あらすじ
ある日、文学作家を生業にしている駒形誠士郎は、編集者から接待を受けていた。食事や歌を楽しんだあと、編集者は駒形を吉原にある遊郭へ招待する。遊郭では容姿端麗かつ駒形の大ファンだという娼妓(しょうぎ)が、駒形を接待することになる。ふだんから見た目も中身も完璧な人間のように振る舞っている駒形だったが、実は女性からはまったくモテず、さらにプライドの高さからいまだ童貞であった。早く童貞を捨てたいものの、女性との行為が初めてだとは絶対に知られたくない駒形は、娼妓の前で自らを遊び慣れた男だと偽ることになる。(第一話「駒誠、吉原で慟哭する」)
登場人物・キャラクター
駒形 誠士郎 (こまがた せいしろう)
文学作家を生業にする青年。年齢は25歳。流派は「理想主義」で、安宅川星雨が師匠にあたる。代表作は「暁光(ぎょうこう)」で、特に若者からの絶大な支持を受け、ベストセラー作家の仲間入りをしている。見た目も美しく整っており、その外見に惹かれている若い女性ファンも多い。しかし非常にプライドが高く、自意識過剰で偏屈な性格であることから、これまで女性とまったく縁がなく、いまだ童貞。そのため、性描写のある小説を執筆することができず、そうかといってファンの女性に手を出して幻滅されるリスクを負うこともできず、スマートに童貞を脱する方法を模索している。その一方で周囲からは童貞だと思われていないため、適当な性知識を自慢げに披露することも多い。そもそも文学作家になったのは女性からモテるためで、著書の内容も駒形誠士郎自身の妄想が元ネタになっている。ファンからは「駒誠」と呼ばれている。
小太郎 (こたろう)
作家志望の青年。年齢は18歳。駒形誠士郎の家に下宿をして、そこから学校に通っている。駒形の作家業の雑務から食事作りまで、身の回りのことをすべて世話している。将来の夢は作家になることで、駒形を心の底から尊敬している。駒形が女性にモテる方法や女体を妄想している時であっても、次回の小説の構想を練っていると勘違いし、労(ねぎら)うことが多い。明るく素直な性格の持ち主で、人を疑うことを知らない。近所のミルクホールに勤務している女性に思いを寄せており、のちに交際をスタートさせる。
三崎 潤平 (さんさき じゅんぺい)
文学作家を生業にする青年。年齢は27歳。流派は「耽美」で、安宅川星雨が師匠にあたる。駒形誠士郎にとって兄弟子にあたる人物で、たびたび駒形の自宅に遊びにやって来る。駒形が童貞であることには薄々感づいており、女体の表現についてアドバイスを送ることも多い。その際に駒形をからかって遊ぶこともあるが、これは三崎潤平なりの愛情表現でもある。
安宅川 星雨 (あたけがわ せいう)
文学作家を生業にしていた男性で、故人。享年55歳。愛人宅で心不全によって命を落としている。流派は「ロマン主義」。女性にモテたいといった不純な動機で弟子入りしてきた駒形誠士郎を快く受け入れた。駒形に対して女性の扱い方を解いており、女性を前にした駒形が安宅川星雨の教えを思い出すことも多い。年齢を感じさせない若々しさと憂いを帯びた美男子で、女性から非常にモテる。安宅川自身の屋敷にも女性をたびたび招き、駒形の前でもきわどいスキンシップを取るなど、生前は女遊びも派手に楽しんでいた。
白峰 新月 (しらみね しんげつ)
文学作家を生業にする青年。年齢は24歳。流派は「自然主義」。駒形誠士郎と年齢が近いことから、顔を合わせれば軽口を叩き合うライバル関係にある。ふだんの生活の中で自分が感じたことを、そのまま作品に落とし込んでおり、身を削って創作活動を行っている。そのため、作品内のことを駒形に面白おかしく指摘され、恥ずかしさのあまり大いに取り乱すこともある。作家を志した理由は駒形と同じく女性にモテるためで、ベストセラー作家にもかかわらずいまだ童貞であるところなど、何かと共通点が多い。ただし、駒形が童貞である事実は知らず、女性関係が乱れていると思い込んでいる。