概要・あらすじ
大道寺真琴は画家を志していたが、その展望は開けていなかった。ほそぼそと開いていた個展で絵を買ってくれたのは、高校時代のクラスメイトで、女生徒を妊娠させたという騒ぎで退学になった寺山薫だった。真琴は薫から絵に自分を描き加えて欲しいと頼まれる。薫のことが気になりつつも、母の勧める好青年・石渡正義ともデートをする真琴。
つかみどころのない薫と真面目一辺倒の正義だが2人とも前向きなところは共通していた。そんな彼らに刺激されて真琴も少しずつ変わっていく。
登場人物・キャラクター
大道寺 真琴 (だいどうじ まこと)
黒髪を頭上に結って、腰まで届く三つ編みのお下げを1本襟から垂らしている女の子。美術を学んでいる学生で、画家を志していた。だが、尊敬している画家から諦めなさいと言われた絶望から、酔うと高いところに上りたくなる性癖があることが発覚。それからは酔わないように注意していたが、高校の同級生だった寺山薫と会い、うっかり飲みすぎて薫と二人で民家の屋根で騒いでしまう。 母が勧める一流サラリーマン石渡正義との交際は本人の意思とは無関係に順調。その後、薫が高校で起こした妊娠騒ぎの真実が明かされ、薫が実は賢いのではないかと思い始める。薫と正義の考え方に奮起して、再度、尊敬する先生に絵を見てもらうが酷評を下される。 薫、正義と酒を飲み、またもや発作を起こした。自宅は白鹿市日本盛町にあり、最寄り駅は松竹梅線黄桜駅。
寺山 薫 (てらやま かおる)
明るい髪の色の青年。大道寺真琴と高校1年のときのクラスメイト。資産家の四男坊で兄たちより不出来と思われていた。女生徒を妊娠させたため退学。ただ、これは兄の寺山楽夫によるもので、世間体を誤魔化すために不出来な四男の仕業に見せかけたものだった。退学後は祖父がかつて経営していた元病院に、婆やと二人で住んでいる。 真琴の個展にやってきて、少女が一人佇んでいる絵を1枚買い、そこに自分を描き加えてほしいと依頼。大道寺勇二の野球チームが柄の悪い青年のチームにグラウンドを奪われそうになったところを助ける。そのときの怪我の手当で大道寺家に寄って以来、自由に出入りをするようになる。失業した石渡正義が下宿することになり、仲よくなる。 感覚がなにかとズレているが、気にしない。祖父の病院に仮病で入院していた自称芸術家たちの残した作品群を理解されるまで保管しておこうと考えている。真琴を特別に意識しているわけではないが、その作品は100年後に理解されると思っている。
婆や (ばあや)
おだやかな表情の老婆。寺山楽夫が起こした女子高生妊娠騒ぎの責任を押しつけられて退学し、家から出された寺山薫の世話係。薫の行動を把握していて、なにごとも受け入れてしまう。薫のズレた行動に合わせて、ズレた生活をできる。
石渡 正義 (いしわたり せいぎ)
吊り眼型のメガネをかけた青年。正義感が強く、思ったことをそのまま口に出す好青年。なにごとにも真面目で、礼儀正しい。柔道、剣道、ボクシングの心得もあり、頭脳派の見た目と異なりかなりの肉体派。一流会社の鯱重工のエリート社員だったが、社長令嬢の蘭子を殴ってクビになった。寺山薫の家に下宿しながら電器店で働き始めたが、たちまち支店長になる。 寺山薫と人違いされて卒塔婆組に連れて行かれたときの態度が気に入られ、次代組長としてスカウトされている。大道寺真琴のことが気に入って、初デートで結婚の申込をした。
大道寺 勇二 (だいどうじ ゆうじ)
小学校高学年くらいの少年。大道寺真琴の弟。いつも閉じ目。しっかり者で真琴のために気を利かせて、お礼としてお小遣いをせしめたりしている。
卒塔婆組組長 (そとばぐみくみちょう)
あばた面で太った初老の男。眉が太く下顎が出ている。寺山楽夫が妊娠させた女子高生の冷子のおじ。極道の卒塔婆組を率いているが、東京工業大学の元教授。専門はコンピューターで、背中の刺青も集積回路。気が短く早とちりだが、気のいい極道。寺山薫と間違えて連れてきた石渡正義の、極道にタンカを切る度胸が気に入り、卒塔婆組を譲りたいと考えている。
冷子 (れいこ)
近づくと暗く湿った風が吹き、人々の自殺願望を刺激する不幸を感じさせる女。キラキラの目をしている。高校1年のときに寺山楽夫に見初められ、妊娠してしまった。両親が寺山楽夫の父から因果(大金)をふくまされたため、生まれた子どもを連れて長野の実家に戻った。おじの卒塔婆組組長が不憫に思って解決に乗り出し、それを聞きつけた寺山楽夫と結婚する。
寺山 楽夫 (てらやま らくお)
日本人離れした高い鼻に尖った顎と巻き毛の青年で、寺山薫の兄弟の三男。慌てると脈略のないことをしゃべり続ける。薫の同級生の冷子を見初めて妊娠させてしまうが、父が大会社の会長令嬢との政略結婚を考えていたため破局。父から任された会社で社長をしていたが実権のないロボット社長で、政略結婚で結婚もしていた。 だが、冷子のことは忘れられず、長野に送った密偵から近況の報告を受けていた。冷子が長野を出たことで、父を裏切る決心をする。妻と離縁して冷子と結婚、会社を追い出されたが、以前からペンネームを使って活動していた文筆業に専念するという。壺にこだわった作品が多い。
鯱重工社長 (しゃちほこじゅうこうしゃちょう)
旧日本軍を思わせる服装をした初老の男。石渡正義が勤めていた一流企業の社長。戦争ごっこが大好きで、機銃掃射のマネを受けた社員が倒れて絶命する演技を喜ぶ。社内には盗聴マイクが多数しかけられており、噂話を聞き漏らさないようにしている。娘の蘭子を溺愛していて、石渡正義を婿にしようと考えていた。 だが正義が蘭子に手をあげたため、正義をクビにした。
蘭子 (らんこ)
ふんわりパーマの年頃の女性。鯱重工社長の娘。父の前ではおとなしそうにしているが、かなり遊び歩いている様子。常連のでぃすこアウシュビッツでは親衛隊の女将校姿で、取り巻きからお嬢と呼ばれている。父から石渡正義を紹介されたが、ペットとしてオモチャにしようとした。そのため、正義から何発ものビンタを食らう。
集団・組織
卒塔婆組 (そとばぐみ)
『真琴・グッドバイ』に登場する組織。表向きは金融業を営んでいる暴力団。ただ、組員募集の看板をビル前に掲げていて、裏に徹してはいない。独身寮もある。組長が東京工業大学の元教授で、そのほかにも京都大学の土木科卒や多摩美術大学の油絵科中退、早稲田大学文学部在学中など、かなり高学歴の組員ぞろい。