石影妖漫画譚

石影妖漫画譚

河合孝典の代表作。妖怪が跋扈(ばっこ)する元文元年(西暦1736年)の江戸を舞台にしている。妖怪絵師の烏山石影が妖怪の関与する「妖事(じけん)」を解決していく姿を描いた大江戸妖怪ファンタジー。実在の妖怪絵師、鳥山石燕(せきえん)の画集に収録されている、毛羽毛現(けうけげん)のような既知の妖怪を独自の解釈で描いているほか、本作オリジナルの妖怪も数多く登場する。二転三転する起伏のあるストーリーと、妖筆で描き出した妖怪の能力を駆使して行われる駆け引き重視のバトルも見どころとなっている。集英社「週刊ヤングジャンプ」2010年32号から2011年1号にかけて連載されたのち、同社「WEB YOUNG JUMP」に移籍し2010年12月から2012年11月にかけて配信。2012年2月、「週刊ヤングジャンプ」公式サイトで全3話のショートアニメが公開された。

正式名称
石影妖漫画譚
ふりがな
せきえいあやかしまんがたん
作者
ジャンル
お化け・妖怪
 
バトル
レーベル
ヤングジャンプコミックス(集英社)
巻数
全11巻完結
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妖怪絵師の烏山石影がさまざまな「妖事(じけん)」に挑む

主人公の烏山石影は妖怪ばかり描いている風変わりな浮世絵師で、取材と称して妖怪の関与が疑われる「妖事(じけん)」の調査を行っている。石影が豊富な妖怪の知識と優れた観察眼、そして描いたものを実体化する妖筆「毛羽毛現の筆」の力を駆使して、妖事の真相にせまる様子は探偵モノ顔負けで、意外な結末が待ち受けていることも少なくない。各エピソードの主役となる妖怪は、濡れ女や二口女、火車など鳥山石燕の画集に描かれている妖怪ばかりで、そんな妖怪たちの設定がストーリーに巧みに落とし込まれている点も特徴となっている。

描いたものを実体化する妖筆「毛羽毛現の筆」

烏山石影が所持する妖筆「毛羽毛現の筆」は、妖怪、毛羽毛現の髪と樹齢7200年の大妖樹を妖怪の毛倡妓(けじゅうろう)の髪で接合した特別製で、描いたものを一時的に実体化する力がある。石影は主に自ら考案した妖怪を顕現させる用途で妖筆を使用している。対象を口内に閉じ込める「一口鯰」、対象を墨(やみ)に引き込んで無に帰す「死中引き込み腕」、対象の名称を看破する「写名口(シャナク)」など、石影が描く妖怪はバラエティに富んでおり、状況を打開し得る妖怪を臨機応変に描き出せる点が最大の強みとなっている。ただし、能力を使用すると利き腕と脳に大きな負荷が掛かる。また、石影の妖力を注ぐ必要があるため、一度に描き出せる枚数には限りがある。強力な妖怪ほど消耗が激しく、物語が始まった時点の石影の妖力では3枚が限度だった。のちに威力と燃費を兼ね備えた新機軸の妖怪画として、妖筆にまとわせるタイプの武装筆の狒々殺槍(ひひさっそう)が考案された。なお、妖筆で食べ物を実体化して味わうことも可能だが、いくら食べても腹は満たされない。

妖怪の力を悪用する異能集団「からくり一座」との死闘

長編エピソードに登場するサイコキラーの入間亜蔵(いるまあぞう)は、ある妖怪の力を結集した「玩具」を所持している。その力は裏社会で暗躍する猛者(もさ)が束になっても敵わないほど強力で、烏山石影は妖怪の毛羽毛現、妖怪を斬る力を持つ老武士の掛川武幻(かけがわむげん)、武幻の弟子で火付盗賊改(あらため)の長官、中山騎鉄(なかやまきてつ)らと協力して入間に戦いを挑むことになる。やがて、入間に「玩具」を与えた黒幕が存在することが判明。強敵、白狒々との戦いを経て新たな力と仲間を得た石影は、怪人、玩具屋(からくりや)が率いる異能集団「からくり一座」との総力戦に臨むことになる。

登場人物・キャラクター

烏山 石影 (からすやま せきえい)

妖怪絵師の男性。赤髪のロングヘアを後ろで束ねている。骸骨にたとえられるほど痩せている。着流し姿で、妖怪、毛羽毛現の体毛で作られた身の丈ほどの筆を持ち歩いている。放り投げた紙に作品を描き上げる超絶技巧の持ち主で、筆を扱う際には諸肌を脱いで上半身を露出させる。5年前まで美人画や役者絵で知られた人気の浮世絵師だったが、現在は江戸の裏長屋に引き籠もり、需要のまったくない妖怪画を描いて細々と暮らしている。人付き合いは希薄だが、創作意欲を搔き立てる妖怪との出会いに飢えており、取材がてら妖怪が起こした「妖事(じけん)」の調査と解決を請け負っている。妖怪専門の便利屋のような扱いを受けているが、取材が主目的のため、依頼人に金銭を要求することはない。有事には妖筆の力で自ら考案した妖怪を実体化し、事態の収拾を図る。どんな相手に対しても臨機応変に戦える強みがある一方で、体力は皆無に等しく、現場に到着した時点でバテていることも少なくない。のちに「石影妖漫画集」を発表し、妖怪の姿を後世に伝えることになる。

毛羽毛現 (けうけげん)

烏山石影に「毛羽毛現の筆」を授けた妖怪。愛称は「けうけ」。本来の毛羽毛現の姿は、動物の体毛や植物の繊維が集まって妖怪化した毛玉のような存在だが、けうけの場合は数千年を経て人型に変化した特例で、左口許(くちもと)に黒子(ほくろ)のある金髪碧眼(へきがん)の童女の姿をしている。お洒落(おしゃれ)に気を遣っており、髪に大量の簪(かんざし)を挿して、華やかな桃色の着物をまとっている。愛らしい外見に反して尊大な性格で、古風な口調で話すことがあるため、石影からは幼婆(ようば)と罵倒されている。浮世絵や茶屋など人の文化を好み、頻(しき)りに人里に繰り出している。好面(イケメン)が大好きで、歌舞伎役者の市川団十郎に惚(ほ)れ込んでおり、石影に妖筆の代償という体で歌舞伎の予約札を手配させている。石影を人と妖の絆(きずな)を紡ぐ者として信頼し、妖筆を手入れしたり、修行に付き合ったり、戦いに同行するなどさまざまな面で助けている。自らの髪を自在にあやつる能力があり、対象を絡め取ったり、硬質化して武器にしたり、傷口の縫合にも活用できる。また、帯紐(おびひも)の代わりにしている髪を解くと、山を思わせるほどの毛量となり、これを圧縮することで戦闘能力を著しく向上させることができる。

書誌情報

石影妖漫画譚 全11巻 集英社〈ヤングジャンプコミックス〉

第1巻

(2010-11-19発行、 978-4088790732)

第11巻

(2013-01-18発行、 978-4088795379)

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