水鏡綺譚

水鏡綺譚

狼に育てられ、法力を得た少年ワタルが、記憶を失った少女鏡子(かがみこ)の戻るべき家を探して、不思議な旅をする中世説話ロマン物語。雑誌連載が打ち切りとなり、長く未完のままだったが、12年の時を経て最終章が書き下ろされ、新たに単行本にまとめられた作品である。

正式名称
水鏡綺譚
ふりがな
みずかがみきたん
作者
ジャンル
戦国
レーベル
ちくま文庫(筑摩書房)
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概要・あらすじ

赤子の頃山に捨てられオオカミに育てられたワタルは、行者に出会って、言葉を習い、法力を得た少年。オオカミのおっかさんにも行者にも死なれたたワタルは立派な人間になろうと修行の旅に出る。ある村で魂を抜かれた少女鏡子(かがみこ)と出会ったワタルは、彼女の戻るべき家を探す旅をふたりで始める。

その道中で彼らは様々な怪異に出会い、これを解決していく。

登場人物・キャラクター

ワタル

赤子の頃に山に捨てられ、オオカミに育てられた少年。後、行者に出会い、言葉を覚え、修行により法力を得た。オオカミのおっかさんと行者が亡くなってからは、山を降り、立派な人間になるための修行の旅を続けている。魂を抜かれ、記憶を失った鏡子を哀れに思い、その家を探す協力をした。粗野な面もあるが、純真で優しい心の持ち主。 修行中の身であることから、最初は鏡子に触れることもはばかっていた。山育ち故に身のこなしが軽い。オオカミのおっかさんの毛皮を身にまとっている。

鏡子 (かがみこ)

魂を抜かれ記憶を失っている美しい少女。藤吉長者の娘。野盗に捕らわれていたところをワタルに助けられ、彼と共に自分の家を探す旅に出る。魂を抜かれているためか、欲得がなく、自分が助かろうという知恵もない。旅を通じてワタルと深く心を通わせていく。観音菩薩の守護を受けており、鏡を抱いて生まれてきたことから、鏡子と名付けられた。

護法童子 (ごほうどうじ)

『水鏡綺譚』に登場する仏神。寺の上人に仕えるべく天より降されたが、上人が亡くなった後も天に帰らず、きままに暮らしていた。風を操って悪さをしているところを見つかり、ワタルと争う中、鏡子の体内に入り込み、その体を乗っ取ってしまう。しかし、鏡子を思うワタルの心に触れたことで、彼女の体を返し、「もう人間界には飽きた」と天に帰っていった。

大狐 (おおぎつね)

『水鏡綺譚』に登場する妖(あやかし)。人間の美しい女に化けて、人を惑わしていた雌狐。10匹もの子狐の母。オオカミに育てられたワタルを見込み、自分の子にして、子供たちを守らせようとした。妖であるが、ワタルには終始母親として優しく接しようとした。

荻生二郎 頼兼 (おぎゅうじろう よりかね)

かつては国一番の豪の者だった老人。母親の違う弟・三郎が家宝の鎧を得たことに嫉妬し、自害においやった過去がある。そしてその罪を悔やみ、弟の命日に施行を行うようになった。ワタルが三郎の骨から作った笛を吹いたことで、三郎が自分を恨んでいないことを知り、心安らかに息を引き取る。

荻生三郎 (おぎゅう さぶろう)

荻生二郎頼兼の母親の違う弟。無骨な兄と違い、学問に秀でた女子のような若者だった。初陣の際、父親から家宝の鎧を賜ったことで兄・二郎に嫉妬され、自害を強要され果てる。数十年後、ワタルと鏡子の前に霊となって現れたが、それは兄を恨んでのことではなく、恨んでいないことを告げたいがゆえのことであった。 ワタルは三郎の足の骨から骨笛を作り、それを吹くことで、三郎の思いを年老いた二郎に伝えた。

小萩 (こはぎ)

近郷一の長者の娘だったが、母親、父親に死なれ、継母に下女のように使われている娘。代官の息子と恋仲であったが、継母によって引き裂かれてしまう。だが、ワタルの法力により、代官の息子の薄情な心を知り、ふっきれた気持ちで家を出た。家を出た後は遊女となって玉の輿に乗ることを目指すとワタルに告げて去っていく。

白比丘尼 (しらびくに)

千年以上生きているという尼の姉妹。姉が若く美しいのに対し、妹は老いさらばえている。老いた妹の白比丘尼は、金欲しさの足軽くずれの男に殺されてしまうが、すぐに赤子の姿でよみがえった。一方、姉の白比丘尼は、ワタルに「鏡子が知恵を持った時、ふたりは別れ別れになる」との予言を残した。

外道丸 (げどうまる)

寺に拾われ、美しく成長した稚児。刑死した悪辣な盗賊を父に持つことから外道丸と名付けられた。その美貌で多くの女を惑わせたが、そのうちのひとりの呪いを受け、蛇のうろこが浮き出た醜い姿に変わってしまう。

夫婦松の精 (めおとまつのせい)

『水鏡綺譚』に登場する妖(あやかし)。城を建てる際に切り倒された二又の松の木の精が恨みを晴らすため、羽黒山の山伏と巫女の姿となって現れる。城主の息子を病にして、その体を使って若芽を育てようとした。

フジ丸 (ふじまる)

龍神沼のいけにえとして捕まったワタルと鏡子の世話をした子供。名主の下人。フジ丸の母親は、赤子だったわが子を助けるため、龍神沼の生け贄となったが、彼女を哀れんだ龍神の力で、眷属となっていた。フジ丸は龍神沼の生け贄とされたことで、母親と再会し、自らも龍神の眷属となった。

放下の少年 (ほうかの少年)

放下は、手品や色々な芸をする者を指す言葉。放下の少年は、ワタルに鏡子の魂が枯木が沼にあることを指し示した。その正体は、鏡子を守護する観音菩薩の化身であった。

藤吉長者に仕えた夫婦 (ふじよしちょうじゃにつかえたふうふ)

鏡子の父親である藤吉長者に仕えていた老夫婦。野盗にさらわれた鏡子を探して歩いている。観音菩薩の加護で記憶を取り戻した鏡子を家に迎え、その帰還の祝いと今は亡き鏡子の両親の供養のために施行を行った。

観音さま (かんのんさま)

『水鏡綺譚』に登場する菩薩。鏡子は観音菩薩に祈願して生まれてきた姫と言われている。鏡子を守護し、ワタルに鏡子の魂の在処を教えた。

宇賀神王 (うがしんのう)

『水鏡綺譚』に登場する仏神。観音菩薩の変化身のひとつ。三悪神に取りつかれた城主に勝つための如意宝珠をワタルに授けた。

書誌情報

水鏡綺譚 筑摩書房〈ちくま文庫〉

(2015-11-10発行、 978-4480433138)

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