クロスオーバー
あらすじ
第1巻
高校1年生ながら揉め事処理屋を生業とする紅真九郎は、幼い頃に国際空港爆破テロで家族を失い、天涯孤独の身であった。一人でも生きていける強さが欲しいと願う真九郎は、人身売買を目的とした児童誘拐事件に巻き込まれた際、自分と幼なじみの村上銀子を助けてくれた揉め事処理屋の柔沢紅香にあこがれ、彼女に弟子入りを志願。紅香の紹介で裏社会に影響力を持つ裏十三家の一つ、崩月家の内弟子となり、血のにじむような修行を積んで武術である崩月流を会得したのであった。かくして揉め事処理屋となり、五月雨荘で一人暮らしを始めた真九郎は崩月流を駆使して、彼を慕う九鳳院家の令嬢の九鳳院紫や情報屋となった銀子らと共にさまざまな事件を解決していく。
第2巻
小学生の男子からのラブレターを受け取った九鳳院紫は、自分も紅真九郎に出会ってからの思いをラブレターにして真九郎に送ると無邪気に言う。そんな紫を見て、真九郎は彼女との出会いに思いをはせる。半年前、真九郎は師匠の柔沢紅香から紫の護衛の依頼を受け、初めて彼女と出会ったのだった。紫はまだ7歳ながら驚くほど気位が高く、わがままを言って真九郎を閉口させる。しかし、彼女は強い正義感と、自分の過ちを認める素直さを併せ持っていた。二人は徐々に互いの距離を縮めていくが、真九郎に思いを寄せる崩月夕乃が彼の部屋で紫と鉢合わせする。真九郎が女の子と同居していると知り、夕乃は嫉妬に燃える。だが、一方で真九郎が表御三家の一角で絶大な力を持つ九鳳院家とかかわりを持つことに不安を覚え、右腕に宿る崩月の角の力をまだ使ってはいけないとあらためて釘を指すのだった。そんな中、真九郎は村上銀子を介して、暴力団相手の揉め事処理の依頼を受ける。仕事はスムーズに進むように見えたが、同行した紫がヤクザのウソを見抜いたことから、彼女をかばって真九郎が撃たれてしまう。
第3巻
紅真九郎に命を助けられたことから、九鳳院紫はさらに彼を慕うようになる。真九郎もまた、彼女の純粋さにとまどいつつも、癒しを感じるようになっていた。真九郎は紫を守るとあらためて心中で誓うが、そこに彼女の兄の九鳳院竜士が出現。真九郎は九鳳院の雇った戦闘屋の鉄腕に敗れ、竜士に紫を奪われてしまう。目覚めた真九郎は柔沢紅香から、九鳳院家の娘は一族の子を産む道具として扱われていること、紅香が紫を連れ出したのは恋をしてみたいという彼女の願いを聞いたからだったことを知らされ、紫の救出と九鳳院との対決を決意。彼の身を案じる崩月夕乃の静止を振り切り、紫が監禁されているホテルに向かう。紅香たちに助けられて紫のもとにたどり着いた真九郎は、ついに崩月の角を解放。立ちはだかる鉄腕を一蹴し、竜士をぶちのめすが、そこに九鳳院家の当主である九鳳院蓮丈が現れる。
第4巻
九鳳院紫とゲームセンターに来ていた紅真九郎は「キリヒコ」と名乗る少女、斬島切彦と知り合う。その1週間後、真九郎は東南アジアのとある国にいた。柔沢紅香から人身売買組織壊滅の仕事を請け負ったのである。真九郎は組織のアジトに踏み込むが、そこはすでに切彦によって血の海と化していた。切彦は「ギロチン」の異名を持つ悪宇商会の殺し屋で、彼女もまた真九郎と同じ依頼を受けていたのであった。真九郎を組織の一員とカンちがいした切彦は彼にも襲いかかるが、寸前で相手が真九郎だと気づき、躊躇したところを紅香に割って入られ、その場を立ち去る。一方、真九郎は相手が切彦だと気づいてはいなかった。日本に戻った真九郎は紫や五月雨荘の面々、崩月家の人たちとプールに行くことになり、切彦も誘う。ところが、プールのあるホテルに毒ガステロを企む一団が侵入。真九郎は仲間たちと協力してテロを未然に防ぐが、事件の背後には悪宇商会の存在があった。
第5巻
紅真九郎は村上銀子から、悪宇商会が崩月を狙っていることを知らされる。真九郎は崩月家に急行するが、そこには「レッドキャップ」の異名を持つ悪宇商会の戦闘屋である赤馬隻と、彼の前に屈する崩月夕乃の姿があった。隻は元崩月流の門下生で、崩月家の人たちとは旧知の間柄であった。真九郎は崩月の角を解放するが、崩月流を知り尽くす隻の前にあえなく敗北。夕乃は真九郎を助けるため、彼に破門を言い渡し、隻の軍門に下るのだった。失意の真九郎は彼を心配する九鳳院紫に思わず八つ当たりしてしまうが、柔沢紅香に一喝されて復活。紫や銀子らの助けを借りて敵地に乗り込み、夕乃を取り戻すべく隻との再戦に臨む。同じ頃、紅香もまた悪宇商会の最高顧問である星噛絶奈と対峙していた。
第6巻
赤馬隻に苦戦する紅真九郎だったが、九鳳院紫に励まされてかろうじて勝利。隻はかつての師匠である崩月法泉に諭され、自身の非を悟るのだった。かくして平和な日々が戻ったかに見えたが、村上銀子の依頼で町の酔っぱらいに対処することになった真九郎は、そこで悪宇商会の星噛絶奈に遭遇してしまう。崩月襲撃事件の際、柔沢紅香に手玉に取られて苛立っていた絶奈は、真九郎を使って紅香に嫌がらせをしようと思い立つ。翌日、真九郎は悪宇商会の人事副部長であるルーシー・メイの呼び出しを受け、悪宇商会にスカウトしたいと言われる。早く一人前になりたいと焦る真九郎はこの提案に迷うが、そこにやはりルーシーに呼び出されていた斬島切彦が出現。切彦が悪宇商会の暗殺者であることを知り、驚く真九郎にルーシーは入社テストとして、切彦に代わって志具原理津という女性を殺してほしいと告げる。真九郎は拒否するが、切彦は自分が理津を殺すと宣言。テストの件をなしにしたければ、自分から理津を守ってみろと真九郎に言い放つ。
第7巻
紅真九郎が護衛することになった志具原理津は、彼と同じ国際空港爆破テロの生き残りであった。死を恐れていないかのような理津の態度に真九郎はとまどうが、これ以上斬島切彦に人殺しをさせないためにも彼女を守ると決意を新たにする。だが、ルーシー・メイは切彦がしくじった場合の保険として、ビッグフットの異名を持つ戦闘屋を雇っていた。真九郎はビッグフットに不意を突かれて気絶。一方、理津のいる病院に潜入した切彦は、九鳳院紫と彼女を守るリン・チェンシンに遭遇していた。刃を交えるリンと切彦。紫は二人を止めてくれと、携帯電話で真九郎に助けを求める。一方、目覚めた真九郎はどうにか理津の病室の前にたどり着き、ビッグフットを迎え撃っていた。苦戦する真九郎だったが、携帯から流れてきた紫の声を聞いて奮起。激闘の末、どうにか勝利するが、理津はビッグフットの自爆に巻き込まれて絶命する。実は、悪宇商会に理津の暗殺を依頼したのは彼女自身であった。真九郎は理津をみとるが、そこにリンを倒した切彦が姿を現す。真九郎は切彦を止めるべく崩月の角を解放するが、二人のあいだに紫が割って入る。
第8巻
紅真九郎と九鳳院紫は崩月夕乃に助けられ、崩れゆく病院から脱出するが、斬島切彦は瓦礫の中に消える。悪宇商会のやり方に憤る真九郎は、ルーシー・メイの誘いを敢然と拒否するのだった。一方、姿を消した切彦は京都にいた。真九郎もまた村上銀子の付き添いで、紫や五月雨荘の仲間たちと共に京都へ向かうが、そこで一行は紫に瓜二つの少年の朱雀神碓氷と、彼に仕える湖兎という青年に出会う。朱雀神家は京都を表と裏から支配する西四門家の一つだった。朱雀神の館に招かれた真九郎たちは、切彦もまた朱雀神家にいることを知る。
第9巻
九鳳院紫は朱雀神の館で仮面を付けた謎の男に襲われるが、斬島切彦に助けられる。紅真九郎と紫はついに切彦と再会するが、そこに朱雀神の衛士を引き連れた湖兎が現れる。切彦が裏十三家の一つである斬島家の者と知った朱雀神家は、彼女を朱雀神への刺客と断定。真九郎と紫は切彦ともども捕われてしまうのだった。同じ頃、村上銀子は伝説の情報屋とうたわれた祖父の村上銀次が朱雀神家に残したノートを手に入れていた。中身を見た銀子は、湖兎が朱雀神の血を引く者であったことを知る。切彦もまた湖兎の身のこなしを見て、彼が紫を襲った仮面の男だと見抜いていた。仲間たちと共に牢を脱出した真九郎は、真実を確かめるべく湖兎に立ち向かう。
第10巻
柔沢紅香と連絡が取れなくなった。紅真九郎は村上銀子からの情報で、紅香が「孤人要塞」と呼ばれる悪宇商会のトップに狙われていたことを知る。真九郎は孤人要塞に接触すべく、ルーシー・メイから居場所を聞き出すが、そこに現れたのは以前に町で出会った星噛絶奈であった。真九郎は彼女が孤人要塞であること、紅香の子供も狙っていることを知る。怒った真九郎は絶奈に戦いを挑むが、彼女の力は圧倒的でまったく歯が立たない。追い詰められる真九郎だったが、すんでのところで斬島切彦に助けられ、九死に一生を得たのであった。真九郎は絶奈との再戦は避けられないと覚悟するが、そんな彼の前に悪宇商会のゲルギエフが出現。真九郎は絶奈が主催するバトルイベント「Killing Floor(キリングフロア)」に参加させられる。ゲルギエフに苦戦する真九郎だったが、突然そこに九鳳院紫が姿を現す。崩月夕乃、銀子、切彦らも真九郎のもとに向かっていた。ゲルギエフを一蹴した真九郎は紫のため、仲間たちのために揉め事処理屋として絶奈の前に立つ。
関連作品
小説
本作『紅 kure-nai』は片山憲太郎の小説『紅』を原作としている。原作のイラストは本作の作画を手掛けた山本ヤマトが担当。集英社のダッシュエックス文庫より4巻まで刊行されている。
メディアミックス
TVアニメ
本作『紅 kure-nai』は、千葉テレビ、テレビ神奈川、テレビ埼玉ほかで2008年にTVアニメ化されている。全12話。登場人物の名称や外見などはマンガ版とほぼ同じだが、個々のキャラクターの設定や物語の展開がかなり異なる、オリジナル色の強い内容になっている。紅真九郎を沢城みゆきが、九鳳院紫を悠木碧が演じている。
登場人物・キャラクター
紅 真九郎 (くれない しんくろう)
揉め事処理屋を営む高校1年生の少年。8年前に海外で国際空港爆破テロに巻き込まれ、家族の中で唯一生き残った。天涯孤独の身となり、幼なじみである村上銀子の家に引き取られるが、人身売買組織による児童拉致事件に遭遇。銀子ともども犯人に殺されかけるが、土壇場で柔沢紅香に救われて事なきを得た。この時、紅香が見せた圧倒的な強さにあこがれ、彼女に弟子入りを志願。紅香の仲介で崩月家の内弟子となり、崩月法泉や彼の孫娘の崩月夕乃に武術である崩月流を叩きこまれた。長く崩月家の世話になっていたが、現在は五月雨荘の5号室で一人暮らしをしながら、星領学園高校に通っている。崩月流の修行を経たことで人間離れしたタフさを身につけており、車に轢かれても銃で撃たれてもひるまない。さらに、崩月の力の源である崩月の角を右腕に継承。「崩月流甲一種第二級戦鬼」の名乗りを許されており、角の力を解放することで超人的な戦闘力を発揮する。しかし、精神的にはまだまだ未熟で、家族を失ったトラウマを克服できずにいたが、九鳳院紫との出会いを機に本当の強者へと成長していく。
九鳳院 紫 (くほういん むらさき)
表御三家の一つである九鳳院家の当主を務める九鳳院蓮丈の娘。年齢は7歳。奥ノ院と呼ばれる、外界と隔絶された施設で育った。九鳳院の女は一生を奥ノ院で過ごさなければならないという掟があるが、恋をしてみたいという彼女の願いを受け入れた柔沢紅香によって連れ出され、紅真九郎と共同生活を送ることになる。当初は真九郎に心を許していなかったが、五月雨荘での暮らしの中で彼の優しさや強さに触れ、真九郎への恋心を自覚。さらに真九郎が自分を九鳳院の因習から解放してくれたことに感激し、彼との結婚を宣言するようになる。現在は奥ノ院を出て九鳳院の屋敷で暮らしており、ふつうの子と同じように小学校にも通っている。外の世界を知らずに育ったため、わがままで常識知らずなところがあるが、根は真っすぐで正義感が強く、自分のまちがいを認める素直さも併せ持っている。また子供離れした直観力と眼力の持ち主で、相手のどんなウソも一目で見抜くことができる。
村上 銀子 (むらかみ ぎんこ)
星領学園高校に通う高校1年生の女の子にしてすご腕の情報屋。伝説の情報屋とうたわれた村上銀次の孫娘で、祖父の持つ情報網を受け継ぎ、その二代目となった。両親は楓味亭というラーメン屋を経営していて、よく店の手伝いをしている。紅真九郎とは幼稚園の頃からの幼なじみで、彼と共に児童売買組織に拉致され、柔沢紅香に救われたという過去を持つ。眼鏡を掛けた知的なクールビューティーだが、かなり無愛想で真九郎にもツンケンした態度を取ることが多い。しかし、実は幼い頃から真九郎に恋心を抱いており、同じく彼を慕う崩月夕乃とは犬猿の仲だが、まだ幼い九鳳院紫にはさほど敵対的な態度は見せていない。情報屋として真九郎の活動を全力でバックアップするが、内心では彼が揉め事処理屋という危険な世界にいることに反対で、真九郎を裏の世界に誘った紅香や、彼に崩月流を伝授した崩月家にも複雑な感情を抱いている。
崩月 夕乃 (ほうづき ゆうの)
裏十三家の一つである崩月家の当主を務める崩月法泉の孫娘。高校2年生で紅真九郎と同じ星領学園高校に通う。真九郎にとって崩月流の師匠的な存在で、彼をはるかにしのぐ戦闘力を誇るが、見た目は大和撫子を体現したかのように美しく、いつも穏やかな笑みを浮かべている。学校では男子生徒のあこがれの的だが、崩月の内弟子となった真九郎と8年間いっしょに暮らしたこともあって彼にベタ惚れしており、ほかの男性はまったく眼中にない。さらに、ヤンデレ気質で非常に嫉妬深く、九鳳院紫や村上銀子といった真九郎の周囲にいる女性への対抗心をむき出しにしている。真九郎が揉め事処理屋になったことも、五月雨荘で一人暮らしをしていることも快く思っておらず、崩月家に戻ってきてほしいと強く願っているが、いざというときは真九郎に全面的に協力する。
柔沢 紅香 (じゅうざわ べにか)
女ながら裏社会に名を轟かせている世界最高クラスの揉め事処理屋。紅真九郎と村上銀子が巻き込まれた児童売買事件を解決した際、真九郎に頼み込まれて彼を弟子にした。九鳳院の近衛隊に属していた時期があり、九鳳院蓮丈とは旧知の間柄。また、その時に九鳳院紫の母親の九鳳院蒼樹と知り合い、友人となった。生前に蒼樹から生まれてくる子が女の子なら、その子の願いを一つ叶えてあげてほしいと頼まれており、恋をしてみたいという紫を奥ノ院から連れ出し、弟子である真九郎に託す。実は一児の母だが、子供に関する情報が裏社会に出回らないよう、柔沢紅香自身の全権力を駆使して守っている。弟子の真九郎にも小学校低学年の男の子で、都内で暮らしている以上のことは知らせておらず、子供のことは絶対の秘密となっている。
武藤 環 (むとう たまき)
五月雨荘の6号室に住む女子大生。空手道場の師範をしており、町の子供たちに空手を教えている。見た目は美人ながら、破天荒で無類の酒好き。さらに下ネタが大好きで、紅真九郎を色仕掛けでからかったり、九鳳院紫に変な知識を吹き込んだりして楽しんでいることが多い。ふだんはちゃらんぽらんだが、空手の腕は達人クラス。その実力は崩月夕乃に匹敵するほどで、真九郎や紫を助けるために彼らと共に戦う。
闇絵 (やみえ)
五月雨荘の4号室に住む女性。漆黒のドレスと帽子に身を包み、ダビデという名の黒猫を飼っているミステリアスな人物で、五月雨荘では庭の木の枝に座り、住人たちのドタバタをにこやかに見守っている。その素性は謎に包まれているが、柔沢紅香と顔見知りであるなど裏社会に精通しているようで、思い悩む紅真九郎にたびたび助言を与える。
斬島 切彦 (きりしま きりひこ)
「ギロチン」の異名を持つ悪宇商会の殺し屋。まだ14歳の女の子だが、裏十三家の一つである斬島家の第66代目で、殺し屋稼業を継いだ本家直系の通り名である「切彦」を名乗っている。すご腕の刃物使いでメスや包丁、ガラス片など、どんな得物でも絶大な戦闘力を発揮する。笹の葉、髪の毛、木の枝といったものでも刃物として利用することができる。かわいいものと格闘ゲームが大好きで、ふだんはぼーっとしているが、いざ仕事となると豹変し、相手がどんな人間でも躊躇しない非情の暗殺者と化す。生粋の殺し屋で、斬島切彦自身の稼業になんの疑問も持っていなかったが、ゲームセンターで不良たちに絡まれていた時に紅真九郎、九鳳院紫と邂逅。二人と友達になったのをきっかけに、少しずつ変わっていくことになる。
犬塚 弥生 (いぬづか やよい)
柔沢紅香に仕える女性。寡黙な性格で無駄なことはほとんど話さないが、紅香に絶対の信頼を置いており、彼女の命令に忠実に従う。忍の者の出であるため気配を消す術に長けており、敵地への潜入といった任務をこなすことが多い。ただ、戦闘力も一級で紅真九郎が九鳳院紫の件で九鳳院家と対決した際には、真九郎を切ろうとしたリン・チェンシンの刃を受け止めてみせた。
リン・チェンシン
九鳳院家の近衛隊に所属する女性。当初は九鳳院蓮丈の護衛を担当していたが、女の子である九鳳院紫には同じ女性の方がよいだろうと蓮丈が判断したことから、騎場に代わって紫の護衛役となる。二刀をあやつるすご腕の女剣士だが、紅真九郎のことを女たらしと思い込み、彼に紫への永遠の愛を誓わせようとしたり、自分もたらし込もうとしているのではと警戒したりするなど、少しおっちょこちょいなところがある。
崩月 法泉 (ほうづき ほうせん)
崩月家の当主の男性。娘の崩月冥理、孫の崩月夕乃、崩月散鶴と暮らしている。紅真九郎の武術の師匠で、旧知の間柄である柔沢紅香から真九郎を預かり、彼に崩月流を叩き込んだ。達人として名の知れた存在で、紅香が唯一タイマン勝負を避けた相手ともいわれるが真相は不明。すでに裏の世界から足を洗っているが、その武名は未だに轟いており、裏社会の者たちから恐れられる存在であり続けている。
崩月 冥理 (ほうづき めいり)
崩月家の当主である崩月法泉の娘で、崩月夕乃と崩月散鶴の母親。包容力のある女性で、内弟子となった紅真九郎にわが子同然に接し、当初は真九郎の存在にとまどっていた夕乃に彼の優しいお姉さんになるように諭した。真九郎との仲がなかなか進展せず、やきもきする夕乃をよくからかっている。
崩月 散鶴 (ほうづき ちづる)
崩月夕乃の妹で、年齢は5歳。紅真九郎からは「ちーちゃん」と呼ばれている。かつていっしょに暮らしていたこともあって真九郎に懐いており、彼女にとって兄以上の存在になっている。内気で人見知りが激しい女の子だが頑固な一面があり、真九郎と紫が崩月家を訪ねた際には、真九郎だけ道場に来させるようにという姉の言伝を守るため、紫をいっしょに行かせないようにした。
村上 銀正 (むらかみ ぎんせい)
村上銀子の父親。かつては喧嘩師としてならした男性で、父親である村上銀次の跡を継いで情報屋になるはずだったが、ラーメン屋である楓味亭の娘だった妻に一目ぼれ。彼女といっしょになるために裏世界から足を洗い、ラーメン屋の店主になった。紅真九郎のことを息子同然に思っており、銀子といっしょになって店を継いでほしいと願っている。
星噛絶奈 (ほしがみ ぜな)
裏十三家の一つである星噛の者で、「星噛製陸戦壱式百四号」の名を持つ。彼氏募集中と公言するなど表面的には明るく陽気な女性だが、実は傍若無人かつ残忍酷薄で、17歳ながら悪宇商会最高顧問の地位に君臨している。手、足、骨、筋肉、内臓など全身の大部分が星噛製の人工物で、特に右手の戦闘用義手は星噛製の薬莢(やっきょう)を装填することで驚異的な打撃力を生み出す。全身の耐久力も図抜けており、銃で脳天を撃たれようが、胸をナイフで刺されようが、列車に轢かれようが、まったくダメージを受けないことから「孤人要塞」と呼ばれて恐れられている。もっとも、星噛絶奈自身は頑丈すぎる体をやや持て余し気味で、大量のアルコールを摂取し、わざと神経に障害を発生させて感覚をゆらすのを楽しんでいることが多い。柔沢紅香と二度戦っており、初戦は彼女にあしらわれて不完全燃焼に終わったが、二度目の対戦では圧倒。紅香を殺したと思い込み、彼女の息子も狙おうとしたために紅真九郎と対決することになる。
ルーシー・メイ
悪宇商会の人事部の副部長を務める。名前や見た目は女性だが、性別は不明。裏十三家のマニアで崩月の戦鬼の力を持つ紅真九郎に興味を持ち、彼を悪宇商会に引き入れようと画策。入社テストとして志具原理津の暗殺を持ちかけ、真九郎に断られたあとも何かと彼にちょっかいを出そうとする。アメリカのフロリダ州出身で24歳と称しているが、すべてウソでぬり固めたもので真実の姿は謎に包まれている。
九鳳院 蓮丈 (くほういん れんじょう)
九鳳院家の当主で、九鳳院紫や九鳳院竜士の父親。かつて九鳳院の近衛隊員だった柔沢紅香とは旧知の間柄。圧倒的な威厳を誇るカリスマで、一族の掟を破ろうとした竜士に謹慎を通達。奥ノ院から出たいという紫の願いも一蹴するが、紫のために自分に歯向かおうとする紅真九郎の姿を見て何か思うところがあったのか、最終的に紫が奥ノ院から出ることを許した。
九鳳院 蒼樹 (くほういん そうじゅ)
九鳳院紫の亡母で、柔沢紅香のかつての友人。奥ノ院で九鳳院の子を産む道具として生きることに納得しており、そのことに不満を持ってはいなかった。しかし、自分の子はそうではないかもしれないと思い、もし自分が女の子を生んだら、その子の願いを一つでいいから叶えてあげてほしいと紅香に頼んだ。
騎場 (きば)
左目に眼帯をしている屈強な男性で、九鳳院の近衛隊副隊長を務める。柔沢紅香と正面からやり合って生き残った数少ない人間の一人で、左眼の傷はその時の戦闘で負ったもの。奥ノ院を出た九鳳院紫の護衛役となっていたが、紫と同じ女性の方が何かと都合がいいだろうという九鳳院蓮丈の判断を受け、リン・チェンシンに役目をゆずった。
九鳳院 竜士 (くほういん りゅうじ)
九鳳院蓮丈の次男で九鳳院紫の兄。まだ7歳の紫に欲情を覚えているが、初潮を迎えていない九鳳院の女性に手出ししてはならないという掟があるため、性欲を満たすことができず、紫に暴力を振るうことでその鬱憤を晴らしていた。悪宇商会の戦闘屋である鉄腕を雇い、奥ノ院を脱出して行方をくらませた紫を追跡。父親と兄が海外にいて不在であるのをいいことに、彼女をわが物にしようとする。
鉄腕 (てつわん)
悪宇商会に所属する戦闘屋の男性。本名は「ダニエル・ブランチャード」という。アロハシャツを着た黒人で、九鳳院竜士に雇われて五月雨荘を急襲。九鳳院紫を守ろうとした紅真九郎をパンチ一発で沈めた。真九郎との二度目の対戦でも一方的に攻め込むが、崩月の角を解放した真九郎に一蹴された。
赤馬 隻 (あかま せき)
悪宇商会に所属する戦闘屋の男性。白髪の美青年で、自らの髪が敵の返り血で染まるほどの残虐な戦い方をすることから「レッドキャップ」の異名を持つ。元崩月流の門下生で崩月夕乃から兄のように慕われていたが、幼なじみを手にかけたため12年前に破門となった。その後は姿を消していたが、崩月の血統の者を奪取してほしいという依頼を受け、崩月家を襲撃。駆けつけた紅真九郎を圧倒し、夕乃を連れ去る。崩月の角は継承していないが、星噛製の殺人兵器である黒い刃を右腕に仕込んでおり、その戦闘力は悪宇商会の中でも屈指を誇っている。
志具原 理津 (しぐはら りつ)
九鳳院蓮丈の正妻の遠縁にあたる旧家の娘。紅真九郎が巻き込まれた国際空港爆破テロの被害者で、真九郎と同じく家族を失い、彼女だけが生き残った。この時、一生直らないほどの重傷を負い、何度も臓器の移植や人工臓器への入れ替えを行ったため、ずっと病院暮らしを続けており、体に無数のいびつな手術痕がある。テロ事件の際、両親がかばってくれた事実に気づかず、自分だけは生き延びたいと願ったことに強い罪悪感を抱いており、まもなく寿命が尽きると悟ったために志具原理津自身の殺害を悪宇商会に依頼。一方で、最後まで生きる努力をするべきではないかという葛藤があり、真九郎からの護衛の申し出を受ける。
ビッグフット
悪宇商会に所属する戦闘屋の男性。本名は「フランク・ブランカ」という。見上げるような巨体を誇るが卓越した隠密能力を併せ持っており、気配を消してターゲットに近づき、致命の一撃を叩き込む戦法を得意としている。志具原理津の暗殺を請け負い、彼女が入院している病院を急襲。理津を護衛する紅真九郎と死闘を演じた。
朱雀神 碓氷 (すざくじん うすい)
九鳳院紫に瓜二つの男の子。西四門家の一つである朱雀神家の当主で、朱雀神の男子は成長するまで女性の姿をして厄を避けるというしきたりがあるため、いつも振袖を着ている。見た目は完全な女の子で性格もおとなしく礼儀正しいが、れっきとした少年である。父親が早世し、幼くして当主となったために敵が多いが、前当主である祖父が連れてきた護衛役の湖兎には絶対の信頼を置いている。人の心の声を聞くという異能の力を持つが、同じ朱雀神の血を引く者の心は読むことができない。
湖兎 (こと)
朱雀神碓氷の護衛役である御門衛士の四番隊隊長を務める青年。実は先代当主である碓氷の祖父が外で作った子だが、碓氷にはそのことを隠している。碓氷のことを何よりも大事に思っており、彼から実権を奪おうとする朱雀神の幹部を次々に暗殺。さらに、湖兎自身が朱雀神乗っ取りを企む裏切り者となることで、碓氷を害そうとする者たちをあぶりだそうとするが、九鳳院紫に真意を読まれる。
ゲルギエフ
悪宇商会に所属する戦闘屋の男性。星噛絶奈が開催した「Killing Floor(キリングフロア)」と呼ばれる悪宇商会のバトルイベントで紅真九郎と戦うが、九鳳院紫の励ましを受けた真九郎の前に敗れた。斬島切彦と同じ刃物使いで、毒をぬったナイフと体術を駆使して戦うが、パワー、スピードともに切彦に劣ると真九郎に評されている。
集団・組織
九鳳院 (くほういん)
表御三家の一つで、現在の当主は九鳳院蓮丈が務める。日本有数の大財閥で、近衛隊と呼ばれる私設武装集団を組織し、一族の者たちを守っている。同族同士でしか子供をつくれないという特異な家系であるため、九鳳院の血を引く女性は一族の子を産むための道具とみなされており、外界と隔絶された奥ノ院と呼ばれる施設で一生を過ごさなければならない。ただ、子孫を残すための貴重な財産でもあるので、初潮を迎えるまでは彼女たちにいっさい手出ししてはならないと、厳格に定められている。
崩月 (ほうづき)
裏十三家の一つで、現在の当主は崩月法泉が務める。裏社会に勇名、凶名を轟かせてきた人殺しの家系で、超人的な戦鬼の力と崩月流という武術を代々継承。体内に持つ崩月の角を解放することで、戦鬼の持つ絶大な戦闘力を発揮する。一族以外の者も崩月の戦鬼の力を継承することは可能。ただし、尋常ではない修行が必要となるため、過去百年間で崩月の弟子となれた者は紅真九郎を含めて、わずか三人しかいない。
星噛 (ほしがみ)
裏十三家の一つ。義手、義足をはじめとする人体のあらゆる箇所の代替品を作り出す一族で、その技術力は裏世界屈指にして門外不出とされている。まれに星噛製の人工臓器が市場に出回ることがあるが、非常に稀少かつ高性能であるため、同じ重さの宝石で取り引きされているという。一族の者は生身の部分もあえて人工物と交換しており、赤ん坊の頃に片腕を切り落とし、義手で哺乳瓶をつかませるほど徹底している。
悪宇商会 (あくうしょうかい)
裏社会の人材派遣シンジケート。金さえもらえば善悪の区別なく、どんな仕事も引き受ける組織で、テロや暗殺などの犯罪に協力することもあれば、人身売買組織の壊滅といった犯罪の解決を請け負うこともある。組織の一員になるには、人殺しの経験があるという条件をクリアする必要があるが、組織の仕事以外での殺人は社則で禁じている。ただ、これに不満を持つ者も少なくないため、悪宇商会の被害者の中で仇討ちを希望する者を組織の戦闘屋や殺し屋たちと戦わせる「Killing Floor(キリングフロア)」というイベントを定期的に開催することでガス抜きをしている。
場所
五月雨荘 (さみだれそう)
紅真九郎、闇絵、武藤環らが住むアパート。風呂なし、トイレ共同のオンボロアパートだが、裏世界では知られた場所で、この地ではいかなる戦闘行為も行ってはならないという不戦の約定なるものが結ばれている。そのため、日本では屈指の安全地帯となっている。
奥ノ院 (おくのいん)
九鳳院の家に生まれた女性が暮らし、子を産むための施設。九鳳院は身内同士でしか子孫を残すことができず、その事実を隠すために外界から完全に隔絶されている。ゆえに九鳳院の血を引く女性は表向きには存在しないとされており、子供を生むための道具として外の世界を知らぬまま、ここで一生を過ごさなければならない。
その他キーワード
揉め事処理屋 (もめごとしょりや)
紅真九郎や柔沢紅香らが生業としている稼業。ストーカーからの護衛、地上げ屋への対応、酔っぱらいの排除など、大小さまざまな揉め事の解決を請け負う。要人のボディーガードや国際犯罪組織の壊滅といった依頼を受けることもあるため、どんな危険にも対応できる図抜けた戦闘力が求められる。
表御三家 (おもてごさんけ)
表の世界で絶大な権力を持つ九鳳院、麒麟塚(きりんづか)、皇牙宮(こうがのみや)という三つの家系の総称。かつて裏の世界で力を誇った裏十三家の存在を警戒しており、ほとんどの家系が廃絶した現在もなお彼らを穢れた存在として忌み嫌っている。
裏十三家 (うらじゅうさんけ)
日本の裏社会で勢力を誇ってきた家系の総称。崩月、星噛、斬島(きりしま)、歪空(ゆがみそら)、堕花(おちばな)、円堂(えんどう)、虚村(うつろむら)、豪我(ごうが)、師水(しみず)、戒園(かいえん)、御巫(みかなぎ)、病葉(わくらば)、亞城(あじょう)の十三家を指す。現在はほとんどの家系が廃業もしくは断絶しているが、一部の家は今も裏世界での強い影響力を保持し続けている。
西四門家 (にししもんけ)
京都を表と裏から支配する青龍神、朱雀神、白虎神、玄武神という四つの血族を指す。古来より京都守護を任ぜられてきた武系貴族の末裔といわれており、いずれの血族も表の財力と裏の異能を併せ持つことから、表御三家や裏十三家も手出しできないアンタッチャブルな存在となっている。
崩月流 (ほうづきりゅう)
崩月家が代々継承してきた武術。崩月の角の力に耐え、かつ使いこなすためのもので、会得するには常軌を逸した肉体改造が必要。その修行は紅真九郎が全身の骨で折れなかった箇所はなく、内臓の位置も変わったと語るほど過酷なものだが、耐え切った者は人間離れした頑強さを身につけることができる。
崩月の角 (ほうづきのつの)
崩月の者が持つ戦鬼の力の源。その名のとおり鬼の角に似た形状をしており、紅真九郎も右腕にこの角を受け継いでいる。真九郎の場合、崩月の戦鬼の力を解放すると右肘から角が出現。パワー、スピードともに常人をはるかにしのぐ強大な力を発揮できるようになる。ただし、体にかかる負担は大きく、寿命を縮める危険もあるため、崩月夕乃はまだ角を受け継いだばかりの真九郎に実戦での使用を固く禁じていた。