概要・あらすじ
2002年日本。京劇が好きな泉辰明は日々、自分の祖父であり元京劇役者の大爺の指導のもと、京劇の練習をしていた。ある日の練習中、辰明は大爺が中国で京劇役者をしていた時、日中戦争を機に京劇を捨てて日本へ帰国したことを後悔しているという話を聞く。そして大爺は、梅蘭芳という女性に謝りたいのだと語るのだった。
辰明はいつか大爺を梅に会わせることを約束し、その言葉に心を打たれた大爺は彼に梅から貰ったというお面「項羽の面」を託す。珍しいお面に喜んだ辰明が早速付けてみると、一瞬気が遠くなり自分が今までとは違う場所にいることに気づく。なんとそこは、京劇が盛んに行われていた1923年で、まさに大爺が少年期を過ごしていた時代の中国であった。
登場人物・キャラクター
泉 辰明 (いずみ たつあき)
京劇が好きな10歳の少年。大爺から京劇の指導を受けていたこともあるが、元々京劇の才能に恵まれており、一度見た技をそのまま自分のものにしてしまう。また、語学習得も異常に早く、中国語をすぐにマスターした。
大爺 (じーちゃん)
泉辰明の京劇の師匠である元京劇役者。教え方こそ厳しいが、その分辰明に熱のこもった指導をする。日中戦争を機に一度京劇を捨て、自らの命を守るために中国から日本へ逃げてきたことを未だに悔やんでいる。
梅蘭芳 (めいらんふぁん)
日本で最も有名な京劇俳優で、大爺が少年時代に憧れた人物。女役をこなす男旦役者で、大爺が少年の時点で既に北京で一番の名旦と言われていた。科班「梅華亭」の責任者であり、自ら舞台に出演する傍ら指導も行っている。
紅蘭 (ほんらん)
泉辰明が中国で出会った、梅蘭芳に京劇の教えを受けている少女。普段は帽子を深くかぶっており、自分を男性のように見せている。その立ち回りは梅蘭芳譲りの大人顔負けの実力で、梅蘭芳にも人一倍目をかけられ、一番弟子とされている。
槇島 椿 (まきしま つばき)
泉辰明が中国で出会った、日本から中国に来ている日本人の少女。槙島財閥の子孫でお金持ちの娘。周りには年上しかおらず、気の合う話し相手がいないことに加え、自分には興味のない京劇ばかり見せられているので早く日本に帰りたいと思っている。
藤宮 (ふじみや)
槙島椿の付き人をしている女性。椿の行動を常に監視している立場なので、椿の性格や考えは基本的にすべてお見通しでいいパートナー関係となっている。普段はニコニコと笑顔を絶やさない優しい性格だが、椿のワガママが度を超えると少々手荒なこともする。
ユアン・テイラー (ゆあんていらー)
泉辰明が中国で出会った、15歳の西洋人の少年。中国が好きで、今は北京でさまざまな勉強している。中国にタイムスリップした辰明を手厚く支援している人物。実は梅蘭芳のパトロンで、科班「梅華亭」の資金援助もしている。
ブライアン・テイラー (ぶらいあんていらー)
ユアン・テイラーの義兄。青幇とビジネス関係で揉めており、命を狙われている。普通の男性に見えるが実は同性愛者で、自分の欲望を満たすためなら殺人にすら手を染める悪人。京劇にも興味を持っていなかったが、自身の欲を満たすためにそこで少年を買おうとしている。
ブリトニー・テイラー (ぶりとにーていらー)
ユアン・テイラーの義妹。槙島椿が「西洋人形」と評するほどに整った顔の美人。初の京劇鑑賞なのにも関わらず、全員が絶賛する紅蘭の演技に対して心がないことを指摘するなど、人を見る目には確かなものがある。
段 (だん)
中国のユアン邸に仕える中国人の男性。主にユアン・テイラーの身の回りの世話をしており、ユアン邸の壊れた箇所の修理を手配するなどの雑務もこなしている。普段は礼儀正しいが実は日本人のことをあまり快く思っておらず、泉辰明や槙島椿のことを嫌っている。
楊 (やん)
泉辰明が中国のユアン邸で出会った、ユアン・テイラーに仕える女性。以前、女性だけの京劇団に所属し京劇を学んだ経験を持つ。打出手ができると自慢げに語り辰明の練習相手を申し出たが、失敗してユアン邸の窓を壊してしまう。
春華 (ちゃんふぁ)
科班「梅華亭」に所属してメンバーのお手伝いを務める少女。要領の悪いところがあり、いつもドジなことをしては怒られている。はじめての泉辰明との出会いでも洗濯物をひっくり返し、辰明の顔にぶちまけていた。
英徳 (いぇんで)
科班「梅華亭」に所属してメンバーのお手伝いを務める少年。日本語ができるため、科班でまったく言葉の通じなかった泉辰明とのコミュニケーションを助ける役を担っていたが、科班内ではいじめの対象にされていた。
石龍 (しーろん)
科班「梅華亭」に所属している少年。「梅華亭」内の一部のメンバーをとりまとめているボスのような存在で、英徳を積極的にいじめている。新入りである日本人の泉辰明のことも快く思っておらず、嫌がらせをしかけてくる。
栄雲 (ろんゆん)
科班「梅華亭」に所属している少年。梅蘭芳を超える京劇役者になることを目標としている完璧主義者で、泉辰明の動きを見たメンバーたちが褒めるなか、ただ一人動きにキレがないことを指摘していた。しかし、辰明の京劇の上達スピードは認めており、それを見ていい刺激を受けている。
武山 (うーしゃん)
科班「梅華亭」に所属している大柄な少年。栄雲、永貴とは同じグループの友人で、そのなかでは年長者。また、京劇では栄雲と目指す役柄が違っており脇役を務めることが多い。おっとりとしている小心者だが責任感は人一倍強い。
永貴 (よんぐ)
科班「梅華亭」に所属している少年。身軽な身のこなしが得意で、その身のこなしと同様に性格も軽くすぐに調子に乗るタイプ。栄雲、武山とは同じグループの友人で、そのなかでは最も罰を受けたことが多いという問題児でもある。
宗海 (じょんはい)
科班「梅華亭」に所属している少年。石龍のグループと行動を共にしているが、内心ではグループ内で威張り散らしている石龍のことを快く思っていない。石龍が「梅華亭」を抜け出した際には、先生たちにそのことを密告した。
林 (りん)
中国で名をとどろかす凄腕の名医。お金がなくても無料で診てくれるなど、周りの人たちからの信頼も厚い。紅蘭の専属医師でもある。反面「闘コオロギ」という賭け事に熱中しており、そのおかげで借金取りに追われている。
蓋叫天 (がいきょうてん)
泉辰明が上海に大爺を探しに行く際、梅蘭芳が紹介した京劇役者。元々は上海の舞台にも数多く立っていた一流の役者だったが、秘密結社「青幇」の方針に逆らったことにより劇場を追われてしまった。現在は路上で浮浪者のような生活を送っている。
杜月笙 (とげつしょう)
上海を取り仕切る秘密結社「青幇」の三大ボスの一人。京劇の世界を間接的に支配下に置き、多くの俳優たちに対してさまざまな圧迫を行っていた。上海の名優である蓋叫天を表舞台から消した張本人だが、彼の能力自体は認めており、客寄せパンダとして徒弟にしようとしている。
集団・組織
青幇 (ちんぱん)
上海で裏社会を掌握している秘密結社。上海では諸外国の共同住居地である租界が栄えていることもあり、これを利用して世界中で暗躍している。もちろん上海内での権力も強く、それは京劇役者であっても例外ではない。蓋叫天など、逆らった京劇者はもれなく劇場への立ち入りを禁止されるほど。
場所
梅華亭 (ばいかてい)
梅蘭芳が責任者を務める科班。京劇役者を目指す数多くの少年・少女が所属しており、そのなかで泉辰明は住み込みで修行している。なお、その際に交わされた契約は、期間は10年、途中で辞めた場合は飯代を返還、師匠の体罰によって死亡した場合の保証もなしという非常に厳しいものだった。
科班 (かはん)
京劇役者の養成所。6歳ほどの男子のみが入校を許され、一人前になるまでに日々厳しい訓練を続けている。泉辰明は「夢のような場所」と言っていたが、最後まで残るのはほんの数人だけで資質や才能が無ければ生き抜くことができない厳しい世界。
その他キーワード
打出手 (だーちゅうしょう)
泉辰明とユアン・テイラーが観に行った京劇で役者が見せた技。演目中に槍を打ち返したり蹴り返したりするもので、それを実現するためには役者同士の息をぴったり合わせる必要があるという、とても高度な技。辰明はこの技を見た後にすぐ試し、1回で成功させた。
項羽の面 (こううのめん)
大爺が所有している悲しい表情が描かれているお面。元々、大爺が梅蘭芳から貰ったもので、1924年の日本公演の際のお土産だった。その後、泉辰明の手に渡りこのお面を付けた辰明が過去の中国へタイムスリップすることとなった。
書誌情報
武神戯曲 3巻 KADOKAWA〈電撃コミックス〉
第1巻
(2003-10-27発行、 978-4840225083)
第2巻
(2004-04-27発行、 978-4840226776)
第3巻
(2004-10-27発行、 978-4840228657)