あらすじ
出会いと再会
独身の美容師・小松燈子は、親友・安積茉莉沙から頼まれ、いつもむさくるしい格好の漫画家・ミツヤスをパーティ仕様にスタイリングすることになった。燈子のスタイリングテクニックで、同じ人物とは思えないほどのイケオジに変身したミツヤスを連れ、燈子はミツヤスが受賞した漫画賞の授賞式に指定されたパーティ会場へと向かう。出版社主催のパーティ会場は、多くの人でごった返す中、燈子の前に姿を現したのは、高校時代の同級生・志麻圭吾だった。圭吾とは、当時なんでも話せる特別な友達関係を築いていた燈子は、突然の再会にもかかわらず今も変わらない距離感で接してくれる圭吾に、少し心をときめかせる。その後、用を済ませて美容室へと戻った燈子のもとに、ミツヤスが再び姿を現す。燈子は、忘れ物を取りに来たというミツヤスに、二人で受賞の祝杯を挙げようと声をかけ、近くの居酒屋へ誘う。二人は酒の力を借りて少しずつ打ち解け、互いに自分に強い影響を与えた先輩がいることについて語り合い、互いの先輩に共通点を見いだした燈子は、ミツヤスと意外にも相性が合うと笑顔で本音を漏らす。それまで、自信なさげで緊張気味だったミツヤスも、そんな燈子の笑顔につられ、表情を緩ませた。翌朝、燈子は茉莉沙からの電話で目を覚ます。電話の向こうで茉莉沙は、目を冷ましたら下着姿で高野正巳とベッドにいたと話し、既婚者でありながら体の関係を持ってしまったかもしれないと燈子に打ち明ける。突然のことにあきれる燈子だったが、ふと気づいてみると自分も知らない部屋にいることに気づく。下着姿のままベッドから立ち上がると、自分のとなりにミツヤスが裸で眠っていた。
電話
小松燈子は、志麻圭吾からの告白と、一夜を共にしたミツヤスのあいだで心が揺れていた。しかし、あれ以来連絡もないミツヤスの気持ちがわからず、燈子は悶々としていた。相手が誰なのかを伏せたうえで安積茉莉沙に相談し、思い切って電話することを決めた燈子は、ミツヤスと会う約束をし、彼のマンションへと向かう。燈子は、自分と圭吾の仲を気にするミツヤスの様子を見て、どうしてそんなに気になるのかと尋ねる。圭吾のもとへ行ってしまいそうな気がしたと、子供のように小さくうつむくミツヤスのことを愛おしく感じた燈子は、再びミツヤスと体を重ね、人のぬくもりの心地よさに幸せを感じていた。その後、ミツヤスのアシスタントを務める最賀から、二人は付き合っているのかと確認された際、照れながらも肯定しようとする燈子に対し、ミツヤスは付き合っていないとバッサリ言い切る。燈子は、驚きのあまり急用ができたと取り繕って、慌ててその場をあとにしたが、一人で浮かれていた自分の愚かさに傷つき、涙する。一方、茉莉沙はパーティの夜から高野正巳を何かと意識するようになっていた。その日、茉莉沙は世話になったお礼にと高野を食事に誘ったところ、別件で急ぎの用ができてしまったと断りの連絡を受けるものの、その電話口では、遠くから女性の甘い声が聞こえていた。電話を切ったのち、茉莉沙は先約だったはずの自分を断ったことに腹を立てるが、自宅への帰り道、高野の言動一つでテンションを上げ下げしている自分に気づいて冷静になり、夫の安積正樹との関係を見直すことを決める。しかし、食事を用意して待っていても、正樹はなかなか帰ってこない中、ちょうど電話が鳴る。正樹からだと嬉々として電話を取った茉莉沙だったが、茉莉沙が応答してもなんの反応もなく、その電話は正樹が誤発信してしまったものだと気づく。しかし次の瞬間、受話器の向こう側から聞こえてきたのは、甘ったるい声を出す女性と会話する正樹の声だった。
言葉
安積茉莉沙は、小松燈子の相手がミツヤスであることを知り、激怒する。恋愛下手で、女性相手にうまく立ち回ることができないミツヤスが、恋愛によって精神的に不安定な状態に陥り、漫画が描けなくなってしまったのだ。燈子の部屋まで押しかけ、怒りをあらわにした茉莉沙は、勢い余って燈子に手を上げる。それがきっかけで二人は売り言葉に買い言葉の言い合いとなり、大喧嘩になってしまう。深夜にもかかわらず大騒ぎとなり、それを聞きつけた隣人・杉原が燈子の部屋を訪ねてくる。玄関に出ようとした際、燈子は足をひねって転び、頭を打って大出血してしまう。血まみれで気を失った燈子を見て動揺した茉莉沙は、駆けつけてきた杉原に助けを求める。その後、燈子は救急車で病院に運ばれたものの脳に異常はなく、大事には至らなかった。しかし話を聞いて、燈子が茉莉沙に刺されたとカンちがいした志麻圭吾やミツヤス、最賀、安積正樹、高野正巳が心配して病院に集まってくる。そこで思いがけず高野と正樹が顔を合わせることになる。仕事上茉莉沙からは世話になっていると、大人の対応をした高野だったが、二人のあいだにはピリピリとした空気が流れる。だがその後、正樹と話をしたことで心に大きな変化がもたらされたのは、意外にもミツヤスの方だった。結婚観や仕事への姿勢について思うところがあったミツヤスは、一度病院を離れてきちんと仕事を進め、翌日、無事退院することになった燈子の前に、再度戻ってくる。ミツヤスと燈子は抱きしめ合い、唇を重ねるが、やはり確固たる言葉での約束はしないままだった。互いに気持ちがあるのはわかっているのに、どうしても一歩先に進むことができないままの二人を見て、茉莉沙は燈子がはっきりした態度を取れない理由や、ミツヤスが一歩を踏み出せない理由について体感で語る。そして、茉莉沙の言葉に心を動かされた燈子は、ようやく前に進むことを決意する。
夫婦
安積茉莉沙は、その日仕事で思うところがあった。高野正巳に誘われた酒の席で、茉莉沙はそのうっぷんを晴らすかのように飲み、酔いつぶれる。足元がフラフラの茉莉沙は、高野に支えられながら帰路につき、手をつないだ状態で家に着く。別れ際、茉莉沙は高野から告白される。離婚してほしいとか、付き合ってほしいと言うつもりはないとしながらも、高野はただ言っておきたかったと、あらためて自分の気持ちを茉莉沙に伝えた。後日、茉莉沙が自宅で安積正樹と話をしている時、ちょっとしたすれ違いから言い合いに発展する。少し前、自分が正樹の浮気を疑ったのが気に入らないのかと突っかかる茉莉沙に対し、正樹は我慢の限界に達して逆ギレする。先日、小泉から高野と茉莉沙がいっしょに飲んで酔いつぶれていたことについて聞いていたこと、さらには手をつないで帰宅した二人の姿をこの目で見ていた正樹は、自分はどうなんだと反撃。ほかの男と遊ばせるために仕事をするのを許しているわけではないと言い放ち、上から目線で茉莉沙を問い詰める。高野とのことを指摘され、誤解を解くために必死に説明しようとする茉莉沙は、何度も高野の名前を口にするが、それが却って正樹の逆鱗に触れることとなり、怒りで我を忘れた正樹は茉莉沙に手を上げてしまう。一方で小松燈子は、ケガをした際に世話になったものの、一度も顔を合わせられないままだった隣人・杉原と初めて顔を合わせる。しかし、杉原の顔を見た瞬間、燈子の顔はこわばり、驚きのあまり尻もちをついてしまう。それは、杉原が元彼氏・池内悟とあまりにもよく似ているからだった。
大切なもの
学生時代、ミツヤスに大きな影響を与えた先輩は、小松燈子の元彼氏・池内悟と同一人物だった。杉原の存在により、衝撃の事実が明らかになったが、燈子は動揺するあまり、その事実をミツヤスに打ち明けられないまま、燈子がミツヤスを避ける形になってしまう。ミツヤスは先輩の名前を聞いた時の燈子の驚いた様子から、うすうすその事実に感づいていた。そんな中、立ち寄った本屋で偶然志麻圭吾と遭遇し、ミツヤスは思い切って悟について話を聞くことにした。そして、事情を知ったミツヤスの心中は複雑だった。圭吾は、ミツヤスが悟と知り合いだと知っていたら、燈子にミツヤスとの交際をもっと強く止めておいたのにと吐露。さらに、今でも燈子がミツヤスと交際することを反対していると続ける。圭吾は悟との経緯を知った上で、創作側の人間との交際は、つねに自分よりも大切なものの存在に苦しめられることになると語った。圭吾は、ミツヤスにとって漫画という何にも代えがたいものの存在により、燈子がこの先我慢を強いられることになるのは目に見えているとして、燈子を思うなら離れてほしいとミツヤスに本音をぶつける。一方の安積茉莉沙は、高野正巳から告白されて以来、無意識のうちに距離を取るようになっていた。しかしある日、夫・安積正樹に手を上げられたことを打ち明けると、高野は男として茉莉沙を本気で幸せにすると決意を固める。そして高野は、正樹と話をするために正樹の勤務先へと向かう。
結婚と離婚
いつまでも煮え切らない態度のミツヤスに苛立った最賀は、自分も勢いで小松燈子のことが好きだと打ち明け、燈子と別れてほしいとミツヤスに詰め寄る。これにより、自分の中にある燈子への思いにようやく気づいたミツヤスは、燈子と別れたくないし、最賀にも志麻圭吾にも譲りたくないと自分の気持ちを正直に口に出す。素直になったミツヤスを見た最賀は、自分の燈子への気持ちはウソだったということにして蓋をすると決め、ミツヤスの背中を押して燈子への連絡をうながす。燈子は、待ちに待ったミツヤスからの連絡に安堵し、久しぶりに二人で会うことができた。二人はすれ違う原因となった池内悟について話し合い、互いへの思いを再確認したのち、ミツヤスは思い切って結婚について切り出し、燈子を驚かせる。一方、安積茉莉沙は強い気持ちを持って夫・安積正樹との話し合いの席に着いた。そして、まずは大人として冷静に自分の行いを反省したこと、誤解もあることなどを順を追って正樹に伝える。茉莉沙は自分の仕事に対する姿勢や、家族に対する思いを打ち明け、自分に手を上げた正樹の言葉を待つ。その後正樹から謝罪の言葉はあったものの、茉莉沙の行いに対する理解は得られないまま、話し合いは平行線をたどることになる。茉莉沙は自分が正樹から大切にされていることを理解しつつ、認めるべき非は認めた。しかし、最後まで自分の非を認めようとしない夫の姿に、茉莉沙は夫婦関係に終止符を打つことを決める。
理想
ミツヤスは、スーツ姿に両手いっぱいのバラの花束を持参して小松燈子の部屋を訪れ、開口一番俺と結婚してくださいと告白。心の準備もムードも何もないこの突然のプロポーズに、燈子はミツヤスらしさを感じ、嬉しくなる。互いの気持ちは通じ合い、すべてを受け入れられるはずなのに、燈子の脳裏には離婚に向けて動き出したばかりの安積茉莉沙の顔が浮かび、涙を流す。素直に喜んでいいのか、思い悩む燈子の思いがけない反応に右往左往するミツヤスだったが、二人は冷静になって話を始める。燈子の涙の訳を聞いたミツヤスは、結婚について茉莉沙に話すことに不安を感じている燈子に対し、自分のせいで、燈子が決断できなかったり、喜べなかったりすることの方が、茉莉沙はつらく感じるのではないかと語る。そしてミツヤスは納得した燈子からせがまれ、プロポーズの言葉を言い直し、二人はとうとう共に生きるための大きな一歩を踏み出す。その後ミツヤスと燈子は、周囲に祝福されながら結婚式を終え、ミツヤスの家で新婚生活を始める。これまでどおり、燈子は子供を授かるまで仕事を続けることを選択し、アシスタントに通う最賀もいっしょの生活はまるで三人家族のようだった。だが、燈子とミツヤスにとって、それがかけがえのない幸せな日常となる。誰しも幸せは理想どおりとは限らない。思い描いた理想や、他人が思う理想とはかけ離れていても、自分で選んだ相手と共に歩んでいければ、それこそが幸せであることを燈子は悟る。
登場人物・キャラクター
小松 燈子 (こまつ とうこ)
美容師を務める独身女性。年齢は32歳。年齢的に結婚に関して意識せずにはいられないが、結婚自体に少々懐疑的なところがある。高校時代、アルバイト先の喫茶店で店員と客として知り合った池内悟に恋をし、年齢差10歳以上にもかかわらず交際をスタートさせた。しかし、ある日悟が突然失踪し、その後訃報を聞くことになり、それ以来恋愛することに臆病になり、色恋沙汰からは久しく遠ざかっている。そんな中、親友・安積茉莉沙からの頼みで、漫画家のミツヤスをパーティ仕様にスタイリングすることになり、パーティ会場まで送り届けることとなる。そこで、偶然にも高校時代の同級生・志麻圭吾と再会を果たす。圭吾とは高校時代からなんでも相談できる居心地のいい関係で、当時圭吾と付き合っているとカンちがいされることも少なくなかった。久々に会った圭吾のいい男ぶりに心揺れたが、その後ミツヤスと二人で酒を飲むことになり、意気投合。小松燈子は勢いでミツヤスと関係を持ってしまう。さらに、圭吾から告白されたことで、自分の気持ちがわからなくなり、ミツヤスと圭吾のあいだで揺れる思いに悩まされることになる。だが、いつしか自分の中にあるミツヤスに抗えない不思議な感情に気づき、自分の気持ちがミツヤスにあることを自覚する。その後ミツヤスとの交際を始め、順調に愛を育んでいたが、燈子の心の傷をつくった悟が、ミツヤスが慕う先輩と同一人物であることが発覚。不自然にも燈子がミツヤスを避け始めたことで、それを察したミツヤスが燈子と距離を取るようになり、幸せなひとときはあっけなく失われてしまう。悟のことが原因で、ミツヤスとの関係も危ういものとなるが、周囲からの温かいアシストが功を奏し、紆余曲折の末にミツヤスと結婚することになる。
安積 茉莉沙 (あづみ まりさ)
安積正樹の妻。年齢は32歳。志麻圭吾と同じ出版社に勤務しており、漫画の編集者を務めている。小松燈子とは親友で、何でも言い合える仲。燈子からは、年齢差のある男性と一夜を共にしたことを打ち明けられるが、その相手がミツヤスであるという事実は知らない。夫の正樹とは、互いに仕事が忙しいことを理由にすれ違いの日々を送っているが、夫婦仲は良好で、周囲から見ればある種理想的な夫婦関係を続けている。職場では同僚からの信頼も厚く、仕事も家庭も完璧な妻であろうとすることに余念がない。しかし、帰宅時間が遅くなった正樹が浮気していることに感づいたのをきっかけに、夫婦の在り方についてあらためて考え直し始める。さらに、仕事上の付き合いである高野正巳からは、年齢が10歳も離れているにもかかわらず、熱烈なアプローチを受けていた。そんな中、正樹の浮気について追及したことがきっかけで、自分と高野のことを指摘され、激昂した正樹から手を上げられてしまう。その後自分から歩み寄り、高野と肉体関係にあると誤解している正樹と話し合いを持つものの、最終的には離婚に至った。離婚後も、高野との関係は続いているが、明確な交際にはなかなか発展していない。
ミツヤス
いつもボサボサ頭でジャージを身につけている人気漫画家の男性。年齢は42歳。天然気味で愛敬があり、何よりも漫画執筆を優先する日常を送っており、年収は億単位。担当編集者の安積茉莉沙とは、連載立ち上げ時からの付き合い。40歳を超えた頃から勢いに乗り、出版社主催の漫画賞を受賞することとなった。出版社主催のパーティに参加するにあたり、身なりを整える必要があると判断した茉莉沙によって、無理やり美容室へと連れて行かれ、小松燈子と出会った。その後、二人で飲みに行ったことで意気投合。その日のうちに燈子と肉体関係を持った。きちんと燈子に気持ちを伝えようと試みるものの、自己肯定感が低く、内気で恋愛経験が皆無なため、行動を起こしてもなぜかすれ違うことが多い。いつでも自分の気持ちには正直で、思ったらすぐ行動に移すため、これが逆にこじれる原因となっている。さらに、ミツヤス自身の精神状態が漫画執筆に与える影響が大きく、何かあるとすぐ漫画が描けなくなってしまう。何度もすれ違いながらようやく燈子に気持ちを伝え、晴れて交際をスタートさせることとなる。もともと、自分が漫画家になるために背中を押してくれたのは、学生時代の先輩・池内悟だった。それ以来、今は亡き悟に面白いと思ってもらえるようなものを描くことが漫画執筆へのモチベーションとなっているが、自分が世話になった先輩と燈子の元彼氏が同一人物であることに気づき、互いに距離を取り始める。しかし紆余曲折の末、友人に支えられながら燈子との結婚に至る。料理が趣味で、ネームに行き詰まると気分転換のために料理に逃げることがよくある。
志麻 圭吾 (しま けいご)
安積茉莉沙と同じ出版社に勤務する男性。少年誌・マガンジ編集部で編集者を務めている。年齢は32歳。小松燈子は高校時代の同級生で、当時恋愛相談に乗るほど仲がよかった。燈子に対してはその頃からひそかに思いを寄せていたが、燈子に彼氏がいたこともあり、特に何もないまま高校を卒業した。それ以来、疎遠になっていたが、会社主催のパーティで再会したことをきっかけに、燈子への思いが再燃し、積極的に燈子にアプローチするようになる。優しい性格ながら、少々強引なところがある。燈子に対しては居心地のよさを感じ、将来的には結婚することまで考えていたが、結局燈子がミツヤスを選んだため、失恋する形となった。その後も燈子への気持ちは変わらず、燈子の恋愛相談に乗るなど、学生時代と変わらない関係が続いている。燈子とミツヤスの結婚後、マガンジ編集部から少女誌のピクシー編集部に異動になる。志麻圭吾自身が担当編集となった漫画家・沖田綾真を、その容姿から男性とカンちがいする。それまでは燈子のことばかり考えていたが、次第に綾真が気になっていく。自分が男性に恋に落ちたのではないかと気に病んでいたが、のちに綾真が女性とわかって安堵する。編集者と漫画家という関係を越え、恋人としても絆を深めていくことになる。
高野 正巳 (たかの まさみ)
新進気鋭のデザイナーで、高野デザイン事務所の代表を務めている男性。年齢は22歳。叔父が同じデザイナーだったため、人より早く独立することに成功した。主に書籍の表紙デザインなどを中心に、出版社からの仕事を請け負っている。そんなある日、出版社主催のパーティに参加していた安積茉莉沙と知り合って関係をせまった。しかし茉莉沙から拒まれたたために断念し、同じベッドで眠るに留まった。それ以来、茉莉沙を慕うようになり、彼女が既婚者と知りながらも、自分の気持ちを伝え続けている。ただし、夫・安積正樹との離婚や自分との交際を一方的に要求しているわけではない。あくまでも無理強いはせず、茉莉沙が自分を受け入れるのを待つスタンスを保っている。茉莉沙を思う気持ちは強く、茉莉沙の考えを尊重する姿勢を貫いている。茉莉沙が正樹から暴力を受けたことを知った際には、男として本気で茉莉沙を幸せにすることを決意。単独で正樹の会社へ赴き、静かなる宣戦布告を行った。つねに冷静沈着ながら、若さゆえの強引な一面もある。正樹の不倫相手・小泉とのあいだには、見えない火花を散らし、微妙な立場である者同士として負けられない戦いを繰り広げている。茉莉沙が正樹と離婚したあとは、彼女が恋愛に前向きになるのを待ち、再びアプローチを開始する。しかし、付き合っていることを茉莉沙が認めようとしないため、曖昧な関係が続いている。
最賀 (さいが)
ミツヤスのもとでアシスタントスタッフとして働いている男性。漫画のアシスタント業務以外にも、炊事洗濯掃除なども行っており、ミツヤスの日常生活を支えている。ニット帽を目深にかぶり、パーカーを着用している。女性のようなきれいな顔立ちで、物事をはっきりと言うタイプ。当初、漫画家としてのミツヤスの今後を思うあまり小松燈子に対して厳しめな言葉をかけることが多かったが、燈子への態度は次第に軟化。いっしょに過ごす時間が増えるにしたがって燈子にひそかな思いを寄せるようになる。一時は燈子を思うあまり煮え切らない態度のミツヤスと一触即発の状態となるが、ミツヤスと燈子の幸せを考え、自らが身を引くことを選択。その後、二人が結婚して幸せになるまでを見届けた。ミツヤスと燈子の結婚後も、変わらずアシスタントとしてミツヤスのもとへと通い、日常的に食事を用意するなど、家族の一員のような存在となっている。その後、いつまでもプロの漫画家になれない自分に複雑な思いを抱えているが、臨時アシスタントとして沖田綾真のもとに訪れた際、まほろから言われた言葉が力となり、有能なアシスタントとしての自分に誇りを持てるようになった。趣味はコスプレ。
安積 正樹 (あづみ まさき)
安積茉莉沙の夫。勤務する会社では部長を務めており、年齢は32歳。部下の小泉と肉体関係を持っている。つねに小泉といっしょにいるため、彼女がまとっている「ミスディオール」という名の香水の移り香を漂わせているが、自分ではその匂いには気づいていない。仕事を理由に帰宅する時間も遅く、夫婦としての時間は少ないために生活上すれ違いが多いが、夫婦仲は悪くない。茉莉沙のことは非常に大切に思っているが、それは仕事と家事を完璧にこなし、どこに出しても恥ずかしくない自慢の妻という位置づけでのみ。夫婦が尊重し合い、自由で信じ合える関係であることに存在意義を見いだしている。ある時、茉莉沙から小泉との関係を疑われたことがきっかけで、ずっと気になっていた茉莉沙と高野正巳の関係を引き合いに出し、逆ギレ。激昂のあまり茉莉沙に手を上げたことで、まともな会話もなくなり、茉莉沙に謝ることもしなかった。茉莉沙からの歩み寄りがあり、冷静に話し合う場が設けられたが、大人として自分にも非があったことを認めた茉莉沙に対し、最後まで安積正樹自身の非を認めようしない頑なな姿勢を取り続けたことが仇となり、茉莉沙から夫婦関係の解消を言い渡される。結局、自分と小泉の関係が最終的な原因となり、離婚に至った。
小泉 (こいずみ)
安積正樹が勤務する会社の部下の女性。いつも「ミス ディオール」という名の香水をつけており、甘い香りを漂わせている。正樹が既婚者であることを知りながら、終業後に悩みを聞いてほしいとせまったり、食事に同行したりすることも多く、何かと自分の方を向いてほしいと熱烈なアプローチを続けていた。そんな中、一線を越えて正樹と肉体関係を持った。正樹が完璧な妻・安積茉莉沙との夫婦関係にこだわり、小泉との関係をあくまで体だけのものとして考えていることを理解しており、小泉自身も特に正樹に執着しているわけではない。一方で、正樹に茉莉沙と高野正巳の関係を匂わすようなことを告げ口し、面白半分に夫婦関係に亀裂を入れようとしている。一見、キャピキャピしたおバカな女性のように振る舞っているが、実際は男性の前でのみ非力な女性を演じているだけであり、かなりしたたかなところがある。
杉原 (すぎはら)
池内悟の弟。悟とそっくりな顔立ちをしている。小松燈子のとなりの部屋に住んでいるが、面識はなかった。ある時、隣室から言い争う声を聞き、心配して駆けつけたところで、安積茉莉沙から助けを求められた。ちょうど燈子が転んだ拍子に頭を打って出血しており、動揺する茉莉沙に代わり、救急車を呼んで病院まで付き添った。しかし、仕事で忙しい日々を送っているため、連絡先を茉莉沙経由で燈子に伝えたものの、顔を合わせることはないまま時間が過ぎた。その後、ようやく燈子と顔を合わせたのち、燈子が悟と交際していた事実を知ることになる。幼い頃に両親が離婚した際、悟とは別々に引き取られたため、兄弟としての記憶はほとんどない。ゲイで、パートナーのハルトがよく部屋に出入りしており、「まもちゃん」と呼ばれている。
ハルト
バーをはじめとした飲食店を経営しているゲイの男性で、杉原のパートナー。明るい性格で、誰とでもすぐに打ち解けられる高いコミュニケーション能力を持ち、料理上手でもある。杉原の部屋に来ていた際に、となりの部屋のベランダから声がしたため、小松燈子と安積茉莉沙に声をかけた。それがきっかけで、杉原の部屋に二人を呼んで食事を振る舞うなど、親しくなっていく。
池内 悟 (いけうち さとる)
小松燈子の元彼氏。以前バンド活動を行っており、そこそこの人気を博していた。作詞するときに通い詰めていた喫茶店で、当時アルバイトしていた高校1年生の燈子と知り合った。当時30歳で、燈子と10歳以上年齢が離れていたが、いつしか恋愛関係に発展した。しかし、その後突然失踪し、帰らぬ人となった。生前の池内悟についてはあまりいい噂がなく、警察沙汰の暴力事件や薬疑惑、借金など、絵に描いたようなクズ人間だった。だが、少なくとも燈子にとっては優しい彼氏であろうとしていた。また学生時代、ミツヤスの描いた漫画を読んで面白いから続きが読みたいと言ったことがあり、ミツヤスが漫画家になる決意を固めるきっかけをつくった。実は杉原の兄だが、幼い頃に両親が離婚して兄弟別々に引き取られたため、まったく会っていなかった。池内悟は母親に引き取られたが、その母親も燈子と出会う前に亡くなり、離れて暮らす父親に金の無心に行ったことがある。
沖田 綾真 (おきた りょうま)
少女誌「ピクシー」で連載中の漫画家。年齢は25歳。担当編集者である志麻圭吾からは、今時珍しい男性の少女漫画家として認識されているが、実は女性。前髪が長めのショートヘアで、わざと男性にカンちがいされるように振る舞っているところがある。新連載の打ち合わせ中、圭吾から小松燈子との恋愛エピソードを聞くことになり、それ以来、漫画のネタになるという言い訳をしながら、何かと圭吾から話を聞き出そうとしている。次第に圭吾に思いを寄せるようになり、高級旅館の取材に行きたいという要望を圭吾が叶えてくれることになり、いっしょに旅館へと取材に向かう。そこで同性だとカンちがいした圭吾が部屋を一つしか予約していないというアクシデントが発生。沖田綾真が女性用の風呂から出てきた際、ようやく圭吾が自分を男性だとカンちがいしていることに気づく。これにより感情が昂り、圭吾への思いを吐露し、最終的に思いが通じることになった。
まほろ
沖田綾真の妹。漫画に関しては素人だが、綾真の描いた原稿の消しゴムかけや、ベタ塗りなどを手伝っている。急遽アシスタントでやって来た最賀を歓迎。約2日のあいだ、共に不眠不休でアシスタント業務をこなした。唯一の得意料理であるポトフを作っていっしょに食べたことで、最賀と親しくなった。プロの漫画家になれない自分に複雑な思いを抱く最賀に対し、人の作品を手伝うことの大変さを知るまほろならではの言葉で最賀を励ました。