神・風

神・風

「化外の民」の宿命に翻弄される少女の御子神みさをと、彼女を守護する運命のもとに生まれた青年の石神カムロ。世界を滅ぼす魔獣「八十八匹のケモノ」の復活を阻止するために繰り広げられる、逸史に刻まれた者達の戦いを描いた和風伝奇バトル漫画。「月刊アフタヌーン」1997年5月号から2003年4月号にかけて掲載された。

正式名称
神・風
ふりがな
かみ かぜ
作者
ジャンル
怪談・伝奇
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世界観

古代、「天道神道」と呼ばれる自然哲学によって、調和と秩序が成り立っていた世界では、「空」「地」「風」「火」「水」の5元素によって世界が成り立っていると考えられていた。人間もその5元素によって生み出され、死ぬと、世界を構成する要素として再び循環する、という流れの中にある。人間は「地」の影響を強く受けた部族しか存在しなかったが、天変地異や移り住んだ先の気候風土に合わせて進化している内に数を増やし、5000年前にはそれぞれの元素の影響を強く受けた5種類の部族となっていた。各部族は各元素に合わせた異能の力を持っており、これらの部族を「化外の民」と呼ぶ。「化外の民」は「天道神道」を遵守し、自然との調和を守った理想的な生活を送っていたが、文明が発達すると、やがてその教えから離れていく事となる。自然との調和を失っていった「化外の民」は能力を失い、いわゆるただの人間となる。「赤土」と呼ばれる人間達の社会は、1000年前、「八十八匹のケモノ」と呼ばれる魔獣に襲われ、崩壊の危機に瀕した。そんな彼らを救ったのが、「まつろわぬ化外の民」と呼ばれる、「化外の民」としての純血と精神を受け継いだ五人の戦士である。彼らによってケモノ達は倒され、封印され、世界は平穏を取り戻した。しかし、ケモノ達は封印される寸前、五人の戦士の内の「空」「風」「火」の力を持つ三人の遺伝子に暗示を仕込んだ。それは、世界の邪悪が頂点に達する1000年後に、その子孫がケモノ復活のために働くというものだった。

作中におけるストーリーはこの1000年後、邪悪が頂点と達した現代を舞台に始まる。ケモノ達の掛けた暗示により「八十八匹のケモノ」を復活させようとする「風の民」「火の民」「空の民」と、それを阻止しようとする「地の民」「水の民」が対立し相争う構図となっている。彼ら「化外の民」は世界を滅ぼすために戦う陣営と、救うために戦う陣営に分かれているが、「化外の民」の価値観として「赤土」の民や社会に関心を持っておらず、いわゆる人間の命に価値を見出していない。そのため、一般市民を守る事など露ほども考えず、両者は場所を問わずに戦闘を繰り広げる事となる。「天道神道」による自然との調和共存という思想や、「化外の民」の独特の価値観、「八十八匹のケモノ」は世界中で高まった邪悪から生み出された存在である、という考えは世界観を構築するうえで、設定のみならずシナリオの展開にまで貫徹した一つのテーマとして存在している。「八十八匹のケモノ」の首領とも呼べる存在の「茅野」や、その対極の存在である「」。そして「水の民」の長の力として、人々や戦士の魂を癒やす力を持った御子神みさを。彼らが「天道神道」の説く調和から反れた世界をどのように導いていくのかが、物語の重要なポイントとなっていく。

あらすじ

第1巻

都内の地下鉄に異能を遣う存在である「化外の民」の藍隈火焔隈らが集結していた。理由は敵対する「化外の民」部族と、「地の民」部族の次代の長と目される石神カムロを待ち伏せるためであった。仲間の手によって予定通りおびき出されて来た石神へと襲い掛かる藍隈達。しかし、石神の持つ圧倒的な力と、神剣「神風」の前に手も足も出ずに敗北する。石神の目的は、「水の民」の長である御子神みさをを探し出し、その命を狙う藍隈達から守る事にあった。一方その頃、天涯孤独の身の上であるみさをは教会に預けられ、日々を過ごしていた。しかし雨の中に映像が見える、という不思議な力があるが故に気味悪がられてきた。これまでの人とは違い、初めて話をまともに聞いてくれる義母に、みさをは雨の中に見えた映像の話をする。それは、一人の男の姿が見えるというものだった。翌朝、学校へと通う途中でみさをはクラスメイトの櫻井を見掛ける。不良と目され、周囲から敬遠される彼女は、捨て猫を前に途方に暮れていた。知り合いに預けると困り顔でいう彼女と、みさをは普通に会話を交わして登校する。夜になり、家で食事の用意をしていたみさをは不安に襲われていた。雨粒の中に見た映像は男の姿のほかに、自分が男達に襲われる光景もあったのだ。相談すべきか悩んでいたところ、目の前で義母が突然倒れ、動揺するみさをの前に、謎の男達が姿を現す。それはみさをの命を狙う「化外の民」であった。この光景が映像で見えたものと同じだと気づいたみさをは、まだ「あの男」が現れていないと希望を抱く。その後、みさをの希望通り石神が姿を現し、彼の手によりみさをは辛くも難を逃れるのだった。翌日、倒れた義母を病院に送ったあと、みさをは自身の古くからの知り合いである雑誌記者の間瀬圭子を頼る。一通りの説明を聞いた圭子は、それが昨日の取材で手に入れたビデオに映っていた男と関係があるのではと疑念を抱く。そんな中、学校へ向かったみさをは、校舎の入り口で櫻井と偽名を名乗っていたクラスメイトである「化外の民」の藍隈と再会する。藍隈はみさをを屋上に連れ出し、学校は唯一、自分の事を人間として扱ってくれる大切な場所であり、ここでは手を出さないと告げる。しかしそんな中、階下で爆発音が鳴り響く。それは、藍隈以外の「化外の民」がみさをの身柄を手に入れるため、学校へと襲撃を始めた音だった。

第2巻

学校へ襲撃して来た「化外の民」との戦いで、石神カムロは「火の民」の長、比嘉悠に敗北し、御子神みさをを連れ去られてしまう。一方、みさをの通っていた学校で不発弾が発見された、という不審な報道を自宅で目にした間瀬圭子は、検問をくぐり抜けて学校へとたどり着く。そこに広がっていた光景は、生徒達の死体が転がる戦場のような有様だった。そこでまだ息のある少女、紅隈を保護した圭子は、一路みさをの住んでいた教会へと向かう。しかし、みさをの姿の代わりにそこにいたのは、石神だった。傷の治療を行う最中、石神の口から圭子に対して、みさをがさらわれた理由が語られていく。それは、正しい歴史の裏側で繰り広げられてきた逸史についてのものだった。1000年前に出現した世界を滅ぼす魔獣「八十八匹のケモノ」とそれを倒し、封印した「まつろわぬ化外の民」の存在。現代を生きる「化外の民」はケモノの施した暗示によって、ケモノの復活を望む「火の民」「風の民」「空の民」と、ケモノの復活を阻止しようとする「地の民」「水の民」に分かれて戦っているという。みさをがさらわれたのは、彼女が「水の民」の長となる血筋だからであり、自分は彼女を守るために生まれた「地の民」の男だと、石神は圭子に語る。さらわれたみさをを救うためには石神の持つ神剣「神風」を祖父のダイダラに鍛えてもらう必要がある。石神の要望をかなえてみさをを救い出すため、圭子に石神、そして帰る場所を失ったと語る紅隈は、石神の故郷である「地の民」の本貫地を目指す。しかし、村へとたどり着いた一行を出迎えたのは、敵対する「化外の民」の五人組「白浪五人男」であった。手も足も出ず敗北を喫した石神は、鳥居を壊されケモノを復活させられてしまう。しかし、ケモノを復活させた「白浪五人男」の思惑を超えて、ケモノらは敵味方の区別なく、すべてに対して無差別な攻撃を始める。石神はケモノ達を倒すため、最後の手段として、祖父ダイダラを切り捨て、その霊力を力とする「神風」の正式な継承を執り行う事とする。悲壮な決意のもと、圭子や「白浪五人男」らの見守る前で、石神は祖父を切り捨てるのだった。

第3巻

地の民」の本貫地での出来事から6か月が経過していた。御子神みさをは「風の民」の長、かえでの屋敷に依然として居候していた。高校に編入し、新たな生活を送るみさを。一方、界隈では「化外の民狩り」という、「化外の民」が突然襲われ、斬殺される事件が発生していた。複数回繰り返される事件に、罠を張って待ち構えた火焔隈は、もう一振りの神剣「神風」を持った「でき損ない」の一族の男、会田と出会う。あと一歩というところまで追い詰める火焔隈だったが、とどめを刺す前に比嘉悠によって呼び出されてしまう。その頃、みさをは突如現れた「国家安全保障議会」を名乗る組織の軍用ヘリによって連れ出されていた。行き先は、みさをの生地だという「水の民」の本貫地「恵水神村」。村で彼女を出迎えたのは、誰もいないと思っていた肉親である祖母の佐依だった。しかし、感動の再会も束の間、みさをへの気遣いの言葉を最後に、かえでの手によって佐依は殺されてしまう。「八十八匹のケモノ」が封印された鳥居を守る守護者を呼び出し、位置を割り出すための餌として、佐依は利用されたのだった。みさをは怒り、能力を発現させる。次は、みさをの番だと息巻く周囲の前に、現れたのは6か月のあいだ、行方の知れなかった「地の民」の長、石神カムロだった。

第4巻

東京に「八十八匹のケモノ」が現れる中、石神カムロ達の姿もまたそこにあった。自衛隊の兵器が効かない中、孤軍奮闘を続け戦う石神。一方、会田と行動を共にしていた間瀬圭子は、都内で戦闘を繰り広げるカムロと出会う。しかし「でき損ない」の一族として鬱屈とした想いを抱えていた会田は、感情を爆発させ、石神へと斬りかかってしまう。街を見回っていた御子神みさをと、偶然遭遇した紅隈が駆けつけて来た時には、会田は石神に一蹴されていた。己の未熟を認め、思いを改めた会田と共に石神達は、再度、「地の民」の本貫地へ赴く。石神は、地で眠る一族の前で決戦に向け、決意表明をするのだった。その頃、比嘉悠かえでもまた決戦に向けて、「風の民」の本貫地にある鳥居を壊すために動いていた。

第5巻

石神カムロ達は、それぞれの目的を果たすため行動を別にしていた。東京へ戻り、記者として最後の仕事に携わっていた間瀬圭子は突如、火焔隈の襲撃を受けてさらわれてしまう。御子神みさをの義母が人質となった知らせを受け、解放するために教会へ向かう紅隈。その頃、みさをは水に映し出された映像を頼りに単身、「火の民」の本貫地火神岳へたどり着いていた。しかし、彼女を待ち受けていた「火の民」の長、比嘉悠とのあいだで激しい戦闘が始まる。東京で利平を相手に戦っていた会田は、現れた弁天小僧菊之助日本駄右衛門によって「神風」を奪われていた。「神風」は彼らが「おとろし」と呼んでいた存在、「八十八匹のケモノ」の首領であり、「空の民」の長、茅野の手に渡る。「神風」でなければ自身を傷つけられない彼が、鳥居に封じられたケモノを復活させるために必要としていたのだった。石神はその時、「風の民」の長の屋敷を訪ねていた。鳥居を壊してから子供のような振る舞いをするようになったかえでと、彼女に付き添っていた藍隈。二人の前に石神が姿を現すと、予期せずして、かえでは気を失ってしまうのだった。

第6巻

戦闘の末、和解した御子神みさを比嘉悠の手によって案内されたのは、彼と「風の民」の長、かえでのあいだに生まれた息子ののもとだった。本貫地へみさをを導いたのは禅の力だったと伝えられる中、突如として結界を破り、「空の民」の長の娘として覚醒させられた間瀬圭子が襲い来る。圭子を前に戦う事のできないみさをは、ただ言葉を投げかけ、無抵抗を貫くよりなかった。首を絞めんと迫った、圭子は手を掛けたところで辛うじて意識を取り戻すが、現れた茅野の怒りを買い、周囲を巻き込んで亡き者とされそうになる。しかし、涙ながらに訴えかけたみさをと、対極の存在である禅の言葉に、茅野は矛を収める。彼は「水の民」の本貫地を決戦の場として告げ、立ち去るのだった。その頃、あふれかえった「八十八匹のケモノ」と落下した人工衛星による津波で甚大な被害を被った東京で戦っていた、紅隈南郷力丸弁天小僧菊之助。また、かえで、藍隈と行動を共にする石神カムロも決戦の地を目指し、移動を始めていた。やがて、恵水神村で集った彼らは、あふれかえるケモノを相手に決戦に臨むのであった。

第7巻

大地に突如として現れた裂け目に御子神みさをが飲み込まれる中、戦いは激化していく。茅野は、最後に残された「水の民」の鳥居を海底から地上へ引きずり出してしまう。一人、また一人と命が失われていく中、傷ついた藍隈もまた会田に看取られて息を引き取る。「八十八匹のケモノ」の大軍を一人で押しとどめていた石神カムロの前に姿を現す茅野。お互いが神剣「神風」を携える中、一騎打ちが始まろうとしていた。一方、その頃、大地に飲み込まれたみさをは、闇の中で龍となった祖母の佐依と再会を果たす。彼女の言葉によって、みさをは自身が「水の民」の長としてなすべき事を悟るのだった。

メディアミックス

ドラマCD

2003年にキングレコードよりドラマCD『神・風』が発売されている。本作『神・風』の内容を再構成して脚色した内容で、CD2枚組。出演者は主人公である石神カムロ役を石田彰、御子神みさを役を雪野五月、比嘉悠役を関俊彦、かえで役を折笠愛が演じている。

登場人物・キャラクター

石神 カムロ (いしがみ かむろ)

「地の民」の長にして、神剣「神風」の継承者である青年。「水の民」の長である御子神みさをを守護し、共に生きる宿命のもとに生まれた。「八十八匹のケモノ」すべての復活を目論み、そのために必要なみさをの命を狙う「風の民」「火の民」と対立している。当初は直感を刺激する特殊な石の能力に頼りきった未熟な戦士で、比嘉悠に敗北。 守護していたみさをを奪われ、さらには「地の民」の本貫地を滅ぼされるなど、敗北を重ねる事となる。自身の未熟を受け入れた石神カムロは、さらなる強さを手に入れるべく、正式な「神風」継承の儀を執り行うために、祖父であるダイダラを斬殺。精神的にも人間的にも「神風」の継承者に相応しい戦士へと成長を遂げていく。 肉体的にタフな人間の多い「化外の民」の中でも、特にずば抜けた体力の持ち主で、山奥にある「地の民」の本貫地から、徒歩で都内に向かっても顔色一つ変えないほど。また、敗北を乗り越えて成長した石神は、「八十八匹のケモノ」を寄せ付けないほどに卓越した剣術も手に入れ、ケモノの大群を一人で押しとどめるほどの強さを持つ。 寡黙で、自身の宿命や使命を果たす事を実直に追い求める人間である一方、珈琲を飲んだ事がなく、みさをに差し出されたそれを飲んで吹き出すなど、年相応の表情を見せる事もある。当初は存在してなかったが、数々の戦闘を繰り広げていく中で傷を負い、額から右目の下へかけて走る傷痕が顔に刻まれている。

御子神 みさを (みこがみ みさを)

「水の民」の長である少女。自身が「化外の民」である事を知らず、「赤土」の世界で暮らしていた。両親を幼い頃に飛行機事故でなくして以来、施設で暮らしてきたが、現在は都内にある教会に引き取られ、シスターである義母と暮らしている。華之下学園に通う女子高生として、不幸な身の上ながらも普通の生活を送っていた。ある日、クラスメイトである藍隈をはじめとする異能の集団に襲撃され、生活が一変。 「八十八匹のケモノ」を巡り「化外の民」が争う逸史の世界へと投げ出されてしまう。「赤土」の民として暮らしていた頃は優しく、誰にでも偏見のなく話しかける社交性を持ちながら、人の顔色をうかがって行動するおどおどとした性格だった。しかし、自身が「水の民」の長となり、戦わなければならない運命にあると知ってからは、自分の意思を通す強い信念と、慈愛をあわせ持つ性格へと成長していった。 その性格の変貌ぶりは、以前の御子神みさをを知る、藍隈や紅隈達を驚かせると共に、誰もが長としてのカリスマ性を感じるほどだった。「化外の民」としての能力に覚醒する以前から、水や雨の中に映像を見るという力を持っており、自身と共に生きる宿命を背負った「地の民」の長となる青年・石神カムロの姿を出会う前から知っていた。 能力に目覚めてからも、手で掬えるほどの水を集めるのが精々だったが、自覚を深めると共に、やがて「八十八匹のケモノ」を葬り去るほどの強力な力を得る。だが、みさをの能力の本質は戦うための力ではなく、人々の心を癒やし、鼓舞する能力であり、ケモノとの戦いが激化していく中で諦め始めていた人々に生きる希望を与えた。 本人は天涯孤独の身だと思っているが、祖母の佐依が「水の民」の本貫地で暮らしている。藍隈とは「化外の民」として知り合う以前から高校のクラスメイト。また「でき損ない」の一族である会田とも、編入先の高校で同じクラスだった。

比嘉 悠 (ひが ゆう)

「火の民」の長を務める男性。「風の民」と共に「八十八匹のケモノ」の復活を目論んでいる。「風の民」の長であるかえでとは恋仲で、15歳の時に禅という一子をもうけている。「火の民」の長として、圧倒的とも呼べる強い力を持っており、ほかの「化外の民」のみならず、神剣「神風」を所有する「地の民」の長である石神カムロですら歯牙に掛けないほど。 一族の悲願とも言えるケモノの復活のためならば、味方ごと敵を焼き払う事に躊躇いを見せない非情さも持ち合わせており、「白浪五人男」をはじめ陣営の「化外の民」達を、力とカリスマ性で率いている。しかし、そのような残虐な一面は1000年前に「八十八匹のケモノ」の長とも言うべき存在、茅野の手によって施された後催眠暗示が原因であると、のちに判明する。 ケモノの復活とともに暗示から解き放たれていった比嘉悠は、一族を率いるカリスマ性はそのままに、非情さは鳴りを潜め、仲間を思う、長に相応しい人格を表す事となる。

かえで

「風の民」の長を務める女性。「火の民」と共に「八十八匹のケモノ」の復活を目論んでいる。「火の民」の長である比嘉悠とは12歳の頃からの付き合いで恋人。15歳の時に禅という子供をもうけている。「赤土」の世界で「化外の民」として目覚めた人物を比嘉と共に保護し、一族として匿っている。そのため、藍隈や紅隈らからは、心酔とも呼べるほどに慕われている。 そのような心優しい一面を持つ一方で、4歳から10歳になるまであずけられ、育ての親とも呼べる存在である佐依を、「水の民」の鳥居の位置を割り出すための餌として命を奪う、という残虐な面を見せる事もある。しかし、ケモノの復活を望む心も含め、そのような残虐な面は「八十八匹のケモノ」の長ともいうべき存在である茅野によって、1000年前に遺伝子に仕組まれた後催眠暗示による影響だと判明する。 ケモノを復活させ、暗示から解放された際には一時的に幼児退行を引き起こし、子供のように振る舞っていた。また、その際には、佐依と再会するのを心待ちにするなど、自分が犯した出来事を記憶していない素振りを見せた。

(ぜん)

「風の民」の長であるかえでと、「火の民」の長である比嘉悠のあいだに生まれた息子。彼らが15歳の時に授かっており、年齢は5歳。「化外の民」の長い歴史の中でも初めて生まれた異部族間の子供である。年齢に似合わずしっかりとした喋り方をする少年であり、時には大人のように難解な話を繰り広げる事もある。自身の事を「空の民」の長である茅野の対極の存在であり、茅野の「負の総意」からの力を断つために生み出されたと語る。 「化外の民」としても強大な力を持っており、遠く離れた都心部に住んでいた御子神みさをのもとへ、「火の民」の本貫地の映像を届けるなど、各部族の長に匹敵するほど。しかしながら、母親であるかえでと久々の再会を遂げた際には涙を流して喜ぶなど、年相応に幼い面も見受けられる。

茅野 (かやの)

「空の民」の長とされる男性。存在の多くが謎に包まれている「空の民」にあって、その存在のみが「地の民」「水の民」の長であったダイダラと佐依に知られていた。その正体は「八十八匹のケモノ」の長と呼べる統率者であり、ケモノそのもの。遙かな昔に、人類の負の総意として世界に生み出された存在であり、自身の存在意義を問いかけながら長い時間を過ごしてきた。 1000年前に世界を襲った「八十八匹のケモノ」を率いていた者と同一の存在であり、ケモノが「まつろわぬ化外の民」によって封印された際には自身もまた、「まつろわぬ化外の民」であると偽装して現代まで生き残った。8年前に行われた「化外の民」の各部族の長による会議に突然姿を現し、1000年前に「化外の民」に潜ませた後催眠暗示を解放し、「火の民」「風の民」が「八十八匹のケモノ」の解放を宿願とするよう思考をあやつる。 それから暫くは姿を見せずにいたが、のちに「八十八匹のケモノ」を統べる少年、「おとろし」として再度姿を現し、「化外の民」の中で生活しながら現代についての知識を学んでいた。 「八十八匹のケモノ」の解放が進み、人類の負の感情が高まるにつれて、再び茅野としての活動を再開。石神カムロをはじめとする「化外の民」の前に、ケモノ達と共に強大な敵として現れた。生物か非生物かすら定かではない存在だが、唯一、身内として間瀬圭子という娘がいる。「化外の民」としての記憶を封じた状態で「赤土」の世界に住まわせており、茅野は圭子の事を「ビシャガツク姫」と呼んでいた。 比嘉悠とかえでのあいだに生まれた息子、禅は対極の存在にあたり、天敵ともいえる存在である。

藍隈 (あいぐま)

「天津三人組」の一人である少女。「風の民」の長であるかえでに心酔し、忠誠を誓っている人物で、ポニーテールの髪型をしている。幼少時はごく普通の「赤土」の家庭で生まれたが、両親に虐待されて育ったという過去を持つ。「櫻井」という偽名で普通の学校に通っており、御子神みさをが「化外の民」の騒動に巻き込まれる前からの知り合いでクラスメイト。 不良としてクラスから浮いていたが、躊躇せずに話しかけてくるみさをには、少なからず心を開いていた。のちに、みさをが「水の民」の長と知らされるまで「化外の民」だと気づいていなかった。みさをが騒動の中心となってからは、監視の名目でみさをと同じ高校へ通わされる事になる。「化外の民」の能力として風をあやつる事ができる。 蹴り技などの体術と、風に乗せた刃を投げつけるといった素早い攻撃を得意とする。

紅隈 (べにぐま)

「天津三人組」の一人である少女。小さい頃に「風の民」の長であるかえでに誘われ、それ以来、同じ屋敷に住んでいる。腰丈ほどまで伸ばしたロングヘアにしている。年齢は13歳。悪戯好きで活発な性格をしており、よくよくおばさん達に叱られている。根は善良で、仲間を思いやる優しい心の持ち主だが、「赤土」の世界や人間に対してはいい感情を持っていない。 「化外の民」の能力として動物と交流し、手なづける能力を持っている。そのため、特に動物を必要以上にいじめる人間に対しては敵対感情を持っている。「天津三人組」の一人として「八十八匹のケモノ」を復活させるため、御子神みさをの確保に向かうが、石神カムロに敗れて見捨てられる。 居場所を失ったが、間瀬圭子に拾われ、生活を共にするようになる。その後、復活した「八十八匹のケモノ」と相対した際に、動物達を手当たり次第に食い散らかす様を見て激怒。以後、カムロやみさを立ちに協力し、ケモノと敵対する道を選んだ。戦闘では中型犬のランスロットと共に活躍。また、戦闘以外でも「ネガ」や「ポジ」という鳥を使って諜報活動などを行っていた。

ランスロット

紅隈が飼っている犬。性別は明らかになっていない。中型犬ほどの大きさの犬で、紅隈の力となってあらゆる敵と戦う。その勇敢さたるや、動物と意思の疎通ができる紅隈の能力によって指示されたとはいえ、「化外の民」はおろか「八十八匹のケモノ」と戦うほど。

火焔隈 (かえんぐま)

「天津三人組」の一人である男性。「火の民」の長である比嘉悠に忠誠を誓う長身痩軀の人物で、背中の中程まで伸ばされた長髪を持つ。「化外の民」でありながら、パチンコやゲームといった「赤土」の民の、いわゆる「俗」な趣味を好む性格をしている。自分の力に対してプライドを強く持っており、石神カムロになす術もなく敗れた際には、山ごもりをしてまで自身を鍛え直したほど。 のちに、「八十八匹のケモノ」との戦いで圧倒的な強さを見せた比嘉やカムロの姿に美しさを見いだすなど、プライドの高さは彼が持つ独特の美学へと通じている。

間瀬 圭子 (まぜ けいこ)

雑誌の編集者をしている女性。ショートカットの髪型で、眼鏡をかけている。飛行機事故で両親を失っている御子神みさをに対して、遺族の追跡取材を行った際に出会い、以後友人にして姉のような近しい関係を築いてきた。「赤土」の世界で生きてきており、「化外の民」に関する知識がいっさいないごく普通の人間。同じ編集部で働いている紺野と交際しており、彼が妻帯者であるために不倫の関係にある。 石神カムロが映った爆破事件のカメラと、みさをが襲撃されたのをきっかけに「化外の民」をはじめとした、正史に埋もれた歴史、逸史の世界へと触れていく事となる。当初は「化外の民」の人間が持つ独特の感性や力に振り回される事となるが、石神に敗れて帰る場所を失った紅隈を自宅で保護し、共に生活を送るなどしているうちに、「化外の民」の世界への理解を深めていく。 しかし、本人が記憶していないだけで、実は「空の民」の長である茅野の娘「ビシャガツク姫」本人であり、「化外の民」の一部族の直系にあたる。茅野の手によって強制的に「化外の民」としての記憶を呼び戻された際には、「火の民」の結界を破り、比嘉悠と戦闘を繰り広げてみせるなど、強大な力を見せた。

会田 (あいだ)

「化外の民」と「赤土」の民の混血である「でき損ない」の一族の青年。石神カムロと似た雰囲気を持つ青年で、御子神みさをの編入した学校でクラスメイトだった。一族の使命として、代々「水の民」の長を隠れて守護しており、「地の民」の長が代々継承するものとは異なる、もう一振りの神剣「神風」を所有している。 みさをの命を狙う「化外の民」を嫌っており、陰で多数の「風の民」「火の民」を殺めてきた。そのため敵対する「化外の民」からは「化外の民狩り」と呼ばれ、多くの「化外の民」から怨まれている。永きにわたり一族で「水の民」の長を守ってきたという強烈な自負があり、1000年ものあいだ「水の民」の長を放置してきた「地の民」に対していい感情を抱いていない。 みさをが初めて「化外の民」に襲われた際に、石神が現れなければ会田が護っている予定だった事も相まって、石神に対して鬱屈とした思いを抱えている。初めて石神と出会った際には感情を爆発させ、「神風」で斬りかかった。その後、心機一転したのをきっかけに頭を丸めている。「神風」の使い手としては石神に技術や直感で劣るものの、石神を上回るパワーを持っている。

南郷 力丸 (なんごう りきまる)

「白浪五人男」の一人。部屋の天井に頭が届くほどの大男で、親子仲のとてもいい娘が一人いる。巨体に見合った怪力を武器に戦っていたが、「地の民」の本貫地を襲撃した際に復活した「八十八匹のケモノ」との戦いで、腕に深い傷を負った。のちに義手を着けて戦いを続け、最終的には利平の残したスペアの義手を着用し、ケモノとの戦いを繰り広げた。 一方で、性格はまじめで面倒見がよく、心優しい。

利平 (りへい)

「白浪五人男」の一人。会田からは、「白浪五人男」でもっとも下っ端と目されていた。ゴーグルにロングコートという出で立ちの小柄な男性で、「化外の民」ではあるが、特別な能力に目覚めていない。故に、「化外の民」の戦いに参加するために、「国家安全保障議会」から提供された技術によって、肉体を機械と融合する施術を自身に施している。 機械の混じった体の各所には、さまざまな隠し武器が仕込まれており、小型のミサイルのような兵器から銃に煙幕にと、多岐にわたるそれらを駆使して戦闘する。また、体が両断されても生き残るほどの強靱な生命力を有している。

弁天小僧 菊之助 (べんてんこぞう きくのすけ)

「白浪五人男」の一人。化外の民であり、「火の民」の長である比嘉悠に使えている。右腕が刃となった異形の外見ながら、女性と見まごう容姿の男性であり、中性的な雰囲気の持ち主。自身も「白浪五人男」の紅一点を自称したりと、容貌に対して自信を持っており、安藤という火の民の男と付き合っていた。化外の民として覚醒するまでは、赤土として暮らしていた過去ある。 当時は、右腕の事もあって周囲から気味悪がられており、施設を点々とする生活を送っていた。一時は一般家庭の夫婦に養子として引き取られたものの、夫婦のあいだに子供ができると邪魔者とみなされ、結果、生来の人の思いに対する嗅覚からそれを察してしまい、惨劇へとつながった。 赤土としての名前は「士郎」といったが現在は使用していない。

日本 駄右衛門 (ひのもと だえもん)

「白浪五人男」の一人。会田からは「白浪五人男」の大将と目されていた。「化外の民」と「八十八匹のケモノ」のあいだに生まれた存在を始祖に持つ男性。そのため、「化外の民」と「八十八匹のケモノ」、どちらに属するかを明確にせず、自らの力のみを信じてきた過去を持つ。行動を起こすための力を求めていた「火の民」の方針に目を付け、居場所とするために属していた。 そのため、ほかの民と異なり、比嘉悠やかえでといった長に対する忠誠心に乏しい、利己的な部分がある。「白浪五人男」の一人として名乗りを上げた際には、「真紅の闘士」を自称していた。

赤星 重三 (あかぼし じゅうぞう)

「白浪五人男」の一人。「風の民」の男性。名乗りを上げた際には「蒼い稲妻」を自称していた。長であるかえでに対して忠誠を誓うと共に、恋愛感情を抱いている。「化外の民」の中でも異質な「管理者」と呼ばれる能力を持っており、「八十八匹のケモノ」と融合して、その力や意思を管理する事ができる。その力を利用して、協力関係にある「国家安全保障議会」などと共に、ケモノの力やその原理を解明する研究に手助けをしていた。 研究の結果、手に入ったデータや素材は北堤一の肉体改造などに役立てられている。かえでの恋人である比嘉悠に対して非常に歪んだコンプレックスを抱いており、比嘉に勝る強い力を求めていた。のちに、その心を茅野に利用される事となる。

おばさん

化外の民の女性。比嘉悠とかえでが長を務める火の民、風の民の派閥に属している。身体は女性としては大きく、恰幅もいい。また、撫でつけられた髪型に濃いめの化粧と、存在感のある外見をしている。藍隈や紅隈といった派閥の人員が生活している屋敷に住んでおり、未成年者の生活の面倒を見ているなど、実質的な保護者的立場にある。 そのため、藍隈達からは慕われていた。戦闘の際には機関銃・MG34を手に戦う。水の民の本貫地のある恵水神村を訪れた際に、突如として現れた龍に食われ、命を落とした。

ダイダラ

石神カムロの祖父。「地の民」の先代の長。肩にかかる程の長髪に、こめかみと一体化した立派な髭を蓄え、きつめの方言で話す。同じく「水の民」の長であった佐依とは長い付き合いがある一方、長としては若輩であるかえでや比嘉悠とはほとんど面識がない。里では「地の民」の青年である助清を補佐に鍛冶を行っている。 のちに里が襲撃され、本貫地に封印されていた「八十八匹のケモノ」が解放された際、カムロの持つ神剣「神風」を少しでも強化するために、継承の儀を執り行った。儀式は、前任の者が新たな継承者の手によって「神風」で斬られるという事であり、しきたりの例に漏れずダイダラもまた、孫のカムロによってその命を絶たれる事となった。

佐依 (さえ)

御子神みさをの実の祖母。「水の民」の先代の長。「水の民」の本貫地が存在する恵水神村に住んでいる。着物姿の老母で、話す言葉にはきつめの方言が混ざっている。「水の民」としての強い矜恃を持った人物であり、肉親の情以上に、「水の民」としての責務を優先する。しかし、孫であるみさをに対して、祖母としての愛情を確かに持った優しい心根の持ち主でもある。 同じく「化外の民」の長であったダイダラや、現在の長であるかえで、比嘉悠とも知己。特に年齢の近しいダイダラとは長年の付き合いだった。また、かえでは4歳の頃から10歳になるまでのあいだを佐依のもとに預けられており、面倒を見ていた時期がある。「水の民」の長としては、村の外へ血脈が出て行く事を止めずにいた、因習に囚われぬ柔軟な思考の持ち主。 一方で、その方針から村の凋落を招くと共に、みさをの両親は「水の民」や「化外の民」の問題とは関係のないところで、飛行機事故にあって死亡してしまった過去がある。みさをが赤子の頃、みさをの母親である双葉が村でみさをを育てていたため、佐依にはみさを対する記憶があった。 しかし、みさを孤独の身になった時に引き取り手とならなかったため、みさをの記憶の中に祖母の記憶はない。守護者である龍をおびき寄せ、「水の民」の鳥居がどこにあるのかを割り出すための餌として、かえでの手によって命を絶たれた。

近永 勇 (ちかなが いさみ)

「国家安全保障議会」の管理下に置かれている広域統合師団と機関を預かっている男性。広域統合幕僚長の地位にあり、部下である北堤一らと共に、協力関係にある「化外の民」と共同して、「八十八匹のケモノ」の復活を目論んでいる。しかし、「火の民」「風の民」とは違い、「ケモノ」の復活は、あくまで「ケモノ」と「化外の民」の力を手に入れて国防に役立てるための手段と考えている。 周囲の空気を読まずに自分の思っている事を口にする性格をしており、他人が話している状況でも平気で誰かに話しかける。反面、自身に対する侮辱的な行為や言動には非常に狭量な面がある。そのような自己中心的な面の強い性格だが、「国家安全保障議会」の上役と現場の中間管理職的な立ち位置にあるため、現場の裁量以上の決定権を与えられておらず、苦慮する場面も見受けられた。

北 堤一 (きた こういち)

「国家安全保障議会」管理下の、広域統合師団および機関を預かる近永勇の部下の男性。寡黙でまじめな性格で、大きく、屈強な体軀をしている。「化外の民」である利平になされた肉体を機械と融合させる施術を、さらに進化させた、肉体に機械と「八十八匹のケモノ」の細胞を融合させる施術がなされている。そのため、「赤土」の人間でありながら「水の民」の鳥居を守る守護者と戦えるほどの戦闘力を有しており、体の大半が吹き飛ばされても死亡しないほどの、強い生命力を有している。 その反面、「八十八匹のケモノ」の弱点と記憶も受け継いでしまっており、石神カムロの持つ神剣「神風」を前にすると、恐怖のあまりまともに行動できなくなってしまう。

本並 (ほんなみ)

「国家安全保障議会」の管理下にある広域統合師団に所属する自衛官の女性。「八十八匹のケモノ」を復活させるために、近永勇や北堤一が恵水神村へ向かった際に軍用ヘリコプターに同乗していた。のちに作戦が失敗し、肉体の大半を失った堤一が目を覚ました際、状況を把握できない彼に現状を報告した。

下平 (しもだいら)

御子神みさをや藍隈が通う高校の教師。中年の冴えない男性で、左目の下に特徴的な大きなほくろがある。生徒達に敬われておらず、授業中にはほとんどの生徒が寝入っているほど。また、生徒である藍隈の不良という噂に怖じ気づいて、素行不良を注意できないなど、小心者なところがある。

紺野 (こんの)

間瀬圭子と同じ編集部で働く記者。中年の男性。新市か谷駅で起きた爆発事故のビデオ映像を、被害者の遺族から入手した。のちにダビングされたテープが圭子の手に渡り、圭子が「化外の民」を調査していくきっかけの一つを与えた。妻帯者ながら圭子と関係を持っている。

白黒 付太郎 (しろくろ つけたろう)

御子神みさをらが通う華之下学園の生徒。応援団の団長を務めている男子。ほかの男子生徒とは異なる、時代錯誤な学ランに下駄と制帽という出で立ちをしている。学園がみさをを巡る「化外の民」達による襲撃の舞台となった際に、屈強で大柄な体軀を活かして弁天小僧菊之助の前に立ちはだかるが、一刀で体を両断された。

助清 (すけきよ)

「地の民」の里で暮らす「化外の民」の男。蔓ではなく紐の丸眼鏡をかけ、坊主頭に作務衣という出で立ちをしている。石神カムロの祖父であるダイダラに付き従って鍛冶の補佐などを務める人物で、カムロとも知己。里が襲撃にあった際に、「白浪五人男」の手にかかった。

安藤 (あんどう)

「火の民」の男性。髪を脱色しており、眉毛の色と髪の色が異なる。また、黒色のロングコートを身にまとっている。「火の民」の人間として炎をあやつる能力を有していたが、「化外の民狩り」を行っていた会田の標的となり、ビルの上まで追い詰められた末、斬殺された。「白浪五人男」の一人、弁天小僧菊之助と付き合っていた。

観月 (みづき)

御子神みさをが編入先で友人となったクラスメイトの少女。肩ほどまでの長さのミディアムヘアで、前髪をヘアバンドで押さえ、額を出した髪型をしている。クラスメイトから、みさを以外に興味がないと言われるほどに付きっきりで接しており、みさをに対して社交的でお節介なまでに親切をやく一方、ほかの人間に対しては、愛想のないとげとげしい対応をするなど二面性がある。 その正体は、藍隈に仕えてみさをを見張っていた化外の民の人間。藍隈の監視任務のサポートとして派遣されており、みさをに対して素性を隠して親しくする任務を負っていた。しかしながら、みさをにはその目論見と正体を見抜かれていた。

小弥太 (こやた)

「火の民」「風の民」側に属する「化外の民」の青年。同じく「化外の民」の女性の時枝とは恋人の関係にある。「化外の民」同士の争いが本格的に始まる前に一族を抜け出し、時枝と二人、赤土の世界で静かに暮らそうとしていたが、逃走する前に計画が露見し、藍隈や火焔隈に見つかった。1000年にわたって続いた現状に強い閉塞感を抱いたがための決意で、同様の閉塞感を感じている「化外の民」も少なからず存在していた。 長である比嘉悠の差配により今後、片腕と、「化外の民」としての力を、「赤土」の民の前で使用しない事を条件に見逃された。

時枝 (ときえ)

「火の民」「風の民」側に属する「化外の民」の女性。同じく「化外の民」の青年、小弥太と恋人の関係にある。1000年にわたって続いた「化外の民」とのあいだの閉塞感に耐えられなくなり、本格的な争いが始まる前に恋人と駆け落ちしようとしたが、計画が露見。藍隈や火焔隈に、赤土の世界へ潜り込む前に見つかってしまう。 比嘉悠に処分されそうになった際はすべての責任を負って、恋人である小弥太をかばおうとするなど、恋人に対する強い想いと責任感を見せた。のちに、小弥太の片腕と異能の力を、「赤土」の民の前で今後いっさい使用しない、という条件で見逃された。

おつわ

「地の民」の本貫地に存在する、地の鳥居の守護者である土の精霊。言葉を話さず、性別は不詳。しかし、テレパシーのようなもので、直接に頭の中に伝える事はできる。人間の頭ほどの大きさで、おかっぱ頭をしている。中性的で幼げな外見とは裏腹に、「地の民」と共に永い時の中を生きてきた存在。そのため、神剣「神風」の継承の儀式において、前の継承者を切り伏せる光景を幾度となく眺めてきた存在でもあり、超然たる感性を周囲に示す事もある。 その一方で、永い時を共に過ごした「地の民」を信頼しており、身を挺してダイダラを守ろうとするなど、人間的な行動を示す場合もある。鳥居が崩壊し、ダイダラが死んだ事で石神カムロ以外の「地の民」が全滅した事もあり、姿を消した。

集団・組織

地の民 (ちのたみ)

5部族存在している「化外の民」の一つ。「八十八匹のケモノ」の恐怖の象徴となっている神剣「神風」を所有する部族で、代々の長がそれを鍛え上げてきた。「八十八匹のケモノ」を復活させようとする「風の民」「火の民」と敵対関係にあり、同じく復活を阻止しようとする「水の民」とは協力関係にある。山の奥に存在する部族の「本貫地」でひっそりと暮らしていたが、のちに「白浪五人男」の襲撃を受けて壊滅した。 長はダイダラが務めていたが、孫の石神カムロへと引き継がれている。のちに「神風」の継承の儀によってダイダラも犠牲となったため、実質的に部族はカムロただ一人となった。

水の民 (みずのたみ)

5部族存在している「化外の民」の一つ。水に関する異能を持った「化外の民」で、周囲から水を集めたり、水の膜で身を守るといったさまざまな力を行使できる。「八十八匹のケモノ」の復活を企む「火の民」「水の民」と敵対関係にあり、同じく復活を阻止しようとしている「地の民」とは協力関係にある。部族の方針として、血脈を外へ広げていく方針を採っていた事から、本貫地である村は完全に寂れきってしまっており、廃村が決まっている。 部族としても衰退しきっており、現在の長である御子神みさをを除いては、祖母である佐依のほかに存在が確認されていない。その佐依もまた、「八十八匹のケモノ」が封印されている鳥居の位置を割り出すための餌として利用され、命を落としたため、実質的に「水の民」は、みさをただ一人となった。

風の民 (かぜのたみ)

5部族存在している「化外の民」の一つ。風に関する異能を持った「化外の民」で、風の刃や、風によって加速した武器を投げつけるなど、能力は多岐にわたる。「八十八匹のケモノ」の復活を目論んでおり、同じく目標を持つ「火の民」とは協力関係にある。その一方で、「八十八匹のケモノ」の復活を阻止しようとする「地の民」「水の民」とは敵対関係にある。 現在の長はかえでが務めている。

火の民 (ひのたみ)

5部族存在している「化外の民」の一つ。火に関する異能を持った「化外の民」で、炎を生じさせたり、周囲に種火を設置し爆破する、などの力を持つ。同じ「化外の民」である「風の民」と同様に「八十八匹のケモノ」の復活を目論んでおり、反対に復活の阻止を掲げる「地の民」「水の民」とは敵対関係にある。現在の長は比嘉悠が務めている。

空の民 (うつほのたみ)

5部族存在している「化外の民」の一つ。「化外の民」の中でも特異な存在であり、長である茅野を除いたほかの民の存在を知られていなかった。のちに間瀬圭子が茅野の娘である事が判明した。「化外の民」と伝承によって伝えられているが、その実、1000年前に発生した「八十八匹のケモノ」の長ともいえる存在であり、ケモノそのもの。 「化外の民」であると現代に至るまで偽り続けてきた。

天津三人組 (あまつさんにんぐみ)

「火の民」「風の民」に属する「化外の民」の中でも、火焔隈、藍隈、紅隈の特に有力な三人。火焔隈が「火の民」の長である比嘉悠に忠誠を誓う一方で、藍隈や紅隈は「風の民」の長であるかえでに忠誠を誓っているなど、「白浪五人男」と同様、部族をまたいだまとまりとなっている。

白浪五人男 (しらなみごにんおとこ)

「火の民」「風の民」に属する「化外の民」の中でも、日本駄右衛門を筆頭に弁天小僧菊之助、南郷力丸、赤星重三、利平の特に有力な五人。日本や菊之助が「火の民」の長である比嘉悠に忠誠を誓う一方で、赤星は「風の民」の長であるかえでに忠誠を誓っているなど、「天津三人組」と同様、部族をまたいだまとまりとなっている。

国家安全保障議会

内閣総理大臣を議長とした組織。国が設立した「化外の民対策議会」で、議会の管理下には軍事力を持った広域統合師団や、機関が置かれている。「化外の民」が持つ現在の「武器」の概念とはまったく異なる力を研究し、国の力とする事を目的としている。また、条約の枠を超えて「化外の民」らの情報収集を独自に始めた米軍に対抗するなど、他国に対抗するための組織でもある。 「八十八匹のケモノ」の復活を目論む「火の民」「風の民」と協力関係にあり、利平に施された人体と機械を融合させる施術などの技術提供の見返りに、「八十八匹のケモノ」に関する情報や素材の提供を受けている。

でき損ない (できそこない)

「化外の民」と「赤土」の民の混血で、どちらの世界にも属していない集団。街の、文字通り地下に潜伏して暮らしており、地下鉄や下水道の奥深くなどに集落を築いている。一族の方針として、外へ外へ血族を広げていくという方針を採っている「水の民」の長を、代々影から守護する事を使命としている。そのため、「水の民」と敵対して長の命を狙う「風の民」や「火の民」といった「化外の民」とは敵対関係にあった。 「地の民」が持つ神剣「神風」とは異なる、もう一つの小刀の「神風」を所有しており、一族の青年である会田に授けられている。

場所

華之下学園 (はなのしたがくえん)

御子神みさをや藍隈らが通う私立高校。東京都内にある学校で、複数の棟を持つ。授業態度の悪い生徒が多く、みさをのクラスメイトの大半は授業中に寝ていたほど。また、髪の色を染めている生徒も多く在籍する。みさをを巡る「化外の民」の戦いの舞台となり、平日に襲われた事もあって多数の死傷者を出した。

恵水神村 (えみしむら)

「水の民」の本貫地である港町。御子神みさをの生地。寂れた寒村であり、すでに廃村が決定しているほどに人口が少ない。みさをの祖母である「水の民」の長である佐依が住んでおり、「八十八匹のケモノ」が封印された鳥居を守護している。

火神岳 (ひがみだけ)

「火の民」の本貫地のある山。険しい山で、地元の住民は誰も近寄ろうとしないほど急峻。また、「火神さん」と呼ばれる神様が火神岳を守っているという言い伝えがあり、誰も近寄ろうとしない。「地の民」の本貫地以上の霊力に満ちあふれており、普通の人間では近づく事すら難しいほどの結界となっている。

その他キーワード

化外の民 (けがいのたみ)

異能の力を持つ五つの部族。それぞれの部族は自然哲学の一つである「天道神道」における、5元素に応じた異能を有しており、対応する力ごとに「空の民」「地の民」「風の民」「火の民」「水の民」と呼ばれる。もともとはあらゆる人間は「地人」、すなわち「地の民」であったが度重なる天変地異や、移住先の気候風土に適応するうちに独自の進化を遂げ、5000年前に5つの部族に分かれた。 「天道神道」の説く調和と平等の精神から、自然と共存共栄の世界を構築する事によって力を得ていたが、文明が発達にともない、異能の力は失われていった。完全に力を失い、いわゆる「人間」となった存在を「化外の民」と区別して「赤土」と呼ぶ。1000年前に「八十八匹のケモノ」と呼ばれる存在が現れて世界を滅ぼしかけた際には、ほとんどの人間が力を失っていた。 しかし、突如としてどこからか現れてケモノ達を討伐した五人の「化外の民」がおり、これを「まつろわぬ化外の民」という。1000年後の現在に残る「化外の民」の部族は、この「まつろわぬ化外の民」の子孫と「八十八匹のケモノ」が現れた出来事の前後に、新たに「赤土」の民の間で出現した「化外の民」であるとされる。 異能のほかに「化外の民」は驚異的な回復力を持っており、「赤土」の民の兵器や力によって重傷を負わされたとしても、数日で傷を癒やす事ができる。また「化外の民」に傷つけられた場合でも、胸を貫通するほどの重傷であっても即死せずに生き残れるなど、人体として非常に強い耐久力を持っている。

まつろわぬ化外の民 (まつろわぬけがいのたみ)

5元素に対応した異能を持つ「化外の民」の中でも、特別に強い力と血統を持った存在。由来は、1000年前に「八十八匹のケモノ」と呼ばれる魔獣が現れて破壊の限りを尽くした際にさかのぼる。当時、ほとんどの「化外の民」が文明の発展にともなって力を失ってしまっており、抵抗らしい抵抗ができなくなっていた。そんな、なす術を失った人間の前に突如として現れ、「八十八匹のケモノ」を倒して回ったのが「まつろわぬ化外の民」だった。 「化外の民」として純粋な血と力を受け継ぐ五人の戦士である彼らはその後、「八十八匹のケモノ」を封印する事に成功する。それらの出来事から時が経ち、現代においては、「化外の民」の中でも「まつろわぬ化外の民」の血と力の両方を強く受け継いだ子孫を、特に普通の「化外の民」と区別して呼び表す。 現在、「まつろわぬ化外の民」と呼ばれる人物は五人存在するとされている。

赤土 (あかはに)

「化外の民」に対して、異能を持たない、いわゆる人間および一般社会を指す言葉。もとは「化外の民」の部族のどれかに属していたが、文明が発達するに従って「天道神道」の説く自然との調和の精神から乖離していった結果、異能の力を失った。1000年前に発生した「八十八匹のケモノ」との戦いが原因で、「赤土」の民からも「化外の民」が再出現した。 これにより、一般社会の中に自身が「化外の民」だと自覚せずに過ごしているケースが存在し、その多くは家族や社会から迫害されている。

国津五大人

1000年前に「八十八匹のケモノ」を倒し、封印した五人の「まつろわぬ化外の民」の戦士。文明の発達にともない、「天道神道」の説く自然との調和を重んじた生き方から離れて力を失った「化外の民」や赤土の人間。彼らに対し、教えに忠実な暮らしを維持し続けていた「国津五大人」は、絶大な力を維持していたとされる。 現代の「化外の民」の各部族の長は、この「国津五大人」の末裔とされている。

眠りの香 (ねむりのこう)

「化外の民」が使用する「赤土」の民を眠らせる香。人払いが必要な作戦を実行する場合に使用される。「化外の民」以外の人間を寄りつかせない、一種の結界として機能しているが、その量によっては眠らない「赤土」の民が出てしまうなど、確実性に乏しい部分がある。

八十八匹のケモノ

1000年前に突如として世界に現れた謎の存在。「化外の民」の力以外では傷つける事のできない強靱な肉体と回復力を持ち、武器や兵器などと同一化する能力を持つ。人間達が「化外の民」の力をほとんど失っていた1000年前に、一度は世界を滅ぼしかけるほどに暴れ回ったが、現れた「まつろわぬ化外の民」の「国津五大人」によって封印された。 その折に、神剣「神風」によって一方的に切り裂かれた記憶が、トラウマとして深く刻み込まれている。「八十八匹のケモノ」は「化外の民」の各部族の本貫地の鳥居に1000年後も封印されており、封印を解くためには、各部族の長の血を鳥居にかける必要がある。

神風 (かみかぜ)

「地の民」の長に代々継承されてきた刀。1000年前の「八十八匹のケモノ」との戦いにおいて使用され、圧倒的な力のもとケモノ達を封印した。現在に至るまで、ケモノ達の深層心理には、その時の出来事がトラウマとして刻まれており、「神風」を前にしただけで体が萎縮し、まともに攻撃ができなくなるほどに恐れている。霊力を吸収するという力を持っており、その地の霊や「化外の民」の異能によって生じた力がその対象となる。 また、代々刀を継承する際に先代の長を切り伏せ、その霊力を力として蓄えるという因習が繰り返されてきた過去を持ち、強力な力を手に入れてきた。刀は二振り存在しており、うち、小刀の方が「地の民」ではなく「赤土」の民と「化外の民」の混血である「でき損ない」の一族に渡っている。

天道神道 (あまなりのみち)

古代に信じられていた自然哲学。空(ウツホ)、地(ハニ)、風(カゼ)、火(ホ)、水(ミヅ)の5元素によって世界は構成され、成り立っているという考えで、森羅万象はこれら5元素から成り立ち、時間の経過と共に再び収斂、還元されていくとされる。「天道神道」の世界観において、人間とほかの動植物との間は同格とされ、自然の一部に過ぎない。 人間はもともと、現在は「化外の民」とされる「地の民」の一種類しか存在しないとされ、気候風土や天変地異の影響を受けて進化した。結果、「天道神道」の唱える5元素に従った能力を持つに至り、「化外の民」の5部族が成立した。いわゆるただの「人間」とは「化外の民」達が文明の発達と共に「天道神道」の精神を失い、能力を失った結果とされている。 また、「八十八匹のケモノ」は「天道神道」の説く循環法則に反した調和を乱す存在とされ、5元素に還元されない。そのために、邪悪の魔物とされている。

本貫地 (ほんかんち)

「化外の民」の一族が守護している土地や村を指す。「本貫地」には「八十八匹のケモノ」を封印した鳥居が存在しており、鳥居の存在する場所が「本貫地」の中心とされている。その多くは都心部から大きく離れた僻地や秘境に存在する。鳥居は霊的な結界で守護、隠匿されており、純粋な「化外の民」以外では存在に気づく事すら難しい。

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