怪貌綺譚

怪貌綺譚

人にとっては醜悪極まりないが、異形の者にとっては恋慕の対象になるという、特異な顔の持ち主である久綺人が、己の存在意義を賭けて、人の世に跋扈(ばっこ)する魑魅魍魎(ちみもうりょう)と戦い続ける異色の和風ホラーストーリー。「マンガボックス」2016年第16号から第45号にかけて連載された。

正式名称
怪貌綺譚
ふりがな
かいぼうきたん
作者
ジャンル
ダークファンタジー
レーベル
講談社コミックス(講談社)
巻数
既刊2巻
関連商品
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あらすじ

綺人(第1巻)

「蒜匂学園」に入学した転入生の久綺人。彼はおぞましく醜悪な顔を持って生まれたために、人前であっても仮面をつけ続け、学園でも一際浮いた存在となる。そんな綺人に興味を抱き、何かと話し掛けてくる譚下せつりから、ここ最近街で頻発している行方不明事件の裏に、怪物の存在があるという噂話を聞かされる。下校時も彼女に付きまとまれていた綺人だったが、その最中、突如として現れた謎の怪物によって、せつりがさらわれてしまう。一晩かけて彼女の位置を割り出し、街外れの廃ビルへと向かった綺人は、そこでせつりをはじめとするさらわれた人々と、一連の事件の首謀者であるハエの怪物に遭遇。人にとっては忌まわしく醜いが、異形の者にとっては恋慕の対象である己のをさらし、ハエの怪物の心を奪った綺人は、偃月鎌をハエの怪物の急所に突き刺して絶命させる。激闘の末、せつりとさらわれた人々を助け出した綺人だったが、戦いの中で、せつりの表情の変化を冷静に観察していた綺人は、彼女もまた人外である事を看破。正体を見破られてもなお動じないせつりは、綺人に対し、「絶対に逃がさない」と宣言する。

せつりの願い(第1巻)

下校中、譚下せつりと近くの公園で宿題をする事になった久綺人。しかし、公園には綺人の存在を危険視する魚の怪物が待ち構えており、二人は襲撃を受けてしまう。戦いの中で、自身が怪物達から「怪貌公」と呼ばれている事、そしてせつりが「波旬の君」と呼ばれる一角の怪物である事を知る綺人。せつりの幻術の力を借りて、魚の怪物を葬り去った綺人は、せつりの願いが、綺人の彼女になって、不遜なナルシストである綺人を屈服させる事だと聞かされるのだった。

対価と哀れみ(第1巻)

ドイツ留学からの帰国後、ピアノの才能を開花させた佐倉。そんな彼女の背後に怪物の影を感じ取った久綺人は、譚下せつりといっしょに佐倉に接触。彼女がドイツ留学中にネズミの怪物と契約し、ピアノの才能を得ていた事を突き止める。契約を破棄するため、調伏の儀を始めた一行の前に姿を現したネズミの怪物は、自分で自分を蔑み続けてきた佐倉と綺人を憐れな存在であると断言し、綺人にも佐倉と同じ契約を持ちかける。しかし、憐れみを押し付けるその言い方に、強烈な嫌悪感を覚えた綺人は、ネズミの怪物を一蹴するのだった。

楓の思い(第1巻)

クラスメイトの悟桐守秋から、妹の悟桐楓が、山で行方不明になった祖父の霊と、毎晩語っている事を相談された久綺人。連日の霊との対話で、やつれ切った楓を救うため、彼女のもとを訪れた綺人は、霊の正体であるタコの怪物を撃破。すべてが済んだあと、守秋は楓の心に宿っていた綺人への思いを改めて確認する。

貌(第1巻)

久綺人が何者かに送った手紙から、綺人の過去を探る譚下せつり。綺人は、かつて地元の名士「久世家」の息子として生まれたが、その醜悪な容姿のため母親から座敷牢に閉じ込められ、自身のを憎悪していた。母親のお仕着せである「正道」を信じ、その先を目指していた綺人は、阿鞠鏡子という怪物を倒す事を生業とする女性から「自分の貌を許すため、正義の味方になれ」と発破をかけられる。

聖ダもだヤ教団(第1巻)

久綺人は学園の女性教師から、カルト教団にはまっている弟のみつるをなんとかしてほしいという相談を受ける。しかし、みつると話した綺人は、カルト教団である「聖ダもだヤ教団」に本当にはまっているのは、女性教師だという事実を知る。「聖ダもだヤ教団」の集会にみつるといっしょに紛れ込んだ綺人は、策を巡らせ、教祖の正体である怪物を打ち倒すが、その強さを見た信徒達によって、教祖として祭り上げられてしまう。

波旬の君(第1巻)

譚下せつりと映画を観る事になった久綺人は、観客の中に紛れ込んでいた百怪結社の一員である、鈎髑髏率いる怪物達と遭遇。怪物の天敵である綺人を、「怪物を総べる者」として取り込もうとする鈎髑髏の提案に心が揺らいでしまう綺人。しかし、偶然現場に居合わせた悟桐楓の言葉によって、自身を取り戻した綺人は、鈎髑髏を拒絶。その結果、怪物達と乱戦になってしまうが、せつりとの共闘で鈎髑髏を撤退に追い込む事に成功する。戦いが済んだあと、楓の一途な眩しさに、人間だった頃の自分の面影を見たせつりは、楓を恋敵として認めるのだった。

せつりとの同居(第2巻)

悟桐楓という恋敵、そして久綺人の命を狙う怪物の出現に対し、一抹の不安を覚えた譚下せつりは、綺人に対し、自分の家に住むように提案。なし崩し的にせつりの家を訪問する事になった綺人は、そこでせつりの熱烈なアプローチを受けてしまう。そんな彼らを突如として百怪結社の刺客が襲撃。しかし、それは綺人とせつりにとっては想定内の出来事であり、的確な反撃で怪物を倒していく。せつりがセッティングしたディナータイムを台無しにされ、静かな怒りを爆発させる綺人の姿に感動したせつりは、ボス格の怪物を軽く一蹴。昨晩の出来事を嬉しそうに報告するせつりを見た楓は、彼女が報われる事に慣れていないと直感する。

捨て駒(第2巻)

久綺人の通う学園に侵入した百怪結社が攻撃を開始。謎の怪音波で生徒達をあやつり、綺人を亡き者にしようとする。顔が通用しない人間相手の戦いとなり、苦戦を強いられる綺人だったが、加勢した悟桐守秋の力を借りて状況を打開。屋上で生徒をあやつる怪物を倒す事に成功する。しかし、それらはすべて邪魔な譚下せつりを最優先で排除しようとする、仲間を捨て駒にした鈎髑髏の巧妙な作戦だった。

恩人(第2巻)

鈎髑髏の痕跡を追い、とある不動産業者が済む家に侵入した久綺人。しかし、そこは盲目の女性が暮らす以外、なんの変哲もない家だった。聞けば女性は、3年前の事故で両親を失ったうえに盲目となり、それ以降、という父親の友人に面倒を見てもらっているという。しかし、恩人である悟の正体は人食いの怪物であった。盲目の女性と暮らすうちに、いつしか彼女を愛してしまった悟は、鈎髑髏の命令で綺人を亡き者にするため、自らの目を潰して綺人に襲いかかるのだった。

あまねく忌まわしき者共に捧ぐ夜(第2巻)

久綺人の顔の力を得るため、百怪結社を率いる百怪主が本格的に動き出した。しかし、人を愛した怪物のを倒してしまった事で、自身の心に迷いが生じた綺人は譚下せつりを敵として認定してしまう。その後、綺人が教祖に祭り上げられた「聖ダもだヤ教団」のおもてなしの儀に出席した綺人だったが、それはこの世に絶望した人間を、御使いの偶像で怪物に生まれ変わらせる、魔の儀式の披露会であった。新たな怪物の誕生を百怪主に嗅ぎつけられ、百怪主が率いる多くの怪物達の襲撃を受けてしまう綺人。せつりは、「波旬の君」としての強大な能力を覚醒し、多くの怪物と百怪主を滅するが、一瞬のスキを突かれて鈎髑髏に敗れてしまう。愛を裏切る事しかできない自分と綺人が、共に道を外れた外道であると断ずる鈎髑髏は、すべての力を持って綺人を倒そうとするが、綺人の機転の前に敗北し、滅び去る。2週間後、病院のベッドの上で目を覚ました綺人は、命を救ってくれた阿鞠鏡子に礼を言ったあと、せつりに自分の思いを伝えるのだった。

登場人物・キャラクター

久 綺人 (ひさ あやと)

「蒜匂学園」に通う男子高校生。見た者の誰もが恐怖に慄く醜悪な顔の持ち主で、それを隠すためにつねに仮面をつけている奇人。通学中や授業中はおろか、食事の時であっても仮面は外さず、隙間から器用に食事をとる技術を会得している。「久世家」という名士の家の生まれだが、その顔のせいで、当主である母親の手で座敷牢に監禁されて育った。「正道」を歩むように母親から教育されており、母親の期待に応えるため、整形手術で「人間」の顔に戻ろうとしていたが、怪物退治を生業とする阿鞠鏡子の誘いを受け、人に仇を成す怪物を倒す「正義の味方」として生きる事を決意する。 また、人間にとっては畏怖の対象でしかないその顔は、怪物から見ると恋慕の対象となるほど美しいものであり、その心を一瞬で奪い、無力化してしまう。 そのため、その顔は特別に貌と称され、また怪物達からは「怪貌公」という異名で呼ばれ、非常に恐れられている。頭脳明晰で、自分のふがいなさも客観視できる至ってクールな性格。討伐対象である怪物に対しては容赦しないが、その反面、自分を慕う者を無下にはできないお人好しな一面もある。

譚下 せつり (たんげ せつり)

「蒜匂学園」に通う潑剌とした女子高生。学園に転入して来た飛び切りの奇人である久綺人に興味を抱き、彼に話し掛ける。明るく誰とでも打ち解けられる性格と美しい顔立ちから、学園の人気者だが、その正体は人間ではなく、「波旬の君」と呼ばれる強大な怪物。幻術を筆頭とする精神感応を得意とし、多くの怪物や人間を幻影で惑わす事ができる。 綺人に萌えており、綺人の彼女になり、綺人の心を自分で満たすために、ずっと付きまとっていた。本来は人間の味方ではなく、人間の命など羽根のように軽いものと認識している。もともとは人間で、恋人に裏切られた事で怪物へと転化した過去を持つ。そのため、綺人に対して一途な悟桐楓に過去の自分を投影し、彼女を恋敵として認めていた。

鈎髑髏 (かぎどくろ)

鈎爪のような奇妙な顔をした怪物。性別は男性。秘密結社、百怪結社の一員で、怪物を何者にも頼る事のない完全無欠の存在と考えている。そのため、怪物に恋慕の心を生み出し、結果的に不完全な存在にしてしまう「怪貌公」こと久綺人の顔に強い恐怖心を抱いており、彼を仲間に引き入れ、その力を支配下に置く事を計画していた。のちに綺人の顔をほしがった百怪主と共に綺人と譚下せつりを襲撃し、せつりを敗北させる。 もともとは幕末に生まれた人斬りの男だったが、愛する女性との祝言を上げる直前に、過去の自分の所業に対する慚愧の念に堪えられなくなり、女性を斬り捨てて怪物へと転化した。目的のためなら仲間の怪物も平気で捨て駒にする非情な性格。

阿鞠 鏡子 (あまり きょうこ)

ショートヘアの若い女性。「摂津機関」のゴミ処理係として、怪物を倒す事を生業としている。顔を変形させ、別人に擬態できる特殊能力の持ち主で、母親に監禁されていた久綺人の家庭教師に成りすまして彼と出会い、怪物を退治する一員として綺人をスカウトした。何かにつけて人を食った態度が特徴だが、人の性根を見抜く眼力と、怪物退治の腕前は相当なもの。 口癖は「この章魚(タコ)」。

悟桐 楓 (ごどう かえで)

「蒜匂学園」に通う心優しい女子高生。悟桐守秋の妹で、ハエの怪物によって誘拐され、一時行方不明となっていたところを、久綺人によって救出される。その一件から綺人に対して淡い思いを抱き続けており、醜悪とされる彼の顔に慣れるため、スプラッター映画を観るなど、密かに努力を重ねている。儚げな見た目とは裏腹に芯の強い性格で、綺人に近づいた事で怪物達の襲撃を受けても、その心は微塵も揺るがず、一途に綺人を思い続ける。 そのため、譚下せつりから恋敵認定を受けていた。

悟桐 守秋 (ごどう もりあき)

「蒜匂学園」に通う男子高校生。屈強な体格をしたクラスのリーダー的存在で、喧嘩が非常に強い。思った事が口をついて出る粗暴かつ正直な性格で、仮面をつけ続ける転入生の久綺人を最初は煙たがっていたが、綺人に妹の悟桐楓を助けてもらってからは、感謝の念を示し、不器用ながら友人として接するようになる。戦いの中で心に迷いが生じた綺人を、自身の拳がグシャグシャになっても殴りつけて発破をかけ、綺人を立ち直らせるきっかけを作った。 妹の楓を異性として意識しているが、その気持ちを心の奥底に封印している。

盲目の女性 (もうもくのじょせい)

両目を失明している若い女性。3年前の自動車事故で両親と自身の光を同時に失った。その後、現場へとやって来た怪物の悟に助けを求めた事が縁となり、悟といっしょに暮らすようになる。視力を失ってからは、生きる希望のすべてを悟に与えられ、幸せな生活を送っていたため、悟には心から感謝している。

(さとる)

人食いの怪物。性別は不詳。3年前、死者を食らうため、交通事故の現場へと赴いた際に、自分のケガも顧みず、両親の救出を一心不乱に懇願する盲目の女性に対し興味を抱き、人間の男性に成りすまして彼女に近づく。最初は女性を食うつもりだったが、共に過ごすうちに愛が芽生えてしまい、彼女に生きる希望を与え続ける。鈎髑髏からの命令で久綺人と敵対し、命を落とす。

百怪主 (ひゃっかいぬし)

骸骨のような顔をした凶悪な怪物。怪物の結社、百怪結社の頂点に立つ。久綺人の顔の力を欲しており、綺人を倒してその顔をデスマスクに加工し、すべての怪物を統率する野望を実現しようとしていた。実際は配下の鈎髑髏に利用されているだけの存在にすぎず、譚下せつりを倒すための捨て駒として使われた。

女性教師 (じょせいきょうし)

「蒜匂学園」の若い女性教師。弟のみつるが大学にも行かず、怪しげなカルトの活動に夢中になっている事を気に病み、久綺人に相談を持ち掛けていた。しかし、綺人が調査を進めるうちに、実際は女性教師自身がカルト宗教である「聖ダもだヤ教団」の信徒である事が判明する。

みつる

大学生の男子。カルト宗教にはまってしまった姉である女性教師をこちらの世界へと取り戻すため、学校にも行かず、必死の活動をしている。インターネットでの情報拡散やお札の入手といった、あらゆる手段を講じていたが、久綺人との出会いで意を決し、カルト教団「聖ダもだヤ教団」へ信者のフリをして潜り込む。

佐倉 (さくら)

「蒜匂学園」に通う女子高生。ドイツ留学後にピアノの才能を開花させ、天才少女として、学園でも一目置かれる存在となる。実際はネズミの化け物と契約した事により、本来の実力は関係なく、自在にピアノが弾けるようになっていただけだった。

集団・組織

百怪結社 (ひゃっかいけっしゃ)

多くの怪物が集う秘密結社。リーダーは百怪主で、その右腕として鈎髑髏が仕えている。個々の活動を是とする怪物を、組織的に動かせる極めて珍しい組織。百怪主は久綺人の貌を手に入れる事を目的として組織を動かしていた。

その他キーワード

(かお)

久綺人の醜悪でおぞましく、そして美しい顔を指した言葉。彼の顔が、人間にとっては醜悪極まりないが、怪物にとっては恋慕の対象となる、とてつもない美しさである事から、特別にこう呼ばれている。貌を見た怪物は多幸感に抱かれ、堰を切ったような歓喜の涙を流してしまう。怪物の完全無欠性を信じている鈎髑髏は、この力に強い畏怖と恐怖を感じていた。 視覚的に見えなければ影響を受けないため、目がない怪物に対してはまったく効果がない。

御使いの偶像 (みつかいのぐうぞう)

カルト教団である「聖ダもだヤ教団」が所持していた不気味な像。望んだ者を怪物にしてしまう工芸品の一つ。人が浮世に絶望し、俗世とのしがらみを断ち切りたいと願った時に、呼び出された上位存在によって契約が成され、新たな怪物が生み出される。

偃月鎌 (えんげつがま)

久綺人が怪物を倒すために使用する工芸品の一つ。大きく湾曲した刃を持つ特殊な霊鎌。綺人の顔を見て恍惚状態となった怪物の急所に突き刺し、息の根を止める用途で使われていた。近くにいる怪物の殺気を察知して鳴る、という特殊能力を備える。

書誌情報

怪貌綺譚 2巻 講談社〈講談社コミックス〉

第1巻

(2016-08-09発行、 978-4063957471)

第2巻

(2016-11-09発行、 978-4063957891)

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