あらすじ
第零篇
来訪神は特定の日に現れ、厄を払い福をもたらすといわれる。古来人々は、来訪神を迎えるために「祭り」を開いて、もてなしてきた。ある時、来訪神たちは、特定の日以外にもさまざまな「祭り」が開かれていることに気づく。卒業式や文化祭、ハロウィン、クリスマス、同人イベント、Twitterの炎上などなど。来訪神たちは、こうした現代の「祭り」に勝手にやって来て、目星をつけた人間に期間限定の特別な能力「ギフト」を与えるのであった。
第壱篇 尾上智美(17)の場合。
文化祭の準備をする尾上智美のもとに、狂喜の仮面を被った神・ハルがやって来る。ハルは智美に特別な能力「ギフト」を授けた。智美に与えられた「ギフト」は「固定」。自分以外の誰かの感情を永遠に固定できる能力である。智美は、クラスメートの佐々木晴人に片思いしていた。晴人に好意を抱かせた瞬間、ギフトを使えば、永遠にその感情を固定できるのだ。智美は、晴人に好意を抱かせる方法を必死で考えるが、どうやってもうまくいきそうにもない。そこで彼女は、好意とは真逆の感情を、晴人に植え付けることを思いつく。
第弐篇 花村将吾(36)の場合。
クリスマスが近づく中、花村将吾は、憤怒の仮面を被った神・シュカに取り憑かれる。シュカが将吾に贈った「ギフト」は「解放」。胸の内に隠している感情を解放させる能力である。人間のむき出しの本性を見たいというシュカだが、将吾は「ギフト」を一度も使おうとしない。3年前、DVが原因で離婚。妻子と離れて暮らす将吾は、アンガーマネジメントのトレーニングで生まれ変わったことを自負していた。本性を剥き出しにしていいことなどないことをよく知っていたのだ。
第参篇 三谷成久(16)の場合。
4月17日の朝、三谷成久が目を覚ますと、部屋の片隅に悲哀の仮面を被った神・ハクがいた。三谷に授けられた「ギフト」は「円環(ループ)」。円環は既に始まっており、円環を停止するには「祭り」を止める必要があるという。「祭り」とは、4月17日に学校で起きる、清水真由の飛び降り自殺だった。三谷は清水の自殺を止めるまで、4月17日から出られないのだ。
第肆篇 伊藤薫子(33)の場合。
高校教師で、クラスの副担任を務める伊藤薫子。彼女のもとに来たのは、享楽の仮面を被った神・ゲト。薫子への「ギフト」は「剥奪」。対象者の最も優れた能力を奪うことができるというものだった。演劇で食べていくという夢を持っていた薫子は、大学生のときに挫折。せめて高校で演劇部の顧問になりたいと考えるが、それも叶わなかった。夢や才能は人を惑わせ、「現実」に苦しめられることになる。そのことを痛感している薫子は、卒業式の当日、生徒たちに「ギフト」を使用する。
第伍篇 佐々木柚希(15)の場合。
佐々木柚希が5歳の頃、両親が離婚して父が出ていった。その1年後、母が再婚。新しい父には子供がおり、柚希に佐々木晴人という兄ができた。晴人となかなか仲良くなれずにいたある日、柚希は、狂喜の仮面を被った神・ハルに取り憑かれる。彼女に与えられた「ギフト」は「固定」。相手の感情を永遠に固定できる能力である。お祭りの日、迷子になってしまった柚希は、晴人に助けられる。柚希は泣いて晴人に抱きつき「自分のことが好きか」と尋ねた。少々困った顔で「好きだ。妹だから」と答える晴人。その瞬間、柚希は「ギフト」を使用した。晴人の「好き」という感情は固定され、その日を境に二人は仲の良い兄妹になる。しかし、ある日を境に、晴人の頭の中はクラスメートの尾上智美への怒りでいっぱいになり、柚希には見向きもしなくなってしまう。
第陸篇 清水真由(17)の場合。
清水真由が高校2年生の秋、あるハメ撮り動画がネットに流出。それが真由に似ていると噂になった。見に覚えのない真由はあっさり否定。周囲もそれを支持する。しかし噂は独り歩きしていき、4か月経っても消えるどころか、どんどん拡大していた。そして迎えた4月17日、自殺するつもりで学校の屋上に向かった真由は、そこで待ち受けていた三谷成久と会う。
登場人物・キャラクター
尾上 智美 (おのえ ともみ)
「第壱篇 尾上智美(17)の場合。」「第伍篇 佐々木柚希(15)の場合。」の主人公。高校3年生の17歳で、ポニーテールと眼鏡が特徴の地味めな女子。クラスメートの佐々木晴人に好意を寄せているが、自分には彼に告白する資格すらないと考えている。狂喜の仮面を被った神・ハルに取り憑かれ、「固定」の「ギフト」を授けられる。
花村 将吾 (はなむら しょうご)
「第弐篇 花村将吾(36)の場合。」の主人公。36歳の男性。若くして娘が生まれたため、大学を中退して就職。良い私立中学に入学した娘の学費を稼ぐために、がむしゃらに働く。やがて、妻のささいなミスを許せなくなり、暴言を繰り返す。それが原因で3年前に離婚。怒りを制御できなかったことを反省し、アンガーマネジメントのトレーニングを受ける。クリスマスが近づく時期に、憤怒の仮面を被った神・シュカに取り憑かれ、「解放」の「ギフト」を授けられる。
三谷 成久 (みたに なりひさ)
「第参篇 三谷成久(16)の場合。」の主人公。また「第陸篇 清水真由(17)の場合。」の登場人物。高校生3年生の男子で、清水真由の同級生。悲哀の仮面を被った神・ハクに取り憑かれ、「円環(ループ)」の「ギフト」を授かる。そのせいで、4月17日という同じ日をループし続ける。ループから脱出する条件は、17日に自殺する真由を止めること。しかし、無限に時間が使えることに気づいた成久は、ループの中で何十年という時間を過ごす。
伊藤 薫子 (いとう かおるこ)
「第肆篇 伊藤薫子(33)の場合。」の主人公。クラスの副担任を務める高校教師で、33歳の女性。高校の頃は演劇部に所属。ゆくゆくは劇団を立ち上げたいと考えていたが、大学で所属した演劇サークルで挫折を経験。教師になったあと、せめて演劇部を立ち上げて顧問になろうとするが、それも叶わなかった。享楽の仮面を被った神・ゲトに「剥奪」の「ギフト」を授けられる。
佐々木 柚希 (ささき ゆず)
「第伍篇 佐々木柚希(15)の場合。」の主人公。また「第壱篇 尾上智美(17)の場合。」の登場人物。15歳の女子高生で、佐々木晴人の血の繋がらない妹。ツインテールが特徴。5歳の頃両親が離婚し、母と二人暮らしをしていたが、1年後に母が再婚。新しい父親、兄・晴人と4人暮らしとなる。晴人を拒み続けるが、あることから晴人を冷静に観察できるようになり、最終的には好意を抱くようになる。狂喜の仮面を被った神・ハルに取り憑かれ、「固定」の「ギフト」を授けられる。
清水 真由 (しみず まゆ)
「第陸篇 清水真由(17)の場合。」の主人公。また「第参篇 三谷成久(16)の場合。」の登場人物。高校3年生の女子で、17歳。三谷成久の同級生。唇左下のホクロが特徴。高校2年生の秋、自分似ている女性のハメ撮り動画が拡散される。デマだったが、あらぬ噂が独り歩き。誰にも助けてもらえず、ついには自殺を決意する。
佐々木 晴人 (ささき はると)
「第壱篇 尾上智美(17)の場合。」「第伍篇 佐々木柚希(15)の場合。」の登場人物。高校3年生の男子で、17歳。佐々木柚希の血の繋がらない兄。8歳のときに父親が再婚し、新しい母の連れ子であった柚希の兄になる。新しい家族となった柚希と仲良くしようとするが、始めのうちは拒まれ続ける。その後、お祭りで迷子になった柚希を助けたことで兄妹仲が良くなる。尾上智美とはクラスメート。
ハル
「第壱篇 尾上智美(17)の場合。」「第伍篇 佐々木柚希(15)の場合。」の登場キャラクター。「喜」の来訪神。狂喜の仮面を被った神で、喜びの感情しか持たない。燕尾服と異様に長い爪が特徴。人間に贈る「ギフト」は「固定」。尾上智美、佐々木柚希のもとに現れ、自分以外の誰かの感情を永遠に固定する能力を授ける。
シュカ
「第弐篇 花村将吾(36)の場合。」の登場キャラクター。「怒」の来訪神。憤怒の仮面を被った神で、友情・努力・勝利を司る。いつも不機嫌で、些細なことでもすぐに怒る。取り繕った仮面を剥がし、本性をむき出しにした人間を見るのが好き。四本腕が特徴。人間に贈る「ギフト」は「解放」。花村将吾のもとに現れ、胸の内に隠している感情を解放させる能力を授ける。
ハク
「第参篇 三谷成久(16)の場合。」の登場キャラクター。「哀」の来訪神。悲哀の仮面を被った神で、豊穣・労働・知識を司る。あらゆることを悲観的に考え、不安と後悔のために常に泣いている。丸い大きな頭が特徴。人間に贈る「ギフト」は「円環(ループ)」。三谷成久のもとに現れ、今日という一日を永遠に繰り返すことができる能力を授ける。
ゲト
「第肆篇 伊藤薫子(33)の場合。」の登場キャラクター。「楽」の来訪神。享楽の仮面を被った神で、別れ・死・繁殖・音楽・ダンスを司る。他人などお構いなしに、楽しければなんでもよいと考えている。異様に長い腕が特徴。人間に贈る「ギフト」は「剥奪」。伊藤薫子のもとに現れ、対象者の最も優れた能力を奪うことができる能力を授ける。
その他キーワード
ギフト
来訪神によって与えられる特別な能力。「喜」の来訪神・ハルは「固定」、「怒」の来訪神・シュカは「解放」、「哀」の来訪神・ハクは「円環(ループ)」、「楽」の来訪神・ゲトは「剥奪」を人間に贈る。使用方法や使用回数、対象人数はギフトによって異なるため、来訪神によって説明書が用意されている。
クレジット
- 原作
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岩城 裕明