狼人の伝説
本作の主要人物は、狼に変身できる狼人たち。彼らの祖先は、山の神によって選ばれ、人間の姿になれる力を与えられた白と黒一頭ずつの狼である。人間界との橋渡しの役割を与えられた2頭は、その立場を争って対立した。そして、別々に縄張りを作り、交わることなくそれぞれ子孫を増やしていった。その後、自然界の狼は絶滅。生き残った狼人は、現在は霊力が弱まり、眷属としての役割は果たせなくなったが、人知れず存在している。黒の一族は、人間の世界になじむことを選び、里や町で暮らしている。一方、白の一族は山奥に住み、人間界とは隔絶した生活を送っている。白と黒の狼人が出会えば争いのもとになることから、お互いのテリトリーには踏み込まないことが暗黙の了解である。なお、主人公・吉野月菜のように灰色狼に変身する狼人は謎の存在であり、月菜は自分が何者かについて大いに悩むことになる。
悩める狼少女の青春を描く
月菜は、人より夜目が効き、ずば抜けた運動能力を持っていたが、人を驚かせないよう、常に力を加減して暮らしていた。そんなある日、小黒井颯という青年と出会った月菜は、自分が彼と同じく狼に変身できる狼人であることを知る。颯とその家族が経営する山梨県のワイナリーで、初めて自分の意志で狼に変身した月菜は、月の光の下でほかの狼たちとじゃれ合い、喜び合う幸せな世界があることを知る。その後、颯たちと過ごす機会が増え、次第に月菜は、本当の自分らしく生きたいと考えるようになる。しかしそれは、1歳の自分を引き取り、本当の子どものように愛情を注いでくれた両親を裏切ることであった。本作は、自分の正体を知った月菜が、どのように生きるべきかを悩み、乗り越えていく青春物語である。
月菜に好意を寄せる対照的な黒と白の狼人
灰色狼の狼人・月菜の前には二人のイケメン男性が現れる。一人は、黒い狼の狼人・小黒井颯。姉や母、甥と姪と共に、山梨県のワイナリーを営む青年で、誰に対しても親切な優しい性格。悩める月菜に対して救いの手を差し伸べ、狼として暮らす幸せを教えてくれた紳士である。もう一人は、白狼の狼人・霧斗。月菜がまだ自分の正体や狼人のことを知らない時、彼女の前に白狼の姿で現れ、求婚の儀式を行った青年である。その後人間の姿で再会した際、「つがい」になるためにやって来たと勘違いして月菜を狼狽させた。山奥で育った霧斗は、腹が減れば公園のカモを狩ろうとし、嬉しくなると月菜の顔を舐めてしまう素朴な野生児である。対照的な颯と霧斗は、時に対立しながらも月菜を手助けしていく。
登場人物・キャラクター
吉野 月菜 (よしの つきな)
ショートカットが特徴の少女。初登場時は陸上部に所属し、受験を控えた高校3年生。1歳の時に現在の両親に引き取られたため、生みの親のことは知らない。ずば抜けた運動能力を持っているが、本気を出すと驚かれるため、陸上部でも常に力をセーブしていた。ショッピングセンターで小黒井颯に出会い、自分が灰色の狼に変身できる狼人であることを知る。その後、本当の自分を探すために大学受験を辞退。家出して颯とその家族が経営する山梨県のワイナリーで働き始める。以前、家の近くに現れた白狼の狼人・霧斗に求婚されており、霧斗から「つがい」だと勘違いされる。
小黒井 颯 (こぐろい はやて)
黒狼の狼人で24歳の男性。イケメンで優しく女性にモテる。母と姉、甥、姪たちと暮らし、山梨県のワイナリーを家族で経営している。一人でいる狼人を放っておけず、吉野月菜に手を差し伸べる。また、強引に月菜を連れ去ろうとする霧斗から彼女を守るために「つがい」のフリをしたこともある。なお、父は黒狼と白狼の長年の分断について研究していたが、やがて人の姿に戻れなくなり、颯が5歳の時に野生化して失踪している。
霧斗 (きりと)
白狼の狼人で推定20歳の男性。白い髪と金色の目が特徴。赤ん坊の頃に猟師の「じいちゃん」に拾われ、山奥で育てられる。少し前にじいちゃんが亡くなり、寂しくなったことから「つがい」を探す。ある日の夜、吉野月菜を見つけ、狼人特有の求婚行動をするが、月菜には通じていなかった。人間界に慣れておらず、公園のカモを狩ろうとしたり、嬉しくなると顔を舐めたりする野生児。料理がうまくできると、頭を撫でてもらうのが好き。
書誌情報
狼の娘 3巻 小学館〈フラワーコミックス〉
第1巻
(2023-03-09発行、 978-4098720347)
第2巻
(2023-09-08発行、 978-4098722150)
第3巻
(2024-02-08発行、 978-4098724963)
狼の娘 4巻 小学館〈フラワーコミックス α〉
第4巻
(2024-07-10発行、 978-4098726738)