あらすじ
第1巻
戦時中、日本の領土だった樺太(からふと)で市村ハナ、ハナの母、留吉はたくましく暮らしていた。ハナは現地の女学校に通っていたが、人よりも劣る容姿のために高嶋津絢子達から一方的に酷いいじめを受け、ついには窃盗犯に仕立て上げられ、退学処分を受ける事となった。その後、ソ連軍から空襲を受ける中、ハナ達一家は必死の思いで日本本土への引き揚げ船に乗船。そこには、ハナをいじめていた絢子ら女学生達が既に乗っており、泥棒がやって来たと騒ぎ出す。これによりハナ一家は引き揚げ船から追い出され、次の日の船に乗船する事になってしまう。しかしこの船は、本土が見える位置まで来たところで、ソ連軍の潜水艦の攻撃によって撃沈され、ハナの母と留吉は死亡し、ハナだけが生き残る事となった。ハナは絢子ら自分をいじめた者達への復讐を誓う。そして身体を売り、大金を得て天才的な腕を持つ闇医者の先生のもとを訪れ、誰もが羨む美しい顔を手に入れた。復讐の一人目に選んだ敏恵が若女将を務める旅館に女中として潜り込み、密かに復讐のチャンスをうかがう。(第1話。ほか、3エピソード収録)
登場人物・キャラクター
市村 ハナ (いちむら はな)
昭和2年(1927)、当時日本の領土だった樺太(からふと)で生まれた少女。実父は他界しており、ハナの母と実弟の留吉の三人で暮らしている。女手一つで現地の女学校に通わせてくれている母親のため、懸命に勉学に励んでいたが、醜い容姿を理由に高嶋津絢子ら同級生から一方的にいじめを受けていた。ついには絢子の画策により泥棒にでっち上げられ、退学処分を受ける。 終戦を無視したソ連軍からの空襲の中、必死でたどり着いた日本本土への引き揚げ船の中でも絢子らに迫害を受け、ほかの人の目もあって乗船する事ができなかった。次の日にやって来た引き揚げ船には無事乗船できたが、ソ連軍の潜水艦からの攻撃を受けて本土のすぐ手前で撃沈され、母親と留吉が死亡。 市村ハナ自身もその際に死亡した事になっている。絢子ら自分を虐げた者達への復讐を誓い、まずは身体を売って金を稼ぎ、天才的な腕を持つ闇医者の先生のもとで美しい顔へと整形手術をした。以降は「小石川菜穂子」という偽名を使って北海道内を転々とし、復讐の機会をうかがっている。
先生 (せんせい)
戦時中はドイツで軍の研究機関で働いていた医師の男性。天才的な外科医として知られている。終戦後に日本に戻って来てからは表舞台には立たず、闇医者として働いている。高嶋津絢子らへの復讐のために顔を変えてほしいとやって来た市村ハナの話を聞いて興味を持ち、手術を請け負った。その後も助手の菊乃と共にハナの動向を見守っている。
菊乃 (きくの)
先生の助手として働く人物。もともとは男性だったが、現在は先生の手術を受けて女性になっている。手術の助手や患者へのカウンセリングなど、先生のもとで看護師的な役割を担う。壮絶な過去を背負いながら、自分の顔を変えたいとやって来た市村ハナに対し、心は女性にもかかわらず男性として生きて来た以前の自分を重ね、以降ハナの復讐のために積極的に手を貸している。 その一方でハナが復讐への執念のあまり、いつか身を滅ぼすのではないかと心配している。ハナにとって唯一の理解者で、弱音を吐ける相手でもある。
綿貫 晋平 (わたぬき しんぺい)
ローカルな話題を掲載している月刊誌「道民」の記者をしている青年。函館市の喫茶店でウエートレスとして働く整形後の市村ハナに一目惚れし、以降常連客となった。最初はあくまでハナに会いに行くだけだったが、奥田スミ子が何者かに顔に液体をかけられ、さらにスミ子が道路に飛び出して事故に遭った事を不審に思うようになる。 その後、樺太(からふと)の女学校に通っていた者達に次々と不幸が訪れている事実を突き止め、ハナの存在にたどり着く。死んだはずのハナが生きており、家族を死に追いやった復讐をしているのではないかと睨み、独自に調査を行う。
高嶋津 絢子 (たかしまづ あやこ)
昭和の戦時中の時代、当時日本の領土だった樺太(からふと)で生活をしていた少女。樺太で最も大きな製糸会社を経営する一族の令嬢で、可憐な容姿をしているが、性格は残酷で破壊的。感情を表に出す事はなく、つかみどころがない。女学校に通っている際、周囲と明らかに劣る容姿をしている同級生の市村ハナを徹底的にいじめていた主犯格で、ハナから一番強い憎悪を向けられている。 いじめの中心人物ではあるものの、子分達に指示を出すだけで実行犯ではなかった。樺太からの引き揚げ船の中でハナ親子を見かけた時は泥棒が来たと言って、船から追い出した。後日、ハナ親子が乗船した引き揚げ船が、ソ連軍からの攻撃で撃沈されたと聞いた際には、ほかのいじめに加担した女生徒達の中には罪悪感を抱いた者もいたが、高嶋津絢子自身はなにも感じていなかった。 終戦後は北海道札幌市へ戻り、白川と結婚をして裕福な生活を送っている。白川のSMプレイにサド役として付き合っているが、事務的にこなしているだけで楽しみを見出している様子はない。さらにかつての同級生、瀬尾サチを白川のマゾ役として紹介するなど、歪んだ夫婦関係を築いている。
敏恵 (としえ)
昭和の戦時中の時代、当時日本の領土だった樺太(からふと)で生活をしていた少女。高嶋津絢子の子分的な存在で、絢子からの命令を受けて同級生の市村ハナを徹底的にいじめていた。いじめをしていたグループの中では絢子に次ぐNo.2の立場で、百子らほかのメンバーを先導していた。終戦後は北海道川上町で旅館の跡取りの男性、辰雄と結婚し、旅館では「若女将」と呼ばれ、やりがいのある日々を送っている。 整形後のハナが女中としてやって来た際にはハナとは気づかず、彼女の美しい容姿と、辰雄と親しそうに話す様子に激しく嫉妬し、次第に周囲からの信頼を失っていく。
百子 (ももこ)
昭和の戦時中の時代、当時日本の領土だった樺太(からふと)で生活をしていた少女。高嶋津絢子の子分的な存在で、絢子からの命令を受けて同級生の市村ハナを徹底的にいじめていた。絢子の命令とはいえ、ハナをいじめる事を心から楽しんでいた。終戦後は親戚の農園を引き継ぎ、両親と共に農業を営んでいる。しかし、田舎での農業が肌に合わず、ずっと都会へ行きたいと夢見ている。 親の紹介で長谷川熊造と結婚させられそうになった際には激しく抵抗した。農業を開始してからはハナの存在は完全に過去のものとなり、いじめていた事実も忘れかけていた。
奥田 スミ子 (おくだ すみこ)
昭和の戦時中の時代、当時日本の領土だった樺太(からふと)で生活をしていた少女。高嶋津絢子の子分的な存在で、絢子からの命令を受けて同級生の市村ハナを徹底的にいじめていた。絢子ほどではないものの、残酷な性格の持ち主。ハナに対しては悪口や嘲笑だけではなく、髪を切ったりケガを負わせたりしていた。やりすぎだと敏恵から注意される事もあったが、楽しいからと止める事はなかった。 また、いじめているメンバーの中では絢子と同様の美貌を持ち、奥田スミ子自身もその容姿を武器にしている。終戦後、一度は家族で北海道の漁師町へと移り住んだが、田舎の生活に嫌気がさし、単身北海道函館市に行き、喫茶店でウェイトレスとして働いている。 男女にかかわらず美しい人物が好きで、整形後に過去を隠してやって来たハナに対しては好意的に接する。醜男の常連客、中川からの襲撃に遭って美しい顔を失い、さらに車に轢かれて大ケガを負う。
瀬尾 サチ (せお さち)
昭和の戦時中の時代、当時日本の領土だった樺太(からふと)で生活をしていた少女。高嶋津絢子の子分的な存在で、絢子からの命令を受けて同級生の市村ハナを徹底的にいじめていた。もともと成績優秀ながら、絢子だけでなくハナにも勝てない事から、ハナに対しては人一倍辛く当たっていた。教科書やテスト用紙を切り刻むなど、執拗ないじめを繰り返していた。 後日、ハナ親子が乗船した引き揚げ船が沈没したと聞いた際にも、邪魔な人間が消えたとほくそ笑んだ。樺太では裕福な生活を送っていたものの、北海道に戻った時に父親の会社が倒産して家族は離れ離れになり、極貧生活を味わう。その際に生きるために身体を売っており、父親のわからない男児の進司を出産。 進司を旭川で暮らす祖母に預け、札幌市内へと出稼ぎに出ていた時に偶然絢子と再会し、白川の屋敷でメイドとして働く事になった。そこでは白川のSMプレイにマゾ役として付き合わされ、日夜凌辱されているが、絢子から提示された給与が高額である事から、進司のためにと耐えている。
ハナの母 (はなのはは)
市村ハナの実母。夫は他界しているため、女手一つで育てている。家族思いで優しく穏やかな性格の持ち主。ハナが醜い容姿のために女学校で激しいいじめを受けていた事にも気づいており、そんな容姿に生んで悪かったと涙を流す事もあった。終戦を無視したソ連軍からの空襲の中、日本本土へ戻ろうと引き揚げ船に乗船したが、ハナをいじめていた高嶋津絢子らの画策によって追い出される。 次の日にやって来た引き揚げ船に乗ったところ、本土の手前でソ連軍の潜水艦からの攻撃を受けて撃沈。最後までハナを気遣い、幼い息子の留吉を守ろうとしたが、冷たい海の底に沈んで死亡した。
留吉 (とめきち)
市村ハナの幼い実弟。樺太(からふと)にハナの母とハナの三人で暮らしている。醜い容姿のハナとは違い、かわいらしい容姿をしている。ハナから非常にかわいがられており、留吉自身も姉のハナを慕っている。終戦を無視したソ連軍からの空襲の中、母親に負ぶわれて日本本土へ戻ろうと引き揚げ船に乗船したが、ハナをいじめていた高嶋津絢子らの画策によって追い出された。 次の日にやって来た引き揚げ船に乗ったところ、本土の手前でソ連軍の潜水艦からの攻撃を受けて撃沈。最後まで母親に守られ、母親が海の底に沈む前にハナに預けられたが、そのまま冷たくなり、死亡した。
白川 (しらかわ)
終戦後に樺太(からふと)から本土に戻って来た高嶋津絢子と結婚した男性。実家は裕福な資産家。SMプレイが趣味で、絢子が特別に雇ったメイドをマゾ役として調教する事に喜びを感じている。瀬尾サチに対しても、トイレを我慢させたり鞭を打ちつけるといったプレイを楽しんでいた。一方、絢子に調教される際には白川自身がマゾ役となり、いびつな夫婦関係を築いている。
中西 (なかにし)
樺太(からふと)にある女学校の教師を務めている男性。太った醜い容姿をしているうえに、女生徒達をいやらしい目つきで見るために、陰では「ブタ西」と呼ばれて評判は非常に悪い。高嶋津絢子らに市村ハナから好意を抱かれていると告げられ、ハナの身体目当てで襲いかかろうとしたが失敗。その事を逆恨みし、ハナに対して冷たい態度を取るようになった。
辰雄 (たつお)
北海道川上町で旅館を営む両親のもとに生まれた男性。若旦那をしている。終戦後に親同士のつながりで敏恵と結婚し、共に働いていた。整形後の市村ハナが女中として働きにやって来た際には、戦争のせいで身寄りがないと話すハナに同情し、さらに美しい容姿にも心惹かれ、なにかと彼女を気に掛けるようになった。同時に嫉妬深くなった敏恵への愛情を薄れさせていく。
長谷川 熊造 (はせがわ くまぞう)
北海道で両親と共に農場を経営する中年の独身男性。裕福な家庭に育つ。醜い容姿をしており、両親が結婚相手にと選んだ若い百子に対して、いやらしい視線を向けている。
中川 (なかがわ)
奥田スミ子がウエートレスとして勤務する、北海道函館市にある喫茶店の常連客の男性。自動車修理を生業としており、家族はおらず天涯孤独の身。まるでフランケンシュタインのような醜い容姿をしており、口数も少ない。美しい容姿のスミ子にあこがれているが、自分が近づく事のできない相手だと、遠くから見ているだけで、スミ子からは気持ち悪がられている。 それでも見つめているだけで満足していたが、スミ子からの指示を受けた取り巻きの男性から一方的な暴行を受け、スミ子に対して復讐を決行した。
進司 (しんじ)
瀬尾サチの子供。サチが北海道札幌市に出稼ぎに出ているため、現在はサチの祖母といっしょに旭川で暮らしている。天真爛漫でかわいらしい幼い男の子で、最初はサチへの復讐を遂げるために市村ハナに手をかけられそうになったものの、ハナが弟の留吉の面影を思い出した事で難を逃れた。