遊んでいる。お化けや怪奇現象は怖いが、やる時はやる勇気がある。誰かの身体をよこせという屍人(しびと)と渡り合い、隙を作って逃げる機転を持つ。愛犬の天津を弟のようにかわいがっていて、自分のせいで天津が屍人に乗り移られてしまったことを深く後悔し、天津を元に戻すため屍人と関わることになる。
屍人 (しびと)
死にかけている子供の身体に入り、その子に成り代わって生きる自称妖精。1年前、体の弱い夏原礼音に取り憑(つ)くが、直後に震災が発生。ハプニングにより死んでしまい、屍人となる。太陽の光を浴びると焼けてしまうので、日中は暗い蔵の中で布を被(かぶ)って過ごしている。不用意に蔵に侵入してきた武藤ヒカルとその友達に身体を交換するように迫るが、断られたためヒカルの愛犬の天津に乗り移る。屍人になるのは初めてのことなので、わからないことも多い。
夏原 礼音 (なつはら れおと)
武藤ヒカルの同級生。1年前の震災から行方不明になっている少年。後に森の奥の屋敷で白骨死体となって発見される。心臓に問題を抱えており、発作や検査入院を繰り返していた。少し認知症ぎみの祖父、家庭のことはあまりやらない父、祖父と礼音の世話を献身的に行う母と暮らしていた。ある日、妖精に取り憑かれ、その後震災に会う。
クレジット
- 原作