あらすじ
第1巻
夏休みに部活動の遠征で楢鹿市を訪れた拝ヒロシは、友人たちと共に「オカルト界のカリスマ校」として有名な楢鹿高校に遊び半分で忍び込む。巷では「楢鹿高校を卒業した者はエリートになれる」といわれているにもかかわらず、実際に卒業した生徒を見た者はおらず、校内で何が行われているのかを誰も知らないなど、奇妙な噂が流れていた。侵入したメンバーの中で唯一、「空の島」を見ることができるヒロシは、いつの間にか友人たちとはぐれてしまう。友人にからかわれていると思いながら校内に進むヒロシが目にしたのは、ドライアイスのような煙が這う部屋に置かれた謎の死体や、何者かが人体実験を行っているおぞましい光景だった。すぐに逃げ出そうとするが、なぜか外に逃げ出すこともできず、いつの間にか友人たちはバスで帰ってしまう。校内に一人取り残されたヒロシは絶望で泣き叫ぶ中、楢鹿高校の生徒を名乗る真城晃二と千寿丸孝秋に出会う。晃二たちから楢鹿高校についての説明を受けるが、脱出するには命を落とすか、卒業までの半年間を校内で過ごして生き残るしかないと告げられる。些細な過ちから地獄のような場所にきてしまったことを後悔するヒロシは、政府組のサブリーダーを務める月見里静子によって、楢鹿高校へ転学するための準備を整えられる。それでも楢鹿高校からの脱出をあきらめ切れないヒロシは、外に出るために校門前の土をただひたすら掘り続けるのだった。
第2巻
正式に楢鹿高校に転学した拝ヒロシは、神蝕の試練から生き残るために、自分の武器となる文字の入手を急いでいた。そんな中、楢鹿高校には無慈悲な試練である神蝕以外にも、部外者の侵入やイレギュラーな事件が連続していた。特に問題視されているのは、生徒の内臓が何者かに抜き取られるという残酷な「内臓盗難事件」であった。この事件の背後には、以前ヒロシが幻覚の中で発見した「お母様」や融合生物をはじめとする謎の存在があった。事件の詳細を探る中で木下粉雪と親しくなったヒロシは、彼女から文字の取得方法を学ぶこととなる。そのため、粉雪と共に政府組の教室に向かったヒロシは、今までよく知らなかった政府組メンバーや、ほかの生徒たちが所有する文字の詳細について知ることとなる。生徒たちの持つ文字を参考に、自分の持つべき力のイメージが固まったヒロシは、児子優花から受け取っていた紙とペンを使って「拳」の文字を取得することに成功。新たな力を得たヒロシは、心強い仲間たちと共に、神蝕に立ち向かうこととなる。そんな中、以前ヒロシが廊下で見かけた女子生徒の湖北が、内臓を取り出された死体で発見される。湖北の死体を調べれば調べるほどに奇怪な現象が判明するが、この事件の影にもお母様の存在が見え隠れしていた。ヒロシたちは捜査を続けるが、宗教団体「空の母」の関与や、お母様や融合生物に関する謎は、ますます深まるばかりだった。
第3巻
「内臓盗難事件」を探っていた月見里静子の唐突な死は、楢鹿高校の生徒たちの心に大きな波紋を生んでいた。改めて剛道つぐみがリーダーを務めることになるが、生徒たちはいくつかの派閥に分かれ、生徒同士の対立を呼ぶほどの不穏な空気が漂っていた。さらに、一連の怪事件の犯人として疑われた千寿丸孝秋、右代愛弓、栂村大地の三人はつぐみの指令で拘束され、同じ檻の中に閉じ込められる。拝ヒロシは証拠もなく閉じ込められた愛弓たちを心配しながらも、周囲と協力しながら怪事件の真相を探り続ける。しかし次の日には、愛弓たちは檻の中で血を流して死亡していた。ほかの生徒から責任を問われたつぐみはショックからその場を離れ、自室にこもるようになる。一方、ヒロシは愛弓たちの遺体を捜査しようとするが、ちょっと目を離したスキに現場に残っていた中野が、その場で死亡していた。さらに孝秋の遺体だけが別の男性にすり替わっていたことから、ヒロシは岸伸夫の正体は孝秋であったと確信する。しかし、孝秋の文字「代」が誰にでも成りすませる能力であることから、生徒たちがお互いに疑心暗鬼に陥るという不穏な事態を招く。探れば探るほど闇が深くなっていく、この怪事件の悪夢はその後も続き、無惨に絶命していく生徒たちをよそに、お母様を崇める謎の教団「空の母」は、恐るべき計画の遂行を目論んでいた。そしてヒロシは、すべての事件の本当の黒幕を暴き、惨劇を葬るために自らの「拳」を振りかざすのだった。
本編
本作『弩アホリズム』は、宮条カルナの漫画『アホリズムaphorism』の外伝作品となっている。『アホリズムaphorism』は本作と同じく楢鹿高校を舞台にした学園サバイバルホラーで、六道黄葉をはじめとする生徒たちが文字を使って神蝕に挑んでいく様子や、校内で起こるさまざまな事件を描いている。
登場人物・キャラクター
拝 ヒロシ (おがみ ひろし)
陸上部に所属する高校生男子。関西弁をしゃべる。先端がカールした赤茶色の短髪にしている。夏休みの部活の遠征中に、友人と共に興味本位で楢鹿高校に忍び込み、「空の島が見える少年少女」という条件を満たしていたために、楢鹿高校から出られなくなってしまう。友人たちと離れて校舎に迷い込む中、「お母様」と呼ばれている女性と融合生物の幻影や、おぞましい人体実験が行われている光景を目にする。恐怖と混乱から逃げ出そうとする中で、楢鹿高校の生徒である真城晃二や千寿丸孝秋と出会い、3月の卒業を待つか、死ぬことによってしか脱出できないことを告げられ絶望する。不条理な状況に納得ができず、何度も反発したり脱走を試みたりするが、初めて神蝕に遭遇した際に児子優花が拝ヒロシをかばって死亡したことを重く受け止め、文字を手に入れて試練に立ち向かうことを決意する。のちにほかの生徒たちの持つ文字を参考に、木下粉雪の協力を得て、拳による強力な物理攻撃を可能とする「拳」の文字を獲得した。「拳」によって「獣拳」という技を発動することができ、ゴリラやクマのような強力な腕力を持つ動物をイメージしながら、巨大化・強化された拳で戦うことが可能。その威力は、建物などの強固な壁を粉砕するほどの力を発揮する。内臓盗難事件では優れた考察力と洞察力を活かし、ほかの生徒と協力しながら事件の捜査を進めている。転学後は晃二たちに渡された楢鹿高校の制服を着用している。
木下 粉雪 (きのした こなゆき)
楢鹿高校に幽閉された女子。所有する文字は「臣」。文字の情報を集めている拝ヒロシの手助けをしている。白銀の長髪を特徴的な形のお団子でまとめており、ヒロシからは「お団子がデンデン虫みたい」と評されている。かなりの偏食家で、学食で豪華な料理を食べられるにもかかわらずサラダばかり食べることから、ヒロシには「うさちゃん」呼ばわりされたこともある。ほかの生徒たちには美女に見えているお母様の幻影が、ヒロシと同様に謎の生物と融合した融合生物の姿に見えるという、奇妙な体験をする。文字の字源をもとに具現化して活用する「字源派」で、「臣」の力で召喚した女性従者を従えており、彼女の目玉を持ち歩いている。お母様が融合生物の姿で現れたことを周囲に主張しているが、融合生物の姿を見たヒロシ以外の生徒からは、まったく信じてもらえなかった。また、美術が得意なヒロシに対抗して融合生物の絵を描いたが、絵心が壊滅的なためまったく伝わらなかった。御子神徹とは幼なじみだが、自分のせいでケガをした徹には強い負い目を感じており、彼を必ず卒業させることを最大の目的としている。また徹がリーダーを降りたことで、政府組の関係が険悪になったことにも大きく後悔し、彼を守り抜くことを唯一の希望に生きるようになった。愛称は「コナ」だが、徹以外にはこの愛称で呼ばれることは強く拒否している。気の強い性格で、ふだんは少々天然気味なところがある。徹に強い恩義を感じていることから、彼を傷つけようとする者に対しては一気に好戦的になる。
御子神 徹 (みこがみ とおる)
楢鹿高校に幽閉された男子。所有する文字は「静」。かつて政府組のリーダーを務めていたが、過去の神蝕で木下粉雪をかばって負傷した。これにより脊椎を痛めて下半身不随となったため、現在はリーダーを降りて保健室で過ごしており、政府組のことは剛道つぐみと月見里静子に任せている。粉雪とは幼なじみで、「徹君」「コナ」と呼び合う仲。穏やかで物静かな性格の美少年で、ケガで動けなくなった今も生徒たちからの信頼は厚い。文字「静」は敵を鎮めて動きを止めたり、無力化させることができる。リーダーを務めていた頃は強いリーダーシップを発揮するだけでなく、誰でも分け隔てなく接する優しさで頼りにされていた。
剛道 つぐみ (たけみち つぐみ)
楢鹿高校に幽閉された女子。所有する文字は「縛」。負傷した御子神徹に代わって、政府組のリーダーを務めている。茶髪のロングヘアを二つのおさげにまとめ、ワンピースを着用している。政府組の中では歴代トップの成績を誇る優等生で、上層部に有望視されているものの、期待に反して頼りなさ気な立ち振る舞いが多く、徹のようなリーダーシップはほとんど発揮できていない。実は、サブリーダーである月見里静子の指示で動いていることが多い。成績優秀ながら、上層部からの期待や重圧を強く気にしている様子があり、リーダーとしての立場を脅かす存在である静子のことは、以前より恨めしく思っていた。文字「縛」は、棒状の武器に巻かれた縄を使って敵を拘束したり、縄で縛った物を投げつけたりすることが可能。内臓盗難事件で静子が死んでからは、彼女がいなくなったことを心底喜びながら、改めてリーダーとして君臨するようになる。しかし上層部からのプレッシャーが強まったことで、以前よりも強引で自分勝手な言動や態度が目立つようになり、右代愛弓や木下粉雪など、一部の生徒から反感を買うようになる。事件の犯人として愛弓、千寿丸孝秋、栂村大地の三人を拘束し檻の中に閉じ込めるが、後日三人共に檻の中で死体となって発見されたため、ほかの生徒から責められたショックでその場を逃げ出し、自室に閉じこもってしまう。
月見里 静子 (やまなし しずこ)
楢鹿高校に幽閉された女子。所有する文字は「諺」。政府組のサブリーダーを務める。モダンガールのような風貌で、大人っぽく上品な振る舞いはもちろん、並外れた統率力とリーダーシップを発揮しながら、つねに冷静で毅然とした態度で生徒たちを率いている。このため、サブリーダーでありながら実質的な政府組トップとして、多くの生徒から頼りにされており、右代愛弓や木下粉雪からの信頼も厚い。その知性とカリスマ性から、かつては御子神徹の補佐役を務めていたが、剛道つぐみが彼の代わりにリーダーになってからは、サブリーダーとして指揮を取ることが多くなった。一方で生徒の中には「偉そうな女王様」と揶揄しながら敵視する者もおり、リーダーとしての立場を奪われる機会が増えたつぐみからは恨まれている。文字「諺」は、10句の諺を選んで敵や状況に応じて使い分けながら、攻撃・防御・補助のためにさまざまな場面で役立てている。しかし、このような文字の活用法は上級者向けであり、特別な訓練が必要とされる。文字なしの状態で、神蝕から生き延びた拝ヒロシを評価・歓迎し、彼が楢鹿高校に転学するための手筈を整えた。生徒の内臓が盗まれる内臓盗難事件の捜査をヒロシたちと共に続け、生徒たちの体内に異物が入り込んでいる可能性を察知してレントゲン検査を実施する。身体検査をきっかけにある重大な事実に気づき、独自の捜査を進める中で真相と黒幕に近づいていくが、何者かによって内臓を取り出された無惨な死体となって発見された。死後の捜査では、実は栂村大地に思いを寄せていたことが判明した。
右代 愛弓 (うしろ あゆみ)
楢鹿高校に幽閉された男子。所有する文字は「隷」。政府組の一人でもあり、主に月見里静子の補佐役を務める。木下粉雪曰く「つねに誰にでもツンケンしている」が、静子に対しては心酔に近い忠誠心や好意を抱いている。このため、静子の言うことにはなんでも従っていると同時に、ほかの生徒が彼女に悪口を言うと激怒する。また、静子が頼りにしている栂村大地や御子神徹に対しても、静子に合わせて柔らかい態度で接している。拝ヒロシの転学手続きを整えた静子に従い、ヒロシに楢鹿高校のルールや神蝕について教えているが、彼に対しては冷たい態度を取ることが多い。文字「隷」は希少な操作系の能力で、鎖付きの首輪を近くにいる者にかけて束縛し、一定時間だが意のままにあやつることができる。内臓盗難事件の犠牲者がいずれも自傷行為で死亡していることから、他人をあやつれる操作系能力者の一人として、犯人に疑われていた。内臓盗難事件を追っていた静子が死亡したあとは、改めて政府組リーダーとして仕切るようになった剛道つぐみの強引な態度に納得できず、彼女に反発するようになる。この際につぐみの指令で拘束され、千寿丸孝秋や大地と共に同じ檻の中に閉じ込められるが、数日後には二人と共に檻の中で死亡していた。死後の捜査では、実は静子を慕っていたのは、ある人物への熱烈な恋心を隠すためであったと判明する。
児子 優花 (にご ゆうか)
楢鹿高校に幽閉された女子。、所有する文字は「塗」。楢鹿高校から出られなくなったことに絶望した拝ヒロシを気にかけ、案内役を務めたり食べ物を届けたりと、最初に優しくしてくれた少女。幼い見た目の小柄な体型で、顔にそばかすがある。神蝕の際は、文字「塗」の力で敵の目潰しなどをすることで生徒たちをサポートしている。神蝕の際に文字を得るための紙とペンをヒロシに渡し、敵の攻撃を受けていた彼をかばって命を落とした。児子優花の死はヒロシの心境に大きな衝撃を与え、彼が文字を獲得して戦う決意をするきっかけとなった。御子神徹が政府組のリーダーを務めていた頃は、彼にあこがれや尊敬を抱き、新入生を助ける徹の行動や立ち振る舞いを模倣するなど、大きな影響を受けていた。
毒島 孝太郎 (ぶすじま こうたろう)
楢鹿高校に幽閉された男子。所有する文字は「蛟」。愛称は「ブス」。黒髪のロングヘアで、ニット帽とツナギを身につけている。文字の「字源」に詳しいスペシャリストで、図書委員を務めている。記憶力がよく、神蝕で現れる既出の敵についても詳しい情報を持っている。しかし、ふだんは図書室にこもっていることが多いため、あまりほかの生徒とは接触していない。中学時代は陸上部に所属していたため、拝ヒロシのことはもともと知っていた。陸上大会では女子生徒から黄色い声援を浴びるなど、ファンも多い。しかし、実は陸上よりも調べ物の方が好きで、ヒロシのように偶然楢鹿高校へ迷い込んだわけではなく、自ら望んで入学していた。文字「蛟」は伝説上の蛇「ミズチ」を召喚し、敵を束縛して絞殺したり、水を使って攻撃ができる。また、場合によっては体内にミズチを侵入させて、攻撃することも可能。少々不愛想でクールな性格ながら、ヒロシや木下粉雪には協力的で、内臓盗難事件の捜査をサポートしている。
栂村 大地 (んがむら だいち)
楢鹿高校に幽閉された男子。所有する文字は「菌」。愛称は「んがちゃん」。カールしたもみあげの黒髪の短髪で、小太りな体型をしている。4歳下の妹がいる。文字をイメージで扱うための独自の研究を行っている。この... 関連ページ:栂村 大地
真城 晃二 (まき こうじ)
楢鹿高校に幽閉された男子。所有する文字は「銃」。楢鹿高校で拝ヒロシが最初に出会った生徒の一人。昔から警察官に強いあこがれを持ち、いつも制服ではなく警察官の服を好んで着用しており、アメリカンポリスの制服を着ていることもある。校内では千寿丸孝秋と共に行動していることが多い。政府組に対して反抗的で孤立しがちなヒロシを何かと気にかけており、助言を与えたりして協力的に接している。一方で理事長のヤマを強く警戒しており、ヒロシにヤマとその側近に気をつけるべきだと警告した。文字「銃」は名前どおりの拳銃のような武器で、敵を銃撃して攻撃することができる。内臓盗難事件の実行犯として正体を現し、生徒たちを次々と襲い出した岸伸夫を「銃」で撃つことで、彼の暴走を止めた。
千寿丸 孝秋 (せんじゅまる たかあき)
楢鹿高校に幽閉された男子。所有する文字は「代」。楢鹿高校で拝ヒロシが最初に出会った生徒の一人。黒髪のロングヘアをおさげでまとめ、少々不愛想な性格をしている。楢鹿高校を脱出する方法が、卒業以外では「死ねば出られる」とヒロシに告げた。校内では真城晃二と共に行動していることが多いが、急にどこかに行って単独行動を取っていることもある。内臓盗難事件を捜査していた月見里静子の死後は、容疑者の一人として右代愛弓、栂村大地と共に、剛道つぐみの指令で同じ檻の中に閉じ込められ、数日後には二人と共に檻の中で死亡していた。だが実は、この時にあった千寿丸孝秋の死体は彼の文字「代」によって作り出された影武者であった。孝秋自身は生きており、ヒロシたちが現場を離れたわずかな時間で、現場に残っていた中野を殺害し、孝秋の遺体を別の人物とすり替えた。これらの状況を把握したヒロシの推理によって、孝秋の正体が、今までの内臓盗難事件の実行犯である岸伸夫であったことが判明する。
宇佐井 誠 (うざい まこと)
楢鹿高校に幽閉された男子。所有する文字は「甦」。自称「卯藤さんを愛する男」。「甦」の力で死んでも蘇ることができるため、卯藤志以といっしょに人数調整や憂さ晴らしのためにしばしば殺されているが、すぐに蘇るためまったく気にしていない。志以とは相思相愛の仲で、いつもいっしょに行動しており、平時は校内で追いかけっこをしていることもある。
卯藤 志以 (うっとう しい)
楢鹿高校に幽閉された女子。所有する文字は「蘇」。巻き毛のツインテールの髪型で、上品なドレスを着用している。自称「宇佐井くんが大好きな女の子」。「蘇」の力で死んでも蘇ることができるため、宇佐井誠といっしょにしばしば理不尽に殺されているが、すぐに蘇るためまったく気にしていない。誠とは相思相愛の仲で、いつもいっしょに行動しており、平時は校内で追いかけっこをしていることもある。
呑海 さゆり (どんかい さゆり)
楢鹿高校に幽閉された女子。所有する文字は「斧」。褐色肌で、黒髪の長髪を二つのおさげにまとめている。神蝕の際の班行動で拝ヒロシと同じ班となった。女子の割に見た目や立ち振る舞いが硬派で、武闘派のストイックな性格。武士のような古典的な口調で話す。実力・実践主義者で肉体派でもあり、ヒロシが得た文字「拳」をもとに、戦い方などさまざまなアドバイスを与えた。文字「斧」は名前の通り斧で攻撃や破壊が可能で、文字の中でも特に多いシンプルな武器系の能力として活用している。この力で使用する斧は装飾のない地味な見た目に反してかなり重いが、実戦を重ねることで上手に活用できるようになった。
お母様 (おかあさま)
楢鹿高校に出現する謎の女性。大半の生徒には上品なブラウスとスカートを着用した長髪の美女の姿に見え、「お母様」や「母」などと呼ばれて慕われている。しかし拝ヒロシと木下粉雪は、謎の生物と融合させられたおぞましい融合生物の姿を、栂村大地の文字が生み出した幻覚を通して見ており、謎の多い人物となっている。また、内臓盗難事件をはじめとした楢鹿高校で起こるさまざまな怪事件や陰謀と関与しており、背後には宗教団体「空の母」の存在も見え隠れしている。もとは空の母が行っていた研究に携わっていた研究者の「真奈」という女性であり、実験の最中に三太夫によって「与」という生物に取り込まれ、融合生物の姿となっていた。
融合生物 (ゆうごうせいぶつ)
楢鹿高校や空の母が実権によって作り出した謎の化物。拝ヒロシと木下粉雪が校内で幻覚を見るたびに何度も遭遇しているが、ヒロシと粉雪以外の生徒には長髪の美女の姿に見えているため、この生物の存在を知らない。実は神蝕に現れる「与」という生物を、実験に携わっていたお母様(真奈)と融合させたことで作られていた。真奈と融合後は、巨大なテントのような化物の口から真奈の頭がはみ出しているような姿をしており、もともと「与」が持っていたさまざまな能力を使える。
楢子さん (ならこさん)
楢鹿高校のマスコットキャラクター的な存在。帽子を被った少女の姿をしている。主に楢鹿高校で問題が起こった際に広報部として報道陣の取材に応じているが、質問などにはいっさい答えずプリントを1枚ずつ配布していることから、「プリント係」とも呼ばれている。相棒の鹿之助くんといっしょに、学校案内や解説役などを務めている。
鹿之助くん (しかのすけくん)
楢鹿高校のマスコットキャラクター的な存在。帽子をかぶった少年の姿をしている。相棒の楢子さんといっしょに学校案内などを務めている。まじめでおとなしい性格で、暴走しがちな楢子さんに振り回されることが多く、彼女のツッコミ役を担っている。
ヤマ
楢鹿高校の理事長を務める男性。校内のあちこちに監視カメラを仕掛け、生徒たちを監視していることから、拝ヒロシには「覗き見趣味の変態」呼ばわりされている。ふだんは理事長室にこもって監視や執務をこなしているため、直接的に生徒に手を下すことはないが、護衛を務める側近の「白亜」と「赤亜」はヤマに逆らった生徒に手を下すことがある。このため、楢鹿高校の陰謀の元凶として大半の生徒から警戒されていると共に恨みを買っており、凶悪な危険人物として敵視されている。
岸 伸夫 (きし のぶお)
楢鹿高校のOBの中年男性。楢鹿高校の過酷な神蝕から生き延びた数少ない人物ではあるが、卒業後の行方や動向は不明なままだった。現在も楢鹿高校になんらかの形で接触しており、空の母や内臓盗難事件との関与も疑われている。実は拝ヒロシが転学して来る前から文字「代」の力で千寿丸孝秋に成りすまし、生徒の一人として校内に侵入する形で暗躍を続けていた。ヒロシによって正体を暴かれたあとは真の姿を現し、自らの目的を語った。「代」の力で次々と生徒を襲うも、真城晃二の文字「銃」に撃たれて死亡した。
三太夫 (さんだゆう)
謎の研究者の女性。楢鹿高校や空の母が地下室で行っている実験を指導している。白衣をまとい、黒髪の長髪をバレッタで留めている。拝ヒロシと木下粉雪が校内で何度も体験した過去の幻覚の中にも、たびたび出現している。神蝕に現れる生物を研究するうち、ある人物の文字「融」の力でお母様(真奈)と謎の生物「与」を融合させ、融合生物を作り出した張本人でもある。真奈を与と融合させたのは、この世に長時間現存できない生物である与を、真奈を媒体とすることでこの世に留め続けるためであった。
集団・組織
政府組 (せいふぐみ)
楢鹿高校に入学予定の生徒のうち、研究機関に集まって特別講習を受け、生徒たちを引っ張るリーダーとなったまとめ役のグループ。主に校内で事件や問題などが発生した際に、特別講習などで得た知識を活用しながら率先して生徒たちを先導し、適切な指示を出す役割を担っている。もとは御子神徹がリーダーを務めていたが、彼が負傷したため剛道つぐみに交代された。また、現在は月見里静子がサブリーダーを、彼女の補佐を右代愛弓が務めている。
空の母 (そらのはは)
謎の美女、お母様を崇めている謎の宗教団体。拝ヒロシと木下粉雪が見たことのある幻覚に出現する融合生物や、ほかの生徒たちが何度か遭遇しているお母様、楢鹿高校で起こるさまざまな事件との関与が疑われている。宗教団体としては何年も前から存在しているが、なぜかここ数年では楢鹿高校の上層部と共に暗躍している。
場所
楢鹿高校 (ならかこうこう)
楢鹿市にある謎の高校。拝ヒロシが迷い込み転学することになった。正式名称は「楢鹿高等学校」で、1年制のために生徒の大半は新入生となっている。卒業するだけで大学に通うことなく官僚への道が開けることや、試験... 関連ページ:楢鹿高校
空の島 (そらのしま)
つねに空に浮かんでいる謎の島。ふつうの人間には視認できない存在であり、この島が見えることが楢鹿高校への入学条件となっている。また神蝕の発生にも大きくかかわっており、島が太陽と重なって影ができる際に神蝕... 関連ページ:空の島
その他キーワード
文字 (もじ)
楢鹿高校で神蝕と戦い、あらゆる試練や事件から生き抜くために生徒たちに与えられる、能力や武器の総称。入学および転学した生徒は、ホームルームなどで渡される紙に漢字一文字を書き、その字を発声することで、その文字を自らの能力として得ることができる。また、文字を得た証として、体の一部に刺青やアザのような形で文字が刻まれる。生徒本人が得たい文字に対し、何らかのイメージを沸き立たせることで、その現象を起こすことができるようになる。原則として、文字は一人につき一つまでとなっている。
内臓盗難事件 (ないぞうとうなんじけん)
楢鹿高校で拝ヒロシが転学する前から何度も発生し、問題になっていた怪事件。被害に遭った生徒たちはいずれも自傷行為で死亡しており、生徒の遺体からは心臓以外の内臓が何者かに盗み出され、その内臓はすべて行方不明になっている。この事件で死んだ生徒の体内には、内臓が消えた代わりに小さな肉塊のような形をした謎の異物が発見されている。このため、生き残った生徒を対象に、月見里静子の指示でレントゲン検査が行われる事態になった。また、部外者の校内への侵入も発見・報告されており、楢鹿高校OBである岸伸夫やお母様、空の母が事件に関与していると推測されている。のちに、生徒の体内に入り込んでいた異物は、盗まれた内臓を融合生物に食べさせることで生み出された肉塊が原因であったと判明する。この肉塊を食堂の肉料理を通して生徒たちに与えることで、肉料理を食べた生徒たちの体内に、「芯」という異物を発生させていた。ただし、楢鹿高校に来たばかりのヒロシと、ふだんから肉料理を食べていなかった木下粉雪の体内には、芯は発生していなかった。
神蝕 (しんしょく)
楢鹿高校の生徒すべてに下される試練や現象、あるいはこれらに出現する敵の総称。単に「蝕」と称されることもある。一般的には、太陽と空の島が重なった時に発生する。天気が曇りなどで太陽が見えない状態や、太陽が... 関連ページ:神蝕
隔離型 (かくりがた)
神蝕の分類の一つで、楢鹿高校の生徒数が3で割り切れる数字にある時に起こる、特別な神蝕のこと。三人1組でそれぞれ別の空間に飛ばされ、隔離された状態で実施される。また制限時間があり、空に浮かぶ文字盤に四つの「零」が並んだ時に、試練はタイムオーバーとなる。具体的には「龍」「夢」「復」などがある。
裁 (さい)
神蝕のうち、毎年決まった日時に発生する「固定型」に分類される試練。楢鹿高校において誰かを殺害した生徒に対し、殺人の罪を罰する「裁き」が下される。この裁きを受けた者は、「地獄」と称される謎の異空間に落とされ、出られなくなってしまう。
関連
堕アホリズム (だあほりずむ)
宮条カルナの『アホリズムaphorism』の外伝作品で、『アホリズムaphorism』の前日譚となっている。また、宮条カルナによる外伝『弩アホリズム』の4年後を描く続編でもある。楢鹿高校に入学した海老... 関連ページ:堕アホリズム