あらすじ
第1巻
吸血種(ヴァンパイア)と被吸血種(パピュラム)が共存する世界。女子高校生の藤城篝里は、被吸血種の中でも特別な存在「蜜血(みつげつ)」として、国の保護対象として生活していた。蜜血が放つフェロモンのような香りは、吸血種の狩猟本能を刺激して理性を奪うため非常に危険である。そのため蜜血たちは、「希少血種保護機関(アルトリウス)」に所属するSPと、つねに行動を共にしなければならなかった。そんな篝里のSP・黒森燎太郎は一見完璧ながら、異様に独占欲が強い男性だった。篝里は燎太郎に手を焼きながらもひそかに思いを寄せていた。そんなある日、先輩の西園寺晃人から生徒会役員にならないかと誘われる。被吸血種として暮らす晃人は、吸血種を快く思わない人種差別主義者であった。そのため、篝里のような被吸血種だけで生徒会を構成し、被吸血種優位の学校を作ろうと考えていたのである。晃人の思想に共感することのできない篝里はこの誘いを断るが、これによってますます晃人から気に入られてしまう。そして将来、篝里を生徒会役員にではなく、妻にすると晃人は宣言するのだった。こうして晃人との件は一見解決したかに思えたが、燎太郎は晃人の周囲の吸血種が突如狂暴化したことを問題視していた。やがて燎太郎は、晃人が実家の製薬会社のノウハウを用いて、吸血種をあやつる香りを作り出した可能性を察する。
第2巻
藤城篝里は、黒森燎太郎に血液を与えすぎてしまったために倒れてしまう。これを重く見た「希少血種保護機関(アルトリウス)」横濱支部の一員であり、篝里たちの友人でもある草薙梨凛は、燎太郎にあるものを投与する。それは、吸血行為への欲求を通常の数十倍まで増幅させる薬だった。梨凛は、これを打たれてなお、24時間燎太郎が篝里の血を吸わずにいられたら、本来本部へ報告すべき今回の件を黙っておくと告げるのだった。これをどうにかクリアした燎太郎だったが、その月のSP合同会議で半年前から起きている連続吸血事件が、同一犯の可能性があると知らされる。ひとまずこれを篝里には告げずにいた燎太郎だったが、その直後、篝里と燎太郎、藤城篝里の伯父の三人で出かけた際に、奇怪な殺人現場に遭遇する。それは、人の死体から突如大きな木が生えるというもので、篝里と燎太郎は8年前にもこれと同じものを見たことがあったのだ。篝里の両親も同様の姿で殺害されており、当時親しかった二人は、この犯人に復讐するために主人とSPの関係になったのである。ようやく手掛かりを見つけた篝里たちだったが、それからすぐに高校の体育祭で、またも吸血種たちが暴れ出す事件が起きる。
第3巻
黒森燎太郎は体育祭中に暴徒と化した吸血種たちを鎮圧するため、大ケガを負ってしまう。藤城篝里は燎太郎を救うために血液を提供するが、これによって、ふだんは表に出すことのないもう一つの人格「女王」が目覚め、別人のようになってしまう。篝里は8年前に起きた両親の殺害事件以来、極限まで追い込まれると、この「女王」を全面に出すことで自分を守ってきたのである。それからしばらくして篝里は、燎太郎と高校に復帰するが、先日の事件が西園寺晃人の仕業であることは明らかだった。そこで篝里はあえて晃人に接近を試みるが、逆に晃人から脅されてしまう。晃人は体育祭の際に、燎太郎と吸血種たちが戦う場面を撮影しており、これを流出させることで、吸血種と被吸血種の争いの口実にしようと考えていたのである。仕方なく篝里は誘われるまま晃人の自宅へ行くが、そこで衝撃の事実が判明する。吸血種を激しく嫌っていた晃人は、実は吸血種(ヴァンパイア)の父親と被吸血種(パピュラム)、しかも「蜜血(みつげつ)」の母親のあいだに生まれたハーフだったのである。さらに晃人の父親には、晃人の母親の血を吸いつくして殺した過去があり、晃人は父親を憎むあまり、吸血種に差別的になっていた。そんな晃人の苦しみを理解した篝里は、自分の暮らす「希少血種保護機関(アルトリウス)」で晃人を受け入れることにする。
第4巻
「希少血種保護機関(アルトリウス)」横濱支部に迎えられた西園寺晃人は、支部長である藤城篝里の伯父に、自分の父親が「蜜血(みつげつ)依存症」であり、藤城篝里の命を狙っていることを打ち明ける。篝里の伯父は、これを篝里と黒森燎太郎に伝えずにいたが、緋桜高校1年生の遠足中に、露店のお菓子を食べた被吸血種(パピュラム)が突如倒れ、身体から大きな木が生えた状態で死亡する事件が起きる。篝里たちはこれを西園寺晃人の父親の仕業だと考えるが、この木「吸血樹(きゅうけつき)」は、実は篝里の両親が人工的に「蜜血(みつげつ)」を誕生させるために作り出したものだった。これを知った篝里は深いショックを受けつつも晃人に連絡を取ろうとするが、なぜか連絡が取れずに不安になる。そこで篝里は、燎太郎と共に「西園寺製薬」へ侵入することを決意し、晃人に仕える吹雪の協力を得て現地に乗り込む。しかしそこは、晃人の父親によって暴走する吸血鬼だらけになっていた。どうにか晃人と合流した篝里と燎太郎は、二手に分かれて最上階を目指し、応援に草薙梨凛たちも駆けつけるが、晃人が目を離したスキに篝里だけが晃人の父親のもとに連れ去られてしまう。
登場人物・キャラクター
藤城 篝里 (とうじょう かがり)
国立緋桜(ひおう)高校1年3組に在籍する、被吸血種(パピュラム)の女子。被吸血種の中でも味および質共に最上級の血液を持つ特別な存在「蜜血(みつげつ)」でもある。正宗からは「かがりん」と呼ばれており、「希少血種保護機関(アルトリウス)」においては、SPである黒森燎太郎に守られる姫という意味で「グヴィネヴィア」とも呼ばれる。蜂蜜色の巻き髪ロングヘアで、派手で高飛車な印象を与えるが、これは燎太郎に対して素直になれないだけで、根は実直でまじめな性格をしている。また、燎太郎に過保護に育てられたために一人では何もできず、電車に乗って登校することもままならない。藤城篝里自身もこのことを自覚しており、自立しようと考えてはいるものの、なかなかうまくいかずにいる。もとは希少血種保護機のSPで、科学者の藤城成海と科学者の藤城ルルのあいだに生まれたお嬢様だが、8歳の頃に両親と召使たちが突如何者かに殺され、一人だけ生き残る。その後、蜜血を求める人々の闇オークションにかけられるが、事件から1か月後、燎太郎に無事救出された。以降は復讐を果たすために、燎太郎に生涯自分の血を捧げるという契約で、いっしょに犯人を捜し仇討ちしようと考えている。現在は燎太郎たちと共に希少血種保護機関で暮らしている。勉強とスポーツは、いずれもそこそこにできる。燎太郎の作るお菓子の中では、オレンジスコーンが最も好き。身長160センチで、体重49キロ。誕生日は4月1日。
黒森 燎太郎 (くろもり りょうたろう)
「希少血種保護機関(アルトリウス)」の横濱支部に所属する男子。藤城篝里の幼なじみで、専属SPを務める。国立緋桜(ひおう)高校1年3組に在籍している。吸血種(ヴァンパイア)だが、SPとして特別な訓練を積んでいる。そのため、篝里たち「蜜血(みつげつ)」の放つフェロモンのような匂いを嗅いでも、理性を保つことができる。あだ名は「燎」で、西園寺晃人からは「番犬くん」と呼ばれている。また、希少血種保護機関においては、篝里を守る騎士という意味で「ランスロット」とも呼ばれる。前髪を目が隠れるほど伸ばして髪全体を後頭部に向かって流したカーキ色の短髪にしている。清潔感のある美形で、さらに文武両道でSPとしても国内一の戦闘能力を持ち、一見完璧な男性として知られている。しかし、性格はサディスティックで独占欲が非常に強く、篝里を守るためなら手段を選ばないところがある。篝里が自分の保護下にいるのであれば、篝里が周囲から孤立して淋しい思いをしてもかまわないと考えている身勝手な一面もある。その一方で、篝里とは主人とSPの関係を保てるように一線を引いており、また主人である篝里の血液を嗜好品のように扱ってはならないという考えから、たとえ篝里の許可があっても、篝里の血液は自分の働きに応じた分しか飲まないと決めている。8歳の頃、篝里の両親が殺害された際、事件から1か月後に篝里を発見し救出した。この日以来、篝里の血を生涯独占する代わりに、篝里を守り彼女の代わりに戦う契約をしている。身長179センチで、体重65キロ。誕生日は8月2日。
西園寺 晃人 (さいおんじ あきひと)
吸血種(ヴァンパイア)の父親と、被吸血種(パピュラム)で「蜜血(みつげつ)」の母親のあいだに生まれたハーフの男子。国立緋桜(ひおう)高校の生徒会副会長を務めており、父親は製薬会社「西園寺製薬」の社長という御曹司でもある。前髪を真ん中分けにしたさらさらショートヘアで、まつ毛の長い中性的な雰囲気を漂わせた美形。物腰が柔らかく紳士的で、非常に丁寧な口調で話す。緋桜高校の王子様的な存在として知られているため吸血種、被吸血種問わず異性から非常に人気がある。しかし、西園寺晃人自身は吸血種を極端に嫌う差別主義者である。そのため自らがハーフであることは隠したまま、西園寺製薬で作られた香りを利用して学校を被吸血種の生徒で支配し、吸血種を追いやろうとしている。これは幼い頃、吸血種である父親が母親の蜜血に夢中になるあまり「蜜血中毒」となり、その血を吸い尽くして殺したことが要因となっている。それからは吸血種全般を憎むようになり、特に父親に対しては激しい嫌悪感を抱いている。母親の死後は吹雪をはじめとする召使たちと暮らしているが、これは西園寺家で働く以外に術のない彼らの職を守るためである。なぜか晃人の気持ちと天候がシンクロすることが多く、悲しい時は雨が降り、嬉しい時は虹が出るため、「自然に愛される男」を自称している。
吹雪 (ふぶき)
西園寺家に仕える大学生の女子。ベリーショートヘアの中性的な美形で、長身で痩せている。さらに西園寺晃人の母親が、生前男装した女性が好みであったことと、吹雪自身も男性的な服装が一番似合っていると考えていることから、晃人の母親の死後もずっと男装している。そのため、男性と勘違いされることが多い。まじめで落ち着いた性格をしており、つねに寡黙。家は非常に貧しく、晃人が自らの境遇を理解したうえで雇い続けてくれていることを理解している。そんな晃人の優しさに報いたいという思いから、吸血種(ヴァンパイア)と被吸血種(パピュラム)のハーフという、複雑な境遇にある晃人を献身的に支えている。
正宗 (まさむね)
藤城篝里とは別の高校に通う男子。被吸血種(パピュラム)。で、その中でも味および質共に最上級の血液を持つ特別な存在「蜜血(みつげつ)」でもある。草薙梨凛の恋人で、梨凛に護衛されている。前髪を目が隠れるほど伸ばした浅黄色の短髪で、やや軽薄な印象を与える。実際に言動もノリも軽く、篝里にはセクハラばかりする困った人物だと思われている。しかし恋愛に関しては一途で、恋人の梨凛を深く愛し、自分の血はすべて梨凛に捧げても構わないと考えている。だが梨凛はそれを拒否しているため、内心淋しい思いもしている。
草薙 梨凛 (くさなぎ りりん)
「希少血種保護機関(アルトリウス)」の横濱支部に所属する女子。正宗の恋人で、彼の専属SPを務める。藤城篝里たちとは別の高校に通っている。正宗からは「りり」と呼ばれており、希少血種保護機関においては、正宗を守る騎士という意味で「トリスタン」とも呼ばれる。吸血種(ヴァンパイア)だが、SPとして特別な訓練を積んでいる。そのため、篝里たち「蜜血(みつげつ)」の放つフェロモンのような匂いを嗅いでも、理性を保つことができる。黒髪の前下がりボブヘアで、凛とした雰囲気を持つ美少女。仕事熱心な生真面目な性格で、丁寧な口調で話す。SPとしても非常に優秀で、同じ支部に所属する黒森燎太郎に次ぐ、日本でNo.2の実力を誇る。そのため、セクハラばかりしている燎太郎や、いつも不満ばかり言っている他支部のSPには手厳しく、特に燎太郎のことは毛嫌いしている。正宗に対しては、ふだんはなかなか素直になれないが、心の底では深く愛している。そのため、本来SPの吸血種は主の血液を給金として得ているところを草薙梨凛は受け取らず、無償で正宗の護衛をしている。篝里とは仲がよく、彼女の世話をすることも多い。
霧椰 (きりや)
「希少血種保護機関(アルトリウス)」の横濱支部に所属するSPの男子。吸血種(ヴァンパイア)で、左側の髪の毛だけを伸ばして結んだアシンメトリーな髪形をしている。霧椰自身の血を己の人体の一部に見せかけることで、他人に変装する力に長けている。小柄な体型で顔も身体つきも中性的なことを活かして、女性に変装するのが得意。明るくノリのいい性格をしている。藤城篝里が西園寺家に単身向かった際には、隠れてついて行こうとした黒森燎太郎に変装術を教えた。
藤城 成海 (とうじょう なるみ)
「希少血種保護機関(アルトリウス)」の横濱支部に所属する元SPの男性で、被吸血種(パピュラム)。科学者でもある。藤城篝里の父親で、故人。希少血種保護機関では、被吸血種でありながら最強のSPとして知られ、「アーサー」の異名を持つ。癖のある髪の毛を肩まで伸ばし、口ひげを生やして眼鏡をかけている。弟の藤城篝里の伯父の髪形とよく似ている。SPを引退後、妻の藤城ルルと共に被吸血種の血液の代用品となる「人口血」の開発に成功した。この時に莫大な資産を得て大金持ちとなった。また「アヴァロンのりんご」と呼ばれる、「蜜血(みつげつ)」の人間を人工的に生み出す植物の研究も行なっていた。しかし8年前、篝里を誘拐するために押し入った西園寺晃人の父親の手の者によって襲われ、瀕死の重傷を負う。この死の間際に開発中の「アヴァロンのりんご」を藤城成海自身が食べることによって隠滅しようとしたが、これが体内で発芽。結果的に「アヴァロンのりんご」を完成させる要因を作ってしまい、晃人の父親に利用されることとなった。黒森燎太郎には生前よく将来SPになるための訓練をしており、非常に厳しかった。しかし、篝里には非常に甘かったため、燎太郎はそのギャップにいつも驚かされていた。
藤城篝里の伯父 (とうじょうかがりのおじ)
「希少血種保護機関(アルトリウス)」の横濱支部の支部長を務める男性。藤城篝里の伯父で、藤城成海の兄。癖のある短髪で、口ひげを生やしている。がっしりとした体型ながら、頰がこけている。紳士的でファッションセンスもよく、実年齢よりも若く見える。篝里のことを非常にかわいがっており、会えば大量のプレゼントを送るなど、溺愛している。逆に黒森燎太郎には厳しく、成海の指導を受けたにもかかわらず、SPとして自分の望むような成果を出していない燎太郎に辛く当たることもある。
西園寺晃人の父親 (さいおんじあきひとのちちおや)
日本最大の製薬会社「西園寺製薬」の社長を務める中年男性。吸血種(ヴァンパイア)で、西園寺晃人の父親。前髪を上げた撫で付け髪で口ひげを生やし、痩せた体型をしている。その容姿と残虐非道な犯罪行為によって、のちに現在によみがえった「ドラキュラ伯爵」と呼ばれるようになる。被吸血種(パピュラム)で「蜜血(みつげつ)」の妻と結婚し、ハーフの晃人をもうけた。しかし、次第に蜜血中毒となり「蜜血依存症」と呼ばれる状態になる。これによって妻の血液を吸い尽くして殺害し、晃人が吸血種を激しく憎む要因を作った。妻の死後はほかの蜜血を求めて犯罪行為に及ぶようになり、8年前に藤城篝里をターゲットに定めた。そこで刺客を放って篝里を誘拐しようとしたが、彼らの裏切りにより失敗する。この時、藤城成海やその妻である藤城ルル、藤城家の使用人たちが刺客によって殺害される。その後、一度は篝里を見失いあきらめるが、彼女が晃人と同じ高校に通っていることを知り、再び狙い始める。
書誌情報
蜜血姫とヴァンパイア 4巻 講談社〈KCデラックス〉
第1巻
(2019-03-13発行、 978-4065140123)
第2巻
(2019-05-13発行、 978-4065157183)
第3巻
(2019-08-08発行、 978-4065167946)
第4巻
(2020-01-10発行、 978-4065182840)