概要・あらすじ
タグ・パリジャンという少年がフランスのモンマルトルの街にやって来た。歌や踊りがうまく、ケンカも強いタグは一躍街の人気者になる。しかし彼の正体は、14歳ながら凄腕の詐欺師だった。有名ピアニストのヴィルヘルム・バックハウスを騙して内弟子になったタグは、ジュネ・オルタンスのもとにピアノを教えに行くことになる。
タグとジュネが徐々に親交を深めていくなか、タグはジュネの母親であるブリジット・オルタンスを詐欺のターゲットに定める。だが、友情と仕事の間で揺れたタグは、モンマルトルの街を出ることを決意する。
登場人物・キャラクター
タグ・パリジャン (たぐぱりじゃん)
両親を早くに亡くし、詐欺で生計を立てて街から街へと渡り歩いている14歳の少年。凄腕の詐欺師で、かつての仲間であったフィルにもその腕を買われている。しかし過去にフィルに裏切られてからは、人をまったく信用しなくなった。歌や踊り、楽器演奏からケンカにいたるすべての才能に長けており、女性の扱いもスマートにこなす。そのため、街では名の知られる人気者である。 自らのパトロンにすべく、「ジャン・ピエール」の偽名を使って有名ピアニストであるヴィルヘルム・バックハウスの内弟子になるが、それが縁でジュネ・オルタンスにピアノを教えることになる。ジュネはタグ・パリジャンに自らの首を締めさせてタグを試すような行動を取るが、その後も交流を続けて2人は深い絆を構築する。 しかしその友情と、ジュネの母親であるブリジット・オルタンスを騙す仕事の狭間で苦悩し、ジュネの前から姿を消す。
ジュネ・オルタンス (じゅねおるたんす)
警察署長のジュネの父と、上流階級の社交界でも名の知れたブリジット・オルタンスを両親に持つ少年。初めてタグ・パリジャンと会った時、タグはヴィルヘルム・バックハウスの内弟子の「ジャン・ピエール」を名乗っていたが、ジュネ・オルタンスはフィルの策略によってタグの正体を知っていた。タグに対し、正体を黙っている代わりに友人になるよう打診したり、タグに自分の首を締めさせて試したりといった言動を取るが、それは孤独の裏返しでもある。 これをきっかけにタグとジュネは徐々に友情を深めていき、性格もどんどん明るく素直になっていく。一方、若い男と遊びほうけている母親のブリジットに嫌悪感を持っており、タグがブリジットと関係していることに気付いて大きなショックを受ける。 タグがモンマルトルを去った後、心機一転パリの寄宿学校に行くことになり、そこでタグと再会することになる。
ヴィルヘルム・バックハウス (ゔぃるへるむばっくはうす)
今世紀最大のピアニストとうたわれる男性。自らのコンサート会場の前で商売をしていたホットドック屋を場違いだと追い払うなど、プライドが高い。タグ・パリジャンがモンマルトルで最初に目を付けたターゲットであり、タグが「ジャン・ピエール」を名乗って内弟子を志願した時には、何も知らずに快く受け入れた。ピンセット・ファン・コッホとは犬猿の仲である。
ブリジット・オルタンス (ぶりじっとおるたんす)
ジュネ・オルタンスの母親で、上流階級の社交界では知られた存在。若い男性と遊ぶことを趣味としている。タグ・パリジャンに第2のターゲットとされており、タグは「アムール」の偽名を名乗って彼女に近づいた。放蕩するあまりジュネのことを放置しがちであるが、ジュネが自分と打ち解けてくれないことを嘆いている。
メネット・ポワチエ (めねっとぽわちえ)
ピンセット・ファン・コッホの姪で、「白バラのメネット」と呼ばれ街中でも評判の可憐な少女。ジュネ・オルタンスと親交があるが、独りぼっちで心を閉ざしているジュネのことを案じ、仲良くなりたいと思っている。ジュネのもとに訪れた「ジャン・ピエール」がタグ・パリジャンではないかと疑いの目を向け、人を雇って正体を突き止めようとする。 詐欺師のタグとジュネに親交があると知ると、ジュネのためにタグを更生させようと裏で動く。
ラムーネ
タグ・パリジャンが住むアパートの階下に住んでいる女性。男性をアパートに連れ込んで廊下でキスするなど、行動が大胆。タグが訳ありであることを察し、フィルがタグを訪ねて来た時にはタグを手助けをして救う。一方でドライな面もあり、メネット・ポワチエに金で雇われた際には、ヴィルヘルム・バックハウスを騙そうとしていたタグの仕事が失敗するよう裏工作した。 タグがブリジット・オルタンスをターゲットにした時には、彼に大人の女性を落とすための手ほどきをする。
フィル
タグ・パリジャンの昔の詐欺仲間の男性で、「ナイフのフィル」と呼ばれる。過去にタグを裏切って逃走したせいでタグが詐欺のターゲットに痛めつけられたことがあり、タグが人のことを信用しなくなる原因となった。タグのことは優秀ではあるがあくまで手下と思っており、タグが独立して仕事をするのを阻止しようと動く。ヴィルヘルム・バックハウスを騙すタグの仕事を妨害し、ジュネ・オルタンスにタグの正体を明かしたのもフィルである。 タグを追っている際、ジュネに川に突き落とされて重傷を負うが、タグに助けられて一命を取りとめる。
アミエル
モンマルトルの街に住んでいる少女。タグ・パリジャンが初めてモンマルトルを訪れた時に彼のスマートな立ち居振る舞いを見て、すっかりタグに熱を上げてしまう。その情熱から、アルバイトを探して欲しいというタグの頼みを引き受け、複数のアルバイト先を紹介する。タグが人に心を許さないことに薄々気付いている。
ピンセット・ファン・コッホ (ぴんせっとふぁんこっほ)
有名な画家の男性であり、メネット・ポワチエの叔父。毎週火曜日に、画家たちが集まり絵を描いている公園に有望な新人をスカウトするために足を運んでいる。ヴィルヘルム・バックハウスとは顔見知りであるが、「上流階級の犬と猿」として有名なほどに仲が悪い。
アパートのおばさん
タグ・パリジャンが住んでいるアパートの管理人の女性。モンマルトルの街で住処を探していたタグを、いぶかしんで追い返そうとする。しかしタグの巧妙な手口にほだされ、結局タグの生活を世話することになった。タグがモンマルトルの街を出ていく頃には、タグを品行方正な住人と信じ切っており、別れを惜しんでいた。
ウィーニス・マロウ (うぃーにすまろう)
「マロウ財閥」を取り仕切り、アメリカの財界でその名を轟かせる男性。タグ・パリジャンが、ボロックズの書いた詩を大詩人の「クレール・ペイネ」のものだと偽って仕掛けた詐欺に乗り、その詩を高額で買い取る。それが縁で、タグに自分の娘のアン・マロウのパリでの案内役を任せる。芸術品の真贋を見極める審美眼を持ち、パリ市長であるソルモンの父が所有しているビーナスの水浴像が本物かどうか確かめるために、タグに像を盗むように打診する。
アン・マロウ (あんまろう)
ウィーニス・マロウの娘で、通称「アニー」。実は養女であり、11歳の時に少年院からウィーニスに引き取られ、マロウ家にやって来た。クールで高慢な性格であり、案内役として任されたタグ・パリジャンのことも当初は見下していた。しかし、ジュネ・オルタンスに案内されてタグのもとにやって来たソルモン・コレルを華麗にいなしたタグの立ち居振る舞いを見て、徐々にタグに惹かれていく。
プリンス・マロウ (ぷりんすまろう)
アン・マロウのフィアンセで、ウィーニス・マロウの秘書を務める男性。マロウ財閥の跡継ぎと目されている。実は17歳の時、地下鉄でスリをしていたところをウィーニスに拾われ、ウィーニスの部下として働くようになった。タグ・パリジャンが詐欺師であることを見抜き、警戒する。
ボロックズ
パリの街で貧乏生活を送る男性。街でタグ・パリジャンにお金をすられるが、詐欺師仲間と飲んで酔っぱらったタグを介抱したことがきっかけで知人となる。タグは、ボロックズが書いた詩を大詩人の「クレール・ペイネ」のものだと偽ってウィーニス・マロウに売りつけたが、実はボロックズは本当に「クレール・ペイネ」その人であった。
ソルモン・コレル (そるもんこれる)
ジュネ・オルタンスが通うことになった寄宿学校の男子生徒で、ジュネの1年上級生。ソルモンの父がパリ市長であることから学校内でもわがままな振る舞いを繰り返し、ジュネのことを気に入ってからは何かと追い回すようになる。ジュネがタグ・パリジャンと会って寮を抜け出した際には、タグに制裁を加えるべくジュネにタグのところに案内させる。 一方で、父親には逆らえない弱気な面を持つ。
ソルモンの父 (そるもんのちち)
パリ市長であり、ソルモン・コレルの父親。また、警視総監も兼任している。街でアン・マロウに財布をすられたが、彼女の父親であるウィーニス・マロウと親交があったため、彼女をとがめなかった。自宅にビーナスの水浴像を所有しており、ウィーニスの命を受けたタグ・パリジャンに像を狙われることとなる。
ジュネの父 (じゅねのちち)
ジュネ・オルタンスの父親で、パリで警察署長をしている。ジュネを寄宿学校に入れた後、詐欺師であるタグ・パリジャンとジュネに親交があることを知り、警察署長という立場を措いて、彼らを影ながら見守るようになる。一方、スリを働いたアン・マロウを解放するためにウィーニス・マロウが送って来た贈り物は速やかに処分するなど、職務に関しては実直である。
その他キーワード
ビーナスの水浴 (びーなすのすいよく)
有名彫刻家であるパガニーニの作と言われる女性の像。ソルモンの父が長く所有しているが、ボロックズはなぜかそれをニセ物だと言い放つ。ウィーニス・マロウは、この像が本物かどうかを見極めたいと、タグ・パリジャンに打診して盗み出させようとする。