世界観
21世紀初頭、富士山に突如奇妙な城と妖怪たちの群れが現れる。最初こそ人間たちを攻撃し、食料にしていた妖怪たちだったが、人間側が妖怪たちを富士の管理区に封じ込めることに成功して以降、急速に無害化が進んでいる。政府は少子化とそれに伴う労働人口減少の解決のため、段階的にではあるものの妖怪たちを移民として受け入れており、街には人間と同じように妖怪が闊歩している。
あらすじ
第1巻
稲生真琴は、富士山に現れた妖怪たちに目の前で母親を殺害されたが、政府の政策により、その後は何事もなかったように街に妖怪があふれるようになった。真琴も平穏な生活に戻り、学校では唯一話し掛けてくれるクラスメートの伊勢谷ミクから、友だちであることを強要されつつもなかよくする日々を送っていた。そんなある日、同じ高校の男子生徒が妖怪に食殺された事件が起こる。そんな中、真琴はミクから人気のない場所に呼び出される。
第2巻
妖怪たちによる過激行動派の妖怪独立連盟の一派、六道山グループを捜査するため、メイド喫茶「冥土の土産」に潜入した立川作業班の稲生真琴とメリーは、アルバイトのメイドに扮して構成員の特定に努めていた。しかし些細なミスから、真琴とメリーが妖怪独立連盟の敵だと露見してしまう。同じ妖怪のよしみで命は見逃されたものの、夜の都心で追走劇が始まる。
登場人物・キャラクター
稲生 真琴 (いなお まこと)
立川作業班の班長を務める少女で、半妖。ふだんはふつうの女子高校生として生活を送っている。腰までの黒髪を、母親の形見である紙垂(しで)のついた荒縄でまとめている。妖狐の父親は幼い頃に失踪しており、人間の母親は妖怪たちによって殺害された。妖怪たちが現れた当日、中央道での妖怪たちによる虐殺現場に居合わせ、生き残ったことで児童養護施設に引き取られている。そこで穂高華緒に能力の高さを見込まれ、立川作業班にスカウトされた。妖怪たちが「族長気取りで指示を出してくる」と語っていた「えふ」という妖怪を仇として捜し続けている。母親を殺害した妖怪たちを憎んでおり、立川作業班に所属している妖怪たちにも心を開いていない。また、笑顔を作るのが苦手で、愛想笑いをしようとすると恐ろしく引きつり、メリーからは「この笑顔を写真に撮ると心霊写真になりそう」とまで言われている。母親がくれた絵本の「灰かぶり姫」を愛読している。本気を出すと髪が銀色に変わり、頭部に大きな狐の耳が出現する。その際、顔には狐面を思わせる隈取りが浮かび上がる。
夜行 (やぎょう)
立川作業班に所属している妖怪。一つ目で、側頭部から短い二本の角を生やした鬼の姿をしている。気っ風がよく江戸っ子気質で、情に厚い。また、規律を重んじるまじめな性格で、妖怪が絡むと暴走しがちな稲生真琴には少々不満げな様子を見せる。仲間からは「筋肉バカ」として認識されている。
天丸 (てんまる)
立川作業班に所属している妖怪。カラスの頭に、真っ黒な人間の肉体を持っている。社交性が非常に高く、精度の高い変身術も使用可能で、内偵捜査に活用されている。存在しない妖怪の話を広めて利益を得ようとする悪徳業者や議員に近づくため、議員秘書としても活動している。
メリー
立川作業班に所属している妖怪。長い金髪をツインテールでまとめた少女の姿をしている。愛想がよく、非常に社交的な性格の持ち主。電話でじわじわと近づいてくる都市伝説の「メリーさん」だが、最近は電話をかけても着信拒否をされて終わってしまうため、現在は市民に愛される都市伝説を目指し、広く芸能活動を行っている。インターネットに接続されている端末の端子や、電子基板の端子を口に咥えることで、そこから接続されているすべてのシステムや、電子回路および監視カメラなどに直接アクセスすることができる。
鎌三郎 (かまさぶろう)
立川作業班に所属している妖怪。種族はカマイタチ。腰まで届く長い茶髪で、人間の耳と同じ位置からは長く尖った獣耳が生えている。ゲームやアニメが大好きで、人間社会を大いに楽しんでいる。富士の管理区内に家族が暮らす家があり、鎌太郎と鎌次郎という兄がいる。時々里帰りしては、給金のほとんどを両親に渡しているほど家族思いの優しい性格の持ち主。家族からは「さぶ」と呼ばれている。近接戦ではカランビットナイフを使用する。同じカマイタチの妖怪であるお花とは幼なじみであり、幼児期に結婚を申し込んだこともある。
喜左衛門 (きざえもん)
立川作業班に所属している妖怪。人間大のタヌキの姿をしており、非常に口数が少ない。たびたび脱柵している様子があり、一般人と秘密裏に交流することでさまざまな人脈を持っている。高齢らしいが見た目から判別がつかない。動物らしくかわいらしい見た目や無口さがウケているのか、人間の女性にモテるため、情報収集のためにベッドを共にすることも多々ある。独自の正義感で行動を起こしており、本来なら立川作業班が担当するはずだった案件を、たった一人で終了させたこともある。
穂高 華緒 (ほだか はなお)
稲生真琴の直属の上司を務める人間の女性。防衛省情報本部二係に所属しており、階級は三等陸佐。黒髪を後頭部でシニヨンにまとめている。中央道騒乱の中、妖怪たちによる人間虐殺現場の生存者である真琴の才能を見いだし、立川作業班の発足に向けて戦力として育て上げた。
えふ
妖怪独立連盟の首魁と目されている妖怪。種族は妖狐で、狐の姿だと成人男性よりも大きい。人間の姿だとべったりとした印象のウエーブがかった黒髪に、つり目で左目の下に泣きぼくろがある。人間だけでなく、妖怪が死ぬことにも快感を覚える愉快犯的な思想の持ち主。稲生真琴の父親でもあり、幼い頃の真琴に凄惨な事件現場を特集するTV番組を見せ、笑顔を強要していた。
伊勢谷 ミク (いせや みく)
稲生真琴のクラスメートで、人間の少女。ふつうの女子高校生ながら、妖怪独立連盟の拝島会議派を支援している。優秀な兄と比べられることを嫌い、誰にもできない特別な事件を起こせば、自分が有能な人間だということを両親に知らしめることができると考え、妖怪たちと交流を深めている。真琴に対しては威圧的に接しているが、妖怪に対しては非常に友好的で対等な関係を築いている。以前の彼氏や存在感の薄いクラスメートなどを呼び出し、妖怪たちに食わせていた。
お花 (おはな)
富士の管理区内で生活している妖怪で、カマイタチ。鎌三郎の幼なじみであり、富士の管理区の中にある劇場でポールダンサーとして働いている。腰まである長い茶髪を毛先付近で平元結(ひらもとゆい)を使ってまとめており、前髪は薬のカプセルを模したヘアピンで留めている。人間の耳と同じ位置からは長く尖った獣耳が生えている。
河野 大悟 (こうの だいご)
ファーストフード店でアルバイトをしている少年。外ハネの金髪で、つねに帽子をかぶっている。よく来店する稲生真琴に好意を抱いており、「友だちになってください」と事実上の告白をした。真琴が愛読している絵本「灰かぶり姫」を河野大悟自身も過去に読んでいたことや、抱いた感想が同じだったために真琴と距離が縮まった。映画が大好きで、真琴と映画デートも経験している。真琴には秘密にしているが、その正体は妖怪の河童。
集団・組織
立川作業班 (たちかわさぎょうはん)
防衛省情報本部の管理下にある実働部隊。妖怪と人間の共存が生み出したさまざまな社会問題への対処と治安維持という名目のもとで、防衛省が既得権益を独占するために組織された。本来は不死であるはずの妖怪を消し去る特殊な弾丸「祓魔弾」を有しており、自衛隊内部においても存在を秘匿されている。
妖怪独立連盟 (ようかいどくりつれんめい)
妖怪たちの妖力回復を狙い、過激な行動に出る妖怪たちや、それを支援する人間たちの組織。社会的脅威として認識されている。「えふ」と呼ばれている妖怪が族長として妖怪独立連盟全体をまとめている様子がある。略して「妖独連」とも称される。
拝島会議派 (はいじまかいぎは)
妖怪独立連盟内部にある一つの派閥。多摩地区にある廃マンション、昭和前アパルトメントを拠点としている。組織内では武装化した超過激派と目されており、大規模テロの可能性が示唆されている。伊勢谷ミクが協力しており、ミクが連れてくる人間をたびたび「供物」として食べていた。
六道山グループ (ろくどうやまぐるーぷ)
妖怪独立連盟内部にある一つのグループ。祠への攻撃を企図していると目されている。メイド喫茶「冥土の土産」を拠点に活動しているが、メンバーや所属人数がはっきりしていない。妖怪独立連盟上層部にいる操縦者からの指示を受けて活動しているとみられ、その操縦者はえふだといわれていた。
場所
富士の管理区 (ふじのかんりく)
妖怪を封じ込め、管理している地区の通称。監視塔のある壁に覆われており、鳥居や荒縄、呪符、紙垂(しで)などで結界を形成している。壁の外には「おばけ焼き」「人魂飴」などの妖怪を模した食品を販売する露店が建ち並んでおり、観光スポットにもなっている。壁の中には最初に出現した戦国風の城をはじめ、巨大な蟻塚のような建物や鬼ヶ島の岩屋を思わせる建物があり、妖怪の火車を利用した蒸気機関車が走るなど、それなりに繁栄している。かつては妖怪同士の物々交換で各自の生活が成り立っていたが、現在は人間側が管理できるように通貨や円の使用を強制されており、妖怪たちの生活が困窮している。壁の中に入るためには手荷物検査場などを通る必要がある。富士の管理区から出る妖怪に対しては妖力の源である要石の供出を義務づけ、それを祠で封印することによって、富士の管理区外で生活する妖怪を無害化している。
祠 (ほこら)
妖怪たちの妖力の源である要石の管理センター。富士の管理区から出る妖怪から供出された要石を電子的に封印することで、富士の管理区外の妖怪を無力化している。そのため最重要施設に位置づけられており、つねに妖怪独立連盟の攻撃対象にされている。防衛省職員すら限られた人間しか所在地を知らされていない。管理されているすべての要石に、電子的封印を施すために必要な電力が原子炉一基分と膨大なことから、発電所や送電網なども攻撃対象とされている。また、祠の制御系統の一部は防衛情報基盤ともリンゲージしているため、攻撃されると防衛省としてもかなりのダメージが予想されている。
冥土の土産 (めいどのみやげ)
場末で営業しているメイド喫茶。妖怪独立連盟内のグループ「六道山グループ」の本拠地となっている。ただしメンバーや所属人数がはっきりしていないため、立川作業班の稲生真琴とメリーがアルバイトとして潜入捜査にあたった。
その他キーワード
要石 (かなめいし)
妖怪たちの体内にある、妖力の源。富士の管理区から出る妖怪たちは要石を供出し、防衛省職員に希望職種を申告および受理されることで、人間社会で暮らすことを許されている。要石のない状態の妖怪は身体能力が一般の人間と同等程度にまで落ちるが、不死性だけが残る。そのため、金屋子神社の禰宜が真名井の水で錬成した「祓魔弾」でしか殺害することができない。また「祓魔弾」を用いても手足への狙撃では再生してしまい、頭部を狙撃してもしばらくは死なずに動き続ける。確実に殺害するためには、もともと要石がおさまっていた「心包」を破壊する必要があるといわれている。
よろず草 (よろずそう)
富士の管理区の内部にだけ生える植物。覚醒作用や幻覚作用があるらしく、「マル草」という通称で覚醒剤の一種として流通している。泥団子のような見た目で販売されており、アングラサイト上で「草不可避」「草生える」などの隠語で取り引きが行われている。使用手段は注射する、粉末にして飲む、燻して煙を吸うなど、手軽であるために急激に広まっているとされる。