洗礼

1974年から1976年にかけて、少女漫画誌に連載されたホラー長編で楳図かずおの代表作の1つ。美貌が失われた元女優の若草いずみが、自分の小学生の娘、上原さくらに脳を移植しようと計画する。母と娘の関係や、少女の姿をした大人が担任の男性を誘惑しようとする姿を通して、無条件に美化されがちな「愛」の本質を、エゴイズムという観点から洞察する内容になっている。

概要・あらすじ

顔の痣や皺によって美貌が衰えていくのを恐れた女優若草いずみは、行きずりのハンサムな男との間に私生児となる娘上原さくらをもうけ、映画界から身を引く。いずみは村上という主治医と相談し、娘の体に脳を移植して第二の人生を送るという計画を持っていた。村上によって母親の脳を移植された小学生のさくらは、小学校の担任の男性谷川に心惹かれる。

谷川の愛を手に入れようとするさくらは、策を弄して谷川の家に住み込み、彼の妻和代をはじめ、邪魔者を手段を選ばず排除しようとする。しかし、さくらの顔に母親と同じような痣ができると、村上に連絡し、今度は和代に脳移植しようと企む。友人の良子に協力させ、自宅で和代を拘束すると、村上が現れる。

ところが、現場には谷川が潜んでおり、麻酔のを持つさくらの腕を押さえると、本当はいずみの脳移植は行われていないと告げるのだった。

登場人物・キャラクター

若草 いずみ

『洗礼』に登場する女優。4歳の時からスターで、同時に、美しさをなくすことを恐れていた。大女優と呼ばれるようになってから、顔に皺と痣ができてパニックになるが、主治医である村上のアドバイスで冷静さを取り戻す。その後、誰とも知れぬハンサムな男との間に私生児となる上原さくらをもうけ、突然、映画界から姿を消した。 女優としての過去を隠し、顔に大きな痣のある太って皺だらけの母親となって、街はずれの古びた洋館小学生の娘と仲良く暮らす。しかし、村上のアドバイスで、自分の脳を手術で娘の体に入れ替え、第二の人生を送るという恐ろしい計画を立てていた。

上原 さくら

『洗礼』に登場する小学生で、上原松子の一人娘。父親の知れない私生児で、顔に大きな痣のある太って皺だらけの母親と街はずれの古びた洋館で仲良く暮らす。母親は過去を隠しているが、元女優の若草いずみでさくらは子どもの頃の容姿に似ている。自分の美貌が失われることを恐れていたいずみは、村上主治医のアドバイス通り、大きくなったさくらと手術で脳を入れ替える計画を立てていた。 村上の手術で母親の脳を移植されたさくらは、小学校の担任である谷川を愛し、彼に愛されることで女として幸せな第二の人生を手に入れようとする。

村上

『洗礼』に登場する、女優若草いずみの幼い頃からの主治医。映画界から姿を消したいずみの住む洋館の2階で、動物で脳移植の生体実験を繰り返し、いずみの脳を小学生の娘上原さくらに移植する手術を行う。脳移植されたさくらは顔に母親と同じ痣ができてしまい、今度は小学校の担任である谷川先生の妻和代に脳移植しようと考える。 さくらは自宅で和代を拘束すると、手術を始めてもらうために村上に電話すると、やがて村上が訪ねてくる。しかし、電話のコードは切れており、本来なら村上との会話は不可能な状況だった。

良子

『洗礼』に登場する、上原さくらの同級生で親友。さくらの顔に脳移植した母親と同じ位置に痣ができると、さくらは良子にだけ打ち明け、同級生たちの前で突き飛ばさせてわざと負傷し、包帯で痣を隠す理由をつくる。その後、さくらは良子を自宅の洋館に連れていき、女優若草いずみが娘であるさくらに脳移植するまでの経緯を話し、カツラを取って手術の傷を見せる。 さらに、自分はいずみで担任の谷川先生の妻になることを望んでおり、妻の和代に再び脳移植する計画でいることを打ち明け、良子に和代をだまして洋館に連れてくるように頼む。良子はさくらとの友情を守ろうとする。

ばあや

『洗礼』に登場する、女優若草いずみの家で身の回りの世話をする老女。上原さくらのことをお嬢さまと呼び、生まれたばかりの時世話をしていたが、母子は突然、ばあやの前から姿を消す。ばあやはその後のことは何も知らず、いずみは美しいままでいると思っている。消えた大女優若草いずみのその後を追うフリー・ルポライター波多あきみは、いずみの脳が移植されたさくらにばあやを再会させ、いろいろな事実を探ろうとした。

谷川

『洗礼』に登場する、上原さくらが通う小学校の担任の男性。若草いずみの脳を移植されたさくらは谷川を愛し、彼の妻となることを第二の人生の目的とする。妻の和代と赤ん坊の貢の3人家族だが、クラスでは独身だと思われており、女子にバレたらひどいデマが広がると恐れて隠していた。さくらの全快祝いパーティーを谷川宅でやろうと計画し、妻子は実家に帰らせる。 妻の存在を偶然知ったさくらはパーティー時、和代が用意したスープに腐ったものを混ぜ、飲んだ者と一緒に自分もあたったふりをする。いずみは渡欧したことになっており、さくらは谷川宅で看病を受ける。

谷川 和代

『洗礼』に登場する、上原さくらが通う小学校の担任谷川の妻。貢の母親。いずみの脳を移植されたさくらは、谷川の妻となることを望んでおり、谷川宅のパーティーで食あたりを起こしたふりをして看病を受け、そのまま住み込んだ。和代はさくらに、ゴキブリ入りのお粥を無理やり食べさせられたり、股間にアイロンを押し付けられるなど、様々な嫌がらせを受け続けて精神が不安定になる。 さくらを踏切で轢死させようとしていたところを谷川に見つかり、さくらは助けられる。その後、和代を病院に入院させたと谷川にさくらは聞かされるが、それは嘘で貢と実家に戻っていた。

中島

『洗礼』に登場する、上原さくらが通う曙小学校の同級生女子。病気を理由に学校を休んでいたさくらは、母親に脳移植されたのち、再び通学する。中島は、以前読んだ本を忘れているなど、さくらの様子がおかしいことから、誰かがさくらになりすましていると疑う。さくらは下校時に後をつけてきた中島を、埋め立て地で取り壊し中の地下室に誘い込み、閉じ込めたため、中島はブルドーザーが運ぶ土砂で生き埋めになる。 翌日、学校で中島が助かったと聞いたさくらが同級生たちとお見舞いに行くと、恐怖が髪の毛が白くなり、応答できない状態でベッドに横たわっていた。

谷川 貢

『洗礼』に登場する、谷川夫妻の赤ん坊。いずみの脳を移植された上原さくらは、担任の谷川の妻になることを望み、妻の和代を追い出そうと様々な嫌がらせをする。手足を挫いてベッドから動けない和代の側で、貢をバスケットボールのように何度も上に放り上げた。さらに、さくらはベビーベッドの貢に猫の死骸を括り付け、和代が泣き叫ぶ貢を抱き上げると、明かりを消し、生体実験で頭頂がくり抜かれた犬の頭を被って現れる。 和代は貢がひきつけを起こすからやめるように懇願するが、犬の頭を被ったままのさくらに追い掛け回され、バルコニーに仕掛けられた首吊り紐に首がかかってしまう。

田中 絹子

『洗礼』に登場する美人女優。大津安二郎監督の映画『にごり竹』のヒロイン大人の時代を演じ、子役の若草いずみが子ども時代を演じた。子役の最後の場面を取り終えようとしたとき、いずみは号泣しだすが、自分の大人になった時の役を演じる田中絹子がいずみから見て不細工であるという理由だった。

若草いずみの母親

『洗礼』に登場する、女優若草いずみの母親。人気子役であるいずみの身の回りの世話をする。母親は娘に養われていることに、後ろめたい気持ちを絶えず抱いていた。ある時、撮影でちょっとしたアクセサリーが必要になり、母親はせめて自分の手で造ったもので飾ってやりたいという思いから、夜なべしてリボンを造る。 しかし、撮影現場で母親がリボンをつけようとすると、いずみはビリビリに破いて踏みつけ、母親をビンタする。理由はリボンではなく、近づいた母親に白髪があり、手の皺がはっきり見えたことから、年を取って母親みたいになりたくないという感情が爆発したためであった。

若草いずみの父親

『洗礼』に登場する、女優若草いずみの父親。家が没落して、とても貧しい。病人であり、子役の娘に養われていることを後ろめたく思っている。

波多 あきみ

『洗礼』に登場するフリー・ルポライターの青年。映画界から消えたかつての大女優若草いずみのその後を記事にしようとして、空き家となったいずみの家を捜し当てる。翌日、中村先生宅から登校中の上原さくらを待ち伏せ、手術が行われた証拠となる動物の毛や床のタイルの裏に付いた血を突き付ける。さくらは空き家に隠してあるメス等を庭に埋めようとするが、後をつけてきた波多に取り押さえられ、カツラの下の手術あとと包帯で隠した痣を見られる。 波多は航空会社を調べていずみが外国に行ってないことをつかむと、今度はいずみがかかりつけだった医者である村上の行方を追う。

『洗礼』に登場する、曙小学校に通う男子。上原さくらの同級生でボーイフレンド。いずみの脳を移植されたさくらは病気という名目が小学校を休んでおり、久しぶりに登校した朝、島は廊下ですれ違って無視された。下校時にさくらを待ち伏せて理由を聞くと、「子どもなんて相手にしないわ。わたしの欲しいのは、おとなの愛よ」と言われ、ショックを受ける。 担任の谷川が、日曜日に自宅でさくらの全快祝いパーティーを開き、女子生徒3人と共に島も呼ばれた。さくらが谷川に近づくための計略でスープには腐った物が混ぜられており、谷川と女子生徒らと共に、島も強烈な腹痛を起こして寝込む。

集団・組織

曙小学校

『洗礼』に登場する、上原さくらが通う小学校。

その他キーワード

『洗礼』に登場する、麻酔用の長い針。村上は脳移植の手術のとき、針を打って麻酔をする。若草いずみの脳を移植された上原さくらも針を使い、自分をつけ回すルポライターの波多あきみの背後から首筋に突き刺し、体の自由を奪う。

にごり竹

『洗礼』に登場する映画。大津安二郎監督で、ヒロインの子ども時代を子役の若草いずみが演じ、大人時代を美人女優の田中絹子が演じた。他に男優陣として佐戸利信(さどりしん)、佐野周三(さのしゅうぞう)、故人の岡田寺彦(おかだてらひこ)が出演。映画は大成功で、観客は美しく可憐ないずみの姿に涙した。

書誌情報

洗礼 全3巻 秋田書店〈秋田コミックス セレクト〉 完結

第1巻

(1985年1月発行、 978-4253108164)

第2巻

(1985年1月発行、 978-4253108171)

第3巻

(1985年2月発行、 978-4253108188)

洗礼 全4巻 小学館〈小学館文庫〉 完結

第1巻

(1995年11月発行、 978-4091910714)

第2巻

(1995年11月発行、 978-4091910721)

第3巻

(1995年12月発行、 978-4091910738)

第4巻

(1995年12月発行、 978-4091910745)

洗礼 全3巻 小学館〈ビッグコミックススペシャル〉 完結

第1巻

(2008年12月発行、 978-4091823083)

第2巻

(2009年2月発行、 978-4091823090)

第3巻

(2009年3月発行、 978-4091823106)

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