あらすじ
リオと春人
ベルトラム王国の薄汚いスラム街に暮らすリオは、ある日突然、日本の大学生、天川春人の謎の記憶が自らの脳裏に蘇(よみがえ)ったことを感じていた。バスの事故で命を落とした春人は薄れゆく意識の中で、高校の入学式以来いなくなってしまった幼なじみに、思いを伝えられなかったことを後悔していた。そんな春人としての記憶が、まったく別の世界の日本で住んでいた頃のリオ自身の前世の記憶だと自覚したリオは、大人である春人の人格が融合したことで、混乱と動揺を隠せずにいた。数年前に母親を殺されて以来、スラムに身を落とし母親を殺した者への復讐(ふくしゅう)だけを目的に生きてきた幼いリオにとって、唐突に前世の記憶が蘇ったことは、彼の運命を大きく揺るがすほどの出来事であった。そんな中でリオは、ベルトラム王国の王女が拉致される事件に巻き込まれ、成り行きで王女のフローラ・ベルトラムを救出する。その功績を評価され、リオが褒美として与えられたのは、貴族の子供たちが通うベルトラム王立学院への入学であった。だが、王侯貴族の子弟が通うこの学院では、平民なうえに孤児であるリオを生徒たちが歓迎する様子はなかった。いつも周囲から蔑んだような視線を向けられるリオを気遣ってくれるのは、12歳の若さで初等部の講師を任されているセリア・クレールだけであった。文字を読むことができないリオのため、セリアは放課後の研究室で彼への個別指導を行う。しかし、平民であるはずのリオは子供では簡単に解くのが難しい問題すらも、あっさりと解いてしまう。大学生だった春人の記憶を取り戻したリオにとっては、セリアに出された問題は小学生の算数並みの内容だったのだ。不思議に思ったセリアに対しとっさに母親に教わったとごまかしたリオは、彼女を騙(だま)したような罪悪感を覚えるも、春人としての記憶を受け入れて、今はこの学院でできることをしようと決意する。
最後の授業
ベルトラム王立学院の初等部に特待生として入学したリオは、自分の中に蘇った天川春人の記憶に悩まされながら、数々の人々との出会いや交流を通して、膨大な魔力を覚醒させていく。そんなリオは王立学院内ではいつも浮いた存在で、つねに孤独を感じていた。リオの理解者であり教師でもあるセリア・クレールだけが、彼にとって唯一心を許せる相手となっていた。セリアの心配をよそに、リオの入学から5年が経過する頃には、学力、武術においてもその才能を発揮しつつある彼を認めたり、注目したりする学友もわずかながら現れるようになった。卒業を控えたリオは、卒業後は両親の故郷であるヤグモ地方に向け旅立ちたいと語るが、そんな彼の言葉をセリアは複雑な思いで受け止めていた。卒業試験の野外演習に参加することになるが、巨大な魔物、ミノタウルスの襲撃を受け、我を失ったクラスメイトの一人がフローラ・ベルトラムを崖に突き飛ばしてしまう。フローラを追ってとっさにダイブしたリオは空中で彼女の体を崖の上に投げ返し、そのまま崖の下に落ちてしまう。身体能力を強化してとっさに受け身を取ったリオは無傷で着地に成功するが、演習場に戻ってみるとクラスメイトたちには不穏な空気が漂っていた。
リッカ商会のロッテ
卒業前の最後の野外演習に参加したリオだったが、それはある人物によって周到に仕組まれた罠(わな)だった。リオは崖から落ちたクラスメイトのフローラ・ベルトラムを救うために秘めた力を発揮するが、彼女を崖に突き落としたという無実の罪を着せられてしまう。勢いでフローラを突き飛ばしてしまった貴族の失敗を擦(なす)り付けられる形で指名手配され、ついにベルトラム王国にいられなくなったリオは、故郷を目指してヤグモ地方に行くことを決意する。学院内で唯一の心の拠(よ)り所だったセリア・クレールのみに別れを告げたリオは育った街を離れ、王国を出奔する。こうして、天川春人の記憶を持つリオの、前世と今世の因果を巡る旅が始まるのだった。隣国、ガルアーク王国の交易都市、アマンドにたどり着いたリオは、城門前の露店で「パスタ」や「マンジュウ」といった、彼の前世にとってなじみ深い料理が売られていることを知る。不思議に思ったリオはこれらの料理の開発者を調べ、クレティア公爵家の令嬢であるリーゼロッテ・クレティアの情報を得る。リーゼロッテが自分と同じく日本人の記憶を持っているのでは、と考えながら都市を出たリオは、森に入った途端に行き倒れの少女、ラティーファに出会う。しかしリオが声をかけた瞬間に、ラティーファは彼にナイフを突き出して襲いかかって来た。奴隷のラティーファが魔法の首輪を付けられ、暗殺者としてリオを殺そうとしていることに気づいた彼は、彼女を縛る首輪を外そうと試みる。
なつかしい記憶
ベルトラム王国から旅立ったリオは旅先でも、その身に降りかかるさまざまな出来事に苦しめ続けられていた。故郷であるヤグモ地方への旅の途中、暗殺者として襲いかかってきた獣人の少女、ラティーファの記憶がリオにもたらしたのは、寝言で日本語を話していた彼女が、天川春人のいた世界から来たという現実だった。孤独で行くところがないラティーファはリオを慕い、二人は共に旅を始める。巨大な精霊樹がある未開地の森に入ったリオとラティーファは、眠っているあいだに亜人らしき少女の集団に囲まれる。「精霊の民の里」に住む「精霊の民」を名乗る彼女たちを説得しようとするリオだったが、翼獣人のウズマは同じ獣人であるラティーファをリオが拉致したと思い込み、問答無用で攻撃してくる。敵の電撃を食らって気を失ったリオは、ピンクブロンドの髪を持つ謎の美少女と、春人の幼ななじみである綾瀬美春の夢を見ていた。目覚めたリオはラティーファと再会して亜人たちと話し、誤解は解けてしばらくは里に滞在できるようになった。里に住まう精霊の民たちが精霊術という不思議な力を使えることを知ったリオは、オーフィアたちから精霊術を学びながら、ラティーファと共に楽しい日々を過ごす。
別れと再会
リオが精霊の民の里に滞在してから早くも1年が過ぎ、里の大行事である「精霊大祭」の日がやってきた。精霊、ドリュアスの祝福を受けたリオは、精霊の民たちの盟友になった。宴の夜、近いうちに里を出るつもりであることをリオから聞いたラティーファは、彼と離れることを受け入れられずに森に走り去ってしまう。その頃、上空で侵入者を警戒する里の戦士たちが、不審な魔物の反応を察知していた。その正体は、里を狙うブラックワイバーンの大群であった。リオがブラックワイバーンを撃破したことで騒動は落ち着き、里の人々とさらに交流を深めたリオは、その楽しい日々の思い出を胸に旅立つことを決意。それは共に旅を続けてきたパートナーであるラティーファとの別れでもあった。ラティーファと再会を約束し、里を後にして旅立ったリオは両親の故郷があるヤグモ地方を目指す。リオはヤグモ地方のカラスキ王国にある小さな村を訪れ、村長のユバを通して、両親と自分の出生の秘密を知ることになる。ユバはリオにとって母方の祖母でもあり、リオは彼女の勧めでしばらくは村に滞在することになった。村で出会った少女たちとのおだやかな生活が始まり、秋になる頃には年貢の量を決める役人も派遣されることになった。そんなある日、シンと隣村の村長の息子、ゴンとのあいだでケンカが起こる。リオたちが駆けつけたことで騒動は収まったように見えたが、シンやリオのことが気に入らないゴンは、子分を連れてあることを目論んでいた。
カラスキの王
カラスキ王国の小さな村で、ユバの家に身を寄せているリオは、年齢の近いサヨやルリをはじめとする友人たちと楽しく過ごす日々を送っていた。そんなある日、リオは年貢を運ぶ交易隊の護衛として、カラスキ王国の王都に向かうことになる。仕事を終えたリオがサヨといっしょに城下町で買い物を楽しんでいると、幼い少女をさらおうする浪人に遭遇。浪人を迎え撃ち少女を救出したリオだったが、助けた少女は検税官、ハヤテの妹であった。ハヤテの父親であるサガ・ゴウキは、ユバからの手紙を読んでリオのことを知り、妻と共にリオが泊っている宿を訪ねて来る。ゴウキたちは、自分たちがかつてカラスキ・アヤメに仕えていた家臣であったことを打ち明けると共に、アヤメとの過去を語り出す。さらにリオはゴウキたちの提案で、アヤメの両親であるカラスキ王国の国王と王妃に会うことになる。王城に赴いたリオが国王たちの前で語ったのは、自分の出生の秘密や壮絶な過去、そしてある人物への復讐の誓いであった。大半の村人には正体を隠したままでおだやかに暮らすリオだったが、そんな平和な日々は過ぎ去り、彼は村から旅立ってシュトラール地方へ戻ることを決意する。リオとの別れが近づいていることにショックを受けたサヨは、周囲からの後押しを受けながら、彼への思いを打ち明けるのだった。
春人の契約者
生まれ故郷であるカラスキ王国の村を旅立ったリオは、久しぶりに精霊の民の里に立ち寄り、ラティーファと再会を果たす。しかし以前のように里に長居できないリオは、別れを惜しむラティーファの気持ちに応え、再会を約束しながら次の目的地に向かう。ガルアーク王国の交易都市、アマンドの上空を飛んでいたリオは、空に浮かぶ巨大な6本の光の柱を目にすると同時に、助けを求める謎の声を感じ取る。その声の主を探しながら地上に降りたリオは、奴隷商人に捕まっている二人の子供を発見すると共に、日本語で助けを求める声が聞こえるのに気づく。奴隷商人に雇われた傭兵(ようへい)たちを蹴散らし、二人の子供を救出したリオは、馬車の奥にいる少女に手を差し伸べるが、その少女は天川春人の幼なじみの綾瀬美春であった。日本語を話し春人のことを知っている美春たちが、かつて春人のいた日本から来たと確信したリオは、美春が千堂亜紀、千堂雅人といっしょに時空魔術によって飛ばされて来たと推測。リオは自分が春人の記憶を持っていることを美春たちに明かさないままで三人を保護し、里で学んだ術によって作り出した家で、しばらく寝泊まりすることになる。翌朝目を覚ますと、リオのとなりには全裸の美少女が寝ていた。その少女は春人の契約精霊を名乗るが、それ以外の情報は彼女自身にもわからない様子だった。仕方なく少女を美春たちに紹介したリオは、名前すらわからないと言う彼女を「アイシア」と名づける。
関連作品
小説
本作『精霊幻想記』は、北山結莉の小説『精霊幻想記』を原作としている。原作小説版はホビージャパン「HJ文庫」から刊行され、イラストはRivが担当している。
メディア化
テレビアニメ
2021年7月から9月にかけて、原作小説のテレビアニメ版『精霊幻想記』が、テレビ東京ほかで放送された。監督はヤマサキオサム、総作画監督は油布京子が務めている。キャストは、リオを松岡禎丞、セリア・クレールを藤田茜が演じている。第2期となる『精霊幻想記2』は2024年10月から放送。
登場人物・キャラクター
リオ
ベルトラム王国のスラムで暮らしている孤児の少年。幼少期に父親のゼンを亡くしてからは、ルシウス・オルグィーユの世話になりながら母親のカラスキ・アヤメと暮らしていたが、ルシウスによって突然アヤメを殺害され、スラムに打ち捨てられた。それ以降はルシウスへの復讐を目的に浮浪児として生きていたが、7歳の時に突然、交通事故で亡くなった大学生の天川春人の記憶が蘇る。春人の記憶に混乱する中、拉致されたフローラ・ベルトラムを救出したのをきっかけに、貴族の子供が通うベルトラム王立学院へ入学。前世である春人の記憶の影響で実年齢よりも大人びており、つねに理性的な対応を取る。その一方で、過酷な環境で育った非情さと、平和な日本で育った春人の常識を併せ持ち、異なる価値観に葛藤することがある。学院では学問や剣術で高い実力を見せるうちに、孤児でありながら目立っていることを一部の生徒から妬まれ、味方と呼べるのは恩師であり友人でもあるセリア・クレールだけという、孤独な学院生活を送っていた。卒業を控える頃には野外演習でほかの男子生徒の失態を擦り付けられ、濡れ衣を着せられる形で王国を出る羽目になり、信頼できるセリアのみに別れを告げて旅立った。旅中で出会ったラティーファを奴隷の首輪から解放し、兄のように慕われるようになる。ラティーファと共に立ち寄った精霊の民の里では、里の人々から信頼され、精霊術を中心にさまざまな技術を学びながら平和に暮らしていた。成長し14歳になる頃には里を旅立ち、故郷であるカラスキ王国にある小さな村を訪れ、両親の過去を知る。この際にアヤメが王族であったことを聞き、非公式ながら自分が王族に連なっている立場だと知るが、ユバの勧めでこれらの事実は隠している。村に滞在する中で遭遇した事件をきっかけに、無意識に抑えていたルシウスへの復讐心を思い出し、自らの手を汚してでも復讐を遂げることを決意する。公の場では、旅立つ前にセリアだけに教えていた「ハルト」という名を名乗ることがある。
天川 春人 (あまかわ はると)
日本に住む大学生の青年。リオの前世で、20歳の時に、バスの事故に巻き込まれ死亡している。迷子の少女を家まで送ってあげるなど、思いやりのある好青年。幼少期は幼ななじみで両思いだった綾瀬美春や千堂亜紀と暮らしていたが、7歳の頃に母親の不貞が発覚したことで両親が離婚し、父親に引き取られる。家族と離れる直前、美春とは結婚する約束を交わしていた。美春との再会を夢見ながら勉強や武術に打ち込み、高校入学の前に生まれ育った街に戻る。しかし、美春となかよく話している男子を見たショックで話しかけることができず、翌日に改めて話しかけようとするも彼女が失踪してしまい、後悔を引きずったまま無気力に生きていた。記憶を受け継いだリオからは甘ちゃんと評されるが、武術の腕はそれなりに優れており、その能力はリオにも引き継がれている。
セリア・クレール
若くしてベルトラム王立学院の研究者兼講師を務める少女。リオと出会った時点では12歳で、彼よりも5歳年上。銀髪のロングヘアで、実年齢に対して幼い容姿を持つ小柄な体型の美少女。黙っている時は物静かな深窓の令嬢に見えるが、性格は意外とさばさばとしており、リオの前では天真爛漫(らんまん)でお茶目な一面を見せる。伯爵令嬢でありながら、平民で浮浪児だったリオに対しても偏見がなく、平等に優しく接している。学院で孤立しがちなリオが、心を許せる唯一の相手となり、彼からは恩師というだけでなく友人のように思われていた。12歳の時点で高等部を飛び級で卒業するほどの才能を持つが、研究に没頭すると周囲が見えなくなる。周囲から浮いているリオを心配し、当初は文字が読めなかった彼に、放課後の特別授業をするうちに親しくなる。リオがベルトラム王国を出ると決めた時は笑顔で送り出していたものの、本音では彼との別れを寂しく思い、学院に留まりながら再会を夢見ている。リオが旅立ってしばらく経ったあとも、彼のことばかり考えている。
フローラ・ベルトラム
ベルトラム王国の第二王女。ウェーブのかかった薄紫色のロングヘアにしている。他人の気持ちを考えられる思いやりのある優しい少女だが、姉のクリスティーナ・ベルトラムとは正反対で気が弱く、自己主張が苦手な性格をしている。年齢はリオやクリスティーナの1歳年下。幼少期に誘拐されるも、前世の記憶に目覚めたばかりのリオに救われた。これを機に王立学院へ入学したリオとは学友になり、学年が異なるものの、恩人でもある彼のことを気にかけていた。しかし、リオを警戒するクリスティーナの指示により、彼と十分な交流をすることはできなかった。野外演習中に魔物に襲われ、混乱の中でほかの男子生徒に突き飛ばされて崖から転落するが、リオによって救われる。治癒系の魔術を得意としている。
クリスティーナ・ベルトラム
ベルトラム王国第一王女。フローラ・ベルトラムの姉。薄紫色のロングヘアで、花の髪飾りを付けている。妹のフローラとは真逆に気が強い性格で、何事においても優秀な成績を収める利発で聡明な才女。王族としての責任感が強い反面、プライドも高く、周囲に厳しい目を向けることもある。ベルトラム王立学院ではリオと同じクラスになるが、彼とかかわるのを避け、フローラにも交流しないよう言い付けていた。フローラを非常に大切にしている。
ロアナ・フォンティーヌ
ベルトラム王立学園に通う女子。国王派に属する貴族「フォンティーヌ公爵家」の令嬢で、リオの同級生。金髪で縦ロールのロングヘアにしている。身分が低い者に対しては高飛車で高圧的な言動が目立つが、身分の高い貴族には責務があるという自己意識からの行動であり、悪気はない。学院では、クリスティーナ・ベルトラムといっしょに行動することが多い。
シャルル・アルボー
ベルトラム王国の近衛騎士団団長を務める貴族の男性。国王派と対立する貴族派筆頭「アルボー公爵家」の嫡男。アルボー家の権勢を背に傲慢で威圧的な態度を取りながら、周囲を従えている。護衛対象のフローラ・ベルトラムが誘拐され、彼女を救出したリオに疑いを向け拷問したことを咎(とが)められ、近衛騎士団団長の座を失う。ベルトラム王立学院では、卒業が近づいたリオとの模擬戦で完敗した。リオが王国を追われてアルボー家の権力が戻ったのを機に、セリア・クレールとの政略結婚を目論むようになる。
レイス・ヴォルフ
神出鬼没に暗躍する謎の男性。紺色の長髪で、不気味な雰囲気を漂わせている。慇懃(いんぎん)無礼な性格をしている。リオの行く先々に現れては奇妙な事件を起こしており、フローラ・ベルトラムの誘拐やベルトラム王立学園の魔物襲撃といった事件にも絡んでいる。能力は未知数で、胡散(うさん)臭い人物として味方からも信用されていない。プロキシア帝国の大使を務めるが、その裏では魔物を集めて都市を襲撃したり、新たな生物を生み出したりなど、つねに何かを目論んで暗躍している。
アイシア
天川春人の記憶が蘇ったリオの前に時おり現れる、謎多き美少女。桃色のロングヘアで口数が少なく、いつも眠たそうにしている。人間離れした美貌と幻想的な雰囲気で、リオに危機がせまった時などに現れては、魔力の扱い方を教えている。春人の契約精霊を名乗るが記憶を失っており、自分がどんな存在なのかもわかっていない。綾瀬美春を救出したあとにリオの前に現れ、彼によって「アイシア」と名づけられ、彼らと行動を共にするようになった。名前には精霊の民の里の古い言葉で「暖かい春」や「美しい春」という意味が込められている。
ラティーファ
狐獣人の少女。奴隷としてユグノー公爵家に飼われている。金髪のセミロングヘアで、大きなキツネ耳と尻尾が生えている。種族的に高い身体能力を持ち、リオを暗殺するため主人であるギュスターヴ・ユグノーの命令で刺客として送られ、リオの命を狙っていた。魔法の首輪で隷属を強要されており、首輪から放たれる痛みに耐えながら、感情を押し殺して過酷な環境の中で生活を送っている。リオの暗殺には失敗するも彼によって首輪から解放され、恩人である彼を兄のように慕うようになった。これ以降はリオと二人で旅をするようになるが、途中で立ち寄った精霊の民の里が故郷だったため、リオと再会を約束しながら里で暮らすようになった。またこの際に、里の最長老の一人、アースラの孫であったことも判明する。リオのことが大好きで、彼に近づく女性には嫉妬することがある。前世は天川春人と同じバス事故で命を落とした日本人小学生の「遠藤涼音」で、困っていたところを春人に助けてもらったことから好意を寄せていた。
綾瀬 美春 (あやせ みはる)
天川春人の幼なじみの美少女。黒髪ロングヘアで初恋の相手でもある。優しく気配り上手で、やや引っ込み思案なところがあるが芯はしっかりしている。春人とは結婚を約束するほどの仲だったが、春人の両親が離婚したあとに、引っ越しで離ればなれになってしまう。のちに春人とは同じ高校に入学したが、入学式の翌日には行方不明になってしまい、再会できなかったが、春人との約束ははっきりと覚えている。行方不明になった原因は時空魔術による異世界召喚に巻き込まれたためで、同じく召喚に巻き込まれた千堂亜紀、千堂雅人と共にガルアーク王国付近の草原に取り残される。通りかかった奴隷商人に捕まっていたが、アイシアに導かれたリオによって助けられ、しばらくは彼の保護下で共に行動することになった。この際にリオからは春人の幼なじみであることをはっきりと認識されているが、リオが春人の記憶を持っていることを隠したままにしているため、リオの正体は知らない。しかし、春人のことははっきりと覚えているため、リオに対しては無意識に懐かしさを感じており、出会ったその時から周囲を驚かせるほどに息が合っている。
リーゼロッテ・クレティア
ガルアーク王国にある交易都市、アマンド最大の商業組織「リッカ商会」の会頭を務める少女。クレティア公爵家の令嬢で、王立学院を飛び級で卒業後にリッカ商会を設立した才媛。水色のボブヘアで、エプロンドレスをまとっている。清楚(せいそ)でおだやかな雰囲気を漂わせ、非の打ち所がない美少女。冷静で柔軟な思考と持ち前の処世術を活かしながら、アマンドの代官としても活躍している。前世は天川春人と同じバス事故で死亡した日本人女子高校生の「源立夏」であり、アマンドでは前世の知識を活かしてパスタやマンジュウといった、日本人になじみ深い料理を販売している。これらは自分と同じ世界からやって来た転生者を探す目的もあり、実際にアマンドに立ち寄ったリオから強い興味を持たれていた。
サラ
「精霊の民の里」の住人で、銀狼獣人の少女。大きなキツネ耳と尻尾が生えており、銀髪のロングヘアをツインテールにまとめている。友人のオーフィア、アルマと行動を共にすることが多く、三人の中では年長者であり、リーダー的な存在。生真面目な性格で、年下のアルマにからかわれることもある。ダガーナイフを用いた高速の近接戦闘を得意としている。巨大な狼の姿をした精霊、ヘルと契約している。里に訪れたリオのことを当初は誤解して仲間と共に襲撃していたが、彼が里に滞在することが決まってからはいっしょに暮らすようになる。リオのことが気になっているが、なかなか素直になれない。
オーフィア
「精霊の民の里」の住人で、ハイエルフの少女。緑色のロングヘアで、白と緑のリボンを結んでいる。柔らかな物腰の優しい性格だが、意外と策士でちゃっかりした一面がある。弓が得意。精霊術を使いこなし、グリフォンの姿をした精霊、エアリアルと契約しており、空を飛ぶことも可能。里に訪れたリオのことを当初は誤解して仲間と共に襲撃していたが、彼が里に滞在することが決まってからはいっしょに暮らすようになる。リオへの好意を仄(ほの)めかしながら、よくサラをからかっている。
アルマ
「精霊の民の里」に住むエルダードワーフ。里の最長老の一人、ドミニクの曽孫娘。朱色のショートヘアで、褐色の肌を持つ少女。口数はあまり多くないが、生真面目なサラをからかうことがよくある。エルダードワーフの特徴でもある怪力で戦い、獅子(しし)の姿をした精霊、イフリータと契約している。里に訪れたリオのことを当初は誤解して仲間と共に襲撃していたが、彼が里に滞在することが決まってからはいっしょに暮らすようになる。リオへ思いを寄せているため、たびたび周囲にからかわれることもある。
ドリュアス
精霊の民の里の世界樹に宿る準高位精霊。緑色のロングヘアに花飾りを付けた美女の姿をしている。里の最長老たちとも交流がある。里に滞在することになったリオを歓迎し、里の民たちと共に精霊術について教える。契約精霊として目覚めたばかりのアイシアに、精霊のことを教えた。
ゼン
リオの父親。ヤグモ地方、カラスキ王国出身。妻のカラスキ・アヤメとはカラスキ王国で出会い、かつては彼女の護衛を務めていた。精霊術の使い手でもあり、依頼中の事故で死亡したとされていたが、詳細は不明。同僚のサガ・ゴウキからは、武に関する天賦の才があったと評されている。
カラスキ・アヤメ
リオの母親。リオが5歳の時に、彼の目の前でルシウス・オルグィーユに殺害されている。黒のロングヘアで、おだやかな性格の美女。リオには話していなかったが、元カラスキ王国の王女として生まれた。しかし訳あって国を出奔し、夫のゼンの死後は、ルシウスの世話になりながらリオと二人で暮らしていた。
ユバ
リオの父方の祖母。ヤグモ地方、カラスキ王国にある小さな村の村長で、精霊術の使い手であり、村娘のルリやサヨに教えている。両親の秘密を求めて村に立ち寄ったリオが、ゼンとカラスキ・アヤメの息子であると知り、自らが祖母であることを明かすが、リオにはこれらの事実を隠すよう告げたうえで、サガ・ゴウキに書簡を送った。
ルリ
ユバの孫で、ゼンの兄の娘。濃い茶髪のセミロングヘアで、明るく快活な性格をした少女。リオの従姉であることが判明してからは親しくなり、彼が王族の血筋であることも知っている。村娘のサヨとは親友関係で、共にユバから精霊術を学んでいる。
サヨ
ヤグモ地方・カラスキ王国にある小さな村で暮らす村娘。ルリの親友。濃い茶髪のロングヘアを二つのおさげにまとめている。ルリと共に、精霊術をユバから学んでいる。出会った当初からリオに好意を寄せており、村を旅立つことが決まった彼に告白するも断られる。リオの旅立ちを静かに見送ったものの、彼への思いをあきらめ切れていない。
シン
ヤグモ地方、カラスキ王国にある小さな村で暮らす少年。サヨの兄。当初は他所者のリオのことを警戒し、快く思っていなかったが、暴漢に襲われかけたルリとサヨを守ったリオを見直し、認めるようになった。サヨのことを大切にしており、リオの旅立ちを知って一人で泣いていた彼女のことを心配していた。
サガ・ゴウキ
サガ家の当主を務める男性。ヤグモ地方、カラスキ王国の武士で、精霊術の使い手であり、鬼神のような強さを持つ王国最強の武士として知られる。ユバから受け取った書簡を通して、リオがゼンとカラスキ・アヤメの息子であることを知り、彼を王城へ案内した。国王の命令でリオと手合わせをするが敗北し、復讐を決意したリオの旅への同行を申し出たが、断られてしまう。王女であったアヤメの護衛役を務めたことがあり、ゼンとは同僚関係だった。アヤメが国を去る時にサガ・ゴウキ自身の妻が身籠っていたため、アヤメに同行することができなかったことを今でも悔いている。
ルシウス・オルグィーユ
傭兵団「天上の獅子団」の団長を務める男性。元ベルトラム王国の没落貴族「オルグィーユ家」の嫡男。ゼンの冒険者仲間でもあり、彼の死後にリオとカラスキ・アヤメの面倒を見ていたため、リオからは兄のように慕われていた。しかし、幼いリオの目の前でアヤメを凌辱し惨殺してからは、彼の復讐対象として強く憎まれている。精霊術の知識があり、アヤメがカラスキ王国の王女であることも知っていた。
千堂 亜紀 (せんどう あき)
天川春人の異父妹。春人の母親とその浮気相手のあいだにできた子供だが、表向きは彼と本当の兄妹ということになっている。母親の不貞が原因で両親が離婚したあとは母親に引き取られたが、離婚の原因は知らぬままで母親を慕っている。一方で春人のことは、幼少期に交わした「ずっといっしょにいる」という約束を破った酷(ひど)い兄と思い込んでおり、母親が苦しい生活をしていたこともあって、彼を逆恨みしている。時空魔術による異世界召喚に巻き込まれ、綾瀬美春、千堂雅人と共にガルアーク王国付近の草原に取り残される。通りかかった奴隷商人に捕まっていたがリオに助けられ、しばらくは彼の保護下で共に行動することになった。助けてくれたリオのことは恩人のように思っており、尊敬し慕っている。
千堂 雅人 (せんどう まさと)
千堂亜紀の1歳年下の義弟。純粋無垢な性格の少年で、時空魔術による異世界召喚に巻き込まれ、綾瀬美春、亜紀と共にガルアーク王国付近の草原に取り残される。通りかかった奴隷商人に捕まっていたがリオに助けられ、しばらくは彼の保護下で共に行動することになった。ファンタジーに対するあこがれがあり、魔術や精霊が存在する異世界にも素早く順応した。
その他キーワード
精霊術 (せいれいじゅつ)
精霊に働きかけ、不思議な現象を引き起こす術。高度の生命体である精霊と契約を交わす必要があり、対象の精霊の属性・階位などが、術の出力や精密度などに大きく影響する。出力には限度がなく、魔力を込めれば込めるほど威力を出すことができ、その気になれば魔術を大きく上回ることもできる。強力な代わりに魔術を使えないという欠点があるが、使いこなせる者は少なく、かなり希少な術となっている。
魔術 (まじゅつ)
人間族が使う、魔力と術式を込めて不思議な現象を引き起こす術。発動させるには、体内に術式を刻み込む必要がある。世界が有する自然力である「マナ」の感知ができない者でも、人間が精霊術のような力を持つために考案された術でもある。実質的に精霊術の下位互換ではあるが、習得は比較的容易であり、短期間でも実践レベルでの使用が可能。また個人差はあるが、ほとんどの人間が習得・行使可能といった長所もある。詠唱が必須なこと、魔力をどれだけ費やしても術式以上の威力は出せないため、魔剣や精霊術には劣ることなどが短所となっている。
クレジット
- 原作
-
北山 結莉
- キャラクター原案
-
Riv
書誌情報
精霊幻想記 11巻 ホビージャパン
第9巻
(2023-02-01発行、 978-4798629957)
第10巻
(2023-09-29発行、 978-4798632117)
第11巻
(2024-08-01発行、 978-4798635217)