悪魔の手毬唄

悪魔の手毬唄

手毬唄の歌詞に見立てた猟奇的な連続殺人事件と、名探偵として知られる金田一耕助の活躍を描いたミステリー。原作となった小説は横溝正史の代表作のひとつで、たびたび映画化やドラマ化もされており、特に市川昆が監督した1977年公開の映画は有名。

正式名称
悪魔の手毬唄
ふりがな
あくまのてまりうた
原作者
横溝 正史
作者
ジャンル
推理・ミステリー
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概要・あらすじ

昭和30年、金田一耕助は静養のため旧知の磯川警部に連れられて岡山県の寒村、鬼首村を訪れる。その村では20年余り前に恩田幾三という詐欺師が温泉宿の亭主を殺害して逃走するという殺人事件が起こり、未だ解決されていなかった。磯川が金田一を連れてきたのは、この事件を解明してくれるのではないかという期待もあってのことだったのである。

そんななか、金田一は鬼首村で多々羅放庵という老人と親しくなる。放庵はかつて妻だった、「おりん」という女性と復縁しようとしていた。放庵に頼まれて復縁を受け入れる返書を代筆した金田一は数日後、村の峠で「おりん」を名乗る腰の曲がった奇っ怪な老婆とすれ違う。それが手毬唄になぞらえた血腥い連続殺人事件の始まりであることに、金田一はまだ気づいてはいなかった。

登場人物・キャラクター

金田一 耕助 (きんだいち こうすけ)

冴えない風体の男性だが、実は数々の難事件を解決してきた高名な探偵。磯川警部に誘われ、養生目的で鬼首村へやって来るが、そこで村の若い娘たちが手毬歌の歌詞をなぞったかのような異様な姿で殺されるという連続殺人事件に遭遇する。磯川警部や立花警部補と共に捜査にあたることになる。

磯川 (いそかわ)

金田一耕助と旧知の岡山県警の警部。23年前に鬼首村で起きた未解決殺人の捜査を担当したことから、たびたびこの村に足を運んでおり、金田一が謎を解いてくれることを期待して鬼首村の温泉宿「亀の湯」を紹介した。「亀の湯」の未亡人である青池リカに感情的に肩入れしていて、彼女のことを何かと気にかけている。

青池 リカ (あおち りか)

温泉宿「亀の湯」の女将で青池歌名雄と青池里子の母親。夫の青池源治郎は23年前に起きた殺人事件の被害者で、夫を亡くして以来、女手ひとつで2人の子供を育ててきた。夫が無残な最期を遂げ、娘の里子も身体の左半分が赤痣に覆われるという不幸な生まれ方をしたため、美人だがどこか影がある。歌名雄と由良泰子の結婚話が持ち上がる一方、仁礼嘉平からも歌名雄を仁礼文子の婿にと望まれているが、なぜかどちらの結婚話にも乗り気ではない。

青池 歌名雄 (あおち かなお)

青池リカと青池源治郎の息子で青池里子の兄。鬼首村の外の生まれで、幼い頃に両親と共に村に移り住んだ。イケメンで気も優しく、由良泰子と仁礼文子という村の二大勢力の娘からそれぞれ言い寄られている。本人は泰子と結婚する気でいるが、母親のリカに強く反対されている。

青池 里子 (あおち さとこ)

青池リカの娘で青池歌名雄の妹。父親の青池源治郎の殺害事件が起きたとき、母親のリカはまだ彼女を妊娠中で、事件の後に生まれた。顔立ちは美しいが、生まれつき左半身と顔の半分に赤痣が広がっているため人目を気にして頭巾で顔を覆い、1日のほとんどを蔵の中で過ごしている。別所千恵子、由良泰子、仁礼文子とは同い年で子供の頃は特に千恵子と仲が良かった。

青池 源治郎 (あおち げんじろう)

温泉宿「亀の湯」の主人で青池リカの亡夫。鬼首村の生まれだが若い頃に村を飛び出し、活動映画の弁士などをしていた。「青柳史郎」の名で神戸で随一の人気弁士になるが、トーキー(音声が付いた映画)の出現により弁士の仕事をあきらめ、昭和7年に妻とまだ幼い青池歌名雄を連れて帰郷。「亀の湯」の主人となるが、まもなく恩田幾三の宿で死体となって発見された。 遺体の顔は囲炉裏で焼かれていてひどいありさまだったが、リカと当時まだ健在だった両親の証言により青池源治郎であると断定された。

由良 泰子 (ゆら やすこ)

鬼首村の二大勢力のひとつである由良家の娘で母親は由良敦子。青池里子、別所千恵子、仁礼文子とは同い年。美しい娘だが気位が高く、村の女連中からはあまり受けが良くないものの、青池歌名雄とは相思相愛の仲で結婚の約束をしている。父親は先代の由良卯太郎とされているが、実は恩田幾三が敦子に生ませた娘である。

由良 敦子 (ゆら あつこ)

由良家の先代当主である由良卯太郎の妻で由良泰子の母親。非常にプライドが高く、仁礼家に負けまいと泰子と青池歌名雄の結婚を後押しする。実はかつて恩田幾三と不倫の関係にあり、泰子も恩田との間にできた子である。そのことは秘密とされているが、仁礼嘉平をはじめ一部の者は気づいている。

仁礼 文子 (にれ ふみこ)

鬼首村の二大勢力のひとつである仁礼家の娘。青池里子、別所千恵子、由良泰子とは同い年。青池歌名雄に横恋慕しているが、歌名雄と付き合っている泰子は子供の頃からの友達で彼女から奪おうとまでは考えていない。父親は仁礼嘉平とされているが、実は恩田幾三が嘉平の妹の咲江に生ませた娘である。

仁礼 嘉平 (にれ かへい)

仁礼家の現当主。仁礼文子は妹の咲枝と恩田幾三の間にできた子だが、仁礼家の体面を守るために自分の娘とした。ただ、文子のことは可愛がっていて、由良家への対抗意識もあって青池歌名雄を文子の婿にしようと青池リカに働きかけている。

咲枝 (さきえ)

鬼首村の実力者である仁礼嘉平の妹。総社市で女学校に通っていた時、恩田幾三に誘惑されて仁礼文子を身ごもった。文子の実の母親であることや父親が恩田であることは伏せられているが、鬼首村では半ば公然の秘密となっている。

別所 千恵子 (べっしょ ちえこ)

「大空ゆかり」の名で知られる人気歌手で別称春江の娘。父親は恩田幾三。鬼首村にいた時は詐欺師で殺人犯の娘とさげすまれていたが、誰もが知る大スターとなったことから村で大いに歓迎される。青池里子、由良泰子、仁礼文子とは同い年で子供の頃は特に里子と仲が良かった。

別所 春江 (べっしょ はるえ)

別所千恵子の母親。殺された恩田幾三と男女の関係にあり、千恵子をみごもった際に恩田から一緒に満州に行こうと誘われていた。大スターとなった娘と共に鬼首村へ帰ってくるが、金に汚い兄の別所辰蔵を軽蔑していて故郷への愛着もほとんどない。

別所 辰蔵 (べっしょ たつぞう)

別所春江の兄で、仁礼家のワイン工場で働いている。鬼首村へ戻ってきた別所千恵子と春江を出迎えるが、調子のいいことばかり言って妹の春江に軽蔑されている。仕事も不真面目で製造中のワインをいつも盗み飲みしている、飲んだくれのだらしのない男である。

多々羅 放庵 (たたら ほうあん)

鬼首村に住む老人。代々庄屋をしていた家の血筋だが、8人も妻を持つなど長年の放蕩がたたって今ではすっかり落ちぶれてしまっている。5番目の妻だった「おりん」から復縁を願う手紙が届き、手が不自由なため金田一耕助に口述筆記を頼むが、部屋に血の跡を残して忽然と姿を消してしまう。

おりん

多々羅放庵の5番目の妻。放庵に愛想を尽かして逃げ出したが、詫び言を入れた復縁を願う手紙を送ってくる。やがて村の峠に「おりん」を名乗る老婆が現れるが、金田一耕助は総社市の宿屋で彼女がすでに亡くなっていると聞かされることになる。

恩田 幾三 (おんだ いくぞう)

昭和7年に鬼首村にやってきたよそ者の男性。クリスマスの飾りなどに使うモール作りの副業を村に売り込むが、詐欺の疑いをかけられ姿を消した。その際、彼が宿にしていた多々羅放庵の離れで青池源治郎の遺体が発見されたため殺人の容疑で手配されるが、今も消息不明のままとなっている。かなり女にだらしがないようで、鬼首村にいた時に別所春江といい仲になり、彼女との間に別所千恵子をもうけるが、同時に由良敦子や仁礼家の咲江とも関係を持っていた。

立花 (たちばな)

鬼首村で起きた連続殺人の捜査を担当することになった岡山県警の警部補。金田一耕助の名声は知っていて、彼に対して挑戦的な態度で臨む。たださほど切れるタイプではなく、金田一の説明を聞いてもピンときていないことが何度かあった。

集団・組織

由良家 (ゆらけ)

鬼首村の二大勢力のひとつで屋号は枡屋。かつては村一番の資産家だったが、ぶどう栽培に成功した仁礼家に対抗しようという焦りから、先代の由良卯太郎が恩田幾三の詐欺にひっかかるという失態を犯した。現在は完全に仁礼家の後塵を拝しており、それだけに仁礼家への怨念は強い。

仁礼家 (にれけ)

由良家と対立する鬼首村のもうひとつの有力者で屋号は秤屋。かつては由良家の風下に立っていたが、先代の仁礼仁平の代の時にぶどうの栽培で成功。由良の地所だった田畑の多くを買占め、ワイン工場の経営にまで手を広げるなど由良家に対して圧倒的優位に立つが、それでもなお由良家に強い対抗意識を持っている。

場所

鬼首村 (おにこべむら)

岡山県にあるひなびた寒村。古くからの二大勢力である由良家と仁礼家が激しく対立していて、村の家々も両派に分かれてもめごとが絶えなかったが、現在はぶどう栽培で成功した仁礼家が由良家を圧倒している。また、由良家が枡屋、仁礼家が秤屋、別所家が錠前屋と、村のほとんどの家が屋号を持っている。

亀の湯 (かめのゆ)

金田一耕助と磯川警部が宿泊している鬼首村のはずれにある温泉宿。共同浴場に宿が付いているだけのこぢんまりとした湯治場で、昭和7年に神戸から戻った青池源治郎が主人となったが、源治郎が殺害されてからは青池リカが一人で切り盛りしている。

クレジット

原作

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