死印

死印

TVゲーム『死印』のコミカライズ作品。犬に嚙まれたような形の謎の「シルシ」が体に突然現れた印人は、すでに死へのカウントダウンが始まっている。自らの手に「シルシ」が刻まれた八敷一男は、自分の名前もわからない記憶障害に陥りながら、呪いから解放されたい一心で九条館を訪れる。同じくシルシによる宿命を背負った印人たちと共に、シルシの原因となる都市伝説の怪異に立ち向かい、自らの死を覆すべく奔走する姿を描く、心霊ホラーストーリー。「マグコミ」「まんが王国」などさまざまなWEBマンガサイトで2019年2月から2019年11月にかけて配信された作品。

正式名称
死印
ふりがな
しいん
原作者
エクスペリエンス
漫画
ジャンル
ホラー
 
スプラッター・猟奇
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

花彦くん

気がつくと八敷一男は、大きな屋敷の入り口に立っていた。自分がなぜここに立っているのかもわからなかったが、手ににぎりしめていた心霊治療家の九条さやの名刺から、ここが九条館であることだけは予想できた。重々しい扉を開けて中に入ると、そこはろうそくが灯り、時計の音だけが鳴り響く不気味な空間だった。恐る恐る歩を進めた一男は、次の瞬間、内臓が飛び出した無残な状態の女性の遺体を目にする。一男は驚きのあまり腰を抜かすが、近くのソファに腰かけた状態の西洋人形メリイが一男に語りかける。メリイは、遺体が自分の主人であるさやであることを明かし、死の原因がシルシにあることを告げる。そして、一男の手にも同様のシルシがあることを指摘し、一男もさやと同じ呪いのシルシを持つ印人であり、近いうちに命を落とすであろうと明言。メリイに言われて初めて自らのシルシに気づいた一男は、突然の事態に信じられない思いだったが、メリイから自分の名前が言えるかと問われ、初めて自分の名前も覚えていない状態であると気づき、シルシの影響で記憶障害になっていることを知る。メリイは、名前も覚えていない状況を鑑み、一男が夜明けには死を迎えると宣告する。そんな中、九条館を訪れた渡辺萌吉田つかさが、一男に自分たちがシルシを持つ印人であり、雑誌の記事を読んでさやを訪ねてきたと語る。萌とつかさはまだ記憶障害が現れておらず、自分の名前も忘れてはいなかった。シルシができた時の状況を覚えていた二人に一男が説明を求めると、萌はこのシルシが花彦の呪いによるものに違いないと話す。呪いの「シルシ」であるシルシの原因をつき止めれば、シルシを消すこともできるかもしれないというメリイの言葉により、花彦に会うことを決意した一男は、自分を失ったまま死んでたまるかという強い気持ちを胸に、萌とつかさと共にH小学校へと向かう。

森野シミ男

花彦の呪いの調査から3日が経ち、帰る場所もない八敷一男は、メリイの提案で九条館に居候を続けていた。結局死は免れたものの、自らのシルシが消えることはなく、未だに原因となった怪異の居場所はわからないままだった。しかし、一男が元刑事の真下悟と共に調査を続けていると、再びメリイから夜明けに死を迎えるという宣告を受ける。すると、同時に長嶋翔が、バットを手に勢いよく九条館に入ってきた。雑誌を見てこの屋敷を訪れた翔の目的は渡辺萌吉田つかさと同様、九条さやに自らの右腕に現れたシルシのことを聞くためだった。翔は自分の名前は言えるものの、ぼーっとすることが増え、記憶障害が進んでいる状態で、メリイから死の刻限が近づいていることを告げられてしまう。翔が呪いの「シルシ」を刻まれたのは、H城樹海に行った時のことで、森の入り口に大男が立っていたのを見たのがきっかけだった。一男は、樹海にまつわる噂の中で、最も可能性の高い「森のシミ男」について調べてみることを決め、翔と二人でH城樹海へと足を踏み入れる。すると、樹海の奥からアナウンサーの有村クリスティが姿を現す。クリスティは芸人との不倫が公になり、自殺に追い込まれてH城樹海にやって来たが、不気味な大男を目撃して怖くなったと話す。そして彼女の手のひらにはいつの間にかシルシができていたという。情報のプロとして、そのシルシの噂について知っていたクリスティは、思いがけない形で降りかかった死に恐怖を抱き、逆に生きることに執着を見せるようになる。一刻も早くここから逃げ出したいと歩き回るクリスティを、一男は現場を離れると死んでしまうこと、シルシの原因となる怪異を倒さなければ何も解決しないことを話し、あとを追う。すると、その先で二人が目にしたのは、無残にも殺された自殺志願者と、大量のハチにたかられながらドリルのような凶器を手に持った醜い大男だった。

くちゃら花嫁

「森のシミ男」の調査から3日がたった。八敷一男は、丸尾慎蔵を倒してもなお呪いの「シルシ」が消えなかった有村クリスティと共にH神社を訪れた。そもそも、慎蔵が神社の祟りを恐れていたこともあり、H城樹海での災いが多い原因がH神社にある可能性が高いのではないかというクリスティの考えを受けてのことで、今回は怪異や印人の気配を感じ取ることができるメリイを抱きかかえて同行した。メリイが禍々しい気配を感じ取り、一男を誘導した先には電話ボックスがあった。ここは、クリスティが自殺を決意した日、樹海に行く前に立ち寄った場所だった。そしてその時、一人の少女すずが電話ボックスから出てきた。クリスティは、すずの同行者らしきオタクの栄太を怪しんで声をかけるが、すずは栄太をいじめないでと、それを制止する。話を聞けば、すずが探し物の場所を教えてくれると噂される幽霊「くちゃら花嫁」と話をしたがり、すず自身が栄太に協力を仰いだとのことだった。すずも栄太もくちゃら花嫁と話したあとにはシルシができていたが、栄太はシルシで死ぬなんてただの噂だろうと気にも留めない様子で、むしろネット掲示板で見たシルシが自分にもできたと興奮状態。メリイは、すずや栄太、クリスティに呪いのシルシを刻んだ原因となった怪異は、くちゃら花嫁でまちがいないだろうと判断。それを聞いたクリスティは、公衆電話でくちゃら花嫁と直接話をしてみてはどうかと提案し、一男はそれを実行する。

関連作品

ゲーム

本作『死印』は、TVゲーム『死印』を原作としている。株式会社エクスペリエンスから発売されたホラーゲームで、2017年6月にPlayStation Vita版が発売され、その後PlayStation4、Xbox One、Nintendo Switchに移植された。

登場人物・キャラクター

八敷 一男 (やしき かずお)

右手首にシルシのある印人の青年。自分が何者なのかを何も覚えておらず、気がついた時には九条さやの名刺を持って九条館の前に立っていた。そのため、「八敷一男」という名は、便宜上付けられた仮の名前で本名ではない。九条館で出会った人形メリイの話から、シルシによって夜明けには死が訪れることを知り、時を同じくして九条館を訪れた渡辺萌と吉田つかさと共にシルシの原因と思われる花彦の呪いについて調査すべく、H小学校に忍び込むことになる。だが、花彦の怨念を消し去ることに成功してもなお、一男自身のシルシが消えることはなく、校内で知り合った元刑事の真下悟と共に、自らのシルシを消すための足掛かりとなり得る怪異の調査を続けることになる。また、謎の多い九条館についても調査を進めることになるが、鍵のかかった部屋も多く、詳細は不明のまま。何度となく怪異と対峙しては、消えることのない自分の「シルシ」に絶望し、さらに何度となくメリイから宣告される死に、その都度恐怖を抱くことになる。問題を解決すれば消えるはずのシルシが消えないことから、一男自身のシルシに関しては特殊なものである可能性が、メリイによって示唆されている。

メリイ

九条さやによって命を与えられた、ロングヘアの西洋人形の少女。ぎこちないが頭を動かすことが可能で、人の言葉を話すため、意思の疎通は取れる。九条館のソファに座って、亡き主人の遺志を引き継ぎ、さやを頼って九条館に集まった印人を導く案内役となり、問題解決のためのヒントを与える。無表情だが口調は丁寧。死者の怨念が生む怪異について詳しく、それが影響して現れるシルシと、シルシによる死についてよく理解している。ある時、さやを頼って九条館にやって来た八敷一男、渡辺萌、吉田つかさに、シルシの正体について語り、直接影響していると思われる花彦の呪いについて調査することを勧めたほか、長嶋翔や有村クリスティなど、印人が呪いの「シルシ」による死の運命から逃れるための一助となった。一男が持つシルシからは、ほんのわずかではあるが、歪みを感じており、その詳細についてはわからないでいる。印人の気配を察知することができ、九条館の敷地内であれば、怪異の気配を察知することも可能。また人の運命、特に死の運命ならば、直前の夜になればぼんやりとではあるが見ることができる。

渡辺 萌 (わたなべ もえ)

右足の太ももにシルシのある印人で、セーラー服を着た女子学生。オカルトライターを目指しているため、情報収集に躍起になっている。花彦の呪いを記事にしようとH小学校に忍び込んだ際、呪いの「シルシ」がついたと思われ、シルシがついてからあまり時間がたっていないために記憶障害はなく、自分の名前もしっかり覚えている。その後、シルシの噂について書かれた雑誌記事を読んで、九条さやに会いに九条館を訪れた。だが、その時にはさやが亡くなった直後で、シルシの相談を行うことはできなかった。同様の目的を持った吉田つかさと知り合い、共に九条館を訪れた際に、メリイからの提案を受けて八敷一男と共にH小学校へ向かい、花彦に接触してシルシの原因をつき止めることになった。その最中、棘の付いた蔓性の植物に拘束され、意識を失ってしまうが、一男の活躍により、大きなケガもなく無事生還。花彦の怨念が消滅したことで、渡辺萌自身のシルシも消え、日常へと戻ることとなる。記憶障害の一男に対して、屋敷にいたからという理由から「八敷」と仮の呼び名を付けた張本人。

吉田 つかさ (よしだ つかさ)

左手にシルシのある印人の少年。半ズボンスーツにネクタイを身につけている。大人びた発言や態度には棘があるが、まだ幼い印象を与える。T小学校で鏡の前を通った時、気づいたら呪いの「シルシ」が付いていた。シルシがついてからあまり時間がたっていないため、記憶障害はなく、自分の名前もしっかり覚えている。その後、シルシの噂について書かれた雑誌記事を読んで、九条さやに会いに九条館を訪れた。だが、その時にはさやが亡くなった直後でシルシの相談を行うことはできなかった。同様の目的を持つ渡辺萌と知り合って共に九条館を訪れた際に、メリイからの提案を受けて八敷一男と共にH小学校へ向かい、花彦に接触してシルシの原因をつき止めることになった。

花彦 (はなひこ)

花彦の呪いと噂される怪異の主。スカートに赤い上履きをはいた少年の姿で、小学校の鏡に出没する。花彦から投げかけられる「ぼく、きれい?」という質問には決して頷いてはいけないとされている。肯定してしまうと、「じゃあ赤いのちょうだい」と言い残して消えるとされている。また大人が嫌いで、相手が大人であるとわかると体中の血を抜かれて殺されてしまうと噂されている。もともと化粧に興味があり、生前母親から口紅をぬってもらったことで、自分がきれいになったように思い込んで嬉しさを感じていた。しかしその後、両親を亡くしてH小学校の校長である坂井の義理の息子となった。母親のスカートをはき、化粧をした姿を坂井に知られてからは個人指導という名目で、化粧をした花彦を無理やりベッド上で足を開かせて写真を撮影。その後も野球のバットやタバコで暴行されたり、赤い薬剤を注射されたりするようになり、最終的には死に至らしめられた。担任の先生からは、暴行を受けているのではないかと心配されていたが、そのあとに地下室での虐待の現場を目撃したにもかかわらず見て見ぬフリをされ、絶望することとなった。すべての思いが怨念となって怪異となり、棘を持った蔓性の植物に姿を変えて、さまざまな人間を襲った。花彦が求めたのはいつも赤い口紅だった。

警備員 (けいびいん)

廃校となったH小学校で警備員を務める男性。深夜、校内に侵入していた八敷一男、渡辺萌、吉田つかさを発見し、立ち去るようにうながしてその場を去った。その後、一階で悲鳴をあげたため、駆けつけた一男らと再び顔を合わせることになり、自分の顔がどうなっているかを確認させた。棘が顔に当たったという言葉を発した直後、顔中から棘の付いた蔓性の植物が生え、頭部を侵食されて死に至った。

真下 悟 (ました さとる)

元刑事の男性。廃校となったH小学校の関係者が複数失踪しており、その捜査に当たっていたが、捜査中にクビとなって現在は無職。その処分に納得がいかず、現場に忍び込んで独自に捜査を行っていた際、花彦という怪異に遭遇。さらに、校内にあるはずのない地下室から複数の白骨化した遺体を発見するに至った。真下悟自身の左手首の内側には、いつの間にかシルシが付いており、印人になったことに気づいた。そこで偶然、八敷一男や吉田つかさと出会うことになり、協力して花彦に挑んだ結果、自らに刻まれた「シルシ」は消えた。しかし、シルシが消えたあとも一男と共に九条館に残り、怪異の調査および解決に向けて協力していく。実は警察官時代、自分の相棒だった男性が行方不明となり、相棒を捜すために捜査を続けている。その相棒は自分に捜査のいろはを叩き込んでくれた人で、蜜蜂家族の潜入捜査を行っていたが、集団自殺事件以降行方がわからないままになっている。現在、相棒は殉職扱いとなり、墓も建てられたが、真実を知りたいという思いだけで捜査を続けている。

坂井 (さかい)

H小学校で校長を務めている男性。政治家にも人脈を持っている。子供に正しさを示すのは、教育者として自分の務めであるという強い信念を持っている。両親を亡くした花彦の義父として、個人指導という名目で日々虐待を行っていた。男の子でありながら化粧をしたがる花彦に対し、悪癖は幼いうちに矯正すべきとして、母親のスカートをはいて化粧をした花彦に無理やりベッド上で足を開かせて写真を撮影。野球のバットやタバコを使って暴行したり、赤い薬剤を注射したりして、最終的には花彦を死に至らしめた。そのすべては校内にあるはずのない隠された地下室で行われていた。その後、学校関係者が複数失踪したことで事件が表面化したものの、坂井自身の強力なコネを使って、担当刑事だった真下悟をクビにすることで、事件の隠ぺいを図った。花彦が行方不明となったあとは、校長を辞任して市外へ転居。小児性愛、さらには虐待の疑惑を受けてのことだったが、事実無根として逃げ切った。

先生 (せんせい)

H小学校で教師を務める女性。最近様子のおかしい花彦のことを気にかけており、虐められているのではないかと心配し、花彦本人から事情を聞こうとするものの、何かあったら自分を頼るようにと伝えるにとどめた。その後、花彦が義父である校長の坂井から虐待を受けていることに気づくが、地下室で行われた非道の数々をその目で目撃しながらも、見て見ぬフリをした。そのことが花彦を絶望の淵に突き落とすことにつながった。

長嶋 翔 (ながしま しょう)

右腕にシルシのある印人の男性。丈の短い学ランを着用しており、バットを持って九条館を訪れた。九条さやに助けを求めてやって来たが、バットを振り回して自分のシルシを治せと乱暴に言い放った。しかし実は小心者で、人形のメリイがしゃべったことに動揺し、どこかにスピーカーが仕込まれているはずと探し回った。もともと頭は悪いが、ぼーっとすることが多くなり、日々ひどくなってきて、それがシルシの影響による記憶障害であると知る。同席した八敷一男と真下悟の協力を得て、「シルシ」が刻まれたと思われるH城樹海の「森のシミ男」について調査を行うことになる。

有村 クリスティ (ありむら くりすてぃ)

右手の手のひらにシルシのある印人の女性。アナウンサーとして活躍している有名人でもある。最近芸人との不倫が公になり、世間で大騒ぎになったために自殺を考え、H城樹海へと足を踏み入れたものの、不気味な大男を目撃して怖くなって逃げ出し、気づくと手にはシルシが現れる。シルシの噂を知っていたため、実際に死を身近に感じることになり、恐怖のあまり樹海を出ようとした際に八敷一男、長嶋翔と出会った。死の呪いから逃れるために一男と、そのあとに合流した真下悟と共に「森のシミ男」と化した丸尾慎蔵に立ち向かうことになる。しかし、慎蔵との戦いに決着がついたあとも、有村クリスティ自身のシルシが消えることはなく、結局その後も一男と共に、また別の怪異について調査に参加することになる。

丸尾 慎蔵 (まるお しんぞう)

非営利団体として立ち上げた「蜜蜂家族」の指導者だった男性。自殺志願者を集めてカルト集団を作り、教祖のように信者を率いていた。約5年前に集団自殺事件を起こして以降、その行方はわからないままとなっており、遺体も発見されていない状態だった。実は、怪異と噂される「森のシミ男」の正体。H城樹海を訪れた者を見つけるたびに「君はハチが好きかい?」と質問し、好きと答えた者には、自分の体でハチを飼えとドリルのような物で体中に穴を開けて相手を殺害し、遺体を文字どおり蜂の巣にした。この凶行を繰り返し、人体を使った養蜂を行っているが、丸尾慎蔵自身はすでに人の心を失っており、自分が何をしようとしていたのかも忘れている。もともとは、樹海にあるH神社の祟りを恐れ、裏切り者を生贄にささげることで、信者たちを約束の地へ導こうとしていた。

栄太 (えいた)

左手の甲にシルシのある印人で、アイドルオタクの小太りの男性。雑誌「月刊オーパーツ」の投稿欄で知り合ったすずが、探し物の場所を聞くために「くちゃら花嫁」と話をしたがったため、その方法を教えて手助けした。ご当地アイドル「ラブ&ヒーロー」が大好き。チェックのシャツにリュックサックを背負い、頭にはバンダナを巻いている典型的なオタクスタイル。見た目はうさん臭いが、ただすずを助けるためだけに協力しており、不純な動機はまったくない。

すず

左手首にシルシのある印人で、ロングヘアの少女。栄太とは雑誌「月刊オーパーツ」の投稿欄で知り合い、怪異「くちゃら花嫁」に探し物の場所を教えてもらいたい一心で、栄太の助けを借りた。母親が厳しい人のため、深夜母親が寝ているすきに家を出て栄太と合流した。H神社近くの電話ボックスに入り、くちゃら花嫁と話すことに成功した。ちょうどその時、電話ボックスにやって来た八敷一男や有村クリスティ、メリイと知り合うことになる。自分のシルシがくちゃら花嫁によるものだと聞かされ、その正体である長谷川聖子の事件について話を聞き、問題解決のためにH城樹海に入るという一男に同行することを決めた。実は幼い頃から霊感があり、ふつうの人には見えないものが見える体質。しかしこれについて口にすると、おかしな子という扱いを受けるため、絶対に口にしてはいけないと言われ続けてきた。だが、樹海で犬の霊を見て思わず口にしたのがきっかけで、怪異との問題を解決に導くことになる。すず自身が捜しているのは、母親と離婚した父親の居場所である。

長谷川 聖子 (はせがわ せいこ)

5年前、犬の散歩中に誘拐された女性。結婚式直前にT団地公園で拉致され、T尾山近くの樹海に連れ去られて集団暴行を受けた。その際、車を追った愛犬もひき殺されてしまう。翌日、ボロボロの姿で道を歩いているところを保護されたが、その後A街道駐車場のそばのH城樹海で花嫁衣装をまとった状態で首をつっているのが発見された。当時婚約者だった有名ミュージシャンの男性は、事件のショックで憔悴して行方不明となり、犯人も誰だかわからないままとなっている。犯人である少年グループは、犯行の一部始終を撮影してビデオテープに残しており、そのテープを婚約者に送りつけて金銭を要求していた。「くちゃら花嫁」と噂される怪異の主。インターネットで噂が広がり、夜一人で公衆電話に入ると突然電話が鳴り出し、探し物の場所を教えてくれるといわれている。その出現場所は、H神社近くの電話ボックスだけでなく、T団地公園とT尾山休憩所でも話ができるとされている。受話器を取るとくちゃくちゃという咀嚼音のような不快な音が聞こえてきて、「あなた、見たの?」と聞いてくる。これは見られることに異常なほどの執着を見せているからで、撮影されたビデオテープを婚約者に見られたことに怨念を残したためだった。質問に見ていないと答えると、何を見たいのかと聞き返してきて、探し物の在りかを教えてくれるが、見たと答えると本人が姿を現して相手の目を抉ろうとする。

婚約者 (こんやくしゃ)

長谷川聖子と結婚する予定だった男性。有名ミュージシャンだったが、聖子が自殺したあとに行方不明となる。聖子の暴行事件のショックで精神的におかしくなり、自殺したのではないかと噂されたが、のちに八敷一男とすずによってH城樹海内で白骨化した遺体となって発見された。実は事件後、聖子を暴行した犯行の一部始終が撮影されたビデオテープが送りつけられ、金銭を要求されていた。その後、犯人である少年グループを特定し、その一人一人の目を釘で貫いて殺害。聖子が辱められた証拠をすべて処分したのち、自らも命を絶った。その手には、結婚式で歌うはずだった自作の新曲「My holy」が入ったテープと、天国の聖子にあてた手紙がにぎられていた。

ウサギ

真っ黒な兎で、ぶぅと鳴き声を上げる。怪異が存在する場所に姿を現しては、八敷一男たち一行を導き、問題解決のためのヒントを口にする謎多き存在。何かの霊が憑依していると思われるが、その詳細は不明。

九条 さや (くじょう さや)

心霊治療家を自称する女性。九条家は代々霊力が強く、心霊や神事に携わってきた家系で、人形のメリイに命を与えたのも九条さや本人。さまざまな怪異について自ら調査を行い、九条館と呼ばれる屋敷で霊現象に悩む患者の治療を行っていた。最近世間で噂になっていた不思議なシルシについて調査を開始し、警鐘を鳴らしており、記憶障害の霊障などについて書かれた雑誌記事では、思い当たる患者への呼びかけも行っていた。しかし、さや自身もそのシルシのある印人で、志半ばにして帰らぬ人となった。遺体は八敷一男が九条館を訪れた際に、内臓が飛び出した無残な状態で発見されたが、その直後に消えてしまう。遺体は棘の付いた蔓性の植物によって攻撃され、その死の直接の原因は花彦であるとされている。

集団・組織

蜜蜂家族 (みつばちかぞく)

H城樹海で環境保護を謳って養蜂場を営んでいた非営利団体。丸尾慎蔵が指導者を務めている。自殺志願者を救って共同生活を送っているが、それは建前で実際は怪しげなカルト集団。約5年前、集団自殺を図ったことが大きく報道され、その存在が世間に知られるようになった。もともと信者の失踪が頻発していたため、警察からもマークされていた。潜入捜査で警察官が蜜蜂家族を探っていたが、その警察官は行方不明となっている。さらに集団自殺事件後、慎蔵の行方もわからなくなって遺体も発見されていない。

場所

H小学校 (えいちしょうがっこう)

廃校となった小学校。「花彦くんの呪い」について調査するため、八敷一男、吉田つかさ、渡辺萌が訪れた。この学校の関係者である生徒やその父兄、教職員なども複数失踪しており、警察はその捜査を行っていた。しかし、政治家に顔のきく校長の坂井が隠ぺい工作に走り、その事件を担当した真下悟がクビとなった。だが、悟がその後も独自の捜査を続けたことで、校内の地下室から複数の白骨化した遺体が発見された。

H城樹海 (えいちじょうじゅかい)

事件や都市伝説が絶えない森。うっそうとした森林で、過去には集団自殺も起きたこともある自殺の名所として知られている。樹海内部にはH神社が存在する。「森のシミ男」の調査のため、八敷一男、長嶋翔が訪れ、自殺を決行しようと訪れた有村クリスティと出会うことになった。

H神社 (えいちじんじゃ)

H城樹海にある神社で、もともと九条家の氏神として祀られている。終戦の折に祭祀が途絶えたからか、すっかり穢(けが)れて今では死者の怨嗟(えんさ)や呪詛が満ちており、本来ならあるはずのご神体もない。神社には首のない仏像が残されているが、これは明治の頃に発せられた神仏分離令により、神社の仏像を持ち去って破壊する運動が起きたためで、当時の九条家当主が壊された仏像をこっそり集め、供養したと考えられている。しかしそのあとに仏像が盗まれ、その行方は未だにわからないままとなっている。印人となった原因の調査のため、八敷一男と有村クリスティが訪れた。

その他キーワード

印人 (しるしびと)

犬に嚙まれたような形の不思議な「シルシ」を持つ者のこと。シルシは呪いの証であり、体のどこかに刻まれた者は近いうちに必ず命を落とすとされている。また、印人は死に近づくにつれ記憶が少しずつ喪失するという特徴があり、ぼーっとする時間が長くなるなど、記憶障害は時間と共に進んでいく。そのため、死の刻限または原因となる怪異に近づくと、より顕著に表れるようになる。シルシはいつの間にか体に刻まれているが、これにはなんらかの怪異が関係しており、その人によって原因となる怪異は異なっている。死者の怨念が生む怪異は、生者に飽くなき憎悪を抱いており、生者を死の淵へと追い詰めて恐怖と絶望に染めることが彼らの希(のぞ)みであり、シルシとなるシルシはその方法の一つであると考えられている。シルシの原因となる怪異がなんなのかをつき止め、それを解決することによってシルシが消え、死を回避することにつながる。

クレジット

原作

エクスペリエンス

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