生と死に向き合う二人
千田原一花は、高校2年生の春に病気が発覚する。医師から余命2年の宣告を受けるが、クラスメートには病気のことを伝えずに、持ち前の明るいキャラクターを演じて2年間を乗り越える。しかし病状は悪化し、心も体も弱っていくのを実感しながらも、一花たっての希望で大学に進学することになるが、この大学生活が彼女に生きる希望を与えることになる。その一番の要因は、大学で哲学を教える准教授・萬木昭史との出会いだった。萬木に惹かれたことで一花の日常に彩りが生まれ、生きる気力を取り戻していく。一花は一方的に萬木に思いを寄せるようになり、積極的なアプローチで良好な関係を築いていく。しかしある日突然、萬木は大学を辞めてしまい、一花はショックを受ける。3か月後、一花は偶然にも萬木と再会を果たす。萬木の体も一花同様に病魔に蝕まれ、医師から余命宣告を受けていたのだ。二人はそれぞれ死を身近に感じながらも、どうすることもできないまま、一花は自分の余命のことは萬木に伝えずに彼を思い続ける。
生きるということ
一花は、余命いくばくもない事実を悲観的に考えることなく、明るく一生懸命に日々を生きている。表向きはいつも明るく振る舞っているが、どう生きるべきか、何をなすべきなのか、一花はつねに生と死に向き合って思い悩んでいた。心の奥底に孤独を抱えていた一花は、萬木に思いを寄せることで、より一層生きることに対して真摯な姿勢で向き合うようになる。同じ苦しみを抱える一花と萬木は惹かれ合いながらも、余命宣告を受けた二人は互いに死を意識することになる。それでもいっしょに生きることを選んだ二人は、つかの間の幸せを嚙み締めていた。
一花と家族の関係
一花は萬木との出会いを経て、自分や彼の死と向き合いながら、病気であることを隠してでも萬木のそばにいたいと願うようになる。そんな一花を温かく見守る母親と、黙っていられずについ口を出してしまう弟の大樹。そんな家族の思いと病を抱える一花との思いは複雑に絡まり合う。余命を宣告されてから病気と共に生きてきたのは一花だけでなく、辛い思いをしているのは家族も同じで、残りわずかな時間をどう生きればいいのか、どう生きてほしいのか、それぞれが違った目線で生と死に向き合って思い悩む姿が描かれる。
登場人物・キャラクター
千田原 一花 (せんだわら いちか)
大学2年生の女子。明るい性格で、おっとりしている。また、時折飛び出す天真爛漫な発言で、周囲からは天然だと思われがち。高校2年生の時に病気が発覚し、医師から余命2年と宣告された。高校卒業と同時に病状が悪化したものの、大学に通いたいと両親に懇願し、念願の大学生生活を送ることになる。登校初日、哲学の授業を担当する准教授・萬木昭史と出会って恋に落ち、萬木の存在が千田原一花にとって生きる希望となった。その後、萬木が突然学校を辞めてしまうが、偶然の再会を果たす。そして、彼が大学を辞めた理由が病気で、余命いくばくもないことにショックを受けるが、後日自分の思いを伝え、再び交流を再開させる。ただし、萬木には自分の病気や余命を秘密にしたままでいる。余命宣告されてから3年が過ぎ、萬木との交流を経て、ようやく自分の現状と向き合うことができるようになる。自らの病気のことは友達にも秘密にしているため、自分の体調や恋愛事は主に弟の大樹に相談することが多い。好きな食べ物は水ようかん。
萬木 昭史 (ゆるぎ あきふみ)
千田原一花が通う大学で、哲学を教えていた准教授の男性。一見すると厳しそうに見えるが、頭脳明晰で優しい性格の持ち主。テンションがつねに低い。一花と大学で知り合った1年後、消化器系の病気が発覚し、余命1年と宣告されたことから、大学を突然辞めた。すべてに失望し、生きる気力すら失いかけていた時、偶然にも一花と再会し、思いを告げられることになった。一花の未来を思うがゆえに一度は突き放そうとするも、自分が余命いくばくもないことを告げても、いっしょにいたいと慕ってくれる一花の気持ちに負け、交流を持つようになり、真っすぐな一花に惹かれていく。一花の弟・大樹からは、「ゆるゆる」と呼ばれている。好きな食べ物はカレーライス。
書誌情報
束の間の一花 3巻 講談社〈KCデラックス〉
第1巻
(2021-04-23発行、 978-4065228326)
第2巻
(2021-06-23発行、 978-4065235980)
第3巻
(2021-08-23発行、 978-4065244982)