人間と獣人が対立する世界
本作には人間のほかに「獣人」と呼ばれる種族が存在し、越後から駿河を境に建てられた高さ15メートルの壁で隔てられ、淡路に首都がある人間の国「西ノ國」と、石狩に王都がある獣人の国「東ノ國」に分かれている。二つの国に異種族が入国することはめったにないが、人間の姿に近い獣人が正体を隠して西ノ國に密入国し、人間と結婚して半獣人と呼ばれるハーフが誕生することもある。人間と獣人は互いに不信感を抱いており、とりわけ西ノ國の人間は獣人はおろか、半獣人すら動物のように扱う傾向にある。さらに、西ノ國で人間を獣人に変貌させて能力を大幅に向上させる代わりに、理性や判断力を著しく低下させる違法薬物「バース」が蔓延(まんえん)したことで、両国の関係はさらに悪化している。なお、両国で何者かが意図的にバースを蔓延させているという噂もあるが、その真偽は明らかになっていない。
東ノ國にスパイとして潜入したウルト
幼い頃から虐げられてきた半獣人のウルトは、引き取られた九条家で姉弟の九条麗華、麗央となかよくなる。しかし、5年後に麗華は獣人らしき何者かに殺害されてしまう。ウルトは獣人に対して強い憤りを覚えながらも、麗央との関係がこじれることを恐れるが、何事もなかったかのように麗央はウルトを受け入れ、共に麗華の仇を討つことを誓い合う。その後、ウルトは麗央と共に対獣人部隊「鳴神」の入隊試験を受けるが、成績優秀にもかかわらず半獣人という理由から正規入隊を認められなかった。だが、鳴神の教官、公文から、違法薬物「バース」のルートを突き止めるため、自らの死を偽装して東ノ國に潜入する任務を与えられる。ウルトはこれを麗華の仇討ちにつながる唯一無二のチャンスと考え、自らの感情を抑えながら黙々と任務をこなしていく。
九条麗華を殺した東ノ國の王女
東ノ國に潜入したウルトは、麗華が殺害された現場で「白いトラのような獣人」が目撃されたことから、東ノ國の第一王女で別名「白い悪魔」と呼ばれる宝神のラゴが仇である可能性が高いと考えていた。東ノ國の王都である石狩に潜入したウルトは、ラゴに近づくために彼女の親衛隊「パーガトリー」への入隊に成功し、彼女への憎しみを押し殺しながらも、その素性と行動をつかもうとする。しかし、ウルトの正体を知らないラゴは、かつて麗華が自作した歌を口ずさむなど、彼女を大切な存在と認識しているような素振りを見せる。また、ラゴは自由奔放ながら部下思いで、人間に対する偏見もなく、違法薬物「バース」にも嫌悪感を抱いていた。ウルトはラゴの悪評とは異なる人物像に触れ、やがて彼女が麗華を殺害した犯人ではないと確信する。
登場人物・キャラクター
篝 ウルト (かがり うると)
東ノ國にスパイとして潜入している半獣人の少年。年齢は14歳。幼い頃は「5610号」と呼ばれていた。視力が0.1しかないため眼鏡をかけているが、獣化すると1.5に向上する。半獣人という理由から人間に嫌悪されていたが、西ノ國の名家「九条家」に引き取られてからは、人間らしい生活を送れるようになる。義理の兄となった九条麗央から「(5610)ウルト」の名前を与えられ、良好な関係を築いている。狼の特徴を色濃く残しており、嗅覚が非常に優れているほか、深手を負っても短期間で治るなど並外れた能力を誇る。また、周囲の殺気を敏感に感知し、「透明なナイフ」としてイメージ化することができる。さらに、身体の一部を「獣化」という能力で変化させることで、10人がかりでも止められない獣人と互角に戦うことができる。幼い頃に虐待を受けていたことから、必要以上に他者への警戒心が強いが、それが情報収集を行う際の助けとなっている。
九条 麗央 (くじょう れお)
対獣人部隊「鳴神」に所属している人間の少年。年齢は14歳。姉の麗華を強く慕っており、幼い頃は彼女の影響で獣人に対する偏見をまったく抱いていなかった。そのため、九条家に引き取られてきたウルトにも好意的で、ウルトが人間らしさと生き方を取り戻すきっかけとなった。そのためウルトからは深く感謝され、麗央自身もウルトのことをかけがえのない親友だと思っている。しかし、麗華が獣人らしき何者かに殺害されると、一転してウルト以外の獣人を憎むようになる。それからもウルトを信頼していたが、彼が東ノ國に潜入するための偽装死を本気で信じたことから、ウルトまで獣人に殺されたと思い込み、獣人に対する憎悪をいっそう深めていく。また、人間を強制的に獣人に変貌させる薬物「バース」に手を出す人間には容赦しない。戦闘時はパワードスーツを身につけ、獣人を一人で制圧できるほどの身体能力を発揮する。
書誌情報
幻狼潜戦 4巻 小学館〈サンデーうぇぶりコミックス〉
第1巻
(2023-09-12発行、 978-4098528219)
第2巻
(2024-01-12発行、 978-4098530854)
第3巻
(2024-05-10発行、 978-4098533060)
第4巻
(2024-10-10発行、 978-4098536252)