作品の概要
基本情報
初連載作『とっかぶ』に次ぐ、桑原太矩の2作目の連載作品で代表作。
要旨と舞台設定
龍と呼ばれる生物が棲息する架空世界を舞台に、空を飛ぶ捕龍船に乗り、龍を捕って生計を立てる「龍捕り」たちを描いた群像劇。主人公たちが乗る捕龍船「クィン・ザザ号」は、港を持たず空を旅しながら龍を捕獲し、その肉や油、皮を売却することで船の維持と乗組員の生活を支えている。
ストーリー展開
物語は龍捕りの業務を中心に進行し、主人公のミカをはじめ個性的な乗組員たちの過去や人間関係が徐々に掘り下げられていく。各キャラクターの抱える事情や過去の因縁が物語に深みを与え、単なる冒険譚を超えた人間ドラマとなっている。
ジャンル的特徴と位置づけ
本作は、龍の捕獲や戦闘シーンに加え、龍の肉を用いた料理や乗組員の生活模様を丁寧に描いた、空飛ぶグルメファンタジーである。また、群像劇としての側面も強く、単発の捕獲エピソードと長期的な物語展開が組み合わされた構成となっている。
作品固有の表現技法と特徴
綺麗な線画で描いた前作『とっかぶ』と異なり、本作では絵柄を変更。世界観に合うように、定規を使わず手描き感を重視した表現が特徴となっている。また、龍の捕獲シーンでは迫力ある演出が用いられ、解体作業や料理のプロセスは丁寧に細部まで描写される。
世界観の構築と設定
世界各国が希少な龍を求め、空を目指してから半世紀が経ち、現役の捕龍船も少なくなっている世界が舞台。捕龍船の乗組員たちは陸地の人々から差別される一方、龍製品は高価で取引されるという社会構造が存在している。なお、龍は深海生物をモチーフにした独特のデザインで、空中を「泳ぐ」ように移動する生物として設定されている。
連載状況
講談社「good!アフタヌーン」2016年7号より連載。
受賞歴
2018年「全国書店員が選んだおすすめコミック2018」第5位。
メディアミックス情報
ノベライズ
『小説 空挺ドラゴンズ』:2019年11月7日KADOKAWAより発売。著者は橘もも。
テレビアニメ
2020年1月から3月までフジテレビ系列の「+Ultra」枠にて放送。アニメーション制作はポリゴン・ピクチュアズ。主人公のミカを前野智昭、タキタを雨宮天、ジローを斉藤壮馬、ヴァニー(ヴァナベル)を花澤香菜が演じる。
あらすじ
第1巻
今は数も少なくなった空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」は、あてもなく西へ東へと獲物の龍を求めて旅をしながら、たまに地上に降りては龍の肉や油などを売って生計を立てていた。その船員の一人であるミカは根っからの[龍捕り]で、大好物の龍の肉を使って、「龍のテリーヌ」など、さまざまな料理を考案している。「クイン・ザザ号」はある日、嵐の中に巻き込まれ、伝説の光る龍に遭遇して、嵐を抜ける道筋を教えてもらうという稀な経験をする事になった。そんなある日、「クイン・ザザ号」は空中海賊との戦闘に突入。この戦いにおいて、ミカは一人で空中海賊達を制圧してしまい、逆に彼らが持っていたソーセージなどを強奪するのだった。
第2巻
「クイン・ザザ号」はクオーン市という捕龍基地に一時逗留する事になった。そこでタキタはミカの紹介で「千剖士(せんぼうし)」のウラ爺と、ジローは街の少女、カーチャというように、船員達がさまざまな出会いを経験する。そんな中、町に生きたまま運ばれていた龍が暴れ龍となり、これを退治しなければならないという騒動が勃発。「クイン・ザザ号」の船員達の活躍で暴れ龍は仕留められ、解体された暴れ龍がみんなに配られる事となり、町はお祭りムードになる。そんな中、ジローと町に残る事を決めたカーチャは、物哀しい別れを経験するのだった。
第3巻
ある日、「クイン・ザザ号」は「渡り」と呼ばれる小型龍の大群と遭遇した。その狩りの最中、タキタが船から地上へ落下してしまうという事故が起こる。「クイン・ザザ号」は船をその場にしばらく留め、タキタの救出に乗り出す。一方タキタは、墜落した先でマタギの少女と出会う。少女は友好的で、タキタの手当をしてタキタが拾った龍の子供も連れて、里へと案内してくれるのだった。タキタはしばらく龍の子供の面倒を見ていたが、のちに「渡り」に龍の子を返し、無事に「クイン・ザザ号」へと戻る事にも成功する。
第4巻
タキタを拾い上げた直後、「クイン・ザザ号」は見知らぬ大型船と接触事故を起こし、大きな損傷を負ってしまう。町まで辿り着く事ができれば修理は不可能ではないが、「クイン・ザザ号」の資金力を考えると、このままでは破産になってしまう。結局、ヴァニーが事故の相手の船をオートジャイロで追いかけて交渉の末、町まで「クイン・ザザ号」を曳航させ、また修理代も払わせる約束を取りつける。曳航先の町では、「船喰い」と呼ばれる危険な龍に懸賞金がかけられていた。その龍退治に参加したミカは、繁殖期の珍しい七色に輝く龍をその目で見る事になる。
登場人物・キャラクター
ミカ
空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」の船員の青年。食べることはもちろん、捕ることも解体することも、すべてを含めて龍が好きだからという理由でクイン・ザザ号に乗る、筋金入りの龍捕りである。他の船員たちにはまったく感知できない距離からでも、「匂い」で龍の存在を感知することができる異才を持つ。また命知らずで、船から龍の上に飛び移って剣でとどめを刺すという、他の龍捕りがまずやらない危険な狩猟を行う。
タキタ
空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」の船員の少女。まだ龍捕りの新人で、捕龍船に乗るようになってから日が浅い。クオーン市に着いた時には、今後も龍捕りを続けるかどうか迷いを見せており、このまま船を降りてしまうのではないか、とヴァニーなどに心配されていた。しかし、ミカの紹介でウラ爺と出会い、捕龍の楽しさに目覚めて迷いを吹っ切った。
ジロー
空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」の船員の少年。特技は天測で、その技術は船内でも一番の正確さを誇る。まだ女を知らないということで、先輩船員たちに無理やりクオーン市の娼館に連れて行かれる。そこでカーチャという少女と知り合い、短い交際をすることになる。
ヴァニー
空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」の船員の若い女性。いつも凛とした雰囲気を漂わせており、捕龍の腕も船内一と言われているが、どこか陰を感じさせるところがある。風呂もない「クイン・ザザ号」においても、身だしなみには気を使っており、龍から採れる材料を用いた香油で髪の手入れをしている。また、とてつもない酒豪でもある。ミカからは「ヴァナベル」と呼ばれている。
クロッコ
空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」の船長代理を務める壮年男性。「クイン・ザザ号」の中では指導的立場にあるが、他の船員たちには「クロッコさん」と呼ばれている。ミカには日頃から呼び捨てにされており、船長代理にも関わらず権力を持っているわけでもない。
ギブス
空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」の船員の中年男性。「クイン・ザザ号」に紛れ込んだ極小龍に嚙まれた後、発熱して倒れた。そのため極小龍は毒がある危険な個体である、という誤解を生みだしたが、実際にはただ偶発的なタイミングで、風邪で寝込んだだけだった。
ウラ爺 (うらじい)
盲目の老人。クオーン市の市中に立派なテントを構えて暮らしている。空飛ぶ捕龍船が発明されていなかった時代から、地に墜ちた龍を解体・加工する「千剖士(せんぼうし)」として暮らしてきた一族の族長。ミカとは昔馴染みで、ミカの紹介で連れてこられたタキタに、伝統の壁掛けを披露する。
カーチャ
見習い娼婦の少女。クオーン市の娼館で暮らしており、まだ客を取ったことはない。酔客に絡まれたところでジローに助けられ、そのままいい雰囲気になった。ジローに、ともに空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」の船員にならないかと誘われたが、それを断って町に残った。
極小龍
非常に小さな龍。空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」の船内に紛れ込んだ。世にも珍しい超小型種であり、屋内鑑賞用に、莫大な報酬と引き換えに王室へ献上されるはずだった。しかし、そんな貴重な龍だとはつゆ知らず、ミカたちによって捕まえられ、料理されて食べられてしまう。
光る龍
光を放つ巨大な龍。空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」が嵐の中で遭遇した。船乗りの伝説に、「光る龍についていった船が嵐を抜け出した」というものがあり、「クイン・ザザ号」もほぼそれと同じ経験をすることになった。
暴れ龍 (あばれりゅう)
超巨大な龍。空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」とは別の大型の空飛ぶ捕龍船によって捕獲され、クオーン市に連れて来られていた。毒を受けて瀕死の状態にあったが、解体するための「解剖渠(かいぼうきょ)」から逃げ出して市中で暴れ始めたため、「クイン・ザザ号」のメンバーでとどめを刺すことになった。
集団・組織
空中海賊 (くうちゅうかいぞく)
空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」を襲った空飛ぶ海賊集団。対人用の武装などもしっかりと備えているが、海賊船に乗り込んだミカ1人の活躍により、あっさり制圧されてしまった。その際、「クイン・ザザ号」は久しく龍を捕れておらず、肉の在庫を切らしていたため、ミカにソーセージなどを逆に奪われてしまう。
場所
クオーン市 (くおーんし)
捕龍基地として栄えた、世界でも有数の港市(みなとまち)。港といっても空飛ぶ捕龍船用の港のため、海や湖などに面しているわけではなく、クレーターの中にある。船の修理を必要としていたクイン・ザザ号は、クオーン市にしばらくの間逗留することになった。
その他キーワード
龍捕り (おろちとり)
空飛ぶ捕龍船を駆り、龍を狩ることを生業とする人々。龍は空を飛ぶ巨大な生き物であり、肉や油、臓腑などが高く売れる他、危険な個体には賞金がかけられていることもあるため、それらを収入源としている。基本的に定住地を持たず、船とともに漂泊の暮らしを送っている。
クィン・ザザ号 (くぃんざざごう)
ミカたちが乗っている空飛ぶ捕龍船。人が龍を求めて捕龍船で空を駆けるようになってから半世紀が経ち、今はその数も少なくなった捕龍船の中で、数少ない現役の一隻。形状としては飛行船の一種と呼ぶべきタイプのものであり、大銛やフックによって捕えた龍を船体に係留することができる。
大銛 (あんかー)
龍を狩るための武装の1つ。空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」が装備しているもの。捕龍砲を使って大銛を龍に打ち込み、船に固定して逃げられないようにする。これがないと龍を捕ることができないので、捕龍船にとっては極めて重要な備品である。
電気矢 (すたんらんす)
龍を狩るための武器の1つ。空飛ぶ捕龍船「クイン・ザザ号」が装備しているもの。一般的に使われる火裂矢(ボムランス)よりも威力が高く、いわば切札的な武器。しかし、これを使って狩った龍は肉の味が非常に悪くなる、という厄介な欠点があるため、龍の肉を好むミカは使いたがらない。
レイ・システム (れいしすてむ)
捕龍船員たちの報酬分配システム。捕獲した龍により得られた純利益の中から、各船員が決められた率を報酬として受け取る権利を持つというもの。具体的には、「100レイズ」の権利を持つ場合は、純益の100分の1、つまり1%を受け取る資格を有する。
壁掛け (たぺすとりー)
龍の革細工でできたタペストリー。ウラ爺ら、地に墜ちた龍を解体・加工する「千剖士(せんぼうし)」の一族が代々作り継いでいる。切り付け模様が、それぞれ別の龍の革でできており、それは模様1つごとに1頭の龍を解体したことを表している。かつてミカが初めて捕った龍の革なども用いられている。
オートジャイロ
小型の飛行機械で、搭乗人員は2人。クオーン市における暴れ龍の騒動の後、騒動の元凶を作った捕龍船の乗組員たちから、謝礼代わりにクィン・ザザ号に寄贈された。ジローとカーチャは2人でオートジャイロに乗り、別れを惜しんだ。
書誌情報
空挺ドラゴンズ 20巻 講談社〈アフタヌーンKC〉
第1巻
(2016-11-07発行、978-4063882049)
第2巻
(2017-05-01発行、978-4063882551)
第3巻
(2017-11-07発行、978-4065103197)
第4巻
(2018-05-07発行、978-4065114612)
第5巻
(2018-11-07発行、978-4065134542)
第6巻
(2019-05-07発行、978-4065155271)
第7巻
(2019-11-07発行、978-4065175873)
第8巻
(2020-03-06発行、978-4065188781)
第9巻
(2020-09-07発行、978-4065207468)
第10巻
(2021-03-05発行、978-4065224960)
第11巻
(2021-08-05発行、978-4065243770)
第12巻
(2022-01-07発行、978-4065265543)
第13巻
(2022-07-07発行、978-4065281598)
第14巻
(2022-12-07発行、978-4065299326)
第15巻
(2023-05-08発行、978-4065314791)
第16巻
(2023-11-07発行、978-4065336885)
第17巻
(2024-04-05発行、978-4065350164)
第18巻
(2024-09-06発行、978-4065367643)
第19巻
(2025-02-06発行、978-4065383872)
第20巻
(2025-08-06発行、978-4065404041)
空挺ドラゴンズ 特装版 6巻 講談社〈プレミアムKC〉
第4巻
(2018-05-07発行、978-4065120477)
第6巻
(2019-05-07発行、978-4065155301)







