身分を超えた淡い恋心
藤乃は、名家の子息との結婚を両親から強いられ、理想的な淑女になるために徹底した教育を受けてきた。娯楽をいっさい禁じられた厳しい生活の中で、唯一自分を気遣ってくれる使用人の廣臣に淡い恋心を抱くようになる。しかし、この恋は叶わぬものと悟った藤乃は、自らの心を固く閉ざしてきた。そんな中、両親が決めた男性との結婚を条件に、藤乃は自宅を出て大学に進学することを許される。そして、お目付け役として廣臣も同じ屋敷から大学に通うことになり、二人の距離はますます近づき、藤乃は彼への思いを深めていく。
世間知らずの令嬢と、彼女を見守る使用人
藤乃は、スマートフォンすら持たせてもらえず、友人を作ることも許されない厳しい環境で育つ。そのため、彼女は極度の世間知らずであり、大学に入学してからはその言動が周囲を驚かせることも少なくない。しかし、実家を出てからはそのまじめさがよい方向に作用し、サークル活動に参加したり、これまで言いなりだった両親に自分の意見をしっかり伝えたりと、着実に成長を遂げていた。また、心の奥に秘めていた廣臣への思いも、勇気を出して少しずつ伝え始める。一方、廣臣は両親の死後、院瀬見家の使用人として引き取られ、藤乃が0歳の頃から優しく見守ってきた。当初は純粋な庇護欲だったが、藤乃の成長と共に「自分だけのものにしたい」という執着へと変わっていく。藤乃からのまっすぐな気持ちに対し、廣臣は苦悩しながらも受け入れる決意を固める。
二人の恋を妨げる院瀬見家と頼もしい協力者たち
藤乃と廣臣の恋を阻む最大の要因は、身分の違いである。藤乃の両親は廣臣との交際を認めず、大学の同級生で御曹司(おんぞうし)の神崎櫂との結婚を強くせまる。特に藤乃の父親は、反抗的になった娘を許せず、二人を無理やり引き離すために廣臣を監禁するなど、強硬な手段に出る。一方、院瀬見家からの嫌がらせに対し、神崎は二人の心強い味方となる。実は彼も藤乃に惹かれているが、彼女の幸せを最優先に考え、藤乃の父親と直接交渉したり、水面下で手を回したりと、二人の恋を陰から支える存在となる。また、当初は二人に厳しい態度を取っていた藤乃の母親も、彼らが真剣に愛し合っている姿を目の当たりにし、二人が共に生きることが真の幸福につながると理解し、協力的な立場に転じる。強大な障害と予期せぬ協力者を得た藤乃と廣臣の身分違いの恋が、果たしてどこへたどり着くのかが、物語の大きな見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
院瀬見 藤乃 (いせみ ふじの)
江戸時代から続く名家で、莫大な財産を誇る院瀬見家の長女。年齢は18歳。両親の厳格な教育方針のもと、名家に嫁ぐ淑女として育てられたため、世間知らずの箱入り娘として過ごしてきた。唯一自由に過ごせる時間は、学校への送迎中の車内だけ。その時間に自分を気遣ってくれる使用人の廣臣に、長年密かに恋心を抱いている。両親の言いなりに生きるしかないとあきらめかけていたが、廣臣から「もっと気持ちを伝えてもいい」と諭され、実家を出て大学進学を決意した。大学に進学し、廣臣との距離が縮まるにつれて、彼への思いを抑えきれなくなっていく。また、大学では誘われるまま映画サークルに入会し、そこで御曹司の櫂と出会い、初めての友人となる。
本郷 廣臣 (ほんごう ひろおみ)
江戸時代から続く名家「院瀬見家」に仕える使用人の男性。年齢は25歳。かつて父親が院瀬見家に仕えていた縁で、両親の死後、この屋敷で働くことになった。0歳の頃から見守ってきた令嬢、藤乃の自由のない境遇をつねに気にかけている。ふだんは感情を表に出さないクールな性格だが、好きなものには強い執着を持ち、藤乃を誰にも奪われたくないという思いを抱いている。藤乃から恋心を寄せられていることに気づいた当初は、身分の違いからその恋を受け入れるべきではないと考えていた。しかし、藤乃が櫂と親しくする姿を目の当たりにし、廣臣自身の抑えきれない感情に気づく。以降、藤乃と共に幸せになる道を模索し始める。
書誌情報
従僕と鳥籠の花嫁 4巻 集英社〈マーガレットコミックス〉
第1巻
(2023-12-25発行、978-4088448510)
第2巻
(2023-12-25発行、978-4088448527)
第3巻
(2024-04-24発行、978-4088448879)
第4巻
(2024-08-23発行、978-4088430324)







