最後の西遊記

最後の西遊記

野々上大二郎の代表作。舞台は恐怖心が妖怪化するという設定の現代日本。妖怪を増やそうとする「混世の従者」と、彼らに抗う「討怪衆」の戦いを描いた妖怪討伐ファンタジー。『西遊記』や『杜子春伝』を下敷きに練り上げられた設定と、如意棒を駆使した変幻自在のバトルが特徴。藤田龍之介と杜子春という擬似兄妹の心の交流にも重きが描かれている。集英社「週刊少年ジャンプ」2019年14号から38号まで連載。コミックス最終巻末には『最後の西遊記』のパラレルワールドを舞台とした読切作品『ももものがたり』が収録されている。

正式名称
最後の西遊記
ふりがな
さいごのさいゆうき
作者
ジャンル
怪談・伝奇
 
その他アクション・アドベンチャー
レーベル
ジャンプコミックス(集英社)
巻数
全3巻完結
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人々の「蒙(もう)」を啓(ひら)き、妖怪を増やそうとする「混世の従者」たち

人間は誰もが目に見えない存在への恐怖を感じている。その恐怖の塊は妖怪の卵のようなもので、通常は「蒙」という心の筺(はこ)に封じられている。しかし、あり得ない経験をして蒙が啓くと、封じられていた恐怖が妖怪として実体化する状態に陥ってしまう。蒙という筺の蓋を閉じるには、恐怖から生まれた妖怪を討伐し、特別な処置を行う必要がある。科学の発達によって不意に蒙が啓く事態が減少した現代において、意図的に人々の蒙を啓き、世界を妖怪で満たそうと企んでいるのが「混世の従者」である。なお、蒙を啓くことは恐怖の妖怪化という危険を孕む一方で、あり得ないという思い込み、すなわち蒙によって制限されていた真の力の解放も意味している。たとえば、蒙が啓くと妖怪にも有効な如意棒を扱えるようになる。これは「真人(しんじん)」へ至る第一歩で、真人化が進めば自らの細胞を制御して切断された四肢をつなげることすら可能になる。ただし、完璧な個である真人に到達するには、他者への優しさなどの感情も排さなければならず、真人に近付きながら愛によって力を失った者も存在する。また、病気や災害を妖怪として実体化させて倒すことで事態を解決に導く裏技も存在する。たとえば、ヤマタノオロチの伝説は水害を妖怪化して討伐した実例として説明されている。

妖怪にも通用する変幻自在の武器・如意棒

『西遊記』にも登場する、意の如き棒。「蒙」が啓いた者だけが扱える伝説の武器で、妖怪にも通用する。伸縮のみならず、枝分かれさせたり、刃物のように薄く尖らせたり、使い手の力量に応じてさまざまな形状に変化させることができる。ロープのようにして対象に絡めたり、布状に広げて身を守ったりすることも可能だが、戦いながら如意棒を形状変化させるのは難易度が高く、脳に大きな負担が掛かってしまう。そのため、事前に得意な武器の形状に変化させておくのが定石であり、錘(すい)や銃剣のようなトリッキーな形状で持ち歩いている者も存在する。また、とても頑丈だが、分断して増やすこともできる。藤田龍之介も父親の敖白(ごうはく)が所持していた如意棒を切り分けてもらい、「如意棒使い」となった。三蔵法師の旅も各地で如意棒を扱う姿を見せて人々の蒙を啓き、妖怪に立ち向かう力として如意棒を分け与えることが目的だったと説明されている。なお、如意棒使いも蒙が啓いているため、恐怖を感じると妖怪を生み出してしまう。その対策として、如意棒使いの多くは自分が最も強いと信じている者の姿をまねて恐怖を克服している。魔法少女アニメに影響を受けた如意棒使いも存在し、その姿は一見するとコスプレのようでもある。

如意棒を手に「混世の従者」に立ち向かう「討怪衆」

世界を妖怪であふれさせようとする「混世の従者」に立ち向かう「如意棒使い」の組織が「討怪衆」である。討怪衆は全域が人避けの結界で守られた仙境に本拠地を構えている。仙境の内部は一見すると住宅街のようでもあり、丘の上には半球型の重要施設「大卵閣」が佇む。仙境の住人は既に「蒙」が啓いているため、如意棒使いたちは人目をはばからずに稽古や研究に打ち込むことができる。如意棒使いを全国に派遣するターミナルのようなエリアもあり、如意棒を鍵に変形させて番号の振られた鍵付きの鳥居を通ることで、その番号に対応する遠方の鳥居へワープすることができる。如意棒の所有者は国内に500人以上も存在し、一人がおよそ三つの市町村を受け持っている。ただし、その多くは妖怪の情報収集までが任務で、戦闘は一部の猛者が担当している。なお、討怪衆のボスは最強の真人・道通が務めている。龍之介の父親であり、如意棒使いでもある敖白はボスのお気に入りだった。

登場人物・キャラクター

藤田 龍之介 (ふじた りゅうのすけ)

「如意棒使い」である藤田敖白(ごうはく)の息子で、小学3年生。誕生日は4月27日。身長135センチで、体重35キロ。青いの髪で、亡き母のモモが買ってくれた天魔屋ピーチズという球団の帽子を逆向きに被っている。活発で野球好きだが、読書や勉強も好んでおり、父親をマキャベリストと表現するなど、年齢のわりに語彙が豊富。野球部に入ろうとしていたが、父親に目と手足が不自由な少女・杜子春(もりこはる)の兄となること、彼女の世話をすることを強要され、野球どころか登校まで禁じられた。不満をこぼしながらも妹の世話を焼いていたが、あろうことか夏の盛りに妹を放置して熱中症にさせてしまい、その罰として蔵へ閉じ込められ、逃れられない暗闇の恐怖を体感する。しかし、妹の献身によって救い出され、今後は彼女を決して独りにしないこと、彼女の光になることを誓った。その夜、妹の寝言によって実体化した妖怪と対峙することになり、左頰を負傷。これをきっかけに「蒙」が啓き、常人に見えない真実を認識できるようになった。また、如意棒を扱えるようになり、父親の如意棒で自らの恐怖から生まれた妖怪を討伐。その後、父親から如意棒を分けてもらって如意棒使いとなり、妖怪の氾濫を企図して暗躍する「混世の従者」との戦いに身を投じることになった。

杜 子春 (もり こはる)

藤田龍之介の父親である藤田敖白(ごうはく)が仙境から連れてきた少女。誕生日は9月9日。身長125センチで、体重25キロ。目と手足が不自由で、四肢を義手義足で補って電動車椅子に乗っている。気配や物音、人の感情に敏感。敖白によれば、人よりも神に近い存在であり、言葉によって「目には見えないモノが存在する」という真実を知らせる能力が備わっている。具体的には、子春が常人には見えていない妖怪の位置を言葉で示すと、その妖怪は実体化して周囲の人間にも認識できるようになる。これは子春の意志とは無関係に発動する能力で、寝言で呟いたとしても効果を発揮してしまう。悪意を持って力を使えば、世界を妖怪だらけにして人間を滅ぼすことも可能とされている。ほかにも宙に浮いて移動したり、壁を通り抜けたりと、不自由を覆すほどの力を秘めているが、そういった「あり得ない行為」を見られてしまった場合に目撃者の「蒙」が啓くおそれがあるため、あえて不自由な生活を受け入れている。兄として世話を焼いてくれる龍之介の前でも事故を恐れて口をつぐんでいたが、彼が自らの恐怖から生まれた妖怪を打倒して強さを示してからは、臆さず兄と会話できるようになった。

書誌情報

最後の西遊記 全3巻 集英社〈ジャンプコミックス〉

第1巻

(2019-07-04発行、 978-4088818825)

第2巻

(2019-09-04発行、 978-4088820507)

第3巻

(2019-11-01発行、 978-4088821023)

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