あらすじ
第1巻
ある日「おばけ絵師」と呼ばれる浮世絵師の来川ウタのもとに、帯問屋の娘が乗り込んでくる。あまりの剣幕に驚きつつ話を聞けば、店に飾ってある掛け軸の絵から、夜な夜な何かが飛び出してくるという。きっとウタの描いた掛け軸だろうと断言され、引き取るように求められたウタは、その日のうちに月を伴って帯問屋へと足を運ぶ。結局、その掛け軸はウタが描いた絵ではなかったが、三人の目の前で絵から何者かが飛び出し、店の中を這いずり回り始める。(エピソード「おばけ絵師で候」。ほか、2エピソード収録)
登場人物・キャラクター
来川 ウタ (きたがわ うた)
売れない浮世絵師の青年。金髪に近い薄い髪色で、左側の前髪をピンで留めている。非常に気弱な性格で、強気な相手にはオドオドとした態度で接してしまう。浮世絵師を生業としているが、絵はあまりうまくない。また、描いた絵が実体となってしまう能力を持っているため、「おばけ絵師」とも呼ばれている。しかしこの能力と呼び名によって、浮世絵師ではなく芸人のような扱いを受けることから来川ウタ本人はこの能力を嫌っている。幼少期に描いた絵で月を召喚してしまい、それ以来、記憶喪失の月に取り憑かれている。その際、姿形だけでなく、失った記憶も含めたすべてを描けなければ食われるという約束を月と交わしており、手始めに月に影を奪われている。
帯問屋の娘 (おびどんやのむすめ)
来川ウタに、おばけ絵を引き取ってほしいと依頼に来た少女。非常に気の強い性格で、おばけや非現実的なこともまったく信じておらず、奇術の類いだと決めつけていた。両親が営んでいる帯問屋で飾っている掛け軸の絵が、夜な夜な飛び出して店の中を這い回ると苦情を訴えて、ウタに引き取りを依頼した。
お吉 (およし)
帯問屋の娘の側仕えとして奉公している少女。まじめな性格の働き者で、責任感があまりに強いことから何かと思い詰めてしまうところがある。蔵の中で仕事の愚痴や郷里への思いをこぼす日々を送っていたが、ある日蔵の中の帯が動き出したのを面白がり、残飯などを分け与えていた。
青行燈 (あおあんどん)
口利き屋の青年で、浮世絵版元である救縁屋(すくえにや)に出入りしている。手拭いを額に巻き付けて半纏に黒股引きという、一見して岡っ引きをイメージさせる装いをしている。妖怪の名前を名乗っているが、あくまでふつうの人間である。しかしながら、妖怪を見てもいっさい動じない得体の知れない人物でもある。来川ウタに絵の仕事を持ってくる。
高砂堂の主人 (たかさごどうのしゅじん)
来川ウタに襖絵の依頼をした初老の男性。高砂堂という菓子の大店を営んでおり、非常に羽振りがいい。ウタが描いた絵を実体化させてしまう「おばけ絵師」と知り、宴会の余興にと襖絵を依頼した。店が大きくなったと同時に妻の高砂堂の奥方を亡くし、その寂しさを埋めるために宴会を繰り返していた。
月 (つき)
記憶喪失の神で、来川ウタに取り憑いている。黒髪に、赤と黄色を差し色に使った生き物を身につけた若い長身男性の姿をしている。役者絵に描かれているような色男と評されている。ウタの描いた浮世絵によって呼び出されたが記憶がないため、記憶も含めてすべて描けるようになれとウタに無理強いしている。また、できない場合はウタを生贄として食う約束を交わしており、手始めにウタの影を奪っている。
ねこべぇ
寸胴体形の猫に似た妖怪。来川ウタを「おばけ医師」とカンちがいして訪問した。腹の回りにだけ帯を巻いている。人の言葉を話し、腹痛を訴えて訪問したが、毎回ウタに門前払いされ、そのたびに巨大化している。なんでも食べる雑食のせいで、餓鬼の一種であるダルという妖怪を拾い食いしてしまっていたことから異変を起こしていた。事件解決後、ウタの家に通い詰めている。青行燈にねこべぇと名づけられるまでは「猫もどき」と呼ばれており、「ネコチャァン」と呼ばれることを希望していた。
高砂堂の奥方 (たかさごどうのおくがた)
高砂堂の主人の妻で、おたふくを思わせるふくよかな面持ちの女性。すでに亡くなっているが、毎晩宴会を繰り返す高砂堂の主人のことを心配して、幽霊となっても見守っていた。来川ウタに自分の姿を描かせて実体化し、高砂堂の主人を諭した。