あらすじ
第1巻
「鑑識官ファーブル」の異名で知られた羽生涼平巡査部長は、かつて法医昆虫学のスペシャリストとして活躍していた。しかし、毒物を使う「狩人蜂」と呼ばれる殺人鬼によって妹の羽生留美子が殺され、現在は職を辞していた。だが、再び「狩人蜂」の犠牲者が発見された事で、現場を任された城島アンリ警視は、涼平を捜査現場に呼び戻す。参考人として出頭した薬剤師の阿南英人を、法医昆虫学のプロファイリングで犯人と特定した涼平は、無言で阿南を殴打し、妹を亡くした悲しみをぶつける。この事件を契機に、涼平は自らの知識と技術を活かした鑑識官として、正式に現場復帰を果たす事となる。(採集1「狩人蜂の誘い」)
不倫相手のニュースキャスター、甲本耕助と一夜を共にしたアンリは、そこで涼平が幼い頃に火災で両親を亡くした事を聞かされ、その過去について調べ始める。彼が幼い妹の留美子と二人きりで親戚をたらいまわしにされていた事や、阿南に殺される前の留美子の様子などを知ったアンリは、あらためて羽生家の墓前を訪れるのだった。(採集2「スカラベの太陽」)
警視庁第一現場鑑識班のメンバーは、左胸に銃弾を受けて即死した暴力団関係者と思われる20代の男性を検死するために、現場に駆けつけた。班長である目黒は、いつも通りの鋭い眼光で現場検証を進めていく。一方、新入りの涼平は、現場で見つけたアリの行列を観察するのに夢中になっていた。一通りの現場検証を終えても満足できない様子の目黒は、一人現場に残って捜査を続行する。同じく密かに残って捜査を進めていた涼平は、真剣な眼差しの目黒に向かって、古いフェロモンが感覚の鋭い一部のアリを間違った道へと誘う事を説明し、今回の事件にもそういう古い痕跡が残されていると指摘。これをきっかけに、目黒は銃撃事件の引き金となった覚せい剤の包みを発見する。だがそんな中、一人の人物が銃を片手に物陰からその場をうかがっていた。(採集3「アリの道しるべ」)
土田第二病院には、首切りレイプ殺人の犯人が入院していた。彼は心神喪失により不起訴処分になっていたが、事件の被害者遺族に襲撃されてしまう。この事件に関心を持った涼平は、アンリに無理を言って犯人と面会する。そして遺族の証言などを手掛かりに、犯人の心神喪失が演技である事に気づく。一計を案じた涼平は、自らの妹を殺害した殺人鬼「狩人蜂」のように、注射器を手に犯人の眠る病室に忍び込む。(採集4「オオカマキリの祈り」)
涼平は小学生の時、学校を転々としていたせいでクラスになじめずにいた。そんな中で唯一、梶井ミノルだけは涼平の事を気にかけてくれていた。二人でクヌギ林で見た、たくさんのカブトムシが落ち葉の下から這い出してくる様子は、涼平にとって忘れられない光景となっていた。涼平はそんなミノルと、約20年ぶりに再会を果たす。しかし、かつては虫も殺せないほど優しかったミノルは、密かに殺人を犯していた。海に遺棄された遺体から犯人がミノルであると悟った涼平は、彼に自首を勧める。(採集5「追憶のカブトムシ」、採集6「約束のカブトムシ」)
アンリは自宅で、母親からしつこく見合いを勧められてうんざりしていた。一方職場では、警視副総監の娘として「親の七光り」などと陰口を言われ、父親の示す愛情にも素直になれずにいた。そんな折、生後間もなく絞殺されてミイラ化した赤ん坊を持ち歩いていた母親が連行されてきた。親と子の関係に頭を痛めていたアンリは、つい感情的になって赤ん坊の母親に詰め寄ってしまう。心の張りつめてしまったアンリに対して、涼平は自然界におけるさまざまな親と子の関係を聞かせる。(採集7「オトシブミの揺りかご」)
黒川刑務所から、一人の男が脱走した。小学生に成長した我が子の姿を一目見たいというのがその動機だったが、警察はもちろん男の自宅にも張り込んでいる。男は別れた妻に電話をかけてみるが、彼女は娘に会わせる気がないのはもちろん、かかわり合いになる事すら拒絶する。どうしようもなくなった男は、下校中の娘を遠くから見守る事しかできなかった。だがそこに、世間を騒がせている通り魔「カナヅチ男」が出現。男の娘は危機にさらされてしまう。(採集8「アブラゼミの望郷」)
第2巻
行方不明になった妹から助けを求める電話があったという通報を受け、城島アンリは捜索を開始。アンリは電話の向こうからスズムシの鳴き声が聞こえたという情報をもとに、昆虫に詳しい羽生涼平に、スズムシの生息地を訪ねる。だが、その話を聞いた涼平は急に涙ぐみ、その妹はもう殺されているかもしれないと語る。捜索の末に女性は草むらの中で発見されるが、涼平の言う通り、その時にはすでに息絶えていた。(採集1「スズムシの伝言」)
若い恋人達が、けんかをしたまま気まずい別れ方をしてしまう。その直後、バイクに乗った男性は事故に遭って帰らぬ人となり、残された女性は、最後にけんかをしてしまった事をひどく悔やむ。そんな女性に対して、現場検証に訪れていた涼平は、ホタルの光のメッセージについて話して聞かせる。死に際の男性が乗ったバイクのテールランプは、彼女に本心からのメッセージを送っていた。(採集2「ゲンジボタルの恋人」)
仕事一筋で生きてきた男は、皮肉な事にそれが原因で離婚をする事となり、今は娘と孫に慰謝料を渡すため、月に一度の顔合わせだけを楽しみに生きていた。アンリは、虫歯の治療で訪れた歯科でその男と知り合うが、彼は間もなく、仕事の事故で亡くなってしまう。遺体の確認のためアンリは彼の娘を呼び出すが、その女性は、父親は会社を経営する金持ちの社長であり、事故で死亡した工事現場の作業員が本人とは思えないと言い出す。(採集3「フクロウチョウの虚栄」)
頭部を金属バットで殴打され、両方の手首を切断された死体が発見された。現場に残された指紋から犯人はすぐに特定されるものの、犯人と目された人物も同様の手口で殺害された遺体となって発見される。しかも両方の現場に残された指紋は、まったく一致しない。さらにある山中で三人目の遺体が発見された事で、捜査は暗礁に乗り上げてしまう。実は一見すると何のかかわりもない被害者達には意外な共通点があった。10年前、小学生時代に彼らは友人同士で、とある事件にかかわっていたのだ。(採集4「ハンミョウの行方」、採集5「ハンミョウの告発」、採集6「ハンミョウの審判」)
大和総合大学で犯罪心理学の講義を受けている二人の男女がいた。一人はレイプ犯の息子と後ろ指をさされている男子、そしてもう一人は清純な女子。男は女を慕っているが、自らについて回る黒い噂が恋の邪魔をしていた。女をライブに誘うが、もふられてしまった男は、けんか騒ぎで警察の厄介となる。そんな中、女が絞殺死体となって発見された。当然、疑惑はふられた男に向けられてしまう。(採集7「アカマダラの方程式」、採集8「アカマダラの誤算」)
河川敷に停められた車から、大量の血痕が発見された。社用車だった事から車の持ち主の男はすぐに特定されたが、彼は1週間前から行方がわからなくなっていた。そんな中、男の名前が縫いつけられたスーツが、海岸で発見される。その背中には、鋭利な刃物で切り裂かれた跡があった。アンリは公開捜査に踏み切ろうとするが、そんな彼女に対して涼平は、これは事件ではないかもしれない、と待ったをかける。(採集9「テントウムシの奇策」)
第3巻
自らも幼い娘を持つシングルマザーの児童心理学者は、講演会などで忙しい日々を送っていた。そんな中、一人娘が交通事故に遭ってしまう。幸い大事には至らなかったものの、女の子の持っていた紫色の蝶の写生画が羽生涼平の関心を引く。事故の原因は、ドライバーや女の子自身の不注意ではないかもしれないと思った涼平は、独自の捜査に乗り出す。(採集1「シジミチョウの彩り」)
テレビで人気の霊能力者が、行方不明になった女性の霊視を番組の中で行った。そして霊能者は、山や道路、さらに池とそこに立ち昇っている煙のようなものを紙に書き起こしていく。そして、まさにその場所で女性の遺体が発見される事となる。事情聴取に呼ばれた霊能力者は、自らの霊視の正しさを主張するが、涼平は池から立ち昇っている煙が蚊柱である事、そして生番組の放送されている時間には蚊柱は現れない事を指摘する。次第に霊能者の受け答えは、しどろもどろになっていくのだった。(採集2「ユスリカの降霊」)
自殺系サイト「ブラック・ウィドウの部屋」で知り合った自殺志願者達が、そろって誘拐されるという事件が発生した。唯一発見された女子高校生からの断片的な証言をもとに、涼平と城島アンリは捜査を続けていく。しかし、囮(おとり)捜査に打って出たアンリは犯人の手に落ちてしまう。涼平は警察犬捜査官の進藤麻人の力を借りてアンリを捜索し、自殺志願者を騙して集めていた犯人を、徐々に追い詰めていく。(採集3「クロゴケグモの罠」、採集4「クロゴケグモの虜」、採集5「クロゴケグモの館」)
警視庁第一現場鑑識班のメンバーである松岡怜司には、キノコ農家の伯父がいた。涼平がキノコ栽培の様子を見たがったため、二人は非番を利用してその伯父の家を訪ねる。そんな折、甲本耕助がキャスターを務める番組「報道フロンティア」では、小学校で起こった集団食中毒事件を取り上げ、給食で出たキノコが原因だった事を報道。これはまだ確証の得られていない情報であったが、これが原因で、キノコ農家が風評被害を被ってしまう事となる。その中には怜司の伯父の姿もあった。(採集6「ハキリアリの受難」)
街中で背中を鋭利な刃物で刺され、一人のバーテンダーが死亡した。涼平はその遺体から、町中には生息しない珍しいカミキリムシを発見する。アサカミキリというその昆虫は大麻を餌とするため、絶滅危惧種となっていた。これにより、バーテンダーの死に大麻がかかわっている事が発覚。涼平はアサカミキリの生息地の線から捜査を進めるうちに、うっかり大麻の栽培場を見つけてしまい、犯人に追われる身となってしまう。(採集7「カミキリムシの密告」、採集8「カミキリムシの逃亡」)
第4巻
大麻の栽培場を見つけてしまった羽生涼平は犯人に追われる事となったが、現場に駆けつけた城島アンリや警視庁第一現場鑑識班のメンバー達の助けもあって、何とか事なきを得る。しかし、二人いた犯人のうちの主犯格を取り逃がしてしまう。主犯の身柄を押さえるため、涼平はある秘策を講じる。(採集1「カミキリムシの追跡」)
警視庁第一現場鑑識班のメンバーである佐倉は時計のマニアで、仕事中にネットオークションを見ていて、上司の目黒から大目玉を食らってしまう。そんな中、古い時計が動機となった殺人事件が起こる。「南京虫」と呼ばれるタイプのその時計には、深い愛憎の思い出が刻み込まれていた。(採集2「南京虫の刻印」)
妊娠した女性が階段から転落するという事故が起こった。涼平は現場に残された靴跡から、事故ではなく事件の可能性があると見抜き、アンリに連絡する。その女性は不倫をしており、それがこの事件の引き金となってしまったのだ。(採集3「カワトンボの嫉妬」)
ダーウィンと名乗る一人の男が現れた。彼は自らを革命組織「種の起源」のリーダーだと名乗り、蚊が媒介する伝染病「西ナイル熱」を用いたバイオテロで、増えすぎた人類を淘汰すると宣言する。これにより東京は、非常事態宣言を発令する瀬戸際まで追い詰められてしまう。ダーウィンと「種の起源」という組織の正体と、街のどこかに仕掛けられた蚊の培養装置の行方を追い、涼平達は奔走する。(採集4「戦慄のモスキート」、採集5「騒乱のモスキート」、採集6「沈黙のモスキート」)
街では、読んだ人が1週間で死んでしまうという不吉な本、「死者の書」の噂が話題になっていた。そんな折、不動産会社を経営する愛書家の死亡事件が発生。死因は亜ヒ酸による中毒死、俗に言うヒ素中毒だった。さらにこの家の家政婦までが、無残な遺体となって発見される。涼平は、この事件に「死者の書」がかかわっていると言い出す。(採集7「紙魚の棲み処」、採集8「紙魚のしわざ」)
警察に匿名の通報があり、ある山中から男性の遺体が発見された。被害者の男性は、神保大学の生物学の講師だった。遺族からの聞き取りで、彼が生前「同僚に論文を盗まれた」と口にしていた事が判明する。アンリらは、その同僚を調べるために神保大学へと向かう。そこに待っていたのは、涼平の大学時代の学友、宇治沢圭一だった。一方の涼平は、遺体から採集したウジを飼育し、昆虫法医学的なプロファイリングを試みる。(採集9「ハエの存在証明」)
第5巻
羽生涼平と宇治沢圭一は、かつて大学時代に同じ教授のもとで学んでいた。その圭一が勤める大学の同僚が遺体となって見つかった事件で、涼平はかつての学友が事件にかかわっていると目星をつける。アメリカの研究報告会というアリバイのあった宇治沢だが、涼平によって遺体遺棄現場で採集されたウジが、その証明を突き崩す事となる。(採集1「ハエの死体農場」)
涼平が草むらで釣り糸を垂らしていたところ、その行動を怪訝に思ったホームレスの男性が声をかけてきた。涼平は手作りの囮を使ってトノサマバッタを釣っていたのだ。ホームレスの男性はこのトノサマバッタを気に入り、「バッ太郎」と名付けて満面の笑みを浮かべるのだった。後日、このホームレスの男性が、お寺の境内で遺体となって発見される。近くにある高校の生徒が遊び半分で男性に暴行を加えた事がわかったが、涼平が捕まえて男性に譲ったトノサマバッタ「バッ太郎」が、犯人は別にいるという真実を浮き上がらせる。(採集2「トノサマバッタの孤独」、採集3「トノサマバッタの群像」)
年末、警視庁第一現場鑑識班のメンバーは、とある居酒屋で忘年会を楽しんでいた。やがて店の名物の唐揚げが出てくるが、これは誰もがうなる絶品で、最後に一つだけ残った唐揚げを前に、皆の表情に緊張が走る。その時、店のブレーカーが落ちてしまう。一瞬の暗闇のあと、再び電気がついた時には唐揚げの姿は消え去っていた。そして唐揚げ紛失事件の捜査が始まる。(採集4「ザザムシの宴」)
たった半径1キロの範囲で、10件もの放火が続いていた。城島アンリや鑑識班も現場に駆けつけ、同一犯の犯行として捜査を進めていく。そんな折、ある火事の現場でアンリは、高校時代の同級生が消防士と揉めている現場を目撃する。事情を聴くと、二人はかつて恋人で、彼の事が忘れられないアンリの友人は、火事場を巡ってストーカーまがいの行動をしているという。放火の捜査と友人の不審な行動が結びつくのに、そう時間はかからなかった。(採集5「クモの巣の業火」、採集6「クモの巣の煉獄」)
地下鉄やバスの中で、白い服を着た女達がオオスズメバチを放って人を襲わせるという事件が頻発していた。実行犯の身元から、「ネイチャークライ」という新興宗教の組織が浮きあがってくる。この組織は、裏でダーウィンの革命組織「種の起源」とつながっていた。無差別と思われた「スズメバチ爆弾」の事件は、東京に対するダーウィンの再攻撃だったのだ。ついには事件の捜査会議場までがテロの標的となり、アンリの父親である警視副総監もオオスズメバチに襲われてしまう。(採集7「スズメバチの爆弾」、採集8「働きバチの狂信」、採集9「女王バチの城」)
第6巻
非番を利用して、神保昆虫公園内にある昆虫博物館を訪れていた羽生涼平に、案内係の女性がストーカーに関する相談を持ちかけてくる。証拠も不十分なため警察としては動けないが、釘をさすくらいならと、涼平は相手の男に注意する。事件はそれで終わったかと思われたが、のちに案内係の女性が博物館内で首を吊っているのが発見された。遺体の背中に付着したチョウの鱗粉から、涼平はこれが自殺ではない事を確信する。(採集1「蝶の森の悲劇」、採集2「蝶の森の情事」)
ホームレスの男性が急死した。仲間の証言から、彼は缶コーヒーを飲んだ途端に苦しみ出して死亡した事が判明。調べてみると、コーヒーの中からは毒物「カンタリジン」が検出された。これはマメハンミョウなどの昆虫が持っている毒物であり、誰かが意図的に飲み物の中へと入れたものだと判断した警察は、殺人事件として捜査を開始。毒物を手にしそうな人物を片っ端から当たっていく。だが捜査は難航し、ついに同じ手口による二人目の犠牲者が現れてしまう。今度の事件は、近代的なビルの会議室の中で起こったという。(採集3「マメハンミョウの毒殺魔」、採集4「マメハンミョウの処方箋」)
剣道の全国大会の常連である城島アンリには、なかなか倒せないライバルが存在した。相手は鹿児島県警に勤務する婦警で、薩摩示現流剣術の使い手でもある。剣道にはうといながらも、相手の婦警が繰り出すトンボの構えを見た涼平は、アンリに秘密の特訓を持ちかける。(採集5「アキアカネの剣術」)
涼平は、発見された水死体の胃袋の中からメススジゲンゴロウを発見した。ゲンゴロウは種類によって生息する水域が違うため、被害者がどこで死亡したのかがわかるかもしれない。涼平は、同僚の松岡怜司とアンリを連れて、水死体のあがった河川の上流を探索する。そうこうするうちに、被害者が水泳の金メダリストとして有名な人物であった事が判明。そんな人物がなぜおぼれたのかと、捜査官達は首をかしげる。(採集6「ゲンゴロウの漂流」、採集7「ゲンゴロウの泡沫」)
クワガタムシを採りに行った少年が、偶然にも山中に埋められた人間の腕を発見した。さらにその近くで、山林警備員が複数の人体部分を見つける事となり、バラバラ殺人としての捜査が開始される。凶器はチェーンソーで、被害者は生きたまま切断された様子だった。涼平とアンリ、警察犬捜査官の進藤麻人らは、その山林で別の遺体も発見し、連続殺人の線が浮かびあがってきた。捜査を続ける中、今度は両腕を切り落とされた男性が発見される。そして彼は、犯人への手掛かりとなる言葉を言い残すのだった。(採集8「虐殺のクワガタムシ」、採集9「冷血のクワガタムシ」)
第7巻
連続バラバラ殺人事件の捜査中、羽生涼平、城島アンリ、伊達刑事ら捜査官は、チェーンソーを振り回す犯人と遭遇する。からくも犯人から逃れはしたものの、一行は犯人の足取りを見失ってしまう。しかし涼平は現場に残されていたクワガタムシから、新たな手掛かりを導き出していく。(採集1「断罪のクワガタムシ」)
涼平は、同僚のユカが見ているファッション雑誌に関心を引かれる。そこには蝶のデザインをあしらったドレスが掲載されており、涼平はユカに、そのドレスが「たままゆ」というデザイナーユニットの作品だと教えられる。後日、このデザイナーの一人が自宅で変死体となって発見された。捜査官一行は、残されたもう一人のデザイナーに事情を聴取。その頃、涼平は検死解剖により、デザイナーの死が事故ではなく殺人だった可能性を探り当てる。(採集2「カイコガの意匠」、採集3「カイコガの反目」)
東京の各地で、無差別な爆破テロが頻発するようになった。現場では、爆発の直前に虫の鳴き声が聞こえたという証言が多数出てくる。この事件は、革命組織「種の起源」のリーダー、ダーウィンが海外から呼び寄せたテロリスト、ガラパゴスの犯行だった。彼を追って来たCIA捜査官、メンデルの協力を得たアンリと涼平は、ダーウィンの魔の手から東京を守るべく果敢に捜査を続行する。やがて甲本耕助が勤めるテレビ局が新たな標的にされるが、これはかつて涼平を番組に招いた事で、ダーウィンの関心を引いてしまっていたからだった。(採集4「コオロギの葬送曲」、採集5「コオロギの鎮魂歌」、採集6「コオロギの断末魔」)
ダーウィンが大規模な爆破テロを実行に移した事で、警察とダーウィンとの対決は避けられないものになっていた。「種の起源」は次に、大規模な昆虫プラントである「方舟」で大量生産したトビバッタを使って、日本の農業に致命的な損害を与えようと企てる。しかし、ガラパゴスの起こした事件で手がかりをつかんだ警察は、少しずつ「種の起源」を追い詰めていく。だがそんな中、ダーウィンに涼平をさらわれてしまう。(採集7「トビバッタの黙示録」、採集8「ダーウィンの方舟」、採集9「ファーブルの庭」)
登場人物・キャラクター
羽生 涼平 (はぶ りょうへい)
大の昆虫好きで、昆虫法医学の深い知識を身につけた男性。その知識を活かして刑事として活躍していたが、狩人蜂と通称される殺人鬼に最愛の妹、羽生留美子を殺されてしまい、辞職している。そして同じ殺人鬼が起こした事件をきっかけに、警視庁第一現場鑑識班のメンバーとして復職を果たす。その機会を与えたのは城島アンリ警視で、以降もさまざまな捜査で協力関係を築いていく。 どこかぼんやりとした印象があるうえに涙もろく、のんびりと方言で話す事から、やや頼りないタイプに見えるが、持ち前の昆虫知識が多くの謎を解き明かしていく。人間よりも昆虫や自然に感情移入しているような、危うげな姿を見せる場面がよくある。直接的に事件を解決するのではなく、その奇抜に見える行動が間接的に事態を丸くおさめてしまうといった展開も多い。 職場の人間達からは変人扱いされているが、アンリや上司の目黒などからの信頼は厚い。昆虫行動学の祖として知られるフランスの博物学者であるジャン・アンリ・ファーブルにちなみ、周囲には「ファーブル」のあだ名で呼ばれている。
城島 アンリ (じょうしま あんり)
現役の警視の女性。警視庁副総監の娘という事もあり、お嬢様育ち。優秀な刑事ながら、親の七光りと陰口を叩かれる事が多い。人気のニュースキャスターの甲本耕助と不倫関係にある。剣道の達人で、何年にもわたって全国警察選抜剣道大会でトップクラスの成績を収めているほど。昆虫が大の苦手で、虫を見るだけでジンマシンが出てしまう。
目黒 (めぐろ)
警視庁第一現場鑑識班の班長を務めている。鑑識官として復職を果たした羽生涼平の上司にあたる男性。かつて捜査一課にいた頃に初動捜査を誤って、相棒を死なせてしまうという経験をしている。そのつらい思い出が、鉄の意思によって現状を検分する現在の職務に活かされている。頑固一徹なリアリストで、長い経験で養われた豊富な知識を持つ。 どこかのんびりとした涼平に目をかけており、「鑑識官として一人前に育てる」と息巻いている。
松岡 怜司 (まつおか れいじ)
警視庁第一現場鑑識班に所属している男性。羽生涼平の理解者の一人で、優秀な鑑識官でもある。
ユカ
警視庁第一現場鑑識班に所属している。唯一の女性班員で、豊富な知識と確かな技術を持つ。職場では、羽生涼平のうんちくを聞かされる立場になる事が多い。指紋の採取で活躍する場面が多いものの、似顔絵が得意だったりと、随所で多才さをうかがわせる。
佐倉 (さくら)
警視庁第一現場鑑識班に所属している男性。機械やコンピューターの知識が豊富で、その知識を捜査に活かしている。腕時計のマニアでもある。
伊達 (だて)
巡査部長の男性。城島アンリの部下として共に捜査にあたる場面が多い。頭に血が上りやすく、羽生涼平を恫喝したり、アンリを親の七光りだと評したりと乱暴な性格。ただし、刑事の仕事は真摯に務めている。
進藤 麻人 (しんどう あさと)
警察犬捜査官の男性。警察学校で羽生涼平と同期だった。イギリス出身の博物学者であるアーネスト・トンプソン・シートンにちなみ、周囲には「シートン」のあだ名で呼ばれている。また、羽生留美子の婚約者でもあった。警察犬の扱いがうまく、ダーウィンとの対決で危機に陥った涼平を、相棒の警察犬、ロボと共に救う。 なお、「ロボ」の名は『シートン動物記』に登場する狼の名前からとられている。
メンデル
CIA捜査官の男性。自然解放戦線の構成員だったダーウィンを追っている。羽生涼平らに多くの情報をもたらし、ダーウィン逮捕に協力する。涼平らにテロリストのガラパゴスが日本に入国した事実も知らせたが、帰国時に乗った飛行機が「種の起源」によって爆破された事で殉職した。
羽生 留美子 (はぶ るみこ)
羽生涼平の妹。若くして亡くなった。留美子の死は注射器と薬剤を使った殺人犯、阿南英人の犯行だった。この事件がきっかけとなって涼平が刑事を辞め、そして鑑識官として復職する事になった。幼い頃に両親を失い、親戚中をたらいまわしにされながらも涼平と二人で強く生きてきた少女。
甲本 耕助 (こうもと こうすけ)
人気ニュース番組「報道フロンティア」の売れっ子男性キャスター。城島アンリの不倫相手でもある。打ち合せとは違うニュースを読み上げるなど、やや独断専行の気がある。羽生涼平に関心を持ち、テロ事件の報道では本人をニュースに出演させた。しかし、この事がテロリストのガラパゴスにテレビ局を狙われるきっかけにもなってしまう。
ダーウィン
テロ組織「種の起源」のリーダーを名乗るテロリストの男性。かつては過激派自然保護組織「自然解放戦線」の構成員として、過激な活動に身を投じていた。羽生涼平に強い関心を示し、まるでゲームをするかのように対決を楽しむ。「西ナイル熱」を蚊に媒介させようとするバイオテロや、新興宗教「ネイチャークライ」を隠れ蓑にしたスズメバチを凶器とするテロなどを主導し、涼平の最大の敵として暗躍を続ける。 なお、「ダーウィン」というコードネームは、イギリスの自然科学者であるチャールズ・ロバート・ダーウィンからとったもので、組織名の「種の起源」も彼の著書『種の起源』をもととしている。
ガラパゴス
国際的なテロリストで、ダーウィンの片腕と目される男性。爆発物のプロで、自然解放戦線にいた時からアメリカの各地で爆破テロを実行していた。コードネームのガラパゴスは、エクアドル領のガラパゴス諸島に由来し、チャールズ・ロバート・ダーウィンが「進化論」の着想を得た土地として有名。
阿南 英人 (あなん ひでと)
第1巻・採集1「狩人蜂の誘い」に登場する。薬剤師の男性。薬品を用いた連続殺人犯で、「ただ人が死ぬのを見たかった」と供述するなど、動機なき殺人鬼。羽生涼平の妹である羽生留美子を殺害した犯人でもある。薬物処刑が実施されているアメリカのイリノイ州に研修と称して訪れ、薬物を入手した足取りから、複数の殺人事件の犯人として逮捕されるに至る。
梶井 ミノル (かじい みのる)
第1巻・採集5「追憶のカブトムシ」、採集6「約束のカブトムシ」に登場する。妻を殺害してしまった夫。羽生涼平とは小学生時代の友人で、カブトムシを通じて仲よくなった。しかし、20年後に再会した二人は、殺人犯と警察官という相容れない関係となっていた。
宇治沢 圭一 (うじさわ けいいち)
第4巻・採集9「ハエの存在証明」、第5巻・採集1「ハエの死体農場」に登場する。神保大学で生物学の講師を務める男性。大学時代は羽生涼平と同じ教授のもとで学んでいた。要領のいいタイプで、自らの成功のためには手段を選ばない利己主義なところがある。
集団・組織
警視庁第一現場鑑識班 (けいしちょうだいいちげんばかんしきはん)
警察官として復帰した羽生涼平の職場。事件が起こると真っ先に現状へと駆け付け、鑑識捜査に当たる。
種の起源 (しゅのきげん)
「ダーウィン」と名乗る人物が、リーダーを務めるテロ組織。日本国内に巨大な昆虫プラント「方舟」を有し、人間に害を与えるさまざまな昆虫を飼育開発している。かつてアメリカで活動していた過激派自然保護組織「自然解放戦線」から派生したと考えられている。「自然解放戦線」の環境原理主義に加え、強い選民思想を貫くのが特徴。 チャールズ・ロバート・ダーウィンの著書である『種の起源』にちなみ、自然選択による「淘汰」と称して、大量破壊を引き起こそうと画策する。
自然解放戦線 (しぜんかいほうせんせん)
1989年にイギリスで発足し、90年代後半からはアメリカでもさまざまなテロ活動を開始した過激派自然保護組織。略称「NFL」。高級住宅地や環境破壊を進めていると目されている企業や施設の爆破などを実行している。かつてダーウィンやガラパゴスが構成員として所属していた。
ネイチャークライ
環境汚染を訴えるグループ。その実態は新興のカルト教団で、人間至上主義を糾弾し、自然に変える事を理念とする。その背後には革命組織を名乗るテロ集団「種の起源」の影があり、人間を「淘汰」するためにダーウィンの手足となって働いている。
その他キーワード
法医昆虫学 (ほういこんちゅうがく)
死体についた昆虫などの小動物から、殺害現場や現場を推理する学問、あるいはそれを応用した科学捜査技術。アメリカでの研究は進んでいるが、日本ではまだ発展途上段階にある。羽生涼平は卓越した昆虫の知識を活かして、大事件はもちろん何気ない異変にまで光を当てていく。
クレジット
- 原作