作品が描かれた背景
本作『神さま学校の落ちこぼれ』は、小説家の日向夏と漫画家の赤瓦もどむによるコラボレーション作品となっている。本作は小説版『神さま学校の落ちこぼれ』のコミカライズ作品となるが、赤瓦もどむは本作のシナリオの構成段階から参加しており、小説版の作画も担当している。本作のコラボレーションは漫画版の白泉社、小説版の星海社が出版社の垣根を取り払って協力しており、本作と小説の第1巻は2022年1月20日に同日発売された。星海社の代表取締役である太田克史は、このコラボレーションを「これは過去の出版界におそらくは類例がない」と絶賛のコメントを寄せている。
あらすじ
神さま学校の落ちこぼれ
現代日本では、超能力者と呼ばれていた者たちは、科学技術の進歩に伴ってその才能が認められるようになり、「ヒミコ」と呼ばれるようになっていた。そしてヒミコの中でも特別優れた者は国家資格を得て「神さま」と呼ばれていた。そんな時代の中、陽美谷ナギは神社の娘だが、神社は神さまの祖母が亡くなったあとはすっかりさびれていた。双子の兄の陽美谷たけるも祖母が亡くなった事故に巻き込まれ、その後遺症で引きこもりとなっていたが、ヒミコの兄は神通力を使ってぬいぐるみをあやつり、ナギに絡んでいた。元気すぎる引きこもりの兄に頭を抱えつつ、さびれた神社をなんとか盛り立てようとしていたナギは、近所の子供が行方不明になった話を聞く。心当たりを探ったナギは、街はずれのお社で子供を発見するが、不思議な現象に襲われ危機に陥る。兄に神通力で絡まれた経験から、これがすぐに何者かの悪意ある神通力だと判断したナギは、自らの神通力を覚醒させて何者かの神通力を跳ね返す。どうにか子供は助けたナギは力を使い果たし倒れてしまうが、そこに神さまのツクヨミが現れ、ナギを助けるのだった。こうして事件を無事に解決したナギは、ツクヨミにヒミコとして認定され、日本で最も神さまを輩出している学校「惟神學園」に推薦される。神さまになるため惟神學園に入学することを決めたナギだったが、通常の学校とはカリキュラムの違う惟神學園に戸惑うことが多く、座学も実技も一気に落ちこぼれとなってしまう。しかしナギは、学園で気の合う仲間たちと出会い、少しずつ成長していく。
オリエンテーション
陽美谷ナギたちは入学後、新入生を歓迎するための「オリエンテーション」に参加するが、ナギ班はナギの世話係の田中モナカ、ナギに懐いている美馬みるる、脳筋男子の逢坂サガミ、苦労人の松田タロウといつものメンバーとなる。しかし、そこに妖しげな少年、江道トータも班員として合流する。そしてオリエンテーションが始まったものの、オリエンテーションとは名ばかりで、その実態は山一つを使った神通力ありの過酷なサバイバルだった。2泊3日の期限内に教師たちからスタンプを集めてくるように言われたナギたちは、各々の能力で課題をクリアして食料を集めていく。だが、ナギは自分が能力がないため、班のお荷物になっていることを自覚する。トータはヒミコでありながら神通力を使いたがらず、ナギに皮肉を言うものの、逆にその言葉で奮起したナギはみんなのために食材を探してくることを決意する。食材を探している中、ナギは偶然にツクヨミと再会して彼の助言で自然薯(じねんじょ)を見つけ、みんなに喜ばれるのだった。そしてナギたちは學園長から最後のスタンプをもらい、2日がかりですべてのスタンプを集め終わる。しかし學園長から、スタンプは24時間で消える仕掛けで、ゴールしないと無効になると教えられ、ナギたちは慌てて下山を始める。ナギたちは下山しつつも、このままでは間に合わないと気づいて悲嘆に暮れる。トータはあきらめるようにナギたちを諭すが、トータの「透視能力」で近道を探せばゴールできる可能性があり、仲間たちは神通力を使ってほしいと頼むが、神通力を使いたくないトータはこれを拒否。班の中で大きな対立が起きるが、ナギはトータをかばって別の方法を探そうと提案する。その姿にトータは心動かされ、神通力を使って班員を導いて無事にゴールするのだった。
関連作品
小説
本作『神さま学校の落ちこぼれ』は、日向夏原作の小説『神さま学校の落ちこぼれ』を原作としている。原作小説版は講談社「星海社 e-FICTIONS」より刊行されている。イラストは赤瓦もどむが担当している。小説版はコミックス版と話の大筋はほぼ同じ内容だが、小説版にのみ収録されているエピソードも存在する。
登場人物・キャラクター
陽美谷 ナギ (ひびや なぎ)
陽美谷神社の娘で、陽美谷たけるの双子の妹。身長155センチで、体重は48キロ。誕生日は6月6日。長く伸ばした茶髪を後ろで一つ結びにしており、黄色のリボンでまとめている。明るくまっすぐな性格で、持ち前のバイタリティを活かして実家のさびれた神社を切り盛りしている。ある日、神隠し事件に巻き込まれたのをきっかけにヒミコの力に覚醒し、そのまま惟神學園の高等部に編入される。一般教科の成績はふつうにいいが、惟神學園は祝詞(のりと)や和歌といった特殊なカリキュラムが多いため、そちらの成績は底辺をさまよっている。ヒミコとしての神通力は不明で、幼い頃に検査を受けていたにもかかわらず発見されておらず、改めて検査しても詳細は不明となっている。しかし、たけるの精神感応をウザイからと拒絶したり、神隠し事件では誘拐犯の神通力を解呪したりと、他者の神通力に干渉する力の片りんを見せている。また、実技の授業で呼び水を暴走させたため、その身には通常のヒミコ数十人分の神力があるのではないかと推測されている。このため、祖父江マサユキからは興味深い実験対象として見られている。ただし、能力が未知数なうえに、陽美谷ナギ自身でも制御できないため、実技の評価は散々で「落ちこぼれ」扱いされている。好物はエビの天ぷらで、ショッパイ系のお菓子が好き。特技は祖母直伝の神楽舞(かぐらまい)で、時おり練習している。また、同時に祖母から「神楽舞護身術」を教わっており、腕っぷしはふつうに強い。呼び水の暴走事件では、暴走した逢坂サガミを護身術で気絶させたため「熊殺し」として名を馳(は)せ、不本意な思いを抱えることとなる。運動神経抜群で、サガミすら驚くほど体力がある。中学時代は家のことで手一杯で部活には入っていなかったが、助っ人として運動部に重宝されていた。その身体能力の高さから、神力で身体能力を強化している疑惑が出ているが、身体強化は神力の低い者に現れる傾向にあり、神力が強いとされるナギには当てはまらないため、依然としてナギの神通力には謎が多い。
ツクヨミ
「月読命」を拝命する高位の神さま。涼し気な雰囲気を漂わせた絶世の美男子で、身長は177センチ、体重は64キロ。プロフィールでは誕生日は1月1日となっているが、正確には不明。「ツクヨミ」は神の名を与えられているだけで、本名は不明。年齢は18歳ながら、大人っぽく容姿は整っているものの老け顔なのを気にしている。強い神通力を持つが、そのせいで幼い頃からさまざまな事情から、7歳の頃にホシノの両親に引き取られて育てられた。惟神學園の卒業生で、学生時代から数々の伝説を作り出し、卒業後そのまま神さまに任命された。あまりに強すぎる神さまのため、政治家以上にVIP扱いされ、所属する神社もまだ決まっていない。現在はイベントにゲストとして呼ばれる仕事を引き受け、生活費を稼いでいる。浮世離れしたミステリアスな雰囲気で一定の評価を得ているが、それは付き人であるホシノの手腕によるところが大きく、本人の素の性格は「超」が付くほどのド天然。好物は生菓子で、コンビニでスウィーツを買い占めるほどの甘党。強い神通力は燃費がすこぶる悪いため、時おり、スウィーツを買うのに瞬間移動を使っては行き倒れている。現在は山奥の別荘を借りて暮らしているが、周囲にまったく店がないため、甘い物を求めて最寄(もよ)りの店である学園の購買や学食にたびたび姿を現している。直感が非常に鋭く、周囲の人の危機を察することができる。この力で陽美谷ナギもツクヨミに何度も助けられており、ナギのヒミコとしての素質を見抜き、ナギを惟神學園に推薦した。スウィーツの買い出しに来たナギは、ツクヨミが行き倒れになっている現場に遭遇しており、ナギからも一人にしたらダメなタイプと思われている。学生時代はオリエンテーションで「実力がありすぎる」という理由からハンデが課せられ、一人で強制参加となったが、ぶっちぎりの1位でゴールした。前人未踏の記録ながら、オリエンテーションにもかかわらず最初から最後まで独りぼっちだったため、悲しい伝説として現在も語り継がれている。また、本人も生活能力が皆無なため、炊事もテント建てもうまくいかず、悲しい記憶として覚えている。
陽美谷 たける (ひびや たける)
陽美谷ナギの双子の兄。明るい性格ながら引きこもっている。誕生日は6月6日。5年前まではやんちゃな少年だったが、祖母のウズメの事故に巻き込まれ、大ケガを負ったあとは部屋から一歩も出ない引きこもりとなる。ヒミコとしての神通力は、「観念動力(テレキネシス)」と「精神感応」の複合能力者。その力を応用し、狛犬(こまいぬ)をデフォルメしたぬいぐるみを念動力であやつり、精神感応でナギと会話する。部屋から一歩も出ずにナギと行動を共にするため、元気過ぎる引きこもりとしてナギからも若干ウザがられている。人形がお気に入りらしく、ぞんざいに扱われると落ち込む。精神感応で会話できるのはナギだけであるため、基本的に人目の付かない場所でのみナギに話しかける。また、つねにナギの周囲につきまとっているが、あくまで人形を動かしているだけで、周囲の様子を見ることはできない。ナギからはかなり雑に扱われており、オリエンテーションの際には、そのウザさから薪(まき)の代わりに燃やされそうになった。
田中 モナカ (たなか もなか)
惟神學園の高等部に通う女子。陽美谷ナギのクラスメイトで、身長164センチ、体重51キロ。誕生日は12月25日。黒髪をストレートロングヘアにしており、スタイル抜群。しっかり者な優等生で、落ちこぼれとなったナギの世話係を担当している。口調は辛らつで、ナギの面倒も自分の内申点が上がるからとうそぶいているが、姉御肌で面倒見がよく、実質的に学園でのナギの保護者的な存在となっている。寮ではナギと同室で、のちにナギに懐いた美馬みるるも部屋に入り浸り、三人いっしょでいることが多くなる。毒舌家のみるるのことは苦々しく思っており、よく口ゲンカをしている。逢坂サガミから思いを寄せられているが、毎回彼を冷たい言葉で一刀両断しており、これはクラスの恒例行事ともなっている。実家は和菓子屋「ふくふく庵」で、「田中モナカ」の名前は和菓子職人の曽祖父が和菓子の「最中」から名づけた。しかし自分の名前を気に入っておらず、校則で名前を呼ぶことが決められているが、名前で呼ばれると毎回怒るため、親しい人からは「姐さん」と呼ばれている。兄も自分と同じく和菓子由来の「外郎(ういろう)」と名づけられた。兄は和菓子職人として非常に優秀ながら、兄のやり方には不満を抱いており、実家に帰った時には物申すことを誓っている。栗(くり)系のお菓子が好きで、洋菓子が大好き。和菓子作りはかなりの腕前でこだわりも強く、なんだかんだ言って和菓子も大好き。ヒミコとしての神通力は「瞬間移動(テレポート)」だが、移動距離は5メートルとかなり短い。だが精度はかなり高く、寸分の狂いなく瞬間移動することができる。また、瞬間移動の連続で疑似的な空中飛行を可能とする。ただし、瞬間移動はただでさえ燃費が悪く、連続使用後はかなり体力を消耗する。
逢坂 サガミ (おうさか みかげ)
惟神學園の高等部に通う男子。陽美谷ナギのクラスメイトで、身長177センチ、体重70キロ。誕生日は10月30日。赤みがかった髪で、よくも悪くも単純な性格をしている。同郷で幼なじみの田中モナカのことが気になっており、落ちこぼれのナギをダシにしてモナカの気を引こうとするが、そのやり方があまりに下心見え見えなため、モナカに冷たくあしらわれている。趣味は筋肉を鍛えることで、チョコ味のプロテインが好物。その鍛え上げられた体は、クラスメイトからひそかに「熊」と呼ばれている。ヒミコとしての神通力は、「念動力(サイコキネシス)」と「発火能力(パイロキネシス)」の複合能力者。念動力は100キロの重りを持ち上げられるほどに強力だが、発火能力はマッチ代わりになるくらいの弱い力しかない。呼び水を使った念動力の訓練中に暴走し、その際にナギに掌底を食らって気絶させられたが、ナギはこの出来事がきっかけで「熊殺し」と呼ばれるようになった。実家は寺で、四人兄弟の末っ子。上に兄が二人、姉が一人いる。神力が強かったために惟神學園に通うこととなったが、学校に進学したのは不本意で最初の1年は荒れていたが、モナカが学校に通い始めたことで落ち着いた。
美馬 みるる (みま みるる)
惟神學園の高等部に通う女子。陽美谷ナギのクラスメイトで、身長144センチ、体重32キロ。誕生日は4月10日。ふわふわなピンク色の髪をセミロングに伸ばしており、年齢の割に体格が小柄で、小動物的な雰囲気を漂わせている。両親が超自然学派で、国にヒミコであることをバレないように隔離して育てられた。虐待同然の育児だったようで、ほとんど部屋に閉じ込められ、まともに教育も受けさせてもらえなかった。年齢の割に小柄なのも、隔離で栄養と運動が足りなかったせいで、その事態が発覚したあと、保護されて惟神學園に通うこととなる。神通力は「精神感応(テレパシー)」と「残留思念読取(サイコメトリ)」の複合能力者で、人の思念を読み取るのが得意。しかし、学園に編入されたのが中等部3年生であったため、本来なら年単位で行う制御装置の調整が間に合っておらず、強すぎるその能力を周囲から恐れられている。その境遇も周知されているため、学園では腫れ物のように扱われている。ナギが捨てられていた両親の手紙を修復して持ってきたうえに、自分の能力を恐れず抱きしめてくれたことで、一気にナギに懐く。実は可憐(かれん)な容姿と重すぎる過去とは裏腹に、鋼のようなメンタルを持っており、自分の境遇をしっかり割り切っている。両親に対しても、まともな教育を受けてこなかったため、娘が「漢字を読めない」ことも知らずに、漢字で手紙を書いてきていることに呆(あき)れている。それに加えて残留思念読取で手紙に込められた「悪意」も読み取っているため、完全に両親のことを見限っている。漢字が読めないため成績も悪いが、能力が強力で警察関係と非常に相性がよいことから、神さまになれずとも将来は引く手あまた。そのため成績をまったく気にする様子もなく、マイペースに過ごしている。口調が幼いが、特技は「人を煽(あお)ること」で、かなりの毒舌家。好物はシュークリーム。
江道 トータ (えとう とーた)
惟神學園の高等部に通う男子。陽美谷ナギのクラスメイトで、身長169センチ、体重52キロ。誕生日は8月15日。灰白色の髪をしており、人を煙に巻くような飄々(ひょうひょう)とした性格をしている。神さまを何人も排出した「江道大社」の息子で、名門中の名門だが、家族から神さまになることを義務付けられ、現在はやる気を失っている。強い力を持ったヒミコで、家族からの言いつけを守って成績は落とさないようにしているが、それ以外の実技には手を抜いている。神通力は「透視能力(クレアボヤンス)」で、物体の透視に加えて遠くを見る遠視も可能で、高い神力もあってその気になれば山一つをすべて見渡すこともできる。ただし、家の事情から透視能力は女性から誤解を招きやすい能力なこともあり、神通力を使うことは好まない。家が名家であるため、そのツテを欲した人々にチヤホヤされるのに嫌気が差し、現在の毒舌家で壁を作るスタイルを形成するに至った。オリエンテーションで陽美谷ナギと同じ班となり、終盤まで力を使わずにいた。オリエンテーションのクリアに透視能力が必要となるも、意地でも能力を使わずにいたが、叱責する仲間からナギが自分をかばったのを見て、力を使うことを決意してチームを導いた。その後はなんだかんだナギを気に掛けている。実は座学の成績は学年1位で、神力も合わせた能力はクラス首席と評価されている。一方で、実は体力はほとんどなく、運動能力は壊滅的。華奢(きゃしゃ)な体型で、オリエンテーション後はしばらく筋肉痛で動けなくなっていた。また、同年代の人間には毒を吐くが、見知らぬ目上の人間を前にすると緊張し、ふだんのふてぶてしい態度は鳴りを潜め、借りてきた猫のようにおとなしくなる。
松田 タロウ (まつだ たろう)
惟神學園の高等部に通う男子。陽美谷ナギのクラスメイトで、身長170センチ、体重61キロ。誕生日は9月3日。平凡な顔立ちで、眼鏡をかけている。生真面目で面倒見のよい性格をした模範生ながら、個性的な人間の多い惟神學園では非常に地味な存在。その性格から暴走しがちな逢坂サガミのフォロー役も務めており、損な役回りが多い。落ちこぼれのナギにも分け隔てなく接し、オリエンテーションでは同じ班となった。「地味」「平凡」「ふつう」と周囲から思われているが、幼い頃にヒミコとしての能力を認められたエリート。ヒミコとしての神通力は「念動力」だが、サガミのように大きな物は動かせない。ただしメンタルは安定しており、まじめな性格もあって縁の下の力持ちとして活躍している。また意外と情報通で、学園に不慣れなナギに生徒や学園の事情を教えたりしている。好きな食べ物はショートケーキで、嫌いな食べ物はセロリ。そろばんを得意としている。
小林 レイリ (こばやし れいり)
惟神學園で教師を務める女性。陽美谷ナギたちのクラス担任で、女子寮の寮監も兼任している。ウェーブのかかった黒髪ロングヘアで、優しくも厳しい性格をしており、生徒が騒がしくしている際には実力行使で黙らせている。美馬みるるのことを気にかけ、彼女の両親が送ってきた手紙を内々に処理している。みるるも手紙が処理されている件は実は承知済みで、ナギがみるるに行った行動は完全な余計なお節介だったが、そのまっすぐな行動がみるるの心を開いた。このためナギの行動に気づきつつも静観し、みるるたちを温かく見守っている。ヒミコとしての神通力は「発火能力」。発火能力はかなり強力で、生徒へのお仕置きにも使われるため、非常に恐れられている。また非常に珍しいタイプの発火能力で、単純に火を出すだけではなく、熱をあやつって物体の状態を変化させることも可能。水を一瞬で気化させ、気化熱で対象の熱を奪うこともできる。非常に珍しい能力であるため、学生時代は祖父江マサユキの研究によく付き合っており、その縁で学園に教師として就職した。
飯波 ガラン (いいなみ がらん)
惟神學園で教師を務める男性。陽美谷ナギたちのクラスの副担任を任されている。生真面目ながら気弱そうな雰囲気を漂わせた青年で、過激な言動の小林レイリに振り回されている。
祖父江 マサユキ (そふえ まさゆき)
惟神學園で教師を務める男性。髪をオールバックにして眼鏡をかけ、神経質そうな見た目をしている。学園では神通力の使い方を生徒に教えているが、一方でマッドサイエンティストの傾向もあり、生徒を実験動物を見るような目で見て怯(おび)えさせている。ヒミコとしての神通力は「念動力」で、その力を応用して体の一部がどこかに触れていれば、どんな状態でも体勢を支えられる。足を壁につければそのまま壁を歩くことができ、天井からのぶら下がることも可能。椅子にアクロバティックな体勢で座り、そのまま何事もなく座り続けることもできる。
ホシノ
ツクヨミの付き人を務める青年。眼鏡をかけ、まじめそうな雰囲気を漂わせている。実質的なツクヨミのプロデューサーのような存在で、ド天然なツクヨミを、ミステリアスで神秘的な存在としてプロデュースしている。天然なツクヨミのボロが出ないように、台本まで用意している。また、私生活がだらしないツクヨミの世話もしており、実質的なツクヨミの保護者で、公私にわたって彼を支えている。
ウズメ
陽美谷ナギと陽美谷たけるの祖母で、「天宇受売命(あまのうずめのみこと)」を拝命する神さま。芸能と舞いの神である天宇受売命の名を拝命しているだけに、その神楽舞は老いを感じさせないほどにみごとな舞いだと評判だった。5年前に事故に遭って死亡した。ヒミコとしての神通力は、「ヒーリング」と「予知能力」の複合能力者。その力と神楽舞の評判から、生前は多くの人々に慕われ、陽美谷神社は活気に満ちたものとなっていた。ナギの神楽舞は祖母直伝によるものだが、一方でかなりアグレッシブなところがあり、ナギに神楽舞を応用した護身術も伝授している。実は予知能力によって自分の死期を予知しており、それが周囲に大きな影響をもたらすのを知っていた。ウズメはなんとかそれを避けようとしていたが、失敗した事態に備えて、ナギにいくつもの手紙を助言として残している。ただし、ウズメの予知能力はかなり変動的なもので、過信しすぎると逆に足元をすくわれるため、手紙には予知で見た未来についてはほとんど書かれていない。惟神學園の卒業生で、若かりし頃は能力が安定しなかったため、実技は赤点ばっかりだった。しかし學園長は、同時に誰よりも努力家だったと語っている。
學園長 (がくえんちょう)
惟神學園の學園長を務める初老の女性で、「大日女尊(おおひるめのみこと)」を拝命する神さま。見た目は初老に差し掛かるくらいだが、少なくても60年以上前から惟神學園で教師をしており、本来の年齢は見た目よりもさらに高齢。ヒミコとしての神通力は「精神感応」と「ヒーリング」など、いくつかの複合能力者で、精神感応は同じ能力を持つ美馬みるるを上回り、能力の応用で相手に幻影を見せるほど卓越した力を持つ。陽美谷ナギの祖母のウズメはかつての教え子で、彼女との思い出をナギに語って聞かせた。
場所
惟神學園 (かんながらがくえん)
ヒミコの育成に力を入れた私立の学校。神さまを日本一排出しているため、「神さま学校」の通称で一般には認知されている。神通力の制御を教える学校でもあるため、強い神通力を持つヒミコは惟神學園への編入が薦められた。通常の学校でも教えるカリキュラムに加え、神さまになるための祝詞(のりと)や和歌もカリキュラムとして存在するのが特徴。惟神學園は小中高の一貫校で、ほとんどの学生は幼少期に入学するか、ヒミコとして認定され編入したため、陽美谷ナギのように高等部に編入した例は稀(まれ)。強力なヒミコが数多く在籍するため、神通力を実際に使って訓練する「実技」も存在し、惟神學園では通例として筆記よりも実技が重要視される傾向にある。強力で有用な神通力の場合、神さま以外の職業でも引く手あまたで、エリートぞろいの学校として名を馳せている。また惟神學園独自の特色として、神さまになると名字がなくなるため、下の名前で呼ぶことが校則として義務づけられている。
その他キーワード
オリエンテーション
悲冷山(ひれいざん)で行われる惟神學園の行事。高等部に新入生が進級した直後に行われる恒例行事で、名目上は新入生の歓迎会となっている。しかし、実態は2泊3日の過酷なサバイバルで、神通力を使用して期限内にスタンプを集めてくるスタンプラリーとなっている。スタンプは山中に散らばった教師たちが持っており、それぞれの課題をクリアしてスタンプを手に入れる必要がある。また、サバイバルに必要な物資も最低限を除いて山中に隠されているため、新入生は神通力を駆使してこれを探さなければならない。神通力を使うのにも、山を歩くのにも体力が必要なため、班員同士で協力する連帯感と適切に神通力を使う判断力が重要となる。新入生はくじ引きによって班分けされるが、クリア不能とならないように神通力の種類がかぶらないよう、一応配慮されて班決めがされる。新入生は毎年苦労しているため、教師や上級生はサプライズとしてオリエンテーションの内容を新入生に秘密にしており、毎年犠牲者が増え続けている。実はスタンプは24時間で消える仕掛けがあり、すべてのスタンプがある状態でゴールしなければ無効となる。非常に難易度が高いため、美馬みるるはこれも生徒たちの実力を見定める、教師たちによる「テスト」の一環だと推測している。
神さま (かみさま)
優れたヒミコのみが取ることのできる国家資格。正式名称は「八百万」だが、専ら通称の「神さま」の名で呼ばれる。本物の「神様」ではなく、八百万の神々の名を冠した役職で、神さまに認定されたヒミコは神社に配属されて働くこととなる。神さまになるためには神通力が必要だが、それと同じくらい人格面も考慮され、強い神通力と優れた人格を兼ね備えた者のみがなることができる。人気商売でイメージが非常に重要視されるため、正式に神社と契約すると髪の長さから着る服まですべて制限されることとなる。また、イメージを壊す行為はそのまま死活問題となるため、神さまはその手の話題に非常に敏感。海外にも「フェアリー」と呼ばれる似た制度が存在する。
ヒミコ
「神通力」を使える人間。一昔前は「超能力者」のように眉唾物の存在として扱われていたが、近年は研究が進むにつれて、その存在が証明され、貴重な才能として認められている。神通力を使うためには「神力」という力を使う必要があり、ゲーム風に言うなら「神通力」が「魔法」、「神力」が「MP」という関係となっている。神通力には個性があり、それぞれ使える能力は違うが、中には「複合能力者」という、複数の能力を持つ者もいる。一部の優秀なヒミコは「神さま」となるが、その際に名字を失って神さまの名を名乗ることとなる。名を改める際に、元の名前が漢字だと意味合いが強いことから好まれない。そのためヒミコの存在が認知されて以降、子供の名前は漢字を使わず、カタカナか平仮名で名づける風習が広まった。
制御装置 (せいぎょそうち)
神通力を制御する装置。小さな水晶の付いたミサンガのような形をしており、手首に巻く形のものが多い。制御装置は神通力の種類によって設定が違い、神通力が発現したあとは毎月設定を修正する。強い神通力の場合、制御装置を着けたばかりでは能力が不安定になりがちで、暴発する可能性もあるが、3年ほどで制御装置の設定は完了して能力は安定する。「透視能力」や「精神感応」といった悪用しやすい神通力の場合、その能力者は誤解や偏見によって社会的に孤立する危険性がある。そのためそれらを防ぐためにも、制御装置はなくてはならない存在となっている。
呼び水 (よびみず)
神力を溜(た)めることができる装置。手のひらに乗る程度の大きさをした水晶の形をしており、ヒミコであれば呼び水内に溜められた神力を引き出して、ふだんより大きな神通力を使うことができる。ただし神通力によって神力の種類も違い、込められた神力が違うと、その力を使うことはできない。この性質を利用し、ヒミコの持つ神通力の種類の特定にも使われる。ヒミコは神力の制御が不安定となると暴走状態となるため、惟神學園ではその対策に神力の制御の訓練で呼び水が用いられている。呼び水には平均的なヒミコの数十人分の神力を溜めることができ、中の神力を使い果たすと、複数のヒミコが協力し合って溜めることができる。呼び水は力を溜めすぎると、強すぎる神力を誰も制御できなくなり、暴走状態となるが、それには100人分以上の神力を溜めなければならず、通常は起きることがない。しかし陽美谷ナギが呼び水に力を注ぎこんだ際には、暴走状態となり、駆け付けたツクヨミが呼び水を破壊することで事態を収めた。
超自然学派 (ちょうしぜんがくは)
本物の「神様」を信仰する人々の総称。人々に信仰されてきた昔ながらの「神様」を本物と考える派閥で、職業の「神さま」を偽物と断じ、科学の力で神通力を解明することを冒とくと考えている。一方で、「ヒミコ」の存在は神秘的な存在として肯定的に受け入れており、彼らの「保護」活動を推奨している。ただし中には過激派も存在し、テロリスト紛(まが)いの行動を行っている者もいる。直接、神さまに危害を加えたり、子供のヒミコを誘拐したりと、各地で超自然学派の引き起こした事件が起きている。美馬みるるも超自然学派の両親に「保護」という名目で隔離して育てられたが、そのせいでまともな教育すら受けられなかった。
クレジット
- 原作
-
日向 夏
書誌情報
神さま学校の落ちこぼれ 9巻 白泉社〈花とゆめコミックス〉
第1巻
(2022-01-20発行、 978-4592224211)
第3巻
(2022-09-20発行、 978-4592224235)
第4巻
(2023-01-20発行、 978-4592224242)
第5巻
(2023-05-19発行、 978-4592224259)
第6巻
(2023-09-20発行、 978-4592224648)
第7巻
(2024-01-19発行、 978-4592224723)
第8巻
(2024-05-20発行、 978-4592224853)
第9巻
(2024-09-20発行、 978-4592224983)