概要・あらすじ
終戦直後、特攻隊くずれの復員兵・空手二段の大山倍達は、心の虚無を埋めるため、グレン隊の用心棒に身を落としていた。ヤクザ同士の抗争と暴力に明け暮れる中、ひょんなことから運命の書・吉川英治著「宮本武蔵」に遭遇し、武蔵の「剣」を空手の「拳」に置き換え、武蔵のように生きることを決意。日本では主流であった寸止めの伝統空手に異を唱え、一撃必殺の空手を追求していく。
登場人物・キャラクター
大山 倍達 (おおやま ますたつ)
終戦直後、特攻隊で死にそびれ復員。生きがいを無くし、空手の腕を活かして愚連隊の用心棒になるが、偶然読んだ吉川英治「宮本武蔵」に感銘を受け、空手の道を究める決意をする。千葉県清澄山で山籠もりの空手修行を敢行。女欲しさに里に下りたくなる衝動を片眉を剃り落して抑える。修行の末、手刀で自然石を割れるようになり、一年半の山籠もりを卒業。 山を下り、戦後初の全日本空手道選手権に参加する。大会に優勝するも、当時の寸止め空手を「空手ダンス」と発言してしまい、空手界から孤立する。松竹映画をスポンサーに猛牛と対決。史上初めて素手で猛牛を倒し、「ウシ殺し」の異名をとる。世界一の空手家を目指してアメリカへ旅立ち、数多くの他流試合を経験。 FBIの特別教官なども務める。帰国後は大山道場を開催。さらに大山空手を世界に広めるため、再び海外へ進出。昭和39年には極真会館を設立。国内外の後進を育てていく。必殺技は、三角とびや空中三段蹴り。自然石割りや手刀でビンを斬るほか、十円玉を親指と人差し指で曲げてしまう超人で「神の手(ゴッド・ハンド)」と呼ばれる。
玄 (げん)
終戦直後、池袋周辺で縄張り争いをしていた愚連隊のリーダー。ジープに乗った黒人兵を飛び蹴りで倒した大山倍達を見て、用心棒にスカウトする。
仲曽根 龍起 (なかそね たつおき)
洗武館の館長。空手七段。全日本空手道選手権の解説者でもあり、大山倍達の空手を邪道と断じる。大山の猛牛との対戦にも批判的な態度をとる。
南波 (なんば)
戦後初の空手道選手権出場者で優勝候補。空手五段。決勝戦で大山倍達と戦う。直接打撃が認められないルールで、誤って上段突きを大山の顔面に当て、怒った大山の反撃を受けて失神してしまう。回復後再試合するが大山に対する恐怖心からあっさり勝ちを譲る。
有明 省吾 (ありあけ しょうご)
南波五段門下の学生だったが、空手道選手権で優勝した大山倍達に惚れ込んで押しかけ入門する。天性の空手の才能を持つ。大山をけなす洗武館の門弟を殴り倒し、留置場に拘留されるが、「ぼくを破門してください」との血書を残して逃走。洗武館の道場破りを皮切りに、町道場や大学空手部をやぶり歩く。 実在した大山道場門下生、春山一郎がモデルだといわれる。
雷電号 (らいでんごう)
『空手バカ一代』に登場する牛。牛相撲の横綱で体重500kgの巨牛。1948年4月16日外房・九十九里浜で大山倍達と対決する。
仁科 守雄 (にしな もりお)
人斬り仁科の異名を持つヤクザ。バーで大山倍達に絡み、ナイフで襲い掛かるも逆に拳を顔面に入れられ死亡する。仁科の妻と子供が、大山を恨みに思う。
トッド若松 (とっどわかまつ)
ロサンゼルスから来た日系アメリカ人で億万長者。大山倍達、遠藤幸吉と契約し、アメリカでの他流試合をプロモートする。
遠藤 幸吉 (えんどう こうきち)
講道館柔道六段。トッド若松と契約し、大山倍達のアメリカ遠征に同行する。同名の実在柔道家、元プロレスラーがモデル。
ドナルド・バーク
FBIの捜査官。反日感情に駆られたアメリカの暴徒に囲まれた大山倍達らを救い出す。大山の空手に感服し、FBIに空手コーチとして招く。のちにFBIを引退、極真会館U.S.A.バージニア支部長になる。
スナイダー
FBI捜査官。FBI格闘術随一の猛者。日本人に差別感情があり、大山と衝突。小指一本で大山にKOされた後は空手の威力を素直に認め、弟子入りする。
ザ・エクスキューター
覆面レスラーでリングで2人も相手を殺している反則魔。大山倍達のFBIコーチを快く思わないトッド若松がぶつけてきた強敵。数々の反則で大山を追い詰める。
グレート・東郷 (ぐれーと・とうごう)
日系人のプロレスラー。ガマガエルのような顔つきで、着物にゲタを履く。卑怯な手を使い反日感情をあおり、負け役を演じるヒール。大山倍達や遠藤幸吉に手を焼いたトッド若松から両者の契約を買い取ったため2人のボスとなる。大山、遠藤とトリオを組み、八百長試合を演じようとするが、大山が拒否。 真剣試合をしてしまったためにバックのギャングに拉致される。大山の空手に救われ、感激して弟子入りし、以後は実力派レスラーを目指して努力する。同名の実在人物がモデル。
力道山
元関脇出身の日本人プロレスラー第一号。ハワイ遠征中にその地にやってきた大山倍達、遠藤幸吉、グレート東郷と出会う。大山と親交を深め、本格的な空手チョップを習う。陽気で気のいい男だがプライドは高い。後にプロ柔道の木村政彦と対決。八百長破りで一方的に木村を叩きのめし、木村の応援に回っていた大山と遺恨を残す。 同名の実在人物がモデル。
タム・ライス
「赤サソリ」の異名を持つプロレスラー。元ヘビー級ボクサー。ハワイで空手チョップの力道山を倒したことで「カラテ殺し」を名乗り、大山倍達の逆鱗に触れる。サンフランシスコで大山と他流試合を行い、必殺技・三角とびに敗れる。同名の実在人物がモデル。
大山 置八子 (おおやま ちやこ)
大山倍達の妻。1952年、大山帰国時に大山が建てた目白の邸宅で生活を共にする。わずかの年月で目白邸宅を大山の知人にだまし取られるが、大山の空手家としての生き方に理解を示し、文句を言わずに従うよくできた武人の妻。同名の実在人物をモデルにしている。
与那島 (よなじま)
天風館の空手六段。かつて執拗に大山倍達を批判した仲曽根七段の一番弟子。馬の臓物を素手でつかみだす「ウマ殺し」の異名を持つ。大山のアメリカでの他流試合を八百長と断言し、大山の取材記事の掲載を妨害する。抗議に来た大山を卑怯な手で倒そうとする。
木村 政彦 (きむら まさひこ)
19歳で全日本柔道選手権に優勝して以来十連覇を成し遂げ、「鬼の木村」の異名をとった不世出の天才。柔道七段。プロ柔道を興して講道館を破門される。プロ柔道の興行を偶然大山倍達が目にし、意気投合して親友となる。のちに力道山に誘われプロレス入りするが、力道山の引き立て役にされ、不満が爆発。 力道山に挑戦状を叩きつける。大山に空手指導を受け、力道山と世紀の一戦・プロレス巌流島を戦うことになるが、直前で八百長の約束が取り交わされる。しかし試合では力道山に八百長を破られ、油断しているところを滅多打ちにされた。同名の実在人物がモデル。
由利 辰郎 (ゆり たつろう)
「人間凶器」の異名を持つ空手家。一匹狼でヤクザの用心棒を引き受けるなど悪名高いが、陶器の湯呑に指一本で穴を開けるほどの実力者。自宅の庭で無料で空手を教える大山倍達を苦々しく思った近所の空手道場主に雇われて大山を襲う。
ブラック・コブラ
タイ式ボクシングミドル級チャンピオンで国民的英雄。日本空手界を代表してタイにやってきた大山倍達と闘う。
ブラッドショー
オーストリア出身の大富豪。各国の格闘技探究のため世界中を旅している格闘技マニア。大山倍達をパリに招待する。フランスの格闘技・サファーデ最強の実力者ボーモンと大山の試合をセッティングするほか、大山にヨーロッパの大興行主カイザー・カール・クラウスを紹介する。
ボーモン
フランスの打撃系格闘技サファーデ(サバット)きっての実力者。ブローニュの森で大山倍達と対決する。大男だが動きは俊敏。強力な蹴り技が得意で空中二段蹴りを難なくこなす。実力は伯仲していたが、イチかバチかで放った大山の新必殺技・空中三段蹴りが完成し敗れる。
カイザー・カール・クラウス
ヨーロッパの大興行主。皇帝(カイザー)と呼ばれる権力者。大山倍達に八百長のプロレス試合を提案するが、断られたうえに八百長を暴露され激怒。大山のヨーロッパでの空手普及の障害となる。食い詰めた大山を地下プロレスに引きずり込み、帝王イワノフ・ロゴスキーと対戦させる。
イワノフ・ロゴスキー
フランスの地下プロレスの帝王。2mを越える巨漢。祖父は帝政ロシアで宮廷に仕えた格闘士、父もレスラーであり三代にわたる格闘士の家系。自身も表のプロレスで2名を殺し、数えきれないレスラーを再起不能にした怪物。カイザー・カール・クラウスのマッチメイクで大山倍達と死闘を演じる。
陳 (ちん)
中国拳法界随一の達人で60歳を超えた小柄な老人。大山倍達が生涯で唯一敗北を喫した相手。香港を訪ねた大山と立ち合い、円の動きと見切りで大山を圧倒する。大山を格闘の天才と見込み、円の動きと見切りの極意を伝授する。
黒崎 健時 (くろさき たけとき)
大山空手門下の古参。オランダ支部に指導員と派遣される。巨漢の道場破りの挑戦を受け、一撃で相手を倒すと宣言。大山倍達に国際電話をかけ、一撃で相手を倒せず大山空手を汚した場合は切腹すると伝える。
ジャック・サンダクレス
身長2mを越える150kgの超巨漢。強すぎてプロボクシング、プロレス界にいられなくなったほど。大山倍達に道場破りに合ったインチキ空手道場の用心棒。大山と組んで富豪から金を引き出す計画をもちかけるが、大山にきっぱり断られて対決することになる。大山に敗れてからはその強さに惚れこむ。 大山がメキシコに行っている間に、こっそり「マス・大山ニューヨーク支部」を用意するなど大山と友情で結ばれる。同名の実在人物がモデル。
林 錬山 (りん れんざん)
太極拳の達人で五寸釘を頭突きでハメ板に打ち込む超人。太極拳の名声を高めるため、台湾からやって来て高名な大山倍達を狙う。身延山の露天風呂で大山と対決する。
芦原 英幸 (あしわら ひでゆき)
大山道場入門時から非凡な才能を発揮し、茶帯の先輩の鎖骨を折るケンカの天才。ケンカ十段を名乗る。野獣のような闘争心を持ち、池袋から新宿までの明治通りを歩き、強そうな相手に片っ端からケンカを吹っかける「辻斬り」を行う。極真会館本部指導員の時、暴力団7、8人を半殺しにし破門となる。 大山門下のOB黒崎健時の助言もあり、頭を丸めて廃品回収業者になり、苦しくつらい境遇に身を置き反省の意を表す。数か月後、破門を解かれる代わりに、裸一貫で四国に行き極真空手支部設立の任務を与えられる。同名の実在人物がモデル。
場所
極真会館 (きょくしんかいかん)
『空手バカ一代』の組織。大山道場を前身とし、昭和39年11月東京都豊島区西池袋に建設された道場。正式名称は国際空手道連盟総本部極真会館。直接打撃制(フルコンタクト)空手、実戦空手を提唱し、本部を拠点に国内外に組織を広げていく。昭和44年以降は他流派のみならず、あらゆる格闘家に門戸を開いたオープン・トーナメント全日本空手道選手権を開催。 地上最強の空手、格闘技世界一であり続けることにこだわり、世界制覇を目指す。
その他キーワード
三角とび (さんかくとび)
『空手バカ一代』に登場する必殺技。完全に使いこなしたのは20代全盛期の大山倍達のみと言われる幻の秘技。敵と見当はずれの方角・物体へとび、その物体の反動を利用して敵を蹴り倒す。空中を三角状に飛ぶため「三角とび」と呼ばれる。
空中三段蹴り (くうちゅうさんだんげり)
『空手バカ一代』に登場する必殺技。大山倍達が、フランスのブローニュの森でサファーデ(サバット)の達人ボーモンと格闘中に完成させた。一方の足で相手の攻撃を払い、同時に逆の足で二段蹴りを行う超人技。